エイナ、ヒリュテ姉妹、春姫がオラリオに来たの多少時期はズレてるでしょうが、同じ年っぽいんですね。
Exはダンメモの周年とかである『おまけ』話みたいな扱いです。
章の終わりに挟んで行こうかなと。
「ベルっていつも何しているのかしら」
「「「はい?」」」
頬杖をつきながら、アリーゼが突然変な事言い出した。少女達は、何言ってんだこの人とばかりに首を傾げる。がくっとテーブルに突っ伏したライラは、「いやいや」と口を開く。
「何の話してたかわかってるか? ギルドから下層で怪しい動きをしている奴等がいるって情報があったからどうするかって話をしてたよな? 大丈夫か?」
「いかないわ! それで、気にならない?」
「即答かよ……」
テーブルの上に散りばめられている数枚の羊皮紙。
それはギルドから渡されたものである。なんでも『火炎石』の取引やダンジョン下層で怪しげな動きをしている集団…といった内容が記されている。正義の派閥として無視していいものではない。ダンジョンで何かをやらかそうとしている…というのはわかる。が、アリーゼは即座にいかないことを決定した。
「団長、一応は理由を聞かせて頂いても?」
「罠だってわかるもの」
「罠でも行かないの? 残っている闇派閥を一網打尽できるチャンス…とも思えるけど?」
「前だったらそうしてたかもしれないわね。でも、今、私達には末っ子のベルがいるわ」
「「「!」」」
考えていないようで考えている。
それがアリーゼ・ローヴェル。
ベルは自分達と違ってまだ幼い。もし自分達に『もしも』のことがあって帰ってこなかったら、そうなったらきっとベルは壊れてしまう。そう考えたのだろう。
「私達はもう簡単に死ねない。ちゃんとあの子を見ててあげないといけない」
「……わーったよ、ちゃんと考えてるなら文句はねえよ」
「フフン、また皆、私に平伏したわね!」
「「「いや、それはない」」」
賑やかに少女達の声が響く。
胸を張って言うアリーゼに、皆で肩を竦めて否定して、アリーゼは咳払いをして冒頭に戻る。
「それで、ベルっていつも何しているのかしら……気にならない? お友達ができたって話は聞かないし……冒険者登録してないから、ダンジョンには行ってない筈だし」
「派閥の活動もまだあの子にはさせてないっていうか強制してないもんね」
「そう言われれば、まあ……たまに見回りついてきてくれるけど、基本自由にさせてるよね」
「アストレア様と一緒にいる……わけではないのですか?」
「おいおいリオン、もうちっと愛しの兎さんを見てやれよ。アストレア様と四六時中べったりしてるわけじゃねえよ」
「い、愛し!? べ、別に私は……っ!?」
「はぁ~リオン、貴様はいつまであいつのことを『クラネルさん』で通すつもりだ? いい加減、名で呼んでやれ。割と気にしているぞ」
団欒室で菓子を摘まみ、果実水や紅茶、或いは珈琲を口にしながら少女達は雑談交じりに言う。どうやらベルは、未だに『ベル』と呼んでくれないリューに対して嫌われていると思っている節があると輝夜は言うのだ。リューは別に嫌っているわけでは…と反論するが、周りが揶揄ってくるために羞恥に染まって黙りこくる。
「で、気にならない? 私達の知らないところで普段、あの子が何をしているのか」
「「「……気になる」」」
満場一致である。
もうベルも9歳になった。
でも、気になる。
何せ手塩にかけて可愛がっている可愛い可愛い弟分(将来のお婿さん)なのだ。まだベルに派閥の活動は強制せず、自由にさせているとはいえ何して遊んでるのかとか割と気になる。というかアルフィアの死去から1人にすると何やらかすかわからない危うさのあった子だ。心配という意味でも気になる。過保護と言われても仕方ない。なにせアルフィアと一緒に過ごした部屋には近づこうともせず、廊下や団欒室で寝る始末。アリーゼ達が寝入ったベルを抱えて同衾もしたが気がつけば抜け出しているのだ。見かねたアストレアはとうとう「私と一緒の部屋ですごしなさい」とベルに言いつけた。羨ましい限りだが、心配なのだ。日中は派閥の活動で碌に相手してあげられないのもあってか、少女達の興味関心はベルが普段何をしているのかに向けられていた。
「じゃ、尾行しましょ!」
「「「「おっけー!」」」」
少しばかり悪い笑みを浮かべるお姉さん達。
立ち上がり、出て行く支度も整える。
「というかまず、ベルって今、どこにいるんだっけ?」
「30分くらい前にアストレア様と出て行ったから、孤児院かしら?」
「アストレア様とられるからって孤児院行かないでしょあの子」
「確か今日は検診の日だったはずだから、治療院まではアストレア様と一緒なんじゃない?」
「ああ、なんかそんな話してたっけ」
武器よし防具よし、身だしなみよしとチェックを済ませ戸締りもして、少女達は本拠を後にする。とはいえ憲兵と協力して都市の平和を守る者である彼女達は暇というわけではない。見回りと同時進行でベルの捜索及び
× × ×
「いた」
とリャーナがベルのいる方を指差した。
治療院がある方角からトコトコと歩く子兎の姿を正義の戦乙女達は補足。治療院での検診を終えたベルはどうやら予想通り、孤児院へ行くアストレアと別れたようだ。そんなベルの右手を握って歩いているのは彼女達にとっても友人と言っても過言ではないアーディだ。
「【ディアンケヒト・ファミリア】で検診受けてきたんだ。ちゃんと受けて偉いね~、あれ、ということは朝食はまだだったりするの?」
「はいっ、でも、アミッドさんが検診終わった後にってサンドイッチくれました」
「へ、へぇ……そ、そうなんだぁ……」
「美味しかったですっ」
「そ、そっかぁ……」
「?」
大抗争だった当時はまだ12歳の小さな治療師の女の子は、14歳となって女子力に磨きがかかっているようだ。遅めの朝食をご馳走してあげようと思っていたアーディは「やられたぁ」といったような具合だ。トホホといった顔をするアーディに何を残念がっているのかわからないベルは首を傾げる。
「あれアーディじゃない?」
「あの子、今日って休暇?」
「いえ、違うかと」
「「「サボりか」」」
アーディとベルを見つけた少女達は物陰にかくれて観察する。
木箱やら建物の壁からひょこっと顔を出して少女達は隠密行動。
「お母さん、あれなぁにぃ?」
「しっ、見ちゃいけません!」
そんな通りすがりの親子の声が聞こえた気がしたが無視無視。
友人が仕事をサボって可愛い弟分(将来のお婿さん)と逢瀬しているとか、これは後でシャクティにチクって牽制しとかなきゃ案件だ。アーディとベルは噴水のある中央広場のベンチに座って何やら話をしているようだ。
「ベル君、今日は何する予定なの? アストレア様はいないみたいだけど…」
「……アストレア様は、孤児院に行っちゃいました」
「そ、そっか……」
まだ10歳にもなっていないのに『ネトラレ』の概念を知ってしまったらしいベルは頬を膨らませて不貞腐れる。アーディは「早すぎるよぉ」と頬から汗を滴らせて、ベルの頭を撫でて慰めモフモフとした手触りの良い白髪の感触に癒される。どうやらベルは特に予定を決めているようではなく、かと言って本拠に帰っても誰もいないからどうしよう…ということらしい。
「お姉さんと一緒に
「んー……」
足をぶらぶらさせて考えるベル。
その子供らしい仕草にうずうずとするアーディ。
自分よりも英雄譚や冒険譚に詳しいまであって、可愛い系の男の子だ。年下というのもポイントが高い。自分でもモテると自覚しているアーディだが、初めて自分から「この子がいい!」と思ったくらいだ。今の内に彼の心をぐっと掴んでおきたい所存である。しかし、ライバルは多い。主に彼の身内だ。
「デメテル様」
「ん?」
どうベルとイチャコラしようか考えていたら、ベルが口を開く。
聞こえたのは女神様の名だ。
話をちゃんと聞いていなかったアーディは「何か言った?」くらいのもので聞き返すと、ベルはアーディの顔を見て言った。
「デメテル様のところに遊びに行こうかなって」
「………君、デメテル様と仲いいの?」
女神デメテルといえばオラリオに存在する恩恵の有無を除けば【ガネーシャ・ファミリア】さえ上回るほどの構成員を持つとされオラリオの食糧事情のほとんどを担っているとまで言われる派閥の主神だ。温和で柔らかな微笑みを浮かべており、ロキでさえ彼女には噛みつこうとはしない。蜂蜜色の長髪に豊穣の名に相応しく豊満の肢体……とくに胸部装甲はオラリオ、いや、下界随一と言っても過言ではないかもしれない。そんな武器をもつ女神だ。何故ベルの口からそんな女神の名が出て、「遊びに」なんて発想が生まれたのかアーディにはわからぬことであった。
「前に畑のお手伝いをしたら、いつでもいらっしゃいって」
「へ、へぇ」
どうやらベルは他派閥の女神様に可愛がられていたらしい。
いやまあ、知ってたけどね? 君、可愛いし。
道歩いてたら女神様やら男神様やらがベル君のこと「じゅるりっ」「まだ青い」「食べごろはまだか!?」「精通はまだかしら」とか言ってるの聞いたことあるしね? と心の中で言うアーディである。これはひょっとしてあれかな、『ママ活』とかいうやつかな? と自分の、姉譲りに大きく育った胸元を見下ろしつつも豊穣の女神には敵わないサイズ感に「ぼ、母性が足りないのかなあ」と嘆くばかりだ。
「ネーゼ、何の話してるかわかる?」
「あー……ベル、デメテル様とよろしくしてるっぽい」
「「「よろしくしてるですって!?」」」
「まだ9歳よ!?」
「は、早すぎる!?」
「デメテル様のあの大きなお胸に溺れちゃったら、いくらマリュー達だって貧乳枠にカテゴライズされてしまうわ!」
「いや、マリューはアストレア様といい勝負できるサイズなんだし問題ねえだろ」
「マリューやリャーナ達が貧乳枠になってしまうと、最早、エルフ2人組は『断崖絶壁』或いは『窪地』になってしまうのではございませんか?」
「「ふふふ……表に出ろ、
「リオン、セルティ、もう表出てるから」
「何だろう、すごく誤解している気がするような……あの子、えっちなことに興味ある年頃なの? 私達の裸見ても……いや、多少、目を逸らしたりして恥ずかしがってたりはするけど……うーん」
通り過ぎていく冒険者達が、隠密行動中をしているが傍から見れば怪しい存在な正義の味方に奇異の目を向けるが今の彼女達は気にもしない。アーディとベルの会話を狼人のネーゼが狼の特徴を持つ獣の耳で聞き取り、如何わしい妄想を働かせるお年頃の美少女達。豊穣の女神様に美味しく頂かれる子兎の図を浮かべて喉を鳴らし、或いは、「だめぇ!!」とブンブン頭を振る。そんな馬鹿なことをしていると、アーディ達のもとへ1人の女性が姿を現した。
「アーディ、何をしている?」
長身と怜悧な顔立ちから麗人と呼ぶに相応しい女性にしてアーディの姉。シャクティ・ヴァルマだ。
「お、お姉……ちゃん……」
「シャクティさん、こんにちはっ」
「ああ、こんにちは、だ。アーディの相手をしてくれて感謝する。何か変なことはされていないか?」
「変な事って?」
「いや、なんだ……いや、いい。お前にはまだ早い」
「??」
ダラダラと汗を流す、サボりがバレたアーディ。
挨拶をしたベルに「偉いぞ」と頭を撫でるシャクティ。向ける視線はまったく別で、ベルに対しては友人の弟や親戚の子へ向けるそれで、しかし実妹にはキツイものを向けていた。
「あ、あのねお姉ちゃん、これは、その、違うの!」
「ほう、何が違うのか……ちゃんと言い訳は用意しているんだろうな?」
「うっ……えと、ほら、ベル君、9歳でさ、1人でフラフラしてたら流石に危ないでしょ? 変な神様達に誘拐されるかもしれないし!?」
「まあ、一理あるな」
「む……僕、1人でだって平気ですっ!!」
「そ、そんなムキにならないでよぅ……」
アーディの言い分にシャクティは腕を組んで頷く。
都市が平和になったとはいえ、犯罪が起こらないとは言い切れない。特に神々だ。どういうわけか神々は『ロリ』だとか『ショタ』だとかいった属性を好む者が多いのか、ベルも狙われていないとは言い切れないのだ。
「そ、それにさ、この間の騒ぎ覚えてる!? あのアマゾネス姉妹の2人!!」
「……『
「そう!! 私達を倒した派閥に入ってやるぅ!とか言って喧嘩騒ぎしてたあの女の子達!」
「最終的に【ロキ・ファミリア】に回収されたはずだ。それが、どうした」
「私、その日、休暇でさ、アリーゼ達と野次馬してたんだけど」
「するな、憲兵」
「ベル君が、その姉妹を見た時になんて言ったかわかる!?」
冒険者同士の喧嘩騒ぎなど珍しくもない。
『
「見てアリーゼさん、アーディさん、リューさん! 『嘆きの平原』が喋ってる!!」
「「誰がお前の前面
「っっっって、フィン・ディムナさんが言えって言ってました!!」
「え、僕かい?」
「「んだこのクソパルゥムがぁぁぁぁぁ!!」」
「ま、まぁ……元々勧誘しようと思ってたから、
「いいわけあるか、馬鹿もん」
瞼を閉じて回想していたアーディは恐ろしいものを見たとばかりに身震い。話を聞いたシャクティはベルに目を向ける。するとぷいっとベルは可愛らしい顔をそっぽへ向けた。初対面の幼女の寸胴ボディに対して、ベルは顔に似合わず容赦のない一撃を喰らわせてしまっていたらしい。それどころか、それを他人のせいにして難を逃れるという怖れ知れず。子兎、恐ろしい子……っ!!
「…………そういう、のは、よくない、ぞ」
「めっちゃ歯切れ悪いじゃんおねえちゃん」
「うるさい、ほら、仕事に戻れ。行くぞ」
「ああ、待って、私はベル君とデー……こほん、見回りをぉぉぉ!?」
「そうか」
ずるずると引きずられるようにしてアーディは去っていった。「ベ、ベルくぅぅぅぅん」というアーディの悲鳴が鳴るが、置いていかれたベルはぽかーんとして、遠ざかっていくアーディへとりあえず手を振ってやるのだった。
「姉には勝てないわね!」
「サボりはよくありませんからなあ」
「自分に与えられた仕事をちゃんとしないと、社会人としてダメよね」
「そうそう」
「職務放棄なんて信頼を失っちゃう原因になりかねないものね」
「………」
「どうしたのよリオン、そんな言葉を疑うような顔をして。なに、生理なの?」
「いえ、あの……ブーメランを知っていますかと言いたくなったというか」
「ブーメラン? ライラが持ってるやつね! 『
「………はぁ、もういいです」
痛い頭を押さえるようなリューに絶賛『可愛い弟観察隊』と化した正義の戦乙女達は物陰からベンチで足をぶらぶらさせているベルを「可愛い」「足ついてないのポイント高い」などと言って瞳をキラキラさせて眺めている。アーディのことを言えるのですか? といったリューのことなど気にもしない。
「安心しろってリオン。これでも周囲に意識は向けてんだからよ」
「そうよリオン。何かあったらすぐに駆け付けられるわ」
「「「リオンが」」」
「わ、私がッ!?」
「まあ、仮にも【疾風】なんだしな」
「またみんなして……揶揄わないで欲しいっ」
「しっ、待って、誰か来たわ」
ぷるぷる震えて抗議する元末っ子エルフをイジメる少女達。
しかし、それをアリーゼが制止する。ベルの元へ誰かが現れたらしい。揃って首を出し、ベルの方を見ると少女達は自分達の目を疑った。
「え」
「嘘でしょ」
「あのお方って……その、あのお方ですよね?」
「ベル君にはまだ早すぎるわ!?」
「歩く18禁、危険すぎるわ!?」
「リャーナさん、さすがにそれは不敬では……」
「ああ、でも……美の女神様ってお美しい……」
頬から汗を垂らし、距離は十分にあるにもかかわらずその色香が彼女達を惑わすのか目を離すことができない。同棲の女であっても、彼女の肢体、雰囲気には喉を鳴らさざるを得ない。
「こんにちは、兎さん」
「………」
「隣、いいかしら?」
「……は、ぃ」
銀の長髪を揺らし、同じく銀の瞳を細めて言う突如として現れた女神。正面に立ち、ベルの視線に合わせるようにして両手を膝に乗せてほんの少し前にかがんだ姿勢で顔を近づけての御挨拶。これには初対面の子兎も赤面。しかし仕方のないことだ。彼女は美の女神であり、そして彼女の格好は裸と何ら変わりなく炎を模した扇情的なドレスを着こみ、陶磁器の様な肢体から『美の神』特有の色香を放っている。アストレアだってしないその露出度にベルは困惑し、目の前でゆさゆさと揺れる豊かな果実に心臓がドキドキと暴れる。本拠の中を全裸で歩き回る所謂『裸族』な輝夜だって目の前にいる女神の格好だってしない。裸であって裸じゃないその恰好はベルからして初めて見るものであった。そして、アルフィアだって会わせたことのない存在であった。
「ふふ、顔が赤いわ。熱でもあるのかしら?」
肩と肩がぶつかるほどの距離……というよりもうわざと自分の肢体を押し当てるかのように隣に座り、顔を赤くして自分のことを見てくる子兎の額へ自分の額を当てて体温を確認する。勿論、体調が悪いわけではないということは女神には手に取るようにわかっている。彼女はベルが顔を赤くしているのをいいことに触れ合いに乗じているのだ。女神の動作に合わせて豊かな果実が形を歪め、ベルの肌に触れる吐息は艶めかしく。ベルの目はぐるぐると回り始める。別に女神の裸を見たことがないわけじゃないし年上女性の裸を見たことがないわけじゃない。けど、目の前にいる女神は何か違うのだ。何度目かもわからないほどにベルはごくりと喉を鳴らしていると、頭に手を回され、ぐいっと抱き寄せられ、顔が柔らかく温かく弾力のあるものに包まれた。
「!?」
「ふふ、貴方、アストレアのところに置いておくには勿体ないくらい……いいわ、とても……嗚呼、食べてしまいたい……でも、まだ駄目ね……もう少し、熟成させてからのほうが……」
「!?」
頭を優しく、ねっとりと撫でられ困惑。
谷間から漂う女神の香りが鼻孔を通ってウットリ。
何の話をしているのかわからず、混乱。
お義母さん、ぼく、この女神様知らない!!とばかりに動けない。そんな自分の胸の中でドギマギしている子兎に女神は、それこそ「ぐへへ」というような表情を零しそうなのを堪える。ここで手を出すのはダメ。アストレアと敵対するのはよろしくない。手に入れるのであれば、穏便に。そう、以前口にしたように『幼馴染大作戦』だ。街娘という
「あら、大丈夫? 苦しかったかしら、ごめんなさいね?」
「い、いえ……ら、らいじょうぶれす」
アストレアとは違う、女神の色香にベルは熱くなった顔を両手で覆う。それを女神は面白いものを見たようにクスクスと笑った。それを離れたところから見ていた姉達は死人のような目をしていた。
「あれ、パフパフってやつじゃない?」
「ベル……好き者め」
「フレイヤ様にまで何で気に入られているの? いつの間に?」
「魅了されちゃったんじゃ……どうしよう……」
「あの子の初体験がフレイヤ様だなんて、そんなの後戻りできないわよ」
「毎晩アストレア様に抱き枕にされているのに……物足りなかったのかしら……?」
美の女神の色香に当てられているだろうベル。沸々と黒い感情が湧き上がる。どうしてぇ?私達がいるじゃないぃ?と歯をギリィさせるも彼よりも年上の、いわゆる大人のレディだ。子供相手に嫉妬心を漏らすなんて格好悪いにもほどがあると何とか落ち着かせようとする。ひょっとしたらベルは魅了を受けているだけなのかもしれない、近づいただけでも堕とされる場合もあると聞いたことがあるし、それならベルは被害者だ。うん、仕方ないと無理矢理に理由だってつくる。なお、胸部装甲が薄い陣営はフレイヤの胸と自分の胸とを視線を行き来させて、「くっ」と致命傷を負ったかのような苦悶を漏らした。
「やっぱり、やっぱり胸なのね……そうよね、この間もお風呂で湯船に浸かりながらマリューのお胸、下から持ち上げてたりしてたもんね」
「男の子ですもんね、ベルも」
「お、大きければいいというものでは……うぅ」
「マリュー、何させてるのよ……」
「い、いやぁ……肩こりするのか聞かれたから、触ってみる? って……」
「新しい扉明けさせるなよ、早いって言ったのお前じゃねえかよ……」
「というか、あの子、もう1人で入れるでしょ?」
「ダメよノイン、ベルを1人にさせたら危ないって結論、皆で出したでしょ?」
「まぁ……うん」
「まあ、一番羨ましいのはアストレア様と入ってるってことよね!」
「「「違いない」」」
「半ば強引だけどな」
一緒に入るのをあれこれ理由をつけて逃げようとするベルを武闘派な一面も実は持っているアストレアがひょいっと抱きかかえて連行していく後ろ姿を少女達は忘れない。自分達に助けを求めるベルの顔はまさしく出荷される動物のようですらあったからだ。
「あ、フレイヤ様がベルに何か話してる」
「ネーゼ、聞こえる?」
「ごめん、流石に……たぶん耳打ちレベルで声量抑えてる」
耳打ちで何かを話しているらしいフレイヤの方へと視線を向ける。内容は聞こえない。というか距離が近すぎて話をしているというより如何わしいことをしているようにしか見えなかった。
「ベル、良い子な貴方にちょっとした豆知識を伝授してあげるわ」
「ま、豆知識……ごくっ」
わざと押し当てるようにしてベルを抱き寄せ、艶めかしい吐息を吹きかけて、くすぐったそうにするベルに頬を染め、頭を撫でるとトロンとした目をされて口元を歪ませる女神は、ベルの耳に接吻するのではと思われるほどに唇を近づけて、言葉を紡いだ。そして、吹き込んだ。特に役に立つわけでもない知識を。
「『ア〇ル』は『形容詞』」
「!?」
「ふふ、これでまた1つ、賢くなったわね……それじゃあ、ベル。私があまり貴方と触れ合っていると他の子達に怒られちゃうかもしれないから、今日はこれくらいにしておくわ。また遊びましょう?」
そう言ってベルの頭を最後に撫でて、フレイヤは立ち去っていく。見惚れるほどに美しくて、銀の長髪を揺らす女神の後ろ姿をベルは熱に浮かされたように見つめ、そしてハッとなったようにベンチから飛び降りた。周囲の視線がとても気になる。なんというか羨望というか嫉妬というか色々あるような気がして、けれどそれ以上にベルはあの女神が何者なのか小さな頭で絞り出した答えを口にした。
「あれが……オラリオにいるっていう美の女神様……?」
アストレアだってとても美しい。
アストレアより美しい女神はいないと言ってもいいくらいだとベルは思っている。それでも、それを超えるほどの存在じゃないかと本能が揺らいだ。また遊びましょうとあの女神は言った。どうして自分のことを知っているのかはその時にでも聞けばいい。そんなことを思うベルであるが、フレイヤは1つ、ミスをしていたことを自室に帰った時に気付く。
「あれが……」
そう、そのミスとは。
出会いにおいて最も重要な要素の欠落によっておこる誤解だ。
「美の女神……
緊張やら羞恥やら困惑、混乱によってベルはフレイヤのことを違う女神として認識してしまったのだった。なおイシュタル本人は最近人身売買で手に入れた小娘に秘められた力に涎を垂らし、そしてクシャミをした。
「ベル、あの子大丈夫かしら」
「魅了されたらどうなっちゃうの?」
「簡単な話、腑抜けになる」
「大丈夫かなぁ……」
「胸の辺りをきゅっと握り締めて……仕草は可愛らしいんだけど、心配だわ」
美の女神に魅了され堕とされたかもしれない弟分を心配する少女達。はて、今夜アストレアに相談して上書きしてもらえば修正されるものだろうか? まさかベルは姉達に追尾されているとは露にも思っていない。何せ周囲からの視線がフレイヤのせいで増えたからだ。ベンチから降りたベルは、これからどうしようかと考えて、そしてギルドの方へと向って行った。
「エイナさんに教えてもらいに行こうっ」
フレイヤに教えてもらった『形容詞』とやら。
それが何を意味しているのか、最近ギルドに就職してきた
「あら、ベル……君?」
入口の辺りでキョロキョロと誰かを探しているような動きをするベルを見つけたエイナ。名を呼ばれたことでエイナの方を向いたベルは、探し人見つけたりとばかりに顔色を明るくさせる。冒険者でもないベルだが、【ファミリア】の姉達と一緒にギルドを出入りしているのを何度も見ているせいか新人であるエイナも自然とベルのことを覚えていた。他のギルド職員の中にもベルを知らない者はいないようだった。白髪を揺らしてエイナの元までやってきたベルはつま先立ちをしてカウンターを掴む。都合のいいことに冒険者達で混みあっている時間帯は過ぎており、エイナはにこりと微笑んで背伸びで自分に相対してくれるベルの相手をすることにした。
「どうしたのベル君、お姉さん達にお遣いでも頼まれたの?」
「暇だったから、エイナさんの顔を見に来ましたっ」
「そ、そっか……わ、私を……へ、へぇ……嬉しいなあー」
思わずニヤケそうになるのを堪えるエイナはぷるぷると震えた。隣で学区からの友人であるミィシャが「え、この子、素面で口説いてくる子なんだ……」とか言っているが、エイナも同じことを思った。まだ日も明るい内からこの子は年上の女を口説き落としてきているのだ。恐ろしい兎である。もっとも、ベルは本当に最近ギルドに加わった綺麗なお姉さんを拝みに来た程度のものであるが。
「エイナさんっ」
「なあに、ベル君」
「えと、教えて欲しいことがあって」
もじもじ、と恥じらうような仕草。
それがまた母性というかお世話してあげたい欲を湧かせてくる。エイナもつい他の冒険者よりも柔らかい声色で対応してしまう。だが、次の瞬間、エイナの綺麗な顔は凍り付く。どころか、ギルドから全ての動きが停止する。
「『あ〇る』ってなんですか?」
「――――――――」
「エイナさんは『学区』から来たって前に聞いたから……すごく、頭いいんですよね?」
「ベル君」
「だからだから、『あ〇る』っていう形容詞っていうやつのことも、きっと詳しいかなって」
「ベル君っっ!」
× × ×
「エイナさんどうしたんだろう、急に怖い顔して……」
ギルドを半ば摘まみ出されるようにして外に追いやられたベルはトボトボと道を歩いていた。次の目的地は『黄昏の館』である。アイズがいればダンジョンのことを話してくれるかもしれない…いや、今日はゴブリンを〇〇体倒したよとか女の子が話すことじゃないことを話してくるからあまり期待はできないが、アイズがいなくてもアキやアリシア、ラウルといったお姉さんお兄さんがいる。冒険の話を聞かせてくれるかもしれない。それでいて何より、あそこには
「もうベル君、私、君の相手をしているほど暇じゃないの! お外で遊んできなさい!」
「え、えぇ!? なんでですか!?」
「なんででもなの! あんまり年上を揶揄わないで!」
「か、揶揄ってないです! エイナさんなら『学区』で習ってるかもって思ったから……!」
「習うわけないでしょう!!? 恥ずかしいからやめて! アストレア様に言いつけるよ!?」
「えぇぇぇ!?」
どうしてだか急に羞恥に顔を染めて怒りだしたエイナを思い出して首を傾げる。何がいけなかったのだろう。他の職員の人達も何か言っていたが、何か悪口を言ったとかエイナを怒らせるようなことをした覚えもない。『学区』では教えてもらえないほど、難しいことなのだろうか……とベルは呻る。まさか、ギルドの中で1人の新人受付嬢を無自覚に羞恥責めして追い出されたなどと知らない【アストレア・ファミリア】の少女達は困惑しながら尾行を再開。
「どうしたのかしら?」
「あの
「そ。時々ギルドに冒険者依頼の書類とか報告に行くときにベルも一緒に行ってたりして顔覚えてくれてたみたい」
「最近のベルのお気に入りでございますなあ……まったく、将来が楽しみでなりませんわ」
「半分とはいえ、エルフの血を引いてて……スタイルいいもんねあの子」
「でもどうしてあんなに怒鳴って追い出したんだろう?」
「クラネルさんが他者を怒らせるようなことをするとは思えない……」
ギルドで何があったのか知る由もない彼女達は、良い子であるベルが何かしたのかな?と首を傾げつつもやがてベルが入っていった建物が見えると足を止めた。
「……ここって【ロキ・ファミリア】の本拠じゃん」
「おい門番、仕事しろよ」
「何で入れるの? 他派閥なのに」
「すんごい気軽に入ってったわよ?」
「人形姫と遊んでるのか?」
「何して遊ぶのよ……あの子、怪物を倒すこと以外で興味を示すの?」
「あら、あの子、アルフィアが亡くなって少し経った頃に【九魔姫】と時々本拠に遊びに来てベルを追い回してたわよ?」
「「「追い回すなよ」」」
「なあ、流石にこれは尾行むりじゃない?」
「うーん……」
「どうする? 出てくるまで張り込むのはよくないでしょ」
ベルの尾行をするのは面白くて良いが、流石に他派閥の本拠前に張り込むようなことはできない。かと言って中に入れてもらうというのも憚られる。そうなるとベルに気付かれて、尾行していた意味がない。少女達は団長のアリーゼに判断を仰ぐと腕を組んで考え込んだ彼女は息を吐いて首を振った。
「ここまでにしましょ、他派閥の本拠に入られちゃしょうがないわ」
「そうなるか」
「まあ、【ロキ・ファミリア】なら何も問題は起きないでしょ」
「じゃ、普段の見回りに戻ろっか」
誰にも気づかれないように物陰からすすすーっと少女達は撤退する。自分達が構ってやれていない日にベルが1人で何をしているのか、ほんの少しだけ知れたのは姉としては収穫と言えるだろう。美神に気に入られ、他派閥の本拠に堂々と入っていくのには驚かされたが。
「すまないなベル、アイズは留守にしている」
「……そう、ですか」
尾行されていたことを知らないベルはリヴェリアの部屋を訪れていた。ノックの後に扉を開けると書類仕事をしていたのかリヴェリアは筆を走らせながらベルの訪問を微笑を浮かべて迎え入れた。アイズがダンジョン以外のことに興味を示すようになってくれた相手だ。ひょっとすれば将来は良い関係になるかもしれないし、こうして顔を見せてくれるのはリヴェリアとしても嬉しいものだ。アルフィアの死去後、都市を出て行ったと聞いたし、けれど帰ってきたし、様子を見に行けば心にぽっかり穴が開いたような状態で心配でならなかったものだ。慕ってくれるのであればそれに応えるのはやぶさかではない。
「すいませんベル、今はティオナ達も留守にしていて……」
「だ、大丈夫ですっ」
「ふふ、怖いか? あの2人が」
「ぜ、全然っ」
淹れてもらった紅茶で喉を潤し、菓子に手を伸ばす。リヴェリアも筆を置き、ベルとは対面の椅子に腰を下ろした。
「アイズがいれば一緒に座学の相手をしてやれるが……1人で受けるのはつまらないだろう?」
「リヴェリア様、彼はまだ冒険者ではありませんし……まだ時期尚早では?」
「何を言う。『知識』を身に付けることは早いに越したことはない。例え冒険者にならずとも、無駄にはならんだろう」
「は、はぁ…」
一度、『黄昏の館』へ遊びに来たベルは偶然にも座学を受けさせられているアイズを見た。部屋を覗いていたベルに気付いたリヴェリアが入室を許し、そしてアイズが「一緒に受けよう助けて代わって」と言って時々ではあるがベルもリヴェリアの座学を受けていた。だが、アイズの脱走頻度が多すぎてベルが1人で受けることもしばしば。冒険者でもないベルにはまだ早いのではというアリシアの指摘もごもっともであるが、かと言って暇を持て余しているのもよろしくないし、アイズと違って話をしっかり聞こうとするベルは生徒として優等生のそれであり教える側としても気分がよかった。リヴェリアは痛む頭を押さえるようにして溜息をついた。
「あの、リヴェリアさん」
「ん? どうした」
「さっき、エイナさんに会ったんですけど」
「エイナ……ああ、それで、どうかしたのか?」
「エイナさんじゃわからないらしくて……でも、リヴェリアさんならわかるかなって思って」
「?」
「その、わからないことがあって……気になって……教えて欲しくって」
「ああ、なんだ、何かわからないことが本にでも書いてあったのか。なるほど、私で答えられればいいが……それで、何が知りたいんだ?」
『学区』出身のエイナお姉さんではわからない。
だがリヴェリアは王族で、ベルよりも長い時を生きていてきっと多くの知識を持っていると踏んだベルは彼女の知識に頼ることにした。アルフィアも言っていた。エルフとは知識の種族であると。そう、【ロキ・ファミリア】の本拠へやってきた理由はこれでもあった。勉学に励もうとする姿勢にアリシアとリヴェリアは好感を覚える。だが次の瞬間、彼女達は微笑を浮かべたまま凍り付いた。
「
「「――――――――」」
「リヴェリアさんなら、王族だし、大人だし、えと、お義母さんが……私よりも年上だって言ってたから、きっと知ってますよね?」
トコトコとリヴェリアの元までやってきて袖をきゅっと摘まんでぐいぐいと身体を揺らしてくる。構って構って!とでも言いたげなその光景は普段であれば微笑ましい限りだが、内容が内容だ。
「リヴェリアさん、何で答えてくれないんですか!? 詳しいんですよね!?」
「――――はっ!? ま、待て、ベル!? お前にはそういうのはまだ早……っ」
「早いに越したことはないってさっき、言ってました!!」
「~~~~~~~っ!?」
リヴェリアの頭脳は高速回転。
は?
いや、知ってるけど?
口にできるか、そんなもの!
詳しいとか言うな、誤解がうまれるわ!
女神アストレアは何を吹き込んだんだ、この子に!!
オマケに自分で言った言葉で逃げ道を塞がれてしまった!! 早いに越したことあるわ!!エルフである私が口にできるわけがないだろう!? アリシア、何とかしろ!!
そんなことを高速回転するリヴェリアの頭脳が思うがアリシアも似たことを思ったのか、互いの視線が交差して首を左右に振るばかり。結論、エルフ的に口にしづらい。
「ベル、すまない……その、この後、急用があってな」
「え」
「その、なんだ、保健体育の授業はまた今度―――」
誤魔化して逃げようとするリヴェリア。
しかし、それを何も知らない主神が部屋に顔を覗かせてしまったせいで失敗する。
「ん? なんや、子兎来とるやん。アリシアもリヴェリアも鳩が豆鉄砲を食ったような顔してどないしたん? リヴェリアママもすっかりママが板について……子兎にもすっかりなつかれとるやん。息子にでもするんか? がはは、アイズたんはやらんで~」
「ロキ様っ!! リヴェリアさん達でもわからないことがあるってことがあるんですか!?」
「んぁ? どないしてんそんな鬼気迫った顔して……そらぁ、リヴェリアだってうちら神々からしたら幼子みたいなもんやし……知らん事くらいあるやろ、せやから『冒険』して『未知』に挑むんや」
「じゃあ……リヴェリアさんもアリシアさんも『冒険』してないから、知らないってことですか!? 『未知』なんですか!?」
「ま、まあ、そういうこと……なんかなあ?」
話が見えていないロキが言うことは別に間違ってはいない。
だが、今この時だけはリヴェリアは「黙っててくれ」という気持ちでいっぱいだった。そりゃあ冒険者だってわからないことくらいある。『未知』はまだまだ下界に溢れている。だからこそ挑むのだ。それは間違ってはいない。間違ってはいないのだ。まさかロキも『尻の穴』の話をしているとは思いもしないだろう。その原因が女神アストレアではなく女神フレイヤであることも当然、彼女達は知らない。
「ええっと……どないしたん?」
「『あ〇る』ってなんなんですか!? 『学区』から来たエイナさんも、『王族』のリヴェリアさんもわからないことなんですよね!? どんなものなんですか!? 食べ物ですか!? 武器ですか!? 秘境とかなんですか!?」
「あー……ええー……」
誰やねん、変な事吹き込んだん。
ロキはそんなことを思った。
そりゃリヴェリアもアリシアも黙り込むわ。
ていうか聞く相手悪いわ。
せめて男に聞けや。
ロキはさらにそんなことを思った。
「大の大人のリヴェリアさんでも『冒険』してない、つまり未経験の何か………」
「ま、待てベル!?」
「早まってはいけません! 口にしては………!?」
「アリシアそんもリヴェリアさんもエイナさんも、『あ○る』未経験者なんですか!?」
「「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッ!?」」
木霊するエルフの悲鳴。
大声で口にした子兎の誤解しか生まない発言にロキは心の中で「アカーン!!」と悲鳴をぶち上げた。潔癖な種族であるエルフには大ダメージだったようだ。
「食べ物……ではないなあ……いや、まぁ、舌を使ったりすることもあるっちゃあ、あるし……うーん……武器ではないのは確かや……ああ、でも、締め付けとか……ああ、あかんあかん……年齢制限的にあかん」
ロキにしては珍しく言葉を選びつつ、濁しつつ話す。チラリとリヴェリア達を見てみれば「余計なことを言うな」とばかりに首を振っていた。ロキはどないしよ
「秘境……あー……いや、秘境っちゃあ、秘境か? 秘孔っちゅーか、いや、ダジャレちゃうで?」
「ロキ様、真面目にしてくださいっ。ぼく、気になって仕方ないんですっ」
(尻の穴が気になって仕方ないんか!?)
まだそう言う歳ちゃうやろ!?
ロキは混乱した。
というか、リヴェリアとアリシアを見てさらに誤解した。
(2人の尻の穴が気になって仕方ないんか!? マニアックすぎるやろ!?)
2人の年上女性、それも1人は王族妖精だ。
ヒューマンが王族の王族な部分にご入室したがっているなんて知れ渡ると子兎とて命はない。ロキはそんな命知らずを犯そうとするベルを見て、誤解に誤解を重ねて目頭を摘まんだ。
「……すまん、うち、自分のこと、見くびっとった。そこまでの覚悟……やねんな……その『未知』に挑もうとする姿勢……少年、自分にもちゃーんと冒険者としての素質はあったんやなあ……アルフィアの子や」
「………ごくっ、お義母さんも挑戦したことってことですか……?」
「……わからん。わからんけど、かもしれへんやろ」
「ロキ、やめろ、シュレディンガーの猫みたいなことを言うな。両方のアルフィアを存在させるな」
「リヴェリア、ごめん。うち、1柱の神として……逃げられへん。ここで誤魔化したりしたら、この子に神々なんて大したことない、神でも知らないことがあるんやって馬鹿にされてまう。威厳があるんや、うちらにも」
ロキのもとへ駆け寄ろうとするベルをアリシアが両脇に腕を通す形で制止する。いやな予感がしたからだ。アリシアの豊満な果実がベルの背中に押しあたってしまっているが、それで一々恥ずかしがっている場合ではなかった。ロキは「すまん、ほんま」などと繰り返し言ってから押さえていた目頭を解放し、糸の様に細められた瞼を開いて真面目な声音で言った。
「『あ〇る』が何か……やったな……ふぅ、ぶちかましたれ、ロキたん!! よーく聞けや子兎! ずばり尻のあn―――」
「我が名はアールヴ!!」
「ほぎゃぁあああああああああああああっ!?」
迸る魔力の奔流!!
あまりの速度に、ロキは咄嗟に反応できない!
断末魔のような悲鳴とともにぶっ飛ばされた!
憐れロキ。
やはりベルにはまだ早い! 教えられるものか! という気持ちが勝ってしまったリヴェリアによる強制退場であった。
× × ×
「アリシアさんもリヴェリアさんも……なんでぇ……?」
トボトボと1人、道を歩くベル。
結局、答えを知ることはできなかった。
ロキが何か言ってた気はするが、ロキの断末魔にかき消されてよく聞こえなかった。その後は何か大慌てで部屋を片付ける2人に追い出される形で『黄昏の館』を後にした。もう本拠に帰ろうかと思ったが、今帰ってもまだ誰もいない。1人で留守番をするのは心細くって、それが嫌で、だから他にどこか行こうかなんて考えて、そういえば……と思い出す。
「デメテル様のところに行こっ」
アーディに聞かれた時。
デメテルのところに行こうかなと考えていたベル。
故郷では畑の手伝いをしていたし、何かさせてくれるかもしれない。作業に没頭していれば悲しいことを思い出さなくて良くなるし、頑張れば女神に褒めてもらえる。よし、行こう。そう決断してベルは女神デメテルの元へ向かった。
「―――それで私のところに来てくれたのね? もう、ベルは可愛がり甲斐があって良い子ねえ」
湯気が立ち込める。
わしゃわしゃと白の泡が頭に乗り、広がって、滑り落ちて足元を流れていく。背後から一矢纏わぬ豊穣の女神に髪を洗われ、泥で汚れた身体を清められる。
「うぅん……デメテル様、ぼく、1人で入れるのに……」
「私も汗をかいたし、土汚れがついているし、子供の世話をするのは嫌じゃないのよ?」
「そ、それなら僕、デメテル様の後に入ればよかったんじゃ……」
「転んで泥に顔から突っ込んだ貴方を放置なんてできるはずないでしょう?」
「うぐっ」
ベルはデメテルに清められていた。
湯気が立ち込める広い浴場で、豊穣の女神と2人きり。
蜂蜜色の長髪も水に濡れて、乳房の先端部分をうまく隠してくれている。それでもその豊満な肢体は凄まじい破壊力で、目のやり場に困るというもの。ベルも流石にこれはアストレアに対する浮気になってしまうのではないかとさえ思うほどだ。
「ほらベル、ばんざいして?」
「? こ、こうですか?」
「そうそう……えいっ」
「ほわっ!?」
言われるまま腕をあげると両脇に手をいれられ、コショコショとくすぐるようにして洗われる。くすぐったくて少女のような声色の笑い声が響いた。反射的に暴れてしまって背後の女神の身体へと何度もぶつかっては彼女の果実の形を何度も歪ませた。ようやく泡を流されればもうヘトヘトで、抵抗する意志なんて砕かれていて、女神に導かれ湯に入れられた。2人の吐息が静かに響く。
「後で送ってあげるから、その時にアストレアには私から謝っておくからベルが気にすることはないのよ?」
「……本当に?」
「ええ、良い子のベルを泥まみれで帰す方が申し訳ないわ」
頭を優しくなでられ、気持ちの良さそうな声が漏れる。
まだ子供だから、という理由をつけられるが目の前にいる生まれたままの子兎にデメテルとて母性とか理性とかが色々疼いたり崩壊しそうだったりで堪えては喉を鳴らす。まだ早い、もう少し熟れてからの方が……でもアストレアの子だから、手を出すのはNGよね。と自分を納得させる。アストレアだって転んで汚れてしまった幼い眷族を清めてくれたというのを聞けば仕方ないと許してくれるはずだ。
「それよりベル?」
「はぁい?」
「ごくっ……今日は何か私に用事があって来てくれたの? お手伝いをしてくれたのは嬉しいけれど……いつもならもう少し早く、それこそ朝から来てくれるでしょう?」
ベルが来たのは時間的には昼と夕がたの間といった中途半端な時間帯だ。よく手伝いに来てくれる時は、朝早くから来てくれるから、きっと何か別の理由があるのではとデメテルは感じとっていたのだ。まさかベルが友神の発言のせいで翻弄されていたなんて知る由もない。
「実は――――」
そうしてベルの口から聞かされた話の内容にデメテルは理性がほんの少し砕けた。罅が入ったかもしれない。
「誰も教えてくれないんです! 僕、気になって……どうして皆で意地悪するんですか!? 神様でも知らないことって何なんですか!?」
なんて言って腕を引っ張って揺さぶってくる。
そのせいで湯は波打ち、デメテルの果実もまた揺れる。ピチピチちゃぱちゃぱと音を鳴らしてデメテルの肌を波打つ湯が叩き、甘えるようにして身体を揺さぶってくるベルの上目遣いな表情には母性オブ母性のデメテルも葛藤するほかなかった。
「もうっ、落ち着きなさいベル、わかったから」
ここで逃げたらベルに「女神様って大したことないんですね」とか思われかねない。それは嫌だ。と心が訴えるデメテルはベルに教えてやることにした。数分後、脱衣所で顔を真っ赤にしたベルがバスタオルにくるまって小さくなるのを同じく顔を赤くしたデメテルが苦笑を浮かべて背中を撫でていた。泥で汚れた衣服を洗ってもらい、代わりの物を着て、デメテルに手を繋がれながら『星屑の庭』へとベルは帰宅する。湯上り後の石鹸の香りに迎え入れたアストレアは首を傾げ、そしてデメテルはかくかくしかじかと説明と謝罪。苦笑するアストレアは眉をひくひくさせて、とりあえずベルにデコピンをした。
「ベルはおませさんなのね」
「うぅ……だってイシュタル様がぁ……」
「「「なんでこの子、デメテル様とお風呂入ってるのよ!!」」」
「「「すっごい、すっごい、なんか、騒ぎ生んでない!?」」」
「「というか【ロキ・ファミリア】の本拠に行った後にデメテル様のところに行ってたの!?」」
「ベル、聞いておくが……まさか、デメテル様の、その、なんだ……見た、のか?」
輝夜でさえ濁す言葉。
その意味をベルは、思い出したようにボフッと顔を赤くさせて隣にいるアストレアの膝に顔を埋めて「うぅうぅ」と唸る。それで少女達は悟った。
「「「スケベ」」
「「「ベルのえっち」」」
「「「ませガキ」」」
「ち、ちがっ、違うんですぅぅぅ! イシュタル様が、だってぇぇぇ!」
「「「イシュタル様にも会ったの!?」」」
「うぅぅうぅ、アストレア様ぁ~っ」
「う、うぅーん……」
顔を赤くして助けを求めるベルにアストレアは庇護欲をくすぐられるも、ここで甘やかしてはダメだとアリーゼ達によるベルへのくすぐりという名のお仕置きを黙認することにした。
「あは、あはっはははは、ご、ごめっ、ごめんなさいぃぃっぃ、ひぃぃぃぃっ!!」