燃え尽きる前に天の星から   作:養殖のホタル

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ピノコニーも終わったのでね。
※7/12一纏めでいいなって思ったので1話と2話統合しました。


第1話

 終末躯体AR-99999。それが名前なのかすらもわからない。何時誰がその型式番号を付けたのかも、記憶領域にはない。

 入れる物がない入れ物に存在意義はなく、仮死状態で廃棄されて宇宙を漂っていた。

 

「名前は? 出身は?」

 

 星核ハンターの銀狼はたまたま廃棄されていたコンテナ拾ったのが自分だったから。というだけで、コンテナの中に入っていた肩程まで伸びた葦毛の中性的な少年にあれこれ質問してみるも、うんともすんとも言わない。

 

「言語能力が無いのか。脳と心臓は動いてるみたいけど……というか、これ見た目的に私じゃなくてホタルの方が知ってるでしょ……まったく」

 

 声を掛けても、システム的なハッキングを試みても、反応がないなら自分の管轄外だ。

 人造人間について造詣がないことはないが、別の系統の技術も混ざっていて、下手に弄れば壊れてしまいかねない。

 正直に言ってしまえば、面倒だから触れずにそっとしておきたかった。

 

「銀狼! コンテナの中身って──この子!?」

「待ってたよ。やっぱり知り合いな感じ?」

 

 別の任務に出ていた仲間のホタルが走って銀狼の所までやってきて、椅子に座らされている少年のことを見た彼女は驚愕していた。

 

「最後まであたしはこの子のことは見たことがない。だけど、見たら分かる。この子は……グラモスが最後に悪足掻きで用意したけど、『パーツ』が足りなくて起動出来なかった新型……ファイアフライのラストナンバー、それがこの子……だと思う」

 

 それがこの少年について、辛うじて分かることだった。

 星核ハンターのリーダーのエリオに報告して、メンバーで処遇を決めるのは確定として、ホタルとしては弟とも呼べる存在をどうするべきか、心が分からないままだった。

 

 

 

 それから、少しだけ時間が経った頃。

 

「具合はどう? 悪いところとかある?」

「……メディカルチェック。──異常無し。バイタル安定。作戦行動に支障……無し」

 

 少年の処遇は『パーツ』を確保次第、起動して一定期間ホタルと共に行動させ、時が来たら『廃棄』とエリオの脚本によって決定された。

 それまでずっと一つの場所に留まらせておくことも出来ないので、少年はホタルと同行して、星核ハンターの仕事を可能な範囲で手伝いをしていた。

 

「えーと……そういうのじゃなくてね。キミの気持ちの方面としてのというか……ね?」

 

 その日はある星のホテルで休暇を取ることになっていたため、教育を施す日にしていた。

 彼が来てからのホタルの暇な時間は大体が彼を鉄騎から人間にするために使われている。

 

「意図が不明。また、当機の識別番号は──」

「そういうの! そういうのが違うって話だからね? いい加減自分の名前覚えてね? キミの名前はAR-99999じゃなくて篝だからね」

 

 小さくて微かな光だけど、確かにそこに存在して、闇を照らす光。そんな名前をホタルは彼に名付けた。

 ファイアフライとしての機能はまだ解禁させられないが、遺伝子操作の結果でロストエントロピー症候群で消えることもない。羨ましいけれど、自分が消えたら本当に独りになってしまう。そんな薄暗い気持ちと存在し続けてほしい願いを込めた名だった。

 

「……識別更新。AR-99999から篝へ」

「あー、もう。うん、一旦それで良いや」

 

 前途は多難だったが、何時かエリオの脚本から名前が消えた時に一人で生きていけるように、ホタルが面倒を見ることが必要なのは変わらなかった。

 

 

 

 そして、システム時間にして720時間以上が経った頃。

 

「──き──て、起」

 

 身体を揺すられて、微睡みから徐々に現実に戻されるような感覚に、ほんの少しの気だるさを抱きながら目蓋を開ける。

 

「……うぅ、何……?」

「そろそろ跳躍。ラウンジのソファーで寝てたら危ないでしょ」

 

 篝は自分と同じ髪と瞳の色をした少女に抱き起こされる。

 名前は星。自分を拾ってくれた彼女に溺愛されているようで、惑星間跳躍の時はいつも人間シートベルトを強要されている。

 

「星姉。毎回これやらなきゃダメ?」

「危ないからダメ」

 

 シートベルトと言っても人力になると、ただのハグだった。ガッチリと拘束されているため抵抗を諦めた頃に、星穹列車の跳躍が始まった。

 

「……次は見つかるかな?」

 

 篝が星穹列車に受け入れられた時は名前以外の記憶を失っていた。

 厳密にはうっすらと誰かに名前を貰った事だけは覚えていて、それ以外はまるで分からないと言った様子だった。

 星と同じく星核を埋め込まれていることが確認されたので、彼女のことを姉のように認識している。

 

「いつかは見つかるよ。きっと」

 

 暖かい。物理的にも、精神的にも。

 そんな暖かさを教えてくれたはずの誰かが居るはずなのに思い出せない。

 思い出せないことが、悲しくて、何で悲しいのか。分からなくて、もっと悲しくなる。

 記憶はないけれど、きっと心は覚えている。

 その心を探すことが、今篝がナナシビトとして、星穹列車に居る理由だった。

 

「ありがとう……でもね。星姉」

「どうかした?」

「それを理由に色んな所でゴミ箱を漁るのは……止めてね?」

 

 物凄く複雑そうな表情で、ライフワークを否定された星は硬直する。

 可愛い弟の嫌がることはなるべくしないでおきたいが、それはそれとしてゴミ箱にかける情熱を抑えることもまた難しい。

 

「……心が二つある~」

 

 跳躍が終わってもしばらく放してくれなくなったので、篝は話を切り出すタイミングを誤ったと後悔した。

 そのまま、また睡魔に襲われた篝は瞳を閉じた。

 

 

 □

 

 

 眠っている時に、朧気に思い出すことがあるとするのなら、それを夢というのだろう。

 

『戦えないことを悔やまないで、キミが戦わないことは……命を燃やさないことはあたしが一番望んでることでもあるんだよ』

 

 そう在れと望まれて生まれたのに、そうなれないことに悔しいと思うのは、当然のことだと思っていた。

 存在意義を果たせないことは被造物としての欠陥なのに、彼女はそれを望む。

 

『それより、この前立ち寄った出店でキミに似合いそうなものを買ってきたんだ。好き嫌いとかまだ無いだろうからあたしの趣味で買ってきちゃったけど、ちょっと首を下げてみて』

 

 彼女に言われるがままに首を下げるとロケットペンダントを首に付けられる。

 

『うん、似合ってる。中にまだ写真は入ってないけど、いつかキミが綺麗だと思った景色とか……いつか好きになった子の写真を入れたり、そうして大事な物を作ってほしいな』

 

 その言葉の意味はいつまでも分かりそうになかった。

 

 

 □

 

 

「星姉、ここのゴミ箱漁るの止めようよ……」

「篝の記憶の手掛かりがここにあるかもよ?」

「それは嫌かな……」

 

 篝が星穹列車に拾われた時はベロブルグのゴミ箱の中に居たが、今現在滞在しているのは宇宙ステーションヘルタであって、その中では見つかるとは思えなかった。

 

「ここのゴミ箱は綺麗だから汚くない。汚ないゴミ箱もそれっぽいところには一杯あるけど……そっちにする?」

「絶対に嫌だ! というか記憶とか関係なく趣味でゴミ箱漁ってるよね!?」

 

 そもそも発見時の星はベロブルグで理由もなくゴミ箱漁りをしていてたまたま篝を見つけただけである。

 

「ゴミ箱の蓋を開けるまでは中に入っているのがゴミかわからない。開けるまでは何かは何かのままだよ」

「ゴミだよ」

 

 言っても聞く気配はないため諦めているが、この奇行が無ければ今の自分が居ないと考えるとゾッとする。

 

「でも、ここに来てから何か感じてるんでしょ? 私はその何かを見つけられるならやれることはやった方が良いと思う」

「それはそうだけど、ここであってほしくないよ……アスターさんのとこ行ってくるから、終わったらどっかで合流ね」

 

 ゴミ箱漁りに夢中な星を置いていって、宇宙ステーションに流れ着いたものの中に手掛かりがないか訪ねに向かう。

 

「っぅ……!」

 

 頭がネジ切れるように痛い。

 自分が歩いているのか、踞っているのかもわからない。頭の中をぐちゃぐちゃに蹂躙されるような酷い幻覚と頭痛に襲われる。

 

「……女皇陛、下、の……ため、に……」

 

 そんなものは知らない。会ったこともない。

 星穹列車に拾われた時から、肌身離さず持っているロケットペンダントを服ごと掴んで、何度も息を吸って吐く。

 

「────」

 

 次に意識がハッキリした時には宇宙ステーションの中でも入ったことのない区画に立っていた。

 あまり使われることのない場所なのか、電源も落ちていて最低限の照明しか点灯していない。

 しばらく息が上がって滝のように汗も掻いてしまい、壁を背もたれにしてへたり込んでしまう。

 

「ここどこ? 星姉に連絡して──って、電池切れかぁ……」

 

 ひとまず、助けを求めようと端末を起動しようとするとバッテリー残量がなく、誰かに助けを求めることすら出来なかった。

 

「んーー……どうしようか」

 

 何処かの区画に自分の足で来てしまったのなら、自分の足で帰ることだって可能な筈である。

 とはいえ、何処かにヴォイドレンジャーやバリオンが居る可能性があるのに、マップも無しに探索するのは流石に無謀だ。

 

(ナニか……きた)

 

 ようやく落ち着いたと思ったら、宇宙ステーションに降りてから感じている胸騒ぎが強くなる。

 普段ならば、誰かが助けに来るまでじっとして、眠ってしまうくらいだが、これに関しては動くしかなかった。

 

「──、──」

 

 薄暗い廊下を歩いていくと、更に胸騒ぎが強くなっていく、その根源が居るであろう部屋に吸い寄せられていく。

 そうすることが、自分のやるべきことだと、そう言われているような気がして逆らう気は不思議としなかった。

 

「虫……?」

 

 自動ドアを開くと、紫色の甲殻を纏った人間サイズのカブトムシの様なナニかが羽ばたいていた。

 

「──、スウォームを確認。脅威認定、戦闘モード……」

 

 先ほどの頭痛がぶり返してくる。今度は知らない筈の情報を元々知っていて、使っていない脳の領域から引き出すような感覚で、頭痛が酷くなるのと同時に思考はクリアになっていく。

 

「リブート……ファイアフライV──」

「飛んで、いけぇっ!!」

 

 篝の身体が浮き上がり、周囲に迸る焔と同時に光を放つロケットペンダントを掴もうとするとカブトムシが超高速で飛来したバットに吹き飛ばされて消滅した。

 

「──脅威消失、戦闘モード解除……」

「篝! 大丈夫!?」

「ぅぅ……あれ、星姉いつの間に?」

 

 星はバットを回収して、他にスウォームが居ないか警戒しながら床で倒れていた篝の肩を揺する。

 幸い外傷も見受けられず、星の呼び掛けにもすぐ反応したが、直前までの記憶がないようだった。

 

「さっきまであのカブトムシみたいなヤツに襲われかけてて、浮きながら光ってたのも覚えてない?」

「覚えてない……というか、気が付いたらここに居て、それで、また記憶が飛んでて、気が付いたら星姉が居て……」

 

 星からすれば、身体一つ分くらいの高さから落ちたせいか、その衝撃で頭を打って記憶が混濁しているように見えた。

 言うが早いか、そのまま星はメディカルルームまで篝をお姫様抱っこで走って連れて行った。

 

「ちょっ、早い早い! 一旦降ろして! 歩くから!」

「落ちないよ。それより早く見て貰おう」

 

 想像以上の早さでがっちり抱き抱えられているものの、そのままでは怖い速度を出した星に降ろすように伝えても無駄だった。

 たまたま通り掛かったなのかを見つけた篝は助けを呼ぶ。

 

「なのかー! 助けてー!」

「あ、篝見つかったの? 大丈夫だったー? ってはや! ……とりあえず皆には伝えとくよー」

「あ、駄目だこれ止まんないやつだ」

 

 どうなっていたかは知らないが、自分が行方不明になって皆が探していてくれたことに、安心感というか嬉しさみたいなものがあったが、それはそれとして心配を掛けてしまったのは、申し訳ないと感じる。

 

 そして、身体検査を受けるようにと、メディカルルームに叩き込まれた篝を待っていたのはヘルタだった。

 以前に宇宙ステーションに来て検査を受けた時は、あまり星と変わらないと判断されて、すぐに興味を無くしていたのに、今回はわざわざ出向いてくることだったのかと困惑していた。

 

「呆けてないで早く横になってくれない?」

「……えっと、どうしてここに?」

「ファイアフライ。聞き覚えは本当に無いのね?」

 

 質問に質問で返された。

 検査用のベッドの上で横になると、空間に投影されたディスプレイを操作して、視線をこちらに向けずにヘルタが口を開く。

 

「……初めて聞いた」

「星から聞いた話だと、貴方はその単語を口にしていたらしいけどね。何も覚えてないとなると……まぁ、貴方が知ってようが関係ない話ね……ふぅん……なるほど」

「何かわかったの……?」

 

 機械がスキャンした篝の身体検査の結果を眺めると、大した結果は出なかったようで、詰まらなさそうにディスプレイを閉じた。

 

「別に、メディカルに異常無し、少し脈拍が高いけど正常値の範疇。じゃ、私は用があるから」

 

 それだけ言うとヘルタが邪魔にならなそうな場所で座り込んで、電源が落ちたかのように首がガクッと前に曲がる。

 実際彼女の身体は肉の身体ではなく、機械の身体で本物のヘルタが遠隔操作している端末の一つに過ぎない。

 良くも悪くも自分の興味でしか動かない彼女は自分に興味を無くしたのだろうとわかった。

 検査が終わったのなら、長居する必要はない。

 ベッドから降りてメディカルルームから出ると、篝を見つけた星が近付いてきて、正面から抱き締めた。

 

「大丈夫だった?」

「あ、うん……って……あの、正面はちょっと恥ずかしいかも……」

 

 余程心配だったのか、全身でそうだと伝えられると人目もあるため、流石に恥ずかしい。

 普段の惑星間跳躍の時の後ろからとは違い、正面だと星の顔が近いというのも理由の一つではある。

 

「……もう危ないことしないで……あと、五時間はこうしてて良い?」

「五時間は普通に嫌だ……」

 

 その後、夜眠る時に滅茶苦茶抱き枕にされた。





身長:星の腰くらい
見た目:ホタルをベースにして、髪や目の色が星のショタ
毎月謎の振り込みのあるカードを持っている。振込主は特定出来ていないので、結局使われていない。
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