キヴォトスに朝日が昇る 作:sosprin
隊長の日記
アビドスでの拘束が始まってから4日が経った。最初は銃を突きつけられたり、ロケットで吹き飛ばされかけたが、今も尋問や強制労働はあるものの学校内の雰囲気は穏やかだ。食事も少し貧相だが、飢えに苦しむほどではない。
それにしても、食事や日用品は日本のものと変わらず、企業の名前も日本にあるようなものと似ている。
隊長はこの数日間、現地民との交流や文献を利用して、この世界のことを調べ、たくさんの情報を仕入れた。私が興味を引くのはこの世界の文化、歴史が元の世界と似ている点だ。
トリニティやゲヘナといった学園は、さながらヨーロッパのようであり、ここアビドスも古代エジプトを元にしたような学園だ。
地名などの固有名詞もほぼ同一のものが確認され、この世界の謎がより深まった。
極めつけは名古屋飯、NATO弾など日本や前世界の地名や人物名、条約などがこの世界で存在が確認されていないのにも関わらず利用されている点である。
この事をホシノ達に話したところ『不思議なこともあるもんだね〜』とあまり興味は無さそうだったが、これは国に帰還した時最優先で報告するべきだろう。
追記:さすがにずっとマットで寝ると腰が痛くなる。
「ふぅ…やはり、日記を書くのはとても疲れるなぁ。」
「隊長、お疲れ様です。最近ずっと書いてますよね」
「ああ、ここでの体験は贵重だろう。戻ったときにいろいろと報告できるよう、日記にここであったことを色々记录しておこうと思ってな。」
「なるほど。そういえば、ホシノさんから聞いたんですが、隣の日向町の治安がある程度安定したので、外出してみてはとのことです。」
「おお、ここにきて遂に新天地へ行けるのか。」
「はい、ただ、日向周辺はまだ危険なので絶対行ってはいけません。」
「わかった、じゃあ今日の午後はそこを散策し、いろいろ調べるとしよう。4日ぶりの調査活動だな。」
「はい。また、電子機器、通信機などが買えれば司令部に連絡が取れるかもしれません。」
「うーん、しかしここのお金は持ってないぞ。今の手持ちは日本円だけだ。」
「たしかに…盲点でした。ここの生徒さんに頼むというのは?」
「いや、彼らとの緊張はほぐれてきているといえども、まだ警戒はしていると思われる。通信機を買うなどと言えば則ち彼らとの関係は最悪になるだろうな。」
「そうですか…それでも、部隊内での通信機器は欲しいですね。なんせ、あの砂嵐ですべて失われてしまいましたから。」
「そうだな…まあ、説得はしてみるか。」
この後説得を試みたが、資金が不足しているという至って普通の理由で断られた。
───────────────
午後12時45分
隊員たちは隣町へと向かうために準備を整えていた。
持ち物は武器や食料水分などの基本装備である。
予定は午後1時出発、その後2時間ほど歩き町に着いたら夜まで探索、その後帰還という流れだ。
「楽しみですね、初めての異世界観光ですよ。」
「そうだな。これは調査のしがいがありそうだ。」
「ご飯とか食べたり色々お土産買いたいですけどねー。あ〜あ、ここのお金を持ってたらなぁ…」
「そう言えば日本円ってどうなっちまうんだろうな。この世界じゃ紙切れだぞ」
「まあ、そこは政府がなんとかやってくれるんじゃないですか?」
「そうだな。俺達はいまは見守っておくとしよう。じゃあ、あと数分したら装備チェックに入るからな。お前らがここに来てからいろいろとたるんでないか、確認させてもらう」
「はい!」
と、そのとき
ドゴォォォォォォォォンと大きな爆発音がし直後にパパパパパと射撃音が聞こえてきた。
「なんだ!?」
「襲撃か!」
「皆!音は校庭の方から聞こえてきた!窓から離れろ!)
「了解!」
隊員たちは隊長のとおりに窓から離れ、射線の通らない校舎内の奥へと一時退避した。
と、そこに
「大丈夫!怪我は!?」
生徒の三人が来た。もうすでに準備はできているようで、武器をもち戦闘態勢に入ろうとしている。
「おれたちは大丈夫だ。何が起こっている?」
「襲撃です。一ヶ月ほど前に現れたスベスベヘルメット団が学校を占拠しにきました。ここ最近は現れなかったので、完全に油断していましたね…」
「襲撃というのはこれか…俺達ができることは?」
「本当は一緒に戦ってもらいたいけど、ヘイローもないからねぇ。私たちが主に戦うから、時々敵にちょっかいでも出して欲しいかな〜」
「わかった。」
こうして共同戦線が作られ、非公式ながらも異世界初の自衛隊の戦闘となるのだった。
──────────────────
パパパパ!!!
「オラァ!出てこいやアビドス!今日こそはあんたらの学校を頂くからな!」
学校の外を見ると、校門前にいたのはスベスベヘルメット団。彼らはここ数ヶ月間ずっと襲撃に来ている。今回もいつもと同じ襲撃と思ったが、よく見てみると変化があった。
装備が新しくなっており、どこから持ってきたのか戦車も使用している、先ほどの爆発も戦車によるものだろう。
戦車と戦うこととなると非常に厄介だ。装甲は厚く普通の銃弾なら破壊することはできない。
「どこからあんな装備を…今まではもっとボロボロな装備だったのに…」
「見てください、敵は戦車も使っています。これは非常に厳しい戦いになるでしょうね…」
「な、なあ。質問いいか?敵はどんな連中なんだ?」
「スベスベヘルメット団だね〜。ヘルメット団というのはキヴォトス全土で幅を利かせている不良集団で、いくつかの派閥に分かれてるんだよ。スベスベヘルメット団は数か月前からアビドスに居座るようになったねぇ。」
「不良が戦車を乗り回しているというのは本当だったのか…」
「うん。しかし今まではもっと簡素な装備で、すぐに撃退することができたんだけどさ。でも、今回はそうはいかなそうだね〜」
「なるほど、俺達は対戦車装備を持っていない。支援するといっても生身の人間だけになるだろう。そういえば、本当に彼らは撃たれても死にはしないんだな?」
「うん、ヘイローがあるので大丈夫だよ。それよりきみたち、自分自身の心配をしたほうがいいんじゃない?一発で死ぬんでしょ?じゃ、おじさんたちは校庭で戦うから、校舎内から援護射撃とかよろしく〜」
「了解した。皆、三階へ展開しろ。上から援護射撃を行うが、弾薬が少ないため無闇矢鱈に撃つなよ。」
「「了解!」」
少しして、アビドス生の三人が校庭に到着したのを確認した。少し遠く聞き取りづらいが、どうやら何か話しているようだ。
なにやら両者互いに大声で掛け合っている。鎌倉武士か?
両者はしばらく大声で叫んだあと、銃を構え銃撃戦が始まった。
最初は敵の様子を見るため援護射撃は控える。上から観察していてわかったことなのだが、彼らは遮蔽物にあまり隠れようとしない。
やはりヘイローで銃弾にいくらかは耐えられるからなのだろう。しかし、隙が多すぎるように思える。いくら撃たれても平気だからといって油断して致命傷を負ったら元も子もない。これは後に訓練が必要だと隊長は考える。
とりあえず今すべき支援は生身のヘルメット団へ攻撃することだろう。しかし、戦車がいる以上ずっと同じ場所に居座るのは危険だ。各階を移動しながら隙を見て射撃することになる。
隊長は隊員に作戦を伝え実行に移す。
校庭では現在三人が障害物に隠れ移動しながらヘルメット団を相手している。
ホシノが盾を利用しながらショットガンで敵を吹き飛ばしたりノノミが遮蔽物から身を乗り出しミニガンを撃って敵を制圧しているが、敵も巧く遮蔽物を利用しどこから用意したのか膨大な物量でこちらを圧倒している。
シロコも遮蔽物から飛び出し敵三人が密集しているところへと突撃、格闘技も合わせて敵をダウンさせた。
しかし大勢の敵は三人の視界をかいくぐりながら着実に包囲を進めている。幸いこちらにはまだ気づいていないようだ。
隊長は隊員に射撃目標をそれぞれ指示、合図を出しヘルメット団へと射撃を加えようとしている。援護射撃のあと、戦車がこちらに気づくだろうから、5発ずつ撃ちすぐに校舎内奥へと退避を命令した。
敵は既に右翼左翼両面から浸透し校庭半ばへと到達している。援護射撃を加えようとしたその時、戦車の砲弾がシロコの方へと撃ち込まれ大爆発を起こした。砂煙が立つ。
彼女の状況が心配だが、今は戦闘中。命令通りに援護射撃を加えた。
パパパパパという音が校舎から響き渡り、浸透していたヘルメット団7人が倒れる。被弾したヘルメット団は倒れヘイローが消えるが砕けなければ死んでいないらしいのでどうやら気絶しただけらしい。
隊長は命の重みが違うことを羨むが、戦車の砲口がこちらを向いたのをみて急いで退避命令を出す。
隊員は全員廊下から教室へと入り姿勢を低くする。
少しの静かな時を感じた瞬間、ドガァァァァァァァンという音ともに激しい揺れと音に襲われる。
あたりには粉塵が舞い視界が悪い。少し経って教室の外を見ると先ほどいた場所の近くに穴が空いていた。
やはり戦車に狙われたらしい。
三階は穴が空きもう使えないため、戦車の装填時間を見計らってその間に四階へと移動した。
四階からは校庭を覗くと三人は今だ健闘している。シロコが戦車の攻撃に巻き込まれたと思ったが、どうやら無事らしい。
隊員は先ほどの手順と同じように四階から援護射撃を加えようとする。ヘルメット団の人数は減り浸透も無くなったため、戦車周辺や校門付近の敵に射撃を加えることにした。
隊長が合図を出すと、先程のようにパパパパパと射撃音が響き渡る。敵はだいぶ数が削れているようだ。順調に作戦を進め手順通り教室へと退避しようとした瞬間、隊長の目の前が眩しく光り、強い力に押されたのを知覚し────
戦況は芳しくない。隊長や複数の隊員が戦車の攻撃にやられ幸いにも重症ではないようだが意識は未だ戻らない。半分以上無力化したと思われたヘルメット団は増員を要請し、現在も続々と敵の数が増えている。さらに悪いことに、追加の戦車が到着し敵の攻撃がより苛烈になった。隊員は負傷者の手当てと戦車攻撃の恐れから、援護射撃が不可能になりアビドス生の三人もかなり消耗しているようだ。
───三人は未だに戦っているが、弾数も少なくなってきているのだろう、射撃が少なくなっている。戦車の攻撃も激しくなり校庭には穴が複数空いている。
もはや戦況を打開する事は出来ないだろう。対戦車装備は失われてしまったし射撃を加えたからといって戦車にはかすり傷がつくだけだ。
降伏も視野に入ったその時、もはや恒例になりつつある爆発音が聞こえたと思ったら退却〜!と叫ぶ声が聞こえた。
アビドス生が校舎に退却したのかと思ったが、聞いたことない声だ。訝しんで外を見ると、敵戦車が軒並み破壊されている。
何が起こったんだ? 自爆でもしたのか?と隊員は顔を見合わせていると、校門の外に見慣れたマークを付けた装甲車が停まった。それはもう二度と出会えなかったかもしれない仲間だった。