新・兎は星乙女と共に   作:二ベル

12 / 12
ベル  :10歳
アイズ :12歳
アミッド:15歳
シル  :??


EX:第1回幼馴染談義

 

 

「ベルさん、やはりいけませんよ」

 

太陽が真上に辿り着き、温かな日差しが照らすそんなお昼時。酒場にあるカフェテラスでは、木製の円形テーブルを囲む3人がいた。昼食を食べ終えた後なのかそれぞれの皿にはほとんど料理が残っていない。場所は『豊穣の女主人』。西のメインストリート沿いにある石造りの三階建て、小奇麗な宿屋を彷彿とさせる奥行のある酒場だ。夕方以降はダンジョン帰りの冒険者を中心とした客層であるのに対して、日中は女性を中心とした一般市民の客層だ。朝と夜では品書(メニュー)の内容、金額を変える。実入りの良い冒険者から高い金を頂戴するのだ。

 

「でも……」

 

「でも、ではありません。脈のはかり方くらい教えて差し上げますから。女性の乳房に耳を押し当てるのをやめてください。【ファミリア】の方々ならまだしも、他派閥の女性……それもリヴェリア様にするなんて……殺されても知りませんよ?」

 

「……僕はただ、心臓が動いてるか確認してただけなのに」

 

まったく…と痛む頭に手を当てて、アミッドは溜息をついた。流石に声を大にしては言えないので自分達だけ聞こえる程度の声量で話すが、アミッドはベルの困ったクセに何度目かもわからない注意をいれた。

 

「びっくりした、ね? リヴェリアの部屋にベルいると思って呼びに行ったら……リヴェリアに馬乗りになってたから」

 

「んっん゛ん゛っ」

 

朝早くからリヴェリアの座学を受けていたアイズとベル。アイズは早々に脱走し、昼も近くなった頃に街中で『じゃが丸君』を食べ歩きしているとアミッドと遭遇。たまには一緒にお昼でも…という話になってベルを呼びに『黄昏の館』へ戻り、リヴェリアの部屋の扉を開けてみれば、どういうわけかベッドの上で仰向けで眠るリヴェリアの腹のあたりをまたいで、つまりは馬乗りになった状態で彼女の胸に耳を押し当てているベルがいた。他派閥の女性以前に相手は『王族』である。どうしてそうなったのか全く謎であるが、扉を開けたのがアイズ達でなくアリシアをはじめとしたエルフだったならば発狂していたかもしれない案件である。

 

「どうしてリヴェリアとベッドにいたの?」

 

「途中で眠たくなっちゃって…気づいたらベッドで眠ってて……」

 

ベルが言う。

授業中に眠くなり、気づけばふかふかでいい匂いのするベッドで眠っていた。リヴェリアが運んでくれたのだろう。瞼をあければそこには綺麗な寝顔を晒すリヴェリアがいた。そこでベルは大人の女性の寝顔に対して劣情からドキドキといった興奮を覚えるどころか、血の気を引いてドキドキ。ある朝目を覚ますと義母が死んでいたというのがトラウマになっているようで、結果、ベルは馬乗りになってリヴェリアの胸に顔に耳を押し当てるに至った。なにせ見た目ではわからないがリヴェリアも良いお歳である。詳しい年齢はわからないがアルフィアよりも年上らしいから結構なお歳のはずなのだ。人間にするとまだ20代そこらなのかもしれないが、寝起きに目の前で綺麗な顔で美人が寝ているというのはベルにとっては別の意味で心臓が痛いものらしい。普段の格好からはわからないが、意外とリヴェリアは胸が大きいようで柔らかく、温かく、そして「トクン、トクン」と心音が耳朶を震わせ、一安心しているところにアイズとアミッドに目撃された。そう、眠っているリヴェリアの胸に顔を突っ込んでいるようにしか見えないところを。

 

「リヴェリアはベルのこと可愛がってるから怒らないと思う……ううん、リヴェリアがベルに怒ってるとこ、見たことない」

 

「とにかく、いけませんからね?」

 

「でもアストレア様は……」

 

「アストレア様はベルさんが可愛くて仕方がないのでしょう。主神ですし。でも、ダメなものはダメなんです。ベルさんじゃなかったら逮捕ですよ」

 

「…僕だから許される!?」

 

「そうではありません!」

 

「じょ、冗談ですよ。わかりました、気をつけます」

 

「まったく……」

 

グラスに入った水で喉を潤す。

よく冷えた水のおかげで熱くなった頭は冷えていき、アミッドは「弟がいたらこんな感じに手を焼くんでしょうか」なんてことを思った。

 

「アリシアにもしてたよね」

 

「ベルサン?」

 

「ひっ!?」

 

「本拠に来てるっていうから探してたのに見つからなくて、アキに聞いたらアリシアの部屋にいるって……それでアリシアの部屋にいったら、2人で眠ってた。抱きしめられてたね?」

 

「ア、アイズさん、なんで言うんですか!?」

 

「………ベルは不良」

 

「なんでアイズさんまで怒ってるんですか?」

 

ジトーとした眼差しをむけるアミッドに、頬を少し膨らませて見つめてくるアイズにベルが怯えてオロオロ。仕方ないじゃないですか、力じゃ勝てないんだから。アリシアさんが「一緒にお昼寝でもしませんか?」って言ったんだから! アリシアさんすごく優しいんですよ、リューさんより!! なんて思っているところに少女の声が1つ。そして空になったグラスに水が注がれた。

 

「ふふ、ベルさんは年上女性(おねえさん)が大好物なんですね~」

 

「……シ、シルさぁん」

 

「冗談ですよ、冗談っ」

 

「食後のデザート……というよりは、おつまみみたいなものなんですけど、皆さんでどうぞっ」

 

そう言って、木製のボウル皿をテーブルに置いた。中にはイモを薄くスライスして揚げたもの―チップス―が入っている。そのままシルはベルの隣に椅子を持ってくると、しれっとそこへ座る。肩と肩が触れるくらいの距離感だ。

 

「お仕事はよろしいのですか?」

 

「はいっ、休憩…いただきましたから」

 

指でつまみ、口元へ。

そのまま齧ると、パリッとした音がなって口内でほんのり塩気を感じる味が広がっていく。病みつきになる美味しさだ。

 

「「シルだけずるいにゃーーー!!」」

 

などとキャットピープルの給仕の抗議の叫びが聞こえた気がしたが、シルは微笑みなら無視。どころか、テーブルの上にのったベルの左手に自分の右手を重ねた。ぴくっとベルの肩が揺れたがシルは気にしない。

 

「ベルさん、たまにはデートに誘ってくれてもいいんですよぉ?」

 

「えっと……」

 

「ベルさんさえよければ、お姉さんがいろんなこと……教えて差し上げちゃいますよ?」

 

「!?」

 

耳元でねっとりと囁かれて、ベルが瞼をぎゅっと閉じる。ぞくぞくとしたものが背筋を通っていく。『良質街娘』の良い香りが鼻孔をくすぐってくる。輝夜の色仕掛けやリャーナ達お姉さん組の揶揄いとも少し違う感じがして、ベルはぷるぷると震えた。心の中のゼウスが「行けぇ、お誘いに乗れぇ、ベルぅ!」と言っているが心の中のアストレアが「それは罠よ」と告げていた。

 

「うぅー………」

 

「ふふ、ベルさんは揶揄い甲斐があって楽しいですね?」

 

「むぐむぐ……これ、じゃが丸君と同じ味がする……」

 

「素材が一緒ですから~」

 

くすくすと笑うシル。

アミッドやアイズからの視線にびくついて俯くベル。

そんなベルの耳が赤くなっているのをしっかりとその瞳に映して、しかし何も言わないアミッド。パリポリとチップスを齧っては「美味しい」と零すアイズ。ベルに助け舟を出してくれる者はどうやらこの場にはいないらしい。

 

「ところで―――」

 

数分後。

シルが再び口を開く。

というか仕事しなくていいんですか? と思わないでもないアミッド達であるが店主の方を見ても何も言わないということは良いのだろう。もっとも怒られようが自分達に非はないが。

 

「ベルさんは『冒険者』になられないんですか?」

 

「へ?」

 

「ん……言われてみればベルって『冒険者』じゃないんだっけ。ならないの?」

 

「えっと…」

 

素朴な疑問といった感じ。

隣で腕に抱き着いて聞いてくるシルに、こてんっと首を傾げて聞いてくるアイズ。ベルは困ったようにアミッドへと視線を向けて、アミッドは溜息をつきながら口を開いた。

 

「まだ早いのでは?」

 

「でも、私はもっと前から冒険者やってたよ?」

 

「「「貴方と一緒にされても困るんですけど」」」

 

「え」

 

「普通なら歳の近い子と遊んでいてもおかしくはありませんからね」

 

「幼い頃から血生臭いことをしている方って意外と多いですよねえ」

 

「「ベルさんには全くもって似合いませんっ」」

 

アイズが特殊だと言おうとして、ヒリュテ姉妹だとか幼少期から恩恵を授かりあれこれしている者は意外といることに言葉を噤んだアミッドとシル。【アストレア・ファミリア】でも極東出身の輝夜しかり、妖精の郷で戦士として育てられていたリューしかり、幼い頃から血生臭いことをしていた者はいる。だがやっぱり、ベルに同じことをさせた場合を考えて似合わないという結論がでた。こうしてのほほんと平穏な日常を謳歌しているのが良い気がしたのだ。

 

「ゆくゆくは、ベルさんも『冒険者』に?」

 

シルがベルの腕をむぎゅっと胸を押し付けるように抱いて言う。今じゃなくてもいずれはありうるのでは?と。ベルは考えるように呻った。

 

「なる……のかなぁ……?」

 

「剣や杖なんか持ったりして、私、ベルさんに守られてみたいです! 数々の試練を乗り越える度にかっこういい男の子なんかになっていったりして、シルさん僕を貴方の伴侶(オーズ)にしてほしいなんて言われたりなんかして……キャー、ベルさーんっ!」

 

「…………ベルはシルさんが好きなの?」

 

「…………普通です」

 

「ベルさん!?」

 

アイズからの質問にベルは嫌いってわけじゃないけどといった具合に言ってのける。好きでもなければ嫌いでもないその間にあるような『普通』という曖昧な答えに良質街娘ことシルは胸にナイフを突きつけられたかのようなダメージを受けた。そして我慢ならなくなったのかシルの背後には2人のキャットピープルが現れ、シルの腕を掴むと引きずりながら店内へ連れ帰った。

 

「え、ちょっ、アーニャ!? クロエ!?」

 

「いつまでサボってるのニャ、シル!」

 

「労働させていただけることに感謝しながら働けニャ、勤労に感謝するのニャ、シル!」

 

「わ、私、休憩中なんだけど!? あとなんか言葉の意味違ってない!?」

 

「「休憩なんて言葉、私達の辞書には存在しない言葉ニャ!! 働くために人類は生まれてきたのニャ、過労で死ぬまで休めると思うなニャ!」」

 

「ああああ、そんな、べ、ベルさん助けてぇえええええええええ!」

 

ずるずる、ずるずる、と2人がかりで店内に消えていくシル。それを憐れなものをみるような眼差しでアイズとアミッドが見送り、ベルは「どうして僕なんだろう」とグラスに入った水を飲み込んだ。『冒険者』に興味がないわけではないのをアイズもアミッドも知っている。きっとその時がくればなってしまうのだろう。その時は一緒に探索できればいいな、なんて思うのだ。

 

「ベルはどんな人が好き……なの?」

 

「え?」

 

「ベル、いつもお姉さん達に可愛がられてる……ロキが言ってたよ、あれが『はーれむ』ってやつだって」

 

「ロキ様も余計なことを……」

 

「んー……」

 

アイズに言われて、ベルは呻る。

どんな人が好きなのか、というのは異性についてなのだろうことくらい流石にわかる。まさかアイズがそんなことを聞いてくるとは思わなかったが。

 

「えっと……綺麗な人、とか?」

 

「うん」

 

「優しくて」

 

「うん」

 

「え、と……髪が長くって」

 

「う、ん」

 

「おむn……こほんっ、えと、金とか黒、銀、胡桃色とかの髪も……」

 

「「…………」」

 

「ぼ、僕より……年上の人が、好きかなあって……」

 

聞いていて恥ずかしくなってくる少女2人。

金とか銀とか出た時に、ひょっとして…なんてドキリとしたが流石に自意識過剰かと自分の中で否定する。というか髪色のことを言う前になにか胸のことを言いかけた気がしたが気のせいだろうかとアミッドは目を細めた。どうしてこんな話をしているんだと、言った本人は俯いて赤くなった顔を隠している。

 

「ア、アイズさんとアミッドさんは……どんな人が、好きなんですか!?」

 

「「え」」

 

「ぼ、僕だけ聞かれるのは、ずるいです!」

 

ベルなりの反撃なのだろう。

自分だけが恥ずかしい思いをするなんて、と2人の少女の異性に対する趣向を聞き返してきた。アイズは首を傾げ、アミッドはとある顔が良いだけの男神を思い浮かべて顔を赤くする。

 

「そういえば」

 

「え、アイズさん話を変えるつもりなんですか!?」

 

「アミッドがこの間、倒れたって聞いたけど……身体は大丈夫?」

 

また少し間が空いて、アイズが口を開いた。

どうやら話を切り返るつもりらしい。

ボウル皿にあったチップスはなくなっていて、ベルはちろりと塩のついた指を舐める。話しかけられたアミッドはギクリ、と肩を揺らしてぎこちない微笑みを浮かべた。頬は少し朱みを帯びている。と言ってもアイズ同様に表情の読み取りにくい少女だ。その表情の違いがわかるのは付き合いが多いアイズやベルくらいだろう。

 

「その、働きすぎ……ということでして。しっかりと休暇はいただきましたので、大丈夫です」

 

「そっか……よかった」

 

「え、ええ、ご心配をおかけしました」

 

「何かあったの?」

 

「っ!?」

 

何か勘づいたのか、普段は天然なのに時々みせる鋭さにアミッドはまた肩を揺らした。そしてアミッドがチラッとベルの方を見たのをアイズは見逃さなかった。

 

「ベルと何かあったの?」

 

「えぅっ!?」

 

「アミッド?」

 

「ええっと、その、いえ、その、如何わしいことは、な、何も……」

 

「アミッドさんが過労で倒れたって聞いて、僕が治療院から連れ出したんですよ」

 

黙っていたベルが口を開いてアイズに説明する。

【ディアンケヒト・ファミリア】は決して休暇がないわけではない。ディアンケヒトはしっかりと眷族に休みを与えていた。だが、アミッドはその休暇を新薬の調合など、趣味の延長でおこなっていた。結果、休暇なのに休んでいないことになり過労で倒れてしまったのだ。アミッドが倒れたという話を聞いたベルからしてみればアルフィアのことを診てくれて今も病の兆候なんてないのに無償でベルの身体のことを診てくれるアミッドのその話は由々しきことであり、当然駆け付けた。ベッドの上で疲労を色濃く浮かばせたアミッドの顔を見て悪寒でも感じたか、ベルはアミッドを抱きかかえて連れ出すに至った。アミッド・テアサナーレ、初めてのお姫様抱っこである。

 

「待て小僧! アミッドをどこへ連れていくつもりだ!」

 

治療院(ここ)にいたら、アミッドさん、よくならないに決まってます! だから、僕の【ファミリア】に連れて行きます!」

 

「な、なにをう!? ワシの眷族(アミッド)を……貴様、いくら貴様でも勝手に連れ出すことは許可せんぞ! ここでしっかりと休ませればよいのだ! 何せここは治療院、薬もある! わざわざ外に連れ出す必要などないのだ!」

 

「アミッドさんは僕の専属治療師(アミッドさん)なんです! 僕知ってます! アミッドさんみたいな人のこと、仕事中毒(ワーカーホリック)っていうんです! 僕嫌です! アミッドさんが、アスフィさんみたいな顔になるのなんて! ………ずっと綺麗でいてほしい!」

 

「っ!?」

 

ベルの腕に抱かれていたアミッドが、『お姫様抱っこ』されていることに気付いて頬を赤くし『恩恵』持ちとはいえベルの力強さに心臓がドキっと跳ねたところに追加口撃。 ずっと綺麗でいてほしいなんて言葉が聞こえれば嫌でも湯気が出そうなほどに赤くなる。意識がないフリをすることにアミッドは必死であった。というか周りからは「きゃー」とかそんな声が聞こえてきて余計にこっぱずかしい。放っておけない弟くらいにしか思っていないのに、なんだこの羞恥責めは。

 

「くっ………貴様ぁ……ただでさえアルフィアが天に還ってから、貴様とアミッドの関係がよくわからん状態だというのに……!」

 

ぶつくさと言うディアンケヒト。

それは、アルフィアが生前にアミッドに言った言葉を偶然にも部屋の外で聞いた者がいたのだ。

 

 

「私が死した後、ベルのことをよろしく頼む」

 

「…………はい、承りました。ですから、その、頭を下げたりなんてしないでください」

 

その一言が、治療院の者達の間で誤解として広まった。

アミッドとベルは【静寂】のアルフィアの名の元、『許嫁』となったのだと。アミッドも「はい」と言っていたのが聞こえたし、間違いないのだと。それがディアンケヒトの耳にまで届けば「ワシ知らんけどぉ!?」となるのは当然のこと。主神を他所に何を勝手に話を進めておるのだ、というわけだ。

 

「そもそも……!」

 

「認めん……認めんぞぉ! どうしてもアミッドを連れていくというのなら、このワシを倒していk――――」

 

主神(せきにんしゃ)がちゃんと管理できていなかった結果でしょうがぁーーーーっ!!」

 

ドゴォッとベルの右足がディアンケヒトの両脚の間を目にも止まらぬ速さで通り、股にぶち当たる。白兎の蹴り上げである。少年の足が容赦なく老神の男の象徴を強打したのだ。

 

「ごもっともぉぉおおおおおお!?」

 

「「「ディ、ディアンケヒト様ぁああああああああああああ!?」」」

 

膝から崩れ落ち、尻を突き出す形で倒れ伏してディアンケヒトはびくんびくん。その光景を見ていた男衆は自分達の股間を両手で覆い、「ひぃっ」と悲鳴をあげた。そうして治療院から星屑の庭へ強制連行されたアミッドは数日ほど【アストレア・ファミリア】にお世話になることになったのだ。

 

「ベルさん、あの」

 

「ダメです」

 

「き、着替えを取りに帰らせてもらえませんか?」

 

「ダメです」

 

「お、お願いします。下着とか、その……」

 

「ぜぇーったいに外に出しません! 下着ならマリューさんかリャーナさんの借りればいいんですっ!」

 

「サイズが合わないでしょう!?」

 

「アミッドさん、成長期ですぐ大きくなるでしょ!?」

 

「そういうことじゃないんですよ!?」

 

着替えはアリーゼ達のもう着ていない物を貸し与えられ、下着は買ってきてもらうこととなった。それまでは上も下も未装着で羞恥でアミッドは悶えることになった。しかし、それに対して文句を言おうものならベルに理不尽に言いくるめられて大人しくするしかなかった。

 

 

「ベルさんを怒らせてはいけないと……あの時、初めてわかりました」

 

回想から戻ったアミッドは熱くなった顔を両手でパタパタと呷った。

自分の体調管理を疎かに働きすぎてしまった結果、神であろうが暴行を働き監視されたのだ。心配してくれるのは正直嬉しいではあるが、怒ってる感が凄かった。

 

「湯浴みさせていただこうと思っていれば、ベルさん、ちょうどいいタイミングで湯を溜めた洗面器とタオルを持ってきて……」

 

「ごくりっ」

 

「私の身体を拭く、と……いえ、私もベルさんが体調を崩して熱を出した時なんか看病に行くこともありましたし、拭いて差し上げたり着替えさせたりといったことをした経験はありますが、まさか自分がされる側になるだなんて思ってもいなくて……」

 

「アミッド、ベルに……?」

 

「いえ、さすがに大慌てでアリーゼさん達が止めてくださいました」

 

アミッドを脱がそうとするベル。

羞恥で顔を赤くして抵抗するアミッド。

パワーバランスではまだアミッドの方に分があり、だが引っ張られるせいで着ていた物が乱れる。騒がしさからアリーゼ達がやってきてアミッドは救出された。ベルはアストレアの前で「ダメよ、ベル」と正座させられた。

 

「危うくベルさんに裸体を見られるところでした」

 

「アミッドさんは僕の……見たのに……」

 

むすっとその時のことを思い出して不貞腐れるベル。

見たんだ、と目を丸くするアイズ。

もうやめてっ、と両手で顔を覆うアミッド。

幼馴染3人組は黙り込んだ。

沈黙が場を支配する。

 

「アミッドさんは、休暇は僕の【ファミリア】で過ごすんです」

 

「そうなの?」

 

ずずっと水を飲んで、またベルが口を開く。

首を傾げて聞き返すアイズは少しだけアミッドが羨ましくなった。

 

「また倒れたら嫌ですし……休暇なのに働かれると、治療院の人達も休みづらいって言ってたので」

 

「………はぁ、反省しています」

 

「私も、遊びに行ってもいい?」

 

「アストレア様がお許しになれば……いいんじゃないですか? アーディさんも泊まりに来るときあるし、大丈夫じゃないですか?」

 

「ベルは私が来たら、いや?」

 

「嫌じゃないですよ?」

 

「………わかった、アストレア様に聞いてみるね」

 

「え、あ、はい?」

 

 

太陽が傾き、夕方へ差し掛かる。

茜色が都市を染めていく頃、カフェテラスを後にする。

 

「では解散しますか」

 

「そうですね」

 

「うん、また」

 

そう言ってアイズは『黄昏の館』へ。

アミッドとベルは『星屑の庭』へ。

振り返ったアイズは、2人が一緒に歩いていく後ろ姿からアミッドが休暇中なのだということを悟り、ちょっとだけ羨ましく感じた。別に手を繋いだことがないとか、滅多に会わないわけではないが、こう、3人のうち自分だけが知らない何かがあると思うとモヤモヤとしたものが湧いてくるのだ。

 

「帰ってリヴェリアに相談しよう」

 

 

×   ×   ×

 

 

「ダメだ」

 

「( ゚д゚)!?」

 

 

『黄昏の館』へ帰還したアイズは、真っ直ぐリヴェリアの部屋へ行きかくかくしかじか、『星屑の庭』へ泊まりたい旨を伝えた。が、即答で却下された。

 

「理由はちゃんとある。まず、嫁入り前の生娘が異性(ベル)の元へ泊まるということ。これを許せるわけがないだろう」

 

「ど、どうして!? ベルは、その、良い子だよ?」

 

「知っている。私としても将来お前とくっついてくれれば……いや、今はそういう話ではないな。同性の友人ならまだわかる。だがやはり、不純異性交遊など許せるはずがないだろう……嫁の作法も知らんお前を正義の派閥のもとへ行かせて恥をかかせるわけにもいかん」

 

「ふ、ふじゅんいせい……?」

 

なんだこのエルフ。

急に難しい言葉使いだした。

困惑に目を泳がせるアイズを気にせず、リヴェリアは続ける。

やれ、男女の付き合いをするのは早すぎる。

やれ、契りを交わしたわけでもないのに男女が手を繋ぐのはどうなんだ?

やれ、間違いがあったらどうするつもりだ。

やれ、そういった場合、責任を取らされるのは男であるあの子なんだぞ。

 

「~~~~~~~っ!!」

 

アイズはリヴェリアが言う堅苦しい言葉の羅列に地団駄。

なんだこの妖精、面倒くさい!!

 

「アリシアもリヴェリアも……あの子と寝てたくせに……!」

 

「待てアリシアだと? 何の話だ? 私は座学中に眠ってしまったあの子にベッドを貸し与えていただけで……あまりに安らかな寝顔をするものだから私もつられて眠ってしまったが……だからといってあの子に対して異性に対する感情は抱いてなどいない!」

 

「でも寝てた!」

 

「お、お前だってベルと昼寝ぐらいしていただろう!?」

 

「エロフ!!」

 

「な………っ!? どこでそんな言葉を覚えてきた!?」

 

親子喧嘩もかくやといえる光景ができあがる。

アイズに言われて顔を赤くさせるリヴェリアが「違う」「如何わしい思いなどない!」と弁明するがアイズは聞く耳持たずだ。

 

「コ、コホン。他にも理由がある。……アイズ、お前も派閥の幹部になる人間だ。そんな人間を他派閥の拠点においそれと泊めさせてやれるはずがないだろう?」

 

「……どうして?」

 

「簡単な話、情報漏洩の防止だ。言っておくが、アミッドが許されて私が許されないは通用しない。何せ【ディアンケヒト・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】では活動方針が違うからな。無論、【ディアンケヒト・ファミリア】だから許されるというわけではないだろうが……まあ、そこは私達の知るところではない。他派閥同士のやりとりがあったのだろう。私達の派閥は『探索系』であり【アストレア・ファミリア】と同じだ。当然、派閥にはその派閥に所属する者達が積み上げてきた『情報』がある。ステイタスにせよ、ダンジョンの情報にせよ。それはその派閥が所有する武器であり財産だ。おいそれと他人に見せて漏れでもすれば、余計な争いの火種になりかねん」

 

「?」

 

「例えば、アイズお前のステイタスだ。私達の派閥では写しを確認すれば処分しているが……これを処分し忘れて、他派閥の者が偶然、見てしまったとする。そうなるとアイズ・ヴァレンシュタインの背に刻まれている『恩恵』に存在するスキルや魔法が丸裸。その中には他者に知られていい気分ではない情報もあるだろう。アイズ、お前はそれを気にしないでいられるか?」

 

「………いや、かな」

 

「ベルにだって知られたくないものもあるだろう?」

 

「……うん」

 

アイズの中にある黒い炎。

それだけは、ベルにだって知られたくはないしいくら幼馴染だって言えていないことはある。そのことを突かれればアイズも頷くしかない。

 

「当然、私達もアイズの知られたくないことが外部に漏れれば、その原因を追究し知った者、広めた者へ手を下さなくてはならないかもしれん。穏便に済ませられるならそれに越したことはないが、ロキはそうしないだろう」

 

「…………」

 

すっかり落ち込んで膝を抱えるアイズにリヴェリアは苦笑を浮かべる。強くなること以外に興味を示してくれるようになったのは喜ばしい変化だが、まだまだ小娘で嫁入り前。大切に育ててきたことに違いはないのだ。間違いが起きてもらっては困る。操を捧げたりなんかするのはもう少し経ってからだ。というエルフの価値観丸出しなリヴェリアはアイズのもとに歩み寄ってアイズを優しく包み込んだ。

 

「別に会えないわけではない。どこか遊びに出かけたくなれば誘えばいい。そうだろう?」

 

「………うん」

 

アイズはここで「アーディさんはいいの?」なんて子供じみたことを言っても意味がないことを理解している。【ガネーシャ・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】は都市の秩序維持に貢献している派閥だ。【ロキ・ファミリア】とは違う。だからそれを出してもきっと「OK」は出ないのだ。

 

「あ……じゃあ」

 

「?」

 

「ベル達と宿屋に泊ればいいんだ」

 

「ちょっと待て」

 

 

この後もアイズはリヴェリアからありがたいお説教を喰らうのだった。

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