新・兎は星乙女と共に   作:二ベル

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ヘイズさんってピンク髪ツインテールだったんか


栄光血統Ⅵ

大抗争とやらが終わり、ほんの少し肌寒さを感じる季節がやってきた。都市が一応は平和を取り戻したことでベルにも外出許可が下りたが、復興を始めとした後始末に奔走するアリーゼ達と一緒にいられることはまず難しく、休暇だと聞けば遊んでもらおうと思っても彼女達はアルフィアに師事を頼んでしまうものだから義母との時間もめっきり減った。というかアルフィアが「いいだろう」と渋々ではあったが首を縦に振ったのが不思議だ。お姉さん達もアルフィアも構ってくれないことにベルは結局、行く当てもなく本拠の団欒室にある長椅子(ソファ)の上で膝を抱えていた。

 

「ベル、一緒に出掛けましょうか」

 

そんなベルを見かねて声をかけてくれたのがお姉さん女神こと女神アストレアだ。アリーゼ達も仕方ないわねなんて苦笑を浮かべて、今日もボロボロのけちゃんけちょんにされて帰ってくるんだろうなと思いつつ、ここは1つ保護者の1人としてベルの相手をしようと思ったのだ。

 

「どこに行くんですか?」

 

「うーん……孤児院のお手伝いを少し、ね? ベルもずっと本拠に引きこもっていても仕方ないでしょう?」

 

手を繋いで道を歩く。

行く当てを聞いては周囲に残る瓦礫の山だとかを見て『お手伝い』とやらがこういったものを片付けることなのだろうと半ば予想するベル。アストレアとしては孤児院に行けば歳の近い友人でも得られるはずだ、と思ったがために連れ出したのだ。

 

 

「わぁ、アストレア様だぁ~!」

 

「女神様、今日も綺麗!」

 

「遊んで遊んでー!」

 

 

しかし、現実はいつだって非情であり思うようにいくことの方が少ない。孤児院に到着すれば麗しの女神様が現れたと子供達が駆けよってきて女神に抱き着くわ、腕にむぎゅっとしがみつくわ、構ってほしいとばかりに引っ張るわ……ベルになど目もくれず「それよりも女神様!」とばかりな子供達に苦笑を浮かべ「あら? あらあら」と幼子たちに囲まれた女神は嬉しいけど思ってたのと違うといった反応で、ベルは早々に置いてけぼり。

 

「………アストレア様の浮気者っ」

 

頬を膨らませ、深紅の瞳を潤ませて、完全に不貞腐れたベルはわちゃわちゃする子供達に取り囲まれた女神に背を向け、トボトボと孤児院を後にする。義母をお姉さん達にとられたことといい女神まで取られたことといい、7歳にして『嫉妬』に目覚めたベルである。アストレアがベルがいなくなったことに気付いた時にはもう遅く「べ、ベルぅ!?」という悲鳴にも近い女神の声が響くことになった。

 

「おじさんもいないし……お義母さんはアリーゼさん達にとられるし……僕、ひょっとしていらない子?」

 

小さな手をぎゅっと握り、ネガティブなことばかり考えて歩くベルはやがて中央広場(セントラルパーク) に辿り着く。オラリオに来てからお世話になっている治療院に行けば、お人形さんのように綺麗な女の子とお話できるかもしれないが彼女は彼女で忙しいし、アルフィアの身体を診てもらっている恩もあるし邪魔をしたくはない。

 

「リヴェリアさんは輝夜さんと同じ『ふくだんちょう』っていうやつだから忙しいのかな……でも僕、輝夜さんが仕事しているとこ見たことないし……働いている所よりも裸でいるところばっか見た記憶しかないよ……」

 

輝夜といえば裸で本拠内を徘徊する残念お姉さんだ。彼女の部屋の棚には官能小説なるものまで収められているし、ベルがいても気にもしない。というか起こしに来たベルを引きずり込む始末。アルフィアをして「痴女なのか?」と思うほどで、しかし本人としては自分が暮らしている拠点なのだから問題ないとか、面倒くさいとか、人類皆生まれた時は裸だ。とかいろいろ言うのだ。同じ『副団長』とやらをしているリヴェリア・リヨス・アールヴもひょっとして全裸(すっぽんぽん)であのお城みたいな建物の中を歩き回っていたりするんだろうか……そんな疑問を浮かべるベル。

 

「アリシアさんいるかな? でも……ううん……」

 

あの優しいエルフのお姉さんなら構ってくれるだろうか? と思いつつもエルフがする遊びとかしらないし、そもそもの話、年上のお姉さんとの遊び方とは何なんだろうとベルは疑問をまた浮かべた。

 

 

「わははは、ベルよ、若い女子(おなご)はよいぞぉ~! チャリンチャリンでピッカピカの金貨を渡せばニコニコ笑顔でお相手してくれおるからのぉ~! こう、谷間に差し込むのがポイントじゃ!! すると女子(おなご)達は微笑みながら踊ってくれてな、ゆっさゆっさのたゆんたゆんよ! なぁ、ザルド!!」

 

「………後ろにいる女にも同じことを言ってみろ」

 

「ん? 何を言って……………ひぇっ」

 

とか祖父が言ってたような気がするがやっぱり、どういう意味かよくわからない。その後ゼウスは家だった物とどこかへ飛んで行ったし、ベルの記憶はそこで途切れているし……というか、そもそもの話、遊び相手がいなかったベルからして遊ぶとは何ぞやレベルだ。困ったなあ、と歩き疲れてベンチに腰を下ろす。屋台で『じゃが丸君』を買おうにも財布など持ち合わせてはいない。1人で本拠に帰るのもなんだかなあという感じだし、女神様のもとに戻ろうかなと思うもなんだかむかむかしてくる。

 

「アストレア様は僕の女神様なのに……お義母さんも、僕のお義母さんなのに……」

 

悶々としながらブツブツ。

アルフィアもまさか自分の甥っ子(むすこ)が確かに【ヘラ】の血筋よろしく嫉妬深さを受け継いでいただなんて知りもしないだろう。ベンチの上で膝を抱え、その膝に顔を埋めて不貞腐れる子兎を道行く人々は「なんだあれ」「あんなのいたっけ」と珍しそうに目にしては通り過ぎていく。

 

「もしもーし」

 

当てもなくて1人で悶々としていると、少女の声が耳朶を震わせた。アリーゼ達とは違う声だ。だけど、よく通る声をしている。ベルの耳にも聞こえているが、きっと声をかけた相手は自分ではないだろうしと無視をするとまた、声がした。

 

「もしもーし」

 

さっきよりも声が近い。

でもベルは知っている。自分に手を振ってくれていると思って振ると実は後ろにいた友人に振っていたとかあると割と恥ずかしい思いをするということを。それは呼び声も同じことで、そう、ザルドが言っていた。あれはキツイと。だからベルは無視した。

 

「あ、あれ? 聞こえて……ますよね……あれれ? ここで好感度を上げておくチャンスだと思ったのに……」

 

ぶつくさ言う少女の声がベルの隣から聞こえた。というか隣に座った気配がした。そして、ベルは身体を横に倒された。下から柔らかく温かい感触を感じて驚いて顔を上げた。

 

「な、なにっ!?」

 

「ふふ、やあっと私に気付いてくれましたね兎さんっ」

 

見上げればそこには微笑みを浮かべる薄鈍色の髪の美少女がいて、どうやらベルは身体を倒された際に膝枕をされていたらしい。不貞腐れる兎に突然の美少女。ベルは困惑と警戒で表情を染めると少女は両手を顔の横にやり「安心してください」と敵意はないことを表した。

 

「まだオラリオは落ち着いてきているとはいえ、治安が決していいってわけじゃないんですよ? なのに1人で……何かありましたか?」

 

「…………女神様が『ねとられ』っていうのをされて、とられちゃったから」

 

「それは、まぁ……なんというか……」

 

薄鈍色の少女は口端をヒクつかせる。

なにせ自分よりも年下の少年の口から、『ネトラレ』なんて単語が出てきたからだ。正しい意味で使われているのか正直怪しいところではあるが、誰が吹き込んだんだ?と思わざるを得ない。というか、女神様が誰なのかわかっているのであの正義の女神を堕とせるやつがいたのかと逆に気になってしまう。

 

「ぼくがさきにすきだったのに……うぅぅ」

 

(B)(B)(S)(S)きだったのに……!? ま、まだ幼いのにもうそんなジャンルまで履修済み……!? 【アストレア・ファミリア】、なんてレベルの高い……!! コ、コホンッ、だ、だだだ、大丈夫、大丈夫です、きっと、きっと勘違いしているだけですよ! お優しい女神様だから、きっと勘違いがあったんですよ! ほら、優しくされた時とかって、あれ、この人は僕のことが好きなのかな? みたいなのがあるって聞いたことありませんか?」

 

「……………じゃあアストレア様は他の男の人とお風呂入ったり手を繋いだり、膝枕をしてあげたり……そんな下半身(美の)女神様みたいなことをするんですか? やだぁ」

 

「か、下半身女神!? な、なんて怖れ知れずな……っ!?」

 

「僕のアストレア様なのに……ぐすっ……」

 

「ああ、泣かないで……っ!?」

 

可愛い顔して意外と口悪いぞ、こいつ……!!

11歳の美少女は女神の御命令があってとはいえ、「今の内に気に入られておくのよ」なんて言われたとはいえ、ひっぱたきたい衝動に駆られた。が、勘が鋭いのか少女の顔を見てくるものだから、ぐぬぬ、と堪えて微笑を浮かべて誤魔化す。

 

 

「いい、ヘルン。 あの白兎さんを私は欲しい。けれど今はどの勢力も疲弊しているし流石に私も自重するわ。それに最凶の保護者がいるし……ね? なら別の手を打つ。 そうね、ヘルン……貴方は大抗争の時に工作員(スパイ)の洗い出しをしていたでしょう? そんな感じで『シル』になってあの子と接触なさい。所謂……『幼馴染大作戦(平和的にらぶちゅっちゅ)』よ」

 

 

なーんてフレイヤが言っていたことを思い出す少女は、はぁと溜息をつく。別に? いいんですけどね? 他ならない女神の御下知ですしおすし? アルフィアにしっかり美の女神について吹き込まれているっぽい以上、難易度が一気に跳ね上がった気がするんですよねと少女は頭を痛ませる。というかいきなり膝枕はまずかっただろうか? 男なんて女の膝に頭を乗せてやればローアングルから見える乳房だとかなんかそういった景色が見れてそれでイチコロだとか聞いた気がするんだけど、大人しくなるけど下半身は大人しくなれないとか聞いた気がするけれど、いきなりは早かっただろうか? もう少し慣らしが必要だったか? この子兎、無警戒にも1人で行動しているくせにしっかり警戒心は丸出しだ。なら単独で動くな、馬鹿タレと言いたくもなる。胸の内でそんなことをぐるぐると考えて、次に切るカードは何にするか思案していると隣からぎゅるるるっと可愛らしいお腹の鳴る音が聞こえてきた。そちらを見るとベルと目があって、ベルは恥ずかしそうに顔を赤くしながらゆっくりと顔を逸らして俯いた。ヘルン/シルは思う。何この可愛い生物……と。

 

「ふふ、お腹……空いているんですか?」

 

「………」

 

こくり、と頷くベル。

少女は喉を鳴らす。

ここは、あれだ……と。

胃袋を掴むチャンスではないか、と。

きっとこれから長い付き合いになるのだ。だからこその美神曰く『幼馴染大作戦』なのだ。胃袋を掴んでおいて、来るべき時がくれば美神が美味しく頂くのだ。ああ、これは勝ち確だ。少女は確信し唇を笑みで歪めてベルの手を握り締めた。

 

「あ、あの?」

 

「お昼食べに行きましょう! ご馳走しちゃいますっ」

 

お子ちゃまの胃袋などたかが知れている。

ならば私のお財布でこと足りる。

さあ、その小さなお口であっという間に満腹中枢を刺激されて「シルしゃんだいしゅきぃ」になってしまえ。

 

「で、でも……」

 

「私、美味しいところを知っているんですっ。それに見たところ……お財布を持ってませんよね?」

 

「うっ」

 

「行く当てもないんですよね?」

 

「あぅっ」

 

柔らかな頬を突きながら、言う。

行く当てもなければ財布も持っていないと指摘され図星なために何も言い返せないでプルプル震えて赤くなるベルに少女の中で嗜虐心がじわじわとやってくる。

 

「お姉さんがご馳走しちゃいますよ?」

 

「う……でも、知らない人について言っちゃダメだってアリーゼさんが」

 

「そ、そんな……!! わ、私がそんな怪しい女に見えますか!? どこからどう見ても行く当てもなく暇を持て余している可哀想な子に声をかける良質街娘じゃないですか!?」

 

「あうっ」

 

ドスドスと横っ腹を指で突いて反論。

ベルの小さな身体がぴくっぴくっと反応。

 

「僕、お返しなんてできないですし……」

 

「お、お返しなんてそんな……気にしないでくださいっ。でも、そうですね……それなら、お友達になってくれたら私、嬉しいなあって」

 

「………お姉さん、誰?」

 

「シルゥゥゥゥゥ!! シル・フローヴァァァァァァアアアアッッ!!」

 

「ふぎゅっ!?」

 

そういえば名乗ってなかったね!!

ごめんね!!

思わず、イラァしてしまったのでデコピンしちゃったけど仕方ないよね!!

 

「ほら、行きましょう? 私もお腹、空いてるんですからっ」

 

「うぅぅぅ……」

 

じんじんと熱を放つ額に手を当てながら、空いている手をシルに握られてベルは街中を進む。辿り着いたのは少し抗争の傷跡を残すも給仕の少女達が働く酒場であった。

 

「おや、シルじゃないか。なんだいこんな昼間にガキなんざ連れてきて」

 

「ミアお義母さん! この子に、スパゲティを食べさせてあげたいんですけど、構いませんね!?」

 

「………坊や、金はあるのかい?」

 

大柄な、それこそ肝っ玉母ちゃんという言葉が似合いそうな店主がベルを見下ろしながら言う。ベルはふるふると首を横に振って手を繋いでいるシルのことを見て、再び店主を見あげて言った。

 

「シルさんが、ご馳走してくれるって」

 

「へぇ、随分と気前がいいじゃないか……そんなガキに手をだそうだなんて、相変わらずみたいだねえ」

 

「うぐっ……い、いいじゃないですか、そんなこと……っ。ほ、ほらベルさん、こっちに座ってください」

 

椅子がベルにとっては少し高いのか飛び乗る形になるベルをしっかりサポートするのも忘れないシル。そう、彼女はデキる女なのだ。隣に座りグラスに注がれた水をぐいっと呷って一息。なんだかすごく疲れた気がするが、まあいいでしょうと胸を撫でおろす。この酒場『豊穣の女主人』は都市で一番安全な酒場と言える場所だし、女神の息がかかったところだし、ここに来れば大抵満足できる。お子ちゃまにとっては多少、量がキツイかもしれないが2人で食べれば問題ないだろうなんてシルはそんなことを考える。が、どう足掻いても10歳にもなっていないような幼子を連れまわして下心をちらつかせる街娘のことなど店主であるミアにとっては手に取るように見えた。まるで犯罪者に向けるような眼差しさえ感じられる。シルは来るとこ間違えたかなと嫌な汗を成長中の胸の膨らみから流しながら顔を逸らす。

 

「はいよ坊や、たんとお食べ!」

 

やがてドンッと音を立てて大皿と、給仕達が果実水を注いだグラスがベルの前に置かれた。果実水はサービスらしい。その量は大人からしてもちょっときつそうな量である。育ち盛りの子や荒くれ冒険者達ならばぺろりといけるかもしれないが、子供やその辺の女性ではキツそうではあった。いくら何でも多くない? とシルが汗を頬から流しながらミアのことを見るとミアは腕を組んで微笑を浮かべていた。

 

「ひっ!?」

 

「昼間っからガキを連れまわしている危ない女が迷惑かけたんだ、サービスしてやらないとねえ?」

 

「い、いやぁ、でも、さすがにこれは……」

 

「シルの奢りなんだろう?」

 

「そ、そうですけどぉ……」

 

「聞いたかい、お前達!! 今日はシルの奢りだよ!!」

 

「えっ!?」

 

「「「「ヒャッハァァァァァァァァアァアア!!!」」」」

 

「ぇえええええええええええええええっ!?」

 

 

シルは搾りつくされた、お財布の中身を。

シルはお腹をいっぱいにされた、ベルでは食べきれなかった多すぎるスパゲティによって。

 

「シルさん大丈夫ですか、お腹?」

 

「さ、摩らないでぇ……」

 

「あ、動いた」

 

「動いてないよぉ……」

 

若干ぽっこりと膨らんだ腹部を心配そうに見てくる子兎に摩られるシルは、恥辱に悶えた。なお帰還した際に詳細を聞いたフレイヤは「孕んだお腹を摩ってもらう……そういうのもいいわね」と興奮気味に言ったそうな。

 

 

 

×   ×   ×

 

 

その日の晩。

誰よりも先に帰還していたベルは女神の部屋のベッドに潜り込んで眠っていた所をアルフィアに起こされた。帰ってきたのが嬉しくて抱き着くと「仕方のない奴だ」とアルフィアは抱きしめ返して頭を撫でた。少し遅いがほぼ全員が揃ったらしく、夕食の準備が終わったから起こしに来たらしい。輝夜とリューは少し用事があってまだ帰っていない。女神のベッドでふて寝をしていると丸まった膨らみを発見した正義のお姉さん達は、「何でベルって可愛いの? あれ本当にアルフィアの子供?」と変な笑みを浮かべたいた。

 

「ベ、ベル~どうして私から離れるの? 隣に座らなくていいの?」

 

「………僕、リャーナさんの隣にしますっ」

 

「あら珍しい」

 

「何かあったのかよ、アストレア様の隣は譲らない感じだったじゃねえか」

 

いつもはアルフィアとアストレアの間に座るベルが、今日は珍しくアルフィアとリャーナの間に座っている。顔もあわせてくれないことにアストレアはおろおろ。ベルが去った後に孤児院の子供達は「あれ? 新入りは?」と流石に気にしていたが、まさか新しい眷族だとは誰も思ってはいなかったらしい。「ずるい! 僕だってアストレア様の【ファミリア】になりたい」とか言われかねないし、それは嬉しいのだけれどちょっと困るために言わなかったがとにかく無事に本拠にいて女神は安心してはいたのだ。構ってあげられなかった分、埋め合わせしてあげよう。そんなことを思っていたのにベルはぷいっと不貞腐れていた。

 

「……ベル、何かあったの? 孤児院でお友達……できなかったの?」

 

「そっか、ベル君、歳の近いお友達いないものね」

 

「トモダチハイラナイ、ニンゲンキョウドガサガルカラ」

 

「「「「誰に吹き込まれた?」」」」

 

歳の近い友人がいないことはアリーゼ達も知ってはいた。オラリオの治安がよろしくなかったから外出などさせていなかったから仕方ないとはいえ、ちょっと気にはする。自分達に甘えてくれるのも構わないが、やっぱり歳の近い友人はいるべきだと思うのだ。人形姫だとか治療院のお人形のように綺麗な少女だとか、お友達なのかな?という相手はいるが、もっといてもいいはずだと彼女達は思う。というか、多少なりとも平和になった都市内で弟分が何して過ごしているのか気になる。だというのにこの子兎、どこの神に吹き込まれたかイラァとする言葉を放つ。

 

「アストレア様が、浮気したんです……僕の目の前で」

 

「アストレア様が!?」

 

「う、浮気っ!?」

 

「め、目の前で!?」

 

「何て威力の高いネトラレ!? やめてあげてくださいベルにはまだ刺激が強すぎますっ!!」

 

「下手したらトラウマになりますよ!?」

 

「違うわよ!?」

 

「でもでも、孤児院についたら、みんなに連れていかれて……寄ってたかって……」

 

「寄ってたかって、アストレア様を!?」

 

「ハァハァ………ゴクッ」

 

「違う、違うのよ!?」

 

「ハーレムだった……僕だけ、のけ者で……僕のアストレア様なのに」

 

「逆ハー!?」

 

「アストレア様が!?」

 

「だから違うと言っているでしょう!?」

 

ぷすーっと膨れる頬のベルは可愛らしく、隣にいるリャーナのスカートをぎゅっと握りしめている。それが溜まらないのか、母性をくすぐられたのか、右手で顔を覆って俯くリャーナはぷるぷると震え、ベルの口から出るアストレアの浮気? に少女達は驚愕を漏らす。顔を赤くして涙ながらにアストレアは弁明をするが、酒も入っているせいか興奮している者までいてまるで意味がない。アルフィア、助けてっとアストレアは保護者に顔を向けるとアルフィアは静かに食事の手を止めて、淡々と言った。

 

「………浮気は有罪(ギルティ)

 

「あなたまでどうして乗っかるの!? 今日はちょっとテンション高いの!?」

 

賑やかな食事の後、アルフィアに連行される形で湯浴みに行ったベル。その後をついていったのはアストレアだ。なんとかベルの機嫌を取り戻そうとしていたようで、彼女はブツブツと「ベルもやっぱりヘラの血筋なのね……嫉妬深さと独占欲を持っていただなんて……」と呟いていた。

 

 

「ベル、それは何だ?」

 

「んー?」

 

アルフィアに背を流されながら、ベルは曇った鏡に人差し指で何かを書いていた。アストレアは親子のやり取りに微笑を浮かべて湯船に浸かりながら眺めていた。ベルは鏡に『人』というのを書いていた。

 

「この間、輝夜さんが教えてくれたんです。極東の文字だって」

 

「ほう……」

 

異国の文字を教えていたとは、あの小娘も先達としての意識はあったのか。と少し感心するアルフィアに輝夜にもお姉さん的なものがあったのねと感心するアストレア。

 

「何と読むんだ?」

 

「ひと」

 

「ほう」

 

まるで2本の棒が支え合うような形の文字。

なるほど、支え合ってこその『ひと』か……とアルフィアはそう考察した。ベルと一緒にいられる時間もあとどれほどかといったところ。教えられることは教えてやりたいが、生憎と人に物を教えるということはしたことがないアルフィアではこういったことは教えられなかっただろう。口元に薄く笑みを浮かべるアルフィアがあれやこれやと考えていると、ベルは言った。義母と女神を固まらせることを。

 

「輝夜さんが、これは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だって」

 

「………何?」

 

「………何ですって?」

 

「えっとね、輝夜さんが、大きいとそれを支えたくなる……つまり、この文字は胸の大きい女を支えている構図なわけだって言って――――かひゅっ!?」

 

輝夜の真似をして喋っていたベルにアルフィアは斜め45度からなる鋭い手刀をベルの首に喰らわせた。無言の手刀である。見てみろ、アルフィアの手刀を……記憶を刈り取る形をしているだろう……? 

 

×   ×   ×

 

 

「ギルドへの報告が随分と長引いてしまった」

 

「すっかり暗いが、復興作業ともなれば仕方あるまい」

 

 

妖精と極東美人が本拠の前に辿り着く。

復興作業や抗争が終わった後とはいえ、不安の残る情勢だ。都市内の警備だっておろそかにはできない。2人は遅い時間帯まで残っていたのだ。少し疲れた表情を浮かべて、本拠のある敷地内の芝を踏み込むと2人は足を止めた。仲間達が、待っていたのだ。

 

「輝夜、お前……悪いことは言わねえ、逃げろ」

 

「は?」

 

ライラが輝夜を見上げながら、そう言う。

いきなりなんだこいつ、と当然そう思う。

 

「何かあったのですか?」

 

「これから起こるんだ」

 

リューの疑問にネーゼが答える。

暗くてよく見えないが、尻尾を縮こまりぷるぷると震えているのが見えた。きっと顔色だってよろしくはないのだろう。

 

「輝夜、遺言、ある?」

 

「はぁ!?」

 

「お願い輝夜ちゃん、どこでもいいのとにかく、逃げて!」

 

「何て言うか、うん、逃げた方がいいわ」

 

アリーゼが言い、マリューとリャーナが続く。

皆して何なんだ、と輝夜は訝しむ。

仲間達を横切って玄関扉に手をとって振り向きながら言う。

 

「まさかこの中に、またいつぞやのように最強の眷族がいるとでも? 御冗談はおやめくださいませ。私はとっとと身を清めたい思いでいっぱいでございますわ」

 

付き合ってられん、と扉を開ける。

すると腕を組んで佇む処刑人(まじょ)がそこにいた。肝が冷えるような魔力まで感じて、輝夜は勢いよく扉を閉めた。

 

「…………」

 

「心当たり、ある?」

 

黙り、汗を滴らせる輝夜の背にアリーゼが言葉をかける。

心当たりだと? あり過ぎて見当もつかん……そんな輝夜は頭を振った。いやいや、見間違いだ。流石に、こう何度も……流石に3度目だぞこの展開。ないだろ、と美しい黒髪を揺らして扉を再び開く。

 

「………帰ったか」

 

「…………」

 

ぱたんっと再び勢いよく。

帰ったかとか言ったぞあの魔女。なんだ、怖い、すごく怖い。はは、おかしい、膝が笑っている……! 輝夜は悟る。どうやら魔女の逆鱗か尾を踏んでしまったらしいということを。あれか? いや、それもとあれか? と思考を巡らせる。本拠の中を裸でうろついたこと、ベルが部屋に来たから布団に招き入れて裸で抱き着いて寝たこと、中々ベルが寝てくれないので官能小説(おとぎばなし)を音読してやったこと、洗物に出しておけと下着を渡したこと、暇だったので極東の文字を教えてやったこと………いや、でも、バレないようにしてたし……そうこうしていると、ギィィとゆっくりと音を立てて扉が開き、コツ、コツと音を立てて処刑人(まじょ)が姿を現す。少女達は悟る。あ、終わった……と。

 

「言い残すことは?」

 

「………貴方様の息子は私のものだ、せいぜい祝福してくださいませお義母様?」

 

「そんなに……あの子が欲しいか、小娘共」

 

「「「「くれるんですかぁ!?」」」」

 

優し気に言うアルフィアに、少女達は「え、まさかの許された?」と声を揃えて言ってしまう。他派閥との婚姻は基本的にNG。主神同士が仲が良ければ許されるだろうが問題がないわけじゃないのだ。なら派閥唯一の男であるベルは、恋人いない歴=年齢の彼女達にとって女神が遣わした天使みたいなものだ。アルフィアがくれるっていうなら貰うに決まっていた。しかし、最凶の魔女様は優し気な声から一点、轟音を以て彼女達の意識を刈り取った。上げて落すというやつだった。

 

くれてやるものか、馬鹿者共(ゴスペル)

 

「「「「んぎぃいいいいいいいいっ!?」」」」

 

ベルは翌朝、庭で打ち捨てられているお姉さん達を見て悲鳴を上げた。

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