新・兎は星乙女と共に   作:二ベル

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きっちり原作にも書かれていたのに、『ツインテール』で『薄紅色』という点をすっかり忘れられていたヘイズさん。


栄光血統Ⅶ

忙しなく人が行き来する。

季節の変わり目というのもあってか、診察を待つ者は多い。清潔感を感じさせる白を基調とした建物は迷宮都市に数ある治療院の1つである。大抗争が終わっても休む暇などなく、怪我人の看病から始まって病人や体調を崩した者の診察と老若男女問わず治療系派閥に所属する治療師(ヒーラー)薬師(ハーバリスト)はあっちへ行ってはこっちに行ってと止まることを知らない。

 

 

「風邪ですね」

 

「……そうか」

 

「最近、冷えてきましたから……もうすぐ冬ですし、オラリオに来られて初めての冬ですよね?」

 

「この子は、な」

 

「まあ……精神的なものもあるでしょうけれど」

 

「…………」

 

 

ベッドの横で横たわるベルを横目に少女と魔女が間を置きながら会話をしていた。治療院の制服、そして長い銀髪と紫根(しこん)の瞳は神秘的で、どこか人形めいた美しさを彷彿とさせる。彼女もまた将来は美女を確約されていると万人が頷くことだろう。が、それは遠い未来の話だ。120C(セルチ)にも満たない低身長は幼女、いや小人族(パルゥム)と勘違いされてもおかしくない。必死に背伸びをして愛用している聖銀の長杖(ロッド)は明らかに小柄な身体とは不釣り合いで、いくら澄まし顔を浮かべても微笑ましさが勝ってしまうというのが傍から見た彼女への評価。今はまだまだ未熟な『聖女様』である。彼女の名は、アミッド・テアサナーレ。ベルよりも5歳ほど年上の12歳の『れでぃ』である。

 

「何か、ありましたか?」

 

「……………」

 

大抗争の最中は、冒険者達に『ちび』だとか『ガキ』だとか小馬鹿にされることもあったが、彼女もあと7年も経てば身長もぐーんと伸びる予定なのだ。絶対、必ず、きっと。そんなアミッドを瞼を閉じたままのアルフィアは、ベルとそう変わらない子供が腕利きの治療師とは……わからんものだな、と嘆息する。聴診器を使ったり採血をする光景などそれこそ『おままごと』のようだ。オラリオに来てから女神に言われるままに世話になってはいるが、どうも慣れない。と、もぞもぞと身体を丸くするベルの動きに気付いてアルフィアとアミッドは一度ベルへと顔を向けて、そして戻す。アミッドの瞳からは例えアルフィアだろうが覇者だろうがリヴァイアサンを倒した立役者であろうが知ったこっちゃねえといった威圧が感じられた。やがて根負けしたようにアルフィアは呟く。

 

「ベルが……盗みを働いてしまった」

 

「…………はい?」

 

「つい先日のことだ。肌寒くなって私も中々起きるのが難しくなってきた……咳き込んだ時に血を吐いていたのを、ベルに見られてしまった。それでベルは……はぁ……私が今年の冬を乗り越えられないと感じたのだろうな。【ガネーシャ・ファミリア】の保管庫に仕舞われている妖精の郷から闇派閥共が強奪した聖樹の枝をくすねてしまった。だが、その後をどうすればいいのか分からなかったのだろう。私に直接渡して来た。………これで、お義母さん元気になりますよね? そう言われて、私は手を上げてしまった」

 

「………申し訳ございません」

 

「何故お前が謝る?」

 

「アルフィア様に処方している薬に使っている聖樹の枝の在庫が少なく、そのことをベルさんに話してしまった私の落ち度です。ベルさんに聖樹の枝があればなんとかなるかもしれないと教えてしまったようなものです」

 

当然、ベルの雑な盗みなどすぐにバレる。保管庫に案内したのはまだ現場復帰しておらず、けれど暇を持て余していたアーディであり、ベルが1本とはいえくすねていたのも気づいていた。だが、ベルが盗みを働くということは何かそうしなくてはいけない理由があるはずだとあえて見て見ぬふりをして後をつけたのだ。結果、止める前にベルがアルフィアにぶっ飛ばされたのだが。セルティとリューのエルフ組からは微妙な顔をされ、アルフィアにぶっ飛ばされたのもトラウマになったのか頭を撫でようとしただけで逃げる始末。アリーゼ達は何か理由がなきゃやらないでしょとは言うものの、すっかりベルは落ち込んでしまっていた。その調子で精神的に沈んで、体調を崩すに至ったというわけだ。

 

「アリーゼさん達にお話しするべきです。いつまでも隠しておいていいことではありません」

 

「病のことは伝えている。隠し通せるとも思っ―――」

 

()()()()であることはお伝えしていませんよね? それに……そう永くないということも。 お伝えしていれば、彼女達が貴方に師事を頼むことはなかったはずです」

 

「気遣いなど癇に障るだけだ」

 

「ですが」

 

「先天性の不治の病だ、もう永くない、ベルを独りにするわけにもいかない、だからオラリオに来て【ファミリア】を見つけに来た。そう言えば小娘共はどんな顔をする? 憐憫や同情など御免だ。私は決して可哀想な生き物などと見られたくはない」

 

それはアルフィアにとって矜持であり誇りであり意地だった。生まれもっての病。それを24年間抱えて生きてきた。【ヘラ・ファミリア】唯一の生き残りであり、ザルドがいなくなったことで本当の意味で最後の1人になった。それでもここまで生きてきたのだ。ただ自分がいなくなった後のベルを思って。

 

「私には母親としての才能だけはなかった」

 

「そんなことは……っ」

 

「あるさ、現に私はベルの気持ちを分かっていながら言い分も聞かず、手を上げた。初めてだ、加減を間違えて殺してしまったかもしれないと思ったのは」

 

「………」

 

「本当の親ならどうしていたのか、私にはわからん。実母(メーテリア)もベルを置いて、私を置いて逝ってしまった……あの子なら、私以上に母親ができたはずだ。才禍の怪物などと言われておきながら、このザマだ」

 

「それでも、ベルさんにとって貴方は『おかあさん』です」

 

「らしいな……言われたよ、メーテリアなんて人知らない。僕のおかあさんはアルフィアおかあさんだけだと。知らないのは当然だ、当たり前なんだ。だが、気に入らなかった。悔しいとさえ思う」

 

泣き喚きながらベルは言ったことを思い出してアルフィアは胸に手を当てる。だから死なないで、独りにしないでとそんなことまで言われて胸がざわついた。それはいずれ来るアルフィアの死に対するベルなりの必死の抵抗であったし本音だった。今までそんなことを言われたことはなかったとアルフィアは頭を振る。

 

「私はな、もう目的は果たしたんだよ」

 

「生存を願おうとは、病に抗おうとはしないのですか?」

 

「ベルを【ファミリア】に入れた時点で……あの正義の女神に引き合わせた時点で、私の物語(たび)は終わった。今は言わば、『エピローグ』みたいなものだ」

 

アルフィアにはもう、生きようとする意志は存在しない。病に蝕まれてきたその身体は既に限界が近く、肌寒くなってきたこの頃、起きることさえ億劫になってくるほどだ。冷えるからベッドから出たくないと言って誤魔化しはするが本当はキツイのだ。なら、新しい年を迎えることも、ベルの誕生日を祝ってやることも恐らくは叶わないということをアルフィア自身が誰よりもわかっている。【アストレア・ファミリア】でアルフィアがもう永くないということを知っているのは、主神のアストレアだけだ。少女達の中ではアリーゼやマリューが違和感のようなものを感じてはいるが、真相は分からず仕舞い。ベルは何となく察していて、だから怖くて仕方がないのだ。

 

「貴方からはまるで生きようとする意志を感じられません……これでは、いくら手を尽くそうとしても効果など見込めません。せめてベルさんが大人になるまでは、と思えないのですか?」

 

「この下界をひっくり返しても私の病は治せん。スキルと化してしまっている以上、あらゆる薬を出されたところでそれはその場しのぎの延命にしかならない」

 

「ですが……!」

 

「疲れるんだよ、治りもしないのに毎度の様に薬物を飲むのは」

 

「っ!」

 

「それに……いい加減、メーテリアに会いたいんだ。 自分の命の終わりを決める権利くらい認めてくれたっていいだろう?」

 

「…………」

 

アミッドは未熟な自分に悔しさを感じて膝の上で拳を握り締める。少しでもアルフィアの負担を軽減できるようにと薬を処方しては、効果が見込めそうな新薬だって開発しようとあらゆる書物に目を通したがその薬を口にするアルフィア本人が「疲れる」と口にしているのだ。結局のところ負担にしかなっていなかったということだ。何より、彼女は死に別れた家族と会いたがっていた。限界だから、ベルにはもう新しい家族がいるから、もういいだろう? そういうことだった。

 

「申し訳、ございません」

 

「娘、お前はきっと良い治療師(ヒーラー)になる」

 

「……そのご期待に応えられるよう、努力いたします」

 

歯噛みするアミッドに苦笑を浮かべるアルフィアは肩を竦めて、そして頭を下げた。女王のような彼女が頭を下げるなんて異常事態にアミッドは目を丸くする。

 

「私が死した後、ベルのことをよろしく頼む」

 

「…………はい、承りました。ですから、その、頭を下げたりなんてしないでください」

 

頭を上げて席を立つアルフィアはベッドへ向かう。眠っているベルは身体を丸くしていて、涙の痕が残る目元が見えたから、そっと拭って抱きかかえた。眠ってはいるが熱があるようで頭は熱く、時折咳き込んでいる。治療院の出入り口までアミッドが付き添い、アルフィアに薬の入った小鞄(ポーチ)を渡し頭を深く下げる。

 

「どうか、お大事に」

 

「ああ、面倒をかける」

 

背を向け、ロングスカートを揺らして、アルフィアは去っていく。彼女の姿が見えなくなるまで、アミッドはその後ろ姿を見つめ続けた。アミッドにはアルフィアの背中が寂し気に映って見えた。

 

「【静寂】という言葉の意味は、読んで字のごとく静かで寂しい……ということですが、皮肉のつもりで神々はこのような二つ名を彼女に与えたのでしょうか……」

 

 

×   ×   ×

星屑の庭

 

 

眠っているベルをベッドに横たわらせて毛布をかけて頭を撫でる。そっと額に手を乗せて熱を感じてはアルフィアは溜息をついた。

 

「……お前は、優しい子だよ」

 

私とは全然違う、と自嘲気味に呟くアルフィア。

ベルは眠っていても感じ取ったのか額に乗せられたアルフィアの手に安心したように表情を柔らかくする。

 

「私を生かすためなら、お前は手を汚せる……『悪』になれるのか」

 

誰かに助けを求めれば、例えばエルフであるリューにでも頼れば事情を酌んで掛け合ってくれたかもしれない。だが、そういった方法をまだ幼いベルには思いつかなかった。ただただアルフィアに死んでほしくなくて行った行為は、きっと美しいのだろう。

 

「その優しさは、私以外の誰かに向けてやれ。私なんぞのために汚れてくれるな」

 

椅子に座り、小さな手を握る。

昼を周ったが食事をする気にもなれなくて、部屋に籠る。そこに扉をノックする音がして、女神が顔を覗かせる。

 

「具合はどう?」

 

「ただの風邪だそうだ……私が、追い詰めてしまっていたらしい」

 

「貴方の具合は?」

 

「………さあ、どうだかな。あまり永くはないのは確かだ」

 

「どうにも、ならないの?」

 

「……私達のような欠陥品をこの下界に産み落とした元凶がそれを言うのか?」

 

「…………」

 

振り返らずアルフィアは棘で刺すような言葉を吐き捨てる。女神から言葉は帰ってこず、背を向けていてもどんな顔をしているのかは簡単にわかる。慈悲深い女神のことだ、本当に自分が悪いかのように目を伏せているのだろう。アルフィアは溜息を吐き、頭を振って言う。

 

「ただの八つ当たりだ、忘れてくれ」

 

「…………そう」

 

「そんなことより、聖樹の枝はどうなった」

 

「アーディがちゃんと持って帰ってくれたわ。 事情も説明している。勿論、貴方の不治の病のことは伏せて、だけれど……いいの? ちゃんと伝えなくて」

 

「ああ、それが私とお前との間に結ばれた契約だからな」

 

同情も憐憫もされたくなかったアルフィアは『不治の病』であることは絶対に口外しないようにとアストレアに言っている。代わりにアリーゼ達正義の眷族達の師事や大抗争時の本拠と治療院の防衛をする……というのが契約。だからアリーゼ達はアルフィアが『持病』を持っているくらいにしか知らないのだ。

 

「気づかれるのはいいの?」

 

「それはあの娘達が辿り着いた『答え』だろう? 事実、私の病のことを知っている者はこのオラリオにいる」

 

こちらから教えはしない。

気になるなら自分達で調べろ、とでもいうかのような態度。

 

「時間が許す限り小娘達を何度も踏みつけてやっているが……まだ私に一手たりとも傷を負わせられてはいない。このままだと私の勝ち逃げだな」

 

アルフィアの言い方に、どこか期待が籠っているようだとアストレアは感じとる。アルフィアの弱点でもある『病』。それを突いてでも一手、傷を負わせてみせろというのだろう。攻略法を自分達で調べ上げて、辿り着いて欲しい……そういうことなのだ。

 

「大抗争で竜と戦ったのだろう? だが、ランクアップには至れなかった」

 

「ええ、経験値は問題ないけれど……今ひとつ、というところよ」

 

「なら、きっとあの娘達の器を昇華させるのは……私なのだろう」

 

「…………」

 

「次は、私の番だ。私が、未来の英雄達の糧になるんだ」

 

アストレアは言葉を詰まらせる。

それが意味するのはつまり、アルフィアの寿命を各段に縮めてしまうということだからだ。大抗争時、ザルドが星屑の庭でベルのために食事を作りに来てくれたという頭が痛くなる話を聞いた時はどんな顔をしたらいいかわからなかったが、今思えば、アルフィアが仮にザルドと同じ立場にあったなら、きっと、もう彼女は生きてはいないのだ。本来の彼女の命の終わりがそこであれば、今は薬も使ってなんとか伸ばしている状態と言えようか。それでアリーゼ達の相手をすれば確実に死に近付くのは当たり前だ。

 

「それでいいの?」

 

「いい、それでいい。私がいなくなった後、この子を守るのは【ファミリア】だ。弱いままでいられては話にならない。この子が欲しいなら、私から奪うくらいでなくては……困る」

 

「………そう」

 

アルフィアはきっとアストレアがどう言おうとその心が揺らぐことはないだろう。ステイタスをどれだけ更新しようが、彼女に刻まれた『恩恵』に変化がないのが何よりの証拠だ。下界の未知は、彼女を救ってはくれなかったし、彼女自身ももう見切りをつけているのだ。意地っ張りというか頑固というか…。彼女もまた冒険者だからか、自分が壁となって立ちはだかり少女達が乗り越えてくれるのを楽しみにしている。そんな気配が少し怖く感じられるほど。

 

「それが終われば、あの娘達に付き合うのもやめだ」

 

「………」

 

「残りの時間を、この子のために使う」

 

「ええ、それがいいわ」

 

「私には母親の才能はないが……せめて、素晴らしく美しい思い出だけは残しておこう。それが私がこの子にしてやれる最後のことだ」

 

口元をわずかに微笑ませてベルを撫でるアルフィア。自分で言っておいて小恥ずかしかったのだろう。アストレアも自然と笑みを浮かべてしまう。

 

「フォローはしてやってほしい」

 

「ええ」

 

「……私より、長生きさせてやってくれ」

 

「勿論よ」

 

「………あまり語ると、今夜にでも死んでしまいそうだな」

 

「じゃあ、やめておきましょう?」

 

「………そうだな」

 

「ああでもアルフィア、聞かせて?」

 

「何だ」

 

この話は終わり、と話を切ろうとしたアルフィアにアストレアは問う。

 

「貴方はベルに、何を望むの?」

 

どんな大人になってほしいのか、とそんな親が抱くような思いをアストレアは問う。アルフィアは少しだけ考えて、答えた。

 

「私は、私では得られなかった……人並みの幸せ(トゥルーエンド)を望む」

 

 

×   ×   ×

 

 

真っ暗な部屋で、もぞもぞと毛布を蠢かせてベルは起き上がる。部屋が暗いように外もまた暗く、丸1日寝ていたようで目元を擦りながらベルはアルフィアが傍にいないことに不安に思う。

 

「おかあさん?」

 

アルフィアに今まで見たことがないくらいにゴミを見るような目を向けられて、ぶっ飛ばされて、それが怖くて撫でようとされただけで逃げてしまう。でも、眠っている間、アルフィアが傍にいてくれていたような気がして安心した。

 

「………けほっ、アルフィアおかあさん、アストレア様ぁ」

 

ぼーっとする頭でベッドから転げ落ちるようにして降りて、部屋を出る。下の階、食堂の方だろうか……アリーゼ達の声が聞こえて、ベルはよろよろとそちらへ向って行った。

 

「あら、ベル君?」

 

「ん? 起きたのか、ベル」

 

「おはよう」

 

「身体はいいのですか、クラネルさん」

 

「…………んぅ」

 

マリューが毛布をかぶって近づいてくる変なのに気付いて、次にネーゼとノイン、そしてリューがベルに声をかける。アリーゼや輝夜達もいて、ぼんやりとしているベルの顔をじぃーっと見つめている。右に左に視線を巡らせてアストレアとアルフィアの姿を見つけたベルはとことこ、ふらふらと椅子に腰かけているアルフィアに抱き着いて彼女の腹に顔を埋めた。

 

「………仕方のない奴だ」

 

「マリュー、悪いのだけれど何か食べれる物を用意してもらえる? 消化にいいのを」

 

「でしたら私が粥でも作りましょう。確か市場で米を買ったのが残っていたはず」

 

「輝夜ちゃん、手伝うわ」

 

そう言ってパタパタと2人の少女が台所へと姿を消していく。ベルのもとにやってきたアリーゼがベルの脇に掴む形で抱き上げて、アルフィアの隣の席に座らせて額に手を当てた。

 

「んー………ちょっとはマシになったかしら?」

 

「季節の変わり目ですからね」

 

「温かくして寝なさいクラネルさん」

 

「あんた達エルフ組がベルに微妙な目を向けてたのも原因だと思うけど?」

 

「「うっ……だって……」」

 

「よっぽどの理由がなきゃこんないい子が悪事を働くわけないじゃない……ねえ、アルフィアママ?」

 

「誰がママだ」

 

アルフィアが何か隠していることに勘づいているアリーゼが揶揄うように言って、セルティとリューが「それはそうですが…」と呻き、ライラが肩を竦めて、他の少女達がチラチラと年少のベルの様子を心配して窺う。そうこうしている間に輝夜とマリューによって作られた粥が運ばれてくる。

 

「熱いのでお気を付けを」

 

湯気が漂う粥には卵や海苔、魚の身をほぐしたものが交ぜられている。輝夜はそれを見本するように木で造られたスプーンですくってふぅ、ふぅ、と息を吹きかけて冷ましてやりベルの口へ近づけていく。

 

「ほらほら手のかかる兎さん、あーん」

 

「……んぁー」

 

小さな口にスプーンが当たり、傾く。

ゆっくりと流れ込んでいく粥をむぐむぐと噛んで飲み込んで咳き込む。その背中をさすってグラスに注いだ水を飲ませてやる。少し、冷ましが足りていなかったらしい。輝夜は苦笑気味の顔をしてベルの背を摩った後にアルフィアに目を向ける。揶揄うような目で。

 

「では、お義母様? やってあげてくださいませ? ああでも、未来の義娘に任せて頂いても構いませんよ? 姉嫁が腕によりをかけた手料理にございますので」

 

「………一々喧しい娘だ、よこせ」

 

半ば奪うようにしてスプーンを握る。

ほんの少しだけ掬って息を吹いて冷まし、自分の口につけて大丈夫だろうと判断。ベルの口元に持って行き輝夜がそうしたようにする。

 

「ゆっくり食え」

 

「……ん」

 

「うまいか?」

 

「うん……お義母さん、もう怒ってない?」

 

「ああ………大丈夫だ」

 

その後、親子の会話というのはほとんどない。

黙々と食べて、水を飲んで、時々アストレアが代わって、けれどアルフィアに離れて欲しくなくてスカートをぎゅっと掴んでいて。そんな光景を少女達は微笑みながら見守っていた。

 

こんな光景も、じきに見れなくなる。

そのことを少女達はまだ、知らない。




幼馴染少女、出会った順。
1アイズ(初見時はアルフィアに目が行ってたのでベルに気付いていない)。
2アミッド(アストレアがアルフィアに治療院に行くように言ったため。紹介された)。
3ヘルン/シル(前話が初)。
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