新・兎は星乙女と共に   作:二ベル

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栄光血統Ⅴ

 理不尽とは世の常である。

うまくいくことなど人生において少数であり、大半は失敗や妥協だろう。特に理由のない暴力だとか、英雄が成し遂げた偉業より発生した報酬を小悪党がちょろまかしたりなんてこともあるだろう。

 

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

「「「ぎゃぁあああああああああッッ!?」」」

 

 

つまるところ。

生きている内は、決して油断してはいけないということである。もしかしたら今日、背後から視認不可の魔法でぶっ飛ばされることだってあるかもしれないのだから。

 

 

「ザルド、腹を空かせているかもしれん。何か作れ」

 

「…………お前、なんで砲撃した?」

 

瓦礫の中から…いや、有象無象の悪達が折り重なった山の中からザルドが痛む頭を振るようにしながら出てきて言う。アルフィアは表情1つ変えずに答える。

 

「今日はいい天気だから」

 

「だから殺す、みたいに言うな! 今、オラリオは大抗争中なんだぞ! わかっているのか!? 皆真面目に人殺し(シリアス)してるんだ! どうしてお前だけ理不尽(コメディ)を提供している!? 頼んでいないぞ!?」

 

「安心しろ、大安売りだ」

 

「いらんわ! というかどうやってここに入ってきた!?」

 

「入れろ、と言ったら快く入れてくれた」

 

「……可哀想に」

 

「何か言ったか?」

 

「いや、何でもない」

 

ザルドは想像する。

アルフィアは決して「ねえ、おにいちゃん入れて♡」とか言ってなくて「入れろ(圧」で門番だとかを威圧して黙らせて通させたのだと。罠? 意味ない意味ない、だってLv.7だもの。ほら、母は強しって言うし。最強(さいつよ)マザーには意味がないのさ。

 

「近々、【ロキ・ファミリア】を滅ぼす予定とかあるんだろう? シフトを見せろ」

 

「俺達は別にシフト制で戦っちゃいないんだよ! もし仮に組んでいる奴がいるとすりゃあ、それは【殺帝(アラクニア)】だ!」

 

「誰だそれは、知らん」

 

「お前は興味のない相手は国王だろうが知らんだろうが……そういえば何故、【ロキ・ファミリア】の名前が出る?」

 

「…………ベルが、な」

 

右手で左腕を掴み足元を見つめるアルフィアはどこか悲し気に見える。ザルドは察した。なるほど、面倒事か……と。わざわざアルフィアが敵本拠地にまで俺を呼び出しにきたとはそれほどのことなのだと。奴等が外道に落ちるとは思えないが。

 

「もう2日経つ」

 

「お前、何をしていた?」

 

「本拠の周辺と世話になっている治療院を守ってやっていた。1時間で帰ると約束していたが、どういう訳か邪魔が入った。あの子への詫びにと買った品を……あの卑しい年増は奪おうとした。結果、本拠に帰った時にはあの子の姿はなかった」

 

「お前の行く手を阻める者がこの世にいたのか……」

 

「…………」

 

「わかった、わかったから無言に睨むのをやめろ。で、お前が腹を空かせているから、作れと?」

 

「私ではない、ベルだ。きっと碌なものを食べていないに違いない。恩恵がある以上、1日2日食べずとも耐えられるだろうが……」

 

「さすがに食わせるだろう」

 

「仮にそうだとして、奴らの料理の方が上手いなどと思われるのは癪だ。だから作れ」

 

「…………」

 

半ば呆れるザルドなど知ったことではないとアルフィアは拳を胸の高さで握りしめて、言う。女神の教えを。

 

「ヘラも言っていた、まずは胃を掴むところからだと……そこから、全てが始まるのだと」

 

「それは俺がやらなくてはいけないことか!? 不思議だな、お前が言うと物理的な話に聞こえてくる!!」

 

「私は料理などしない。作らせてやるからありがたく思え。歯ごたえのない冒険者共のせいで暇だろう?」

 

「…………」

 

ザルドはもう売り切れている溜息を吐き出した。

この女王様は今のオラリオの情勢などどうでもいいらしい。別にアルフィアは料理ができないわけではない。しないだけだ。母の味とやらを教えてやればいいだろうに…と思わいでもないが、この女の性格じゃ期待できそうにない。ガシガシと頭を掻いてザルドは拠点を後にすることにした。

 

「俺も迎えに行けばいいのか?」

 

「いらん。私1人で事足りる」

 

「なら、どこで飯を作れと?」

 

「決まっている」

 

「………?」

 

星屑の庭(ファミリアのホーム)だ」

 

「葬式になりそうだな」

 

 

ザルドは【アストレア・ファミリア】の小娘達が可哀想に思えた。玄関開けたら()がいるとかそっ閉じレベルだし味のない食事になってしまいそうだと、まさに数時間後彼女達が体験するだろうことを溜息をつきながら想像したのだった。

 

 

 

 

×   ×   ×

星屑の庭。

 

 

「…………」

 

「…………っ」

 

 

食卓。

席に座り、テーブルを見つめる少女達。

金髪の妖精は家出につき不在。

それが少し寂しくて、心配。

光さえ失った少女達はいつもの姦しい会話すらせず、それこそ自分達の首を斬り落とす刃が落ちるのを待つ罪人の如く静かだ。

 

 

「…………」

 

コトッとスープを揺らして丸皿が置かれる。

ちらり、と少女達は料理人(シェフ)の顔を見た。これが一流のレストランとかならば少女達は「わぁ、おしゃれぇ」とか言っていたのかもしれないが残念ながらそれは叶わない。何故なら、そこにいるのは現在敵対している相手である【暴食】のザルドであり、Lv.7の覇者。少女達が敵うわけのない相手だからだ。

 

「……っ」

 

ライラは、喉を鳴らした。

くそ、めっちゃうまそう……そんな感想だ。

視覚からでもこの料理が上手い物だとわかる。

女子より女子力高いかもしれないまである。

だが口にするわけにはいかない。

というか、動きたくない。

 

「………ね、ねぇ、【暴食】!」

 

「アリーゼちゃんダメ、動かないで! 殺されるわ!」

 

「1秒でも長生きしたいのならば、機を窺え! きっと、チャンスはある!」

 

「で、でも……ッ!」

 

意を決して立ち上がり声を上げるのはアリーゼで、隣にいたマリューが抱き着く形でそれを止める。それに続くように輝夜がアリーゼを座らせようとする。ことの経緯はこうだ。

 

 

「ただいまぁ」

 

と帰還したアリーゼ達は本拠の玄関を開ける。鍵がかかっていなかったことから、ひょっとしたらベルが先に帰ってきているのかもしれない。自分達よりも派閥規模の大きい【ロキ・ファミリア】が預かってくれるんなら安全面においても安心できる。なんで勝手に出て行ったのかとか問いただしたいことはあるが、聞いた話では無事そうだし、アルフィアも直々に一筆したためたらしいし問題ないだろう。今日もアルフィアが迎えにいくと言っていたし、ひょっとすれば今、本拠の中で私達の帰りを待ってくれているのかもしれないと誰もがそう思っていた。だが、扉を開けてすぐにアリーゼは何も見なかったように扉を閉めた。そして目元を擦った。民衆には罵倒と共に石を投げられ、元末っ子のエルフは家出をした。碌な休息もなしに働いて帰ってきたのだ、疲れの余り幻覚を見てしまったのかもしれない。

 

「どうかした、アリーゼ?」

 

リャーナが問う。

アリーゼが唸りながら1歩2歩後退して、本拠の姿を確認する。

 

「うーん……疲れているのかしら」

 

「あれ、なんかいい匂いがする」

 

「あ、まってアスタ」

 

本拠の中から食欲をくすぐってくる臭いが鼻孔に入ってくる。

アスタは扉を開け、そして閉めた。

そして仲間達に振り返ったアスタを見た仲間達は口々に「どうしたの、鳩が【福音(ゴスペル)】されたみたいな顔して」と言った。

 

「なんかこの展開前にもあったなあ」

 

「割と直近でね」

 

「前話でやったわよきっと」

 

「メタなこと言わないでマリュー」

 

「あ、開けるわよ皆」

 

アリーゼが意を決して再び扉を開けると、やっぱりいた。

ベルではない男だ。

顔に傷のある大男。

【暴食】のザルドが、真っ白かつヒラヒラのついたエプロンをつけて料理をしていてそれを出来上がったものから卓に並べている最中だった。そしてアリーゼ達に気付いていたのか、彼女達の方を見て言った。

 

「さっさと入れ、そして座れ。食事の時間だ、成長期共」

 

「「「「………おわった」」」」

 

 

そして現在。

ベルはまだ帰ってきていない。

本当ならば癒し(ベル)が帰ってきてくれたことにお姉さん達はきゃいきゃいしていたはずだ。が、そこに漂う空気は最早葬式も同然のお通夜ムード。

 

「あのエプロン、私のよ……あんまりよ……最後に見る男性の姿が私のエプロンをつけた敵だなんて」

 

「元気出せ、マリュー……ここを生き抜けたら新しいのを買えばいいって」

 

「私達も散々、場数を踏んできたと思ったけどよ……帰ったら敵が待ってるとかどんな修羅場だよ。予告くれよ」

 

ひそひそと俯いて口にする少女達。

ザルドの耳には当然聞こえていた。何せLv.7だ。聴覚も常人の域を超えている。だが、「そう思うよな、俺もだ」と口にすることはすまい。心の中で相槌をうちながら少女達に同情の眼差しだけを送った。

 

「ぼ、ぼぼ、【暴食】っ!!」

 

「?」

 

勢いよく立ち上がり、椅子が倒れる音を響かせて、アリーゼが顔に汗を滴らせながら声を大にして言う。瞳は潤んでいるが、まるで覚悟を決めたかのような顔をしていた。これからどう足掻いても生きては帰れない死地に赴くときの、そんな顔だ。ザルドが振り向きアリーゼの目を真っ直ぐ見返しているとアリーゼは己の身を抱きしめるようにしながら、言った。

 

「辱めるのは私だけにして頂戴!」

 

「――――何?」

 

「「「「団長(アリーゼ)!?」」」」

 

「敵であるアンタに乗り込まれた時点で私達の負け! 【猛者】を倒したアンタに勝てるとはとてもじゃないけど思えない! でもお願い、アストレア様とみんなのことは見逃して上げて! 私がみんなの分まで相手するから!!」

 

「「「「団長(アリーゼ)!?」」」」

 

「ば、馬鹿、何覚悟決めてんだ!」

 

「早まるな団長! 散らせるつもりか、純潔を!? こんなところで!?」

 

「本当は嫌よ! 私はもっとこう、可愛くて、年下の子がいいし、押し倒されたりとかされてみたいけど……でも、この場を切り抜けるにはこれしか……! お願い【暴食】! みんなには幸せになって欲しいの! 私1人が犠牲になることでみんなを守れるなら………安いもんよ、私の純潔なんて!」

 

「………」

 

少女達は少なからず想像していた。

圧倒的強者である『覇者』の1人、ザルドにこの本拠に乗り込まれている時点で自分達は敗北しているのだと。この状況で本拠を破壊してでも勝利するそんな希望的観測など不可能。こうして今まだ生きているのが不思議なくらいだ。目の前にいる男ならばその気になれば小娘の命なんて瞬殺することは容易いことであり、片腕だけで押さえつけて強引に辱めるなんてそれこそ簡単な筈だ。それくらいの力量差はある。だがそれを阻止せんと団長であるアリーゼは覚悟を決めたのだ。今にも泣きそうになりながら、【暴食】のザルドに辱められるのは自分だけでいい。代わりに女神を含め【ファミリア】は見逃してほしいと。

 

「でも、その、流石に身を清める時間は欲しいわ! 臭いだとか汚いだとか言われたくないし!! あ、あと、初めては痛いって聞くし……貴方に人の心が残っているなら、優しくしてほしいわ!」

 

目をぐるぐる回しながらアリーゼは早口に言う。

ザルドは深い溜息を吐き、頭痛を覚えて右手で顔を覆った。ほれ見ろ、今のオラリオの状況を考えれば俺が【アストレア・ファミリア】の本拠……それも女の花園にいること事態、おかしいのだと。そんなザルドの仕草をアリーゼは戦慄に染まりながら誤解した。

 

右腕並み(そんな)に太くて大きいの!? む、無理無理無理、裂けちゃうわ!? え、エリクサーあったかしら!?」

 

「団長、待て、早まるな! 貴方の覚悟はわかった! ならばやはりここは私が贄になるべきだ! 私ならばワンチャンある!」

 

「ダメよ輝夜、あんたはベルが良いって言ってたじゃない! 気に入ってるじゃない、あの子のこと! 大切にしなさい、その最後の牙城を!」

 

「嫌よアリーゼ、私、覚悟を決めた団長の背中が、まさか純潔を散らせる覚悟だったなんて。そんな背中、見たくなかった……!」

 

「仕方ないのイスカ……仕方、ないのよ……じゃなきゃ、リオンとアルフィア、アストレア様を除いた全員が【暴食】に……た、たたた、種付けされちゃ……ひっく……ぐすっ」

 

もう俺帰りたい。

いや帰る家なんだけど。

ザルドは少女達の悲痛な叫びと嗚咽に、むしろ俺が泣きたいよと思った。勝手に俺のサイズを想像するなとか言いたいことはあるが、まるで少女達に口を挟む余裕はない。アリーゼはそれほどまでに早口で覚悟を決めていたからだ。

 

「ど、どうして………」

 

「?」

 

何も言わないザルドにアリーゼはもはや涙をこらえきれずに、恐怖に顔を染めながら口を開く。どうして何も言ってくれないの、と。辱めるにしろせめて何か言って欲しいと。みんなには手を出さないと約束してほしいのだと。ザルドは溜息をまた吐いて、グラスに水を注ぐと一気にそれを飲み干してからアリーゼへと振り返ると一拍置いて言った。

 

 

「俺にも選ぶ権利はあるよな」

 

それはザルドの正直な気持ちである。

年齢差的にもアルフィアとザルドの関係を無理矢理に表現するのなら叔父と姪みたいなものであるからして、ではこの目の前にいる少女達は? という話だ。自分に子供がいれば彼女達とそう変わらない年齢ともいえるほどの差であるからして、ゼウスや仲間達であれば喜んで飛びついていたかもしれないがザルドとしては別段、そそらない。アリーゼ達の容姿が悪いというわけではない。美少女であることは間違いなく、年齢差から目を瞑れば、アリよりのアリ。だが、覚悟を決めたアリーゼの容姿はザルドてきにはナシよりだった。どうしてかと言えば―――。

 

「お前のその乏しい胸部装甲では、無理だ」

 

そう、これにつきる。

アリーゼの胸はそこまで大きくなかった。

将来的には大きくなる可能性はあるのかもしれないが、現時点ではそこまでである。大きくなって出直せとでも言うかのようなその物言いは、アリーゼにはかなり強力な一言二言だったようで。

 

「ぐはっ!?」

 

「「「「だ、団長ぅぅぅぅぅ(ア、アリーゼェェェェ)!?」」」」」

 

アリーゼは血を吐いて倒れた。

少女達の悲鳴が轟く。

 

「くそ、アリーゼがやられた!」

 

「Lv.7になると直接触れなくても……これがクソチート!」

 

「チクショー……やっぱり胸かよ、男ってのは胸しか興味がねえのか!」

 

「女の覚悟を……こうも踏み躙るのか……!」

 

「許せねえ、許せねえよ……!」

 

「安くないのよ、乙女の純潔は……!!」

 

 

×   ×   ×

一方、黄昏の館。

 

 

1人の魔女が気配もなく現れた。

静かに佇むあまり、門番でさえ気づくのが遅れた。

大慌てで団長、副団長を呼びに行けば主神のロキもそろってぞろぞろと姿を見せる。

 

「やあ、【静寂】……元気そうだね」

 

「それは病人(わたし)に対する皮肉か?」

 

「いや……はは」

 

「その、なんだ……茶でもどうだ?」

 

「いらん。卑しい貴様の茶など何が入っているかわかったものではない」

 

「い、卑しい!?」

 

「貴様自身を囮に使ってまで、私からあの子を奪うか……エルフはもっぱら子を成しにくい種族と聞くが、このような手段を取るとは思いもよらなかった。褒めてやろう、私を出し抜いたことに関してはな」

 

「な、何を言っているんだお前は!?」

 

「ほら、2日時間をくれてやったんだ……さっさと出せ」

 

くいくいっと手を動かすアルフィア。

嫌な汗が頬を伝っていくリヴェリア。

にこやかな笑みが凍り付いて動かないフィン。

会話が成り立っているようで成り立っていない気しかせず、ロキが「いや今出せる金……あるか?」と圧力だけならば身代金を要求されている様ですらある。無論、要求しているのは子を連れ去られたと思っている被害者たるアルフィアの方であり「逆やろ」とツッコミを入れる所ではあるが。

 

「待て、アルフィア……1つ、聞かせろ」

 

「……」

 

「お前は、『敵』か? それとも……」

 

「『味方』なわけがないだろう? お前達とどうして仲良しこよしで手など繋げる? 『因縁』というのはそうも簡単になかったことにできるのか?」

 

「……そうか、そうだな」

 

重々しい空気が漂う。

沈黙が長く、数分が数時間かのように感じられた。

そこへ、真っ白な髪の少年が義母の姿を見つけて駆けてくる。アルフィアがやってきたときにリヴェリアがベルを返してやる準備をするように伝えていたのだ。

 

「おかあさん!」

 

とととっ、と駆けてアルフィアを正面から抱き着いたベルに本当に親子なのだとフィン達は目を丸くする。そしてリヴェリアはどこか女として負けたような気さえした。

 

「お前の………子、なのか……?」

 

「? それが、どうした」

 

「!?」

 

胸より少し下の位置に顔を埋めるベルの頭にアルフィアは手を乗せて少し安堵の表情を浮かばせる。汚れてはいないし、怪我もなさそうだ。メーテリア、ベルは無事だったぞ。

 

「帰るぞ」

 

「あ、うんっ」

 

でもちょっと待ってねと言ってベルがアルフィアから離れてトコトコととリヴェリアを通り過ぎ、アイズとアリシアの前で止まる。

 

「あれ、あの人……どこかで……うっ、頭が」

 

頭痛が走ったのか頭を抱えるアイズ。

 

「ベル、まだオラリオは平和ではありませんから勝手に出歩いてはいけませんよ?」

 

「はいっ、アリシアさんばいばいっ」

 

ひしっ、と躊躇いなくエルフに抱き着くベル。

恥ずかしがってそっけない態度をとっちゃう現在家出中のポンコツ妖精とは違うのだアリシア・フォレストライトは。もぞもぞ、と胸元から見上げるベルはにこりと笑みを浮かべた瞬間、アリシアは何か強力な魔法でぶち抜かれたかのような衝撃を覚えた。咄嗟にベルの背中に腕を回して受け止めたが、今は表情を変えないように努めるので精いっぱい。なにこの兎、つおい。そう思うアリシアと仲間達である。ベルが離れて、アキ達に手を振って再びアルフィアのもとまで行くと2人は手を繋いで黄昏の館を離れていく。

 

「ふぅ……なんとか、嵐は過ぎてくれたかな?」

 

「なんで闇派閥と戦っとんのにこんな疲れるんやろ」

 

「ああ、まったくだ……しかしあのアルフィアに子がいたとは……あの手紙の内容も、何ともないようでよかっ―――ふぐっ!?」

 

「リ、リヴェリア!?」

 

フィン、ロキと来てリヴェリアが喋る。

しかし言い終わる前に彼女は何かに額を撃ち抜かれたかのように仰け反って倒れた。ご丁寧に意識まで刈り取られている。な、何ごとか!? とガレス達がリヴェリアの名を呼ぶが反応はない。

 

「ア、アリシア……大丈夫?」

 

名残惜しそうに離れていくベルへ手を伸ばしたまま固まるアリシア。たった2日ではあるが、随分と懐かれ、そしてアリシアもベルの人となりを気に入ったのかアイズが余計なことをするものだから世話をしたが、心を許していた。というか血の気の多いアイズと違って実に面倒見甲斐があったのだ。最後にハグをするとはさすがに思わなかったが、それほどまでに懐かれていたのだろう。良いことよね、なんて思っていたが流石に動かないアリシアに心配の念を浮かべる。

 

「アキ………年下って、いいでs―――ぎゅふっ!?」

 

「アリシアぁ!?」

 

「ふぎゅっ!?」

 

「ア、アイズさぁん!?」

 

断末魔の後にアキとラウルの悲鳴が鳴る。

2人もまたリヴェリアと同じように額から煙を上げて倒れたのだ。なんだ、何が起きたんだ。そう思う一同。何かがぶち当たったように思えたが、それらしいものは見当たらない。しかし、ぶち当たった額は煙を上げて赤くなっている。

 

「い、いったい何が!?」

 

「………なあフィン、あれ」

 

「どうしたんだい、ロ……キ……」

 

ロキが指を指す。

指す方向にはアルフィアとベルがいた。【ロキ・ファミリア】に背を向け手を繋いで歩いている。だが、右足だけは何かこう、後ろ蹴りでもしたかのように動きが遅かった。

 

「ま、まさか……!?」

 

フィンの小人族の秀でた視覚が彼女の足元に転がる土塊を見つける。小石程度のサイズだ。アルフィアはそれを振り返りもせずに狙って蹴り飛ばしたのだ。彼女の履いているブーツ、そのヒールで。土塊は彼女達の額にぶち当たっただけで砕け散り、証拠を残さない。何かがぶつかったらしいという結果だけが残る。

 

「………完全犯罪や」

 

「やめてくれロキ、碌でもないし条件を満たしていないから」

 

 

まさか自分の背後でエルフが2人、幼女が1人倒されたとは知らないベルはアルフィアの顔色が悪くないようでニコニコとしていた。エルフのお姉さんがすごく優しかったんです、とかアイズって女の子とお友達になったよ。でもどうしてかアイズさんが「お風呂に入れてあげるね」って言って脱がして来たりしたんだよ、とかそんな話をしている内にターゲットが増えて倒されてしまったとは露にも知らない。

 

「何故、勝手に外に出た? 出るなと言ったはずだが」

 

「……だってお義母さんが帰ってこないから、倒れてるんじゃないかって」

 

「……帰ろうとしていたんだ。だが、邪魔が入った」

 

「お義母さんの行く手を阻める者がいるんですか?」

 

「………」

 

ザルドと同じことを言ったベルにコツンと拳骨が落ちる。しかし痛みは全然ない。苦笑を浮かべたアルフィアはすぐにその手で頭を撫でてやる。

 

「あんまり心配させてくれるな」

 

「うん……」

 

 

2人はやがて路地をいくつも曲がり、星屑の庭に辿り着く。玄関を開ければ室内は静寂に包まれていて、けれどザルドの姿が確かにあった。

 

「帰ったか」

 

「ザルドおじさん!? わぁい!!」

 

瞳をキラキラさせて言うベルに、お姉さん達は色々叫びたい気持ちに駆られた。満場一致で「わぁいじゃねーよ!!」である。この日の夕食をベルはニコニコとした笑みを浮かべて食べていたが、少女達は緊張のあまり味がしなかったと後に女神に報告する。家出をしていたエルフは言った。

 

 

「本拠に【暴食】……? ふふ、何を馬鹿な……寝言は寝て言うべきだ」

 

と。

エルフは剥かれた。




アルフィア→リヴェリア=「覚悟しろと言ったはずだ。死刑」
アルフィア→アリシア=「抱き合うほどに懐いていて悪い気はしないみたいな顔しているのが気に入らない。死刑」
アルフィア→アイズ=「私のことをオバサンとか言いかけた小娘か、死刑」
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