新・兎は星乙女と共に   作:二ベル

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冒険者って職業的に何なんだろう。
派遣?



アルフィアは次くらいに退場。


栄光血統Ⅷ

 その日、1つの情報が雷の如く都市内を駆け巡った。

 

 

「【アストレア・ファミリア】全員ランクアップ!?」

 

「まじか!?」

 

「大抗争ん時は連中だけはそういった話はなかったが……」

 

「足りておらんかったのだろうよ、偉業としての経験値が」

 

「いやぁ、ますます見逃せない女傑達になったなあ」

 

「男連中より強くなりすぎて、貰い手がいなくなったりしてな」

 

「「「HAHAHAHAHAっ!!」」」

 

 

管理機関(ギルド)から発信された情報(ニュース)に神々を中心に都市が騒ぎ立てる。何せ誰もが憧れ慕っている慈悲深いアストレアの眷族達の階位昇華(ランクアップ)なのだから都市内の治安維持に貢献していて、大抗争では市民から石を投げられることもあった少女達のことだ、騒ぎにならない方がおかしかった。

 

「しかし、何を成し遂げたんだろうな?」

 

「さてなあ」

 

 

彼女達がどのような冒険をしたのか、それは女神と本人達のみぞ知るところ。しかし、だいたい察している者達もいて、その内の1つの派閥である【ロキ・ファミリア】の執務室では1枚の羊皮紙に目を向けていた小人族(パルゥム)のフィンが、ふぅ、と息を吐いて椅子を軋ませて背伸びをした。

 

「正義の彼女達もまた、英雄に一歩近づいたか」

 

「同胞がランクアップしたというのは、やはり喜ばしいかフィンよ」

 

「まあ、否定はしないよ。なにせ、小人族(パルゥム)かつ前衛という訳ではない【狡鼠(スライル)】と治療師(ヒーラー)という経験値を稼ぎにくい役職を請け負っている【星灯りの聖母(デミ・ウィルゴ)】の2人もランクアップしたんだ。それだけの冒険をしたということだろうね」

 

「何をしたかわかったような顔をして……まったく」

 

「何だいリヴェリア、君は嬉しくはないのかい?」

 

「他派閥とはいえ祝おうとする気持ちがないわけではない。しかし、何をしたのかなど分かり切っていると言っているんだ。わかりきっているからこそ、煮え切らん」

 

髭を扱くガレスに肩を竦めるフィン。

痛む頭を押さえるようなリヴェリアに、頭の後ろで手を組んでいつものようなニヤけた顔をするロキ。そう彼等は知っている。アリーゼ達がどのような冒険を乗り越えたのかを。

 

「まあ、それこそ僕達()()()()()()が口出しすることじゃあないよ」

 

「せやな、何よりやったやろう事自体は強さを追い求める冒険者やったらやっとることやろうしな」

 

「怪物共を倒すことだけが経験値の稼ぎ方ではないからのう……」

 

「わかっている、わかっているが……奴は病人だぞ」

 

治すことのできない不治の病。

リヴェリアにだってわかる。彼女が今年の冬を乗り越えることができるのか怪しいことくらい。そう永くないだろうに、何をやっているんだあの魔女は……ということである。

 

「リヴェリア、僕達人類には何としても成し遂げなくてはならないことがある」

 

声音を真面目なものへと変えてフィンは言う。その成し遂げなければいけないことは、フィンの野望とはまた別であり人類の悲願のこと。『三大冒険者依頼(クエスト)』の最後の1つ、隻眼の黒竜の討伐だ。

 

「残り僅かな命とはいえ、Lv.7の覇者だ。オッタルがザルドを倒しLV.7へ至ったように【アストレア・ファミリア】の彼女達もまた覇者を乗り越えて新たな高みに到達した。オラリオの戦力は増したんだ。これはいずれ来る黒竜戦において重要なことだと僕は思う」

 

勿論、他の冒険者達にも強くなってもらいたいけどねとフィンは続ける。ロキは口出しせずフィンの言葉を噛みしめて、そしてリヴェリアもわかっていることを最後まで耳に入れた。

 

「【静寂】のアルフィアはそう遠くない未来にこの世を去るだろう……じゃあ、その時、オラリオの戦力はどうなる? それは勿論、低下する。大抗争が始まる前とそう変わらないくらいにね。けれどそうはならない。そうしないためにアルフィアは自らの寿命を捧げた……そう考えるべきだ」

 

「いずれいなくなる……だからこそ、あの魔女めは大抗争では積極的に戦闘には参加しなかったわけじゃな」

 

「ああ、彼女は【アストレア・ファミリア】の本拠と【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院を防衛していたくらいだ。彼女が積極的に戦闘に参加しなかったことを各派閥や民衆が苦情を言う事もあったが、ギルドはアルフィアがオラリオの勢力として戦わなかったことを黙認した。ロイマンは知っていたからだろうね、いなくなる人物に戦わせたところで今後のオラリオのためにはならないということを」

 

アルフィアと戦うことで経験値を得るのと、遠征を繰り返し階層主や強化種といった怪物達と戦って経験値を得るのとではまるで違うのだろう。何より、都市の治安に貢献している彼女達がそう何度も遠征に繰り出せる余裕などない。ならすぐ近くにいる英雄に近い存在を相手にするほうが効果的なのだ。

 

「それに……アリーゼ・ローヴェル達は自分達でアルフィアを打倒するための攻略法を探して、見つけて、模索して、そして成し遂げたんだ。この点に関して『人間』も『怪物』も関係ない」

 

「フィン、私だってそれくらいのことは分かっている」

 

「納得いかないかい?」

 

「当然だ」

 

「断ろうと思えば、アルフィアは断れたのに? 言っておくけれど、彼女は人からの頼みを断れないような『お人好し』ではないよ」

 

「断るべきだったんだ、あいつは。あいつには息子がいるのだろう? 残り少ない命だというのなら、何故、残り僅かな時を自ら縮めるようなことをする? あの子はどんな顔をして、【紅の正花(スカーレットハーネル)】達を祝うんだ、どんな顔をして死期が迫る母親と接するんだ? もうあいつは『冒険者』以前に『母親』なんだぞ?」

 

怒りの表情を浮かばせる王族妖精(ハイエルフ)に、すっかりママが板についたななどとフィン、ガレス、そしてロキが肩を竦めた。リヴェリアが言っていることがわからないわけではない。ただ、その顔は立派な保護者めいていたからつい、不謹慎にもそんな反応をしてしまったのだ。

 

「女神アストレアの眷族達がランクアップした今、アルフィアが彼女達に手を貸すことはないだろう」

 

「ま、役目を果たしたようなもんやろうし…後はまあ、子兎との時間にあてるんちゃう? せやからリヴェリア、ぷりぷりしてもしゃーないで」

 

「ぷりぷりなど、していない!」

 

 

×   ×   ×

星屑の庭

 

 

賑わうのは都市だけではない。

ランクアップした彼女達自身も同じであった。最新のステイタスを写した羊皮紙を片手に、少女達は達成感にも似た感情で表情を喜色に変え、弾む足並みで弟分とアルフィアに見せつける。

 

「見てアルフィア、やったわ!」

 

「ああ」

 

「ベル見て、私、Lv.4よ!」

 

「れべる4ってすごいんですか?」

 

「「「すっごくすごいわよ!」」」

 

「へー」

 

長椅子(ソファ)でくつろぐアルフィアは適当に相槌を打ち、アルフィアの隣でひっつくように座っているベルは彼女達が持つ羊皮紙に手を伸ばしまだ何が記されているのかなんて意味もわからないのにキラキラとした瞳で眺める。ランクアップすることがどれだけ難しいことなのかなど、まだわからないベルはなんとも曖昧な反応しかできない。だがそれを一々咎めたりだとかはしない。嬉しいが勝っているからだ。

 

「……アルフィア」

 

それでも1人、2人は素直に喜べない者もいた。

団長のアリーゼと治療師のマリューだ。アリーゼの呼びかけに、なんだと返せばアリーゼは間を置いて口を開く。内容は仲間達と同じだ。

 

「ランクアップ、したわ……あんたのおかげで、Lv.4よ」

 

「私はLv.3に」

 

「………そうか」

 

何かを知っているような2人は複雑そうにベルをチラリと見て、再びアルフィアを見つめる。アルフィアは何も言ってはくれない。羊皮紙を握る手に力が入って、くしゃりと音を立てた。はしゃぐ仲間達と巻き込まれるベルのおかげで、きっと自分達の会話は聞こえていないだろう。そう確信して、アリーゼは言葉を何とか吐き出した。

 

「これで……いい、のよね?」

 

「……………ああ」

 

「…………わかった、じゃあ、ありがとうとだけ、言わせて」

 

唇を噛みしめるアリーゼの表情は前髪のせいでよく見えない。けれど感情を押し殺すような声色でだいたい察することは簡単だった。マリューもだいたい言いたいことは同じなのか、何も言えないまま。疲れたようにゆっくりと瞼を開けて、ゆっくりと息を吐き出す魔女は今にも命の息吹が消えてしまいそうで、儚げに見える。肌寒くなってきたことで暖炉に火をともすようになってきたこの頃、アルフィアの姿はそれこそ若いにも関わらず老婆のようにさえ見えた。

 

「アリーゼさん、マリューさん、どうしたんですか?」

 

「「っ!」」

 

何か感じ取ったのか、仲間達にもみくちゃにされていたベルが心配そうに顔を覗いてきた。肩を揺らしたアリーゼ達は無理矢理に微笑んだ。

 

「な、なんでもないわ!」

 

「そうよ、何でもないの!」

 

「??」

 

「ほらベル、私にもおめでとうって言ってくれてもいいんじゃないかしら?」

 

「わわっ、何で抱っこするんですか!?」

 

「それはベルが小さいからよ、フフン!」

 

ベルを抱きかかえたアリーゼがほんの一瞬、アルフィアへと振り向いた時、目が合った。そこにどんな意志の疎通があったのかは誰にもわからないがアリーゼはアルフィアが微笑んでくれたように見えた。言いたいことは色々あるし、きっとこの後、ベルには酷い言葉を言われるかもしれない。世界ってやっぱり残酷だわなんて思いつつ、アリーゼはベルの頭を撫でた。

 

「ベル、明日からアルフィアにいっぱい遊んでもらいなさい!」

 

「え、あ、う、ん?」

 

「すっかりアルフィアをベルから横取りしちゃってたから……めいいっぱい、独り占めなさい!」

 

「わ、わかりましたからぁ………ってアリーゼさん、泣いてるんですか?」

 

「な、泣いてないわ! 埃が目に入っただけよっ」

 

「う、うーん?」

 

ぼんやりと少女達とベルを眺めていたアルフィアはゆっくりとした動作で立ち上がり、ベルを取り上げる。不思議そうに「どうしたの?」と言いたげに見つめてくるベルの顔を見つめるとアルフィアはゆっくりと唇を動かした。

 

「ベル、風呂に入るぞ」

 

「え」

 

「何だ」

 

「ぼく、もう1人で入れるのに」

 

一緒に暮らすようになった時からだが、恥ずかしがってなのか、一緒に入るのを嫌がる。そんなベルを無理矢理に連行していたのも懐かしい思い出だ。アルフィアはベルを床に下ろしてやると、手で口を覆った。

 

「ゴホッ、ゴホ……ッ!!」

 

なんともわざとらしい咳を少女達は聞いた。

そして、手口が汚いとも思った。

こっちはあんたの体調心配してるのよ、普通、やる!? という思いもあった。だがベルはそれどころではない。

 

「おかあさん、大丈夫!?」

 

膝を折り、背を丸くするアルフィアの背中を摩りながらオロオロする子兎。アルフィアはそっとベルの頬に手を添えて言う。

 

「私もいつこの世を去るかわからん。だから、少しでも長くお前と………一緒にいたいんだ」

 

「おかあさん………ぐすっ」

 

「……私1人で入ってぽっくり逝ってしまっては目も当てられない……だから、ベル」

 

「……うんっ、ぼく、おかあさんといっしょに、お風呂、はいる」

 

「ああ、ありがとう」

 

「だから死なないで、おかあさんっ」

 

ひしっと抱き着くベルを抱きしめ返すアルフィアの口元は僅かに笑みを浮かべていた。少女達は普通に引いた。

 

「アストレア様、呼んできてもいい?」

 

「ああ、構わん。それくらいは譲歩しよう……」

 

「待ってて」

 

「ああ」

 

トテテと小走りで女神を呼びに行った子兎。

アルフィアは口元を拭うと、少女達に振り向いて言う。

 

「これが……」

 

「「「ごくっ」」」

 

「技と駆け引きだ」

 

「「「うっさいわ!!」」」

 

まじでふざけんなよ!? とばかりに憤慨する少女達。

心配してんのよ!? わかってんの!? とアリーゼは怒鳴りたい衝動に駆られた。やがて女神の手を引いてやってきたベルを見るとアルフィアはベルの空いている方の手をとって浴場へと向って行った。去り際、まるで見せつけるかのように振り向いてフッと鼻で笑った魔女に少女達はブチッと血管が切れるような感覚を覚えた。というか、口をそろえて声に出していた。

 

「「「「イラッ☆」」」」

 

 

 

×   ×   ×

 

翌日からアルフィアはアリーゼ達との特訓に付き合うのもやめて、ベルと共に過ごすようになった。衣服の上からストールを羽織り小さな手を握って都市内を散策する。アストレアが手伝いに行っているという孤児院に連れて行けば同年代の友人でもできるかもと思ったが、ベルは頑なに嫌がったために断念。何かあったのかと聞けば、「アストレア様が浮気した」とか「ねとられた」とか言うのだからお前は何歳(いくつ)だとアルフィアは溜息をついた。余程、孤児院の子供達に女神をとられたことを根に持っているらしい。

 

「ここがギルドだ。冒険者共を管理する組織だが、そのトップはエルフとは思えない醜い生物だ。故にここは『養豚場』だと思えばいい」

 

「思わせないでいただけますか!?」

 

「ここの隠し金庫には私がお前の実母(メーテリア)のために金を保管してある。まだ残っているだろうから、金銭に困ったときは遠慮なく使え」

 

「あの、隠し金庫のことを言われると隠している意味が!? それから派閥が壊滅等した場合は基本的にギルドが回収を―――」

 

「何か言ったか?」

 

「嗚呼、今日もいい天気だなあ」

 

「恐らくは働かずとも生きていける程度の金はあるだろうが……馬鹿げたことには金を使うな」

 

「馬鹿げたことって?」

 

「………賭博や女、だ」

 

「女の子にお金を使うのはダメなことなんですか?」

 

「……………」

 

「?」

 

「行くぞ」

 

「えっ」

 

説明が面倒だ、とベルの手を引いてギルドを去る。

瞼を閉じているのに前が見えているかのように歩くアルフィアはすれ違う人にぶつかることもなく、時々絡んでくる男神達を適当にぶっ飛ばして(あしらって)は「今の神には近づくな」だとかベルに吹き込むのを忘れない。

 

「ここは【ゴブニュ・ファミリア】の鍛冶場だ。武器や防具も造るが、建築も行う」

 

「じゃあ、あの教会も直してもらえる?」

 

「いや……あれは、あれでいいんだ」

 

「でも……」

 

「作り直してしまえば、それはもうメーテリアの気に入っていた教会ではない。だから、いいんだ。それよりも、お前がいつか独り立ちすることがあって、住まう家が必要になれば頼ってみろ」

 

「アストレア様達と一緒に暮らしてる本拠(いえ)じゃダメなんですか?」

 

「ダメとは言わん。もしもの話だ」

 

「ふぅん」

 

工房の中は暗く、けれど燃え盛る炉から飛び散る火花が仄かに照らして内部を見せてくれる。男達が槌を振るっては汗を散らせるまさしく職人と言える姿がベルの瞳に映った。その中に強面な細身だがしっかりと筋肉の付いた老神の姿があり、ちらりとアルフィアとベルのことを見る。老神の目付きは優しいものと言うには少し違っていて、ベルはビクリと肩を揺らしてアルフィアの背後に身を隠した。やれやれ、とアルフィアはベルの頭に手を置いて鍛冶場を後にした。

 

「ここが【ヘファイストス・ファミリア】の拠点だ。出店もあるが、バベルにも駆け出し鍛冶師達が創ったモノが売られている。会ったことはあるか?」

 

「うん、かっこいい女神様だよ?」

 

「そうか」

 

「うん、あと綺麗」

 

「鍛冶に興味があれば、男神(ゴブニュ)女神(ヘファイストス)に相談してみろ」

 

その後もアルフィアはベルに都市に存在する派閥を教えるように連れまわした。その中には既に知っている男神や女神なんかもいて、ベルの姿を見つけると快く手を振ってくれていた。

 

「ここは【デメテル・ファミリア】の拠点だ。もし女神デメテルがいなくなればオラリオは飢饉へと陥るとさえ言われるほどには支えられている。戦闘員を除けばこの派閥の規模は【ガネーシャ・ファミリア】にさえ劣らないだろうな」

 

「デメテル様、すごく優しいです」

 

「そうか」

 

「でも、顔を見たことないです」

 

「?」

 

「よく見えないんです」

 

「……目が悪いのか?」

 

まさかベルの背丈では女神デメテルの豊穣すぎる乳房が視線の高さにきて女神の顔が見えないなんてアルフィアは知る由もなかった。あまりにも大きい巨峰はアストレアのものよりも大きく、身体に顔が2つついているとさえ思えるほどに大きくてベルからしてみれば「お胸が喋ってる」というようなものだったのだ。

 

「お前はここに来る前はゼウスと畑仕事もしていたのだし、働き口としては申し分ないはずだ」

 

「僕、デメテル様のところに行くんですか?」

 

「いや……そうじゃない。手に職をつける時の候補だ。どうするのかはお前が自分で決めろ」

 

「わかり、ました?」

 

「冒険者なんぞ、ならなくてもいいとは思うが……私が言えたことではないからな」

 

「どうして?」

 

「私が、冒険者だったからだ」

 

「………」

 

「叶う事なら、私より長生きしてくれ」

 

「……うん」

 

ぎゅっと小さな手が握り締めてくる。

それを握り返してアルフィアはまた歩き出した。

その背中を女神デメテルが悲し気に見つめていた。デメテルだけではない、道行く先々で出会う神々がアルフィアの命の残り火に気付いているかのように、その背中を見つめていた。嗚呼、もうすぐあの娘も還ってしまうのか……と。

 

「少し疲れたな」

 

「大丈夫?」

 

「ああ」

 

メインストリートを歩いて少し。

適当なベンチへ腰を下ろして一息をつく。気怠さが身体を蝕んで、思うように動かない。まだ20代だというのにまるで老人のような身体だなと自嘲するアルフィアをベルは心配そうに見つめた。

 

「ベル、そこの屋台でじゃが丸君でも買ってこい」

 

「お義母さんは?」

 

「私のことは気にするな」

 

「やだ」

 

「………」

 

少なからず察しているのだろう。

もう永くないことを。

少し目を離せば、いなくなってしまうのかもしれないという恐怖がベルの瞳には映っていてアルフィアは心配させまいと不器用にも唇に薄い笑みを浮かべて頭の上に手を置いて撫でてやった。

 

「ここにいる。私のは1つでいい」

 

「………うん」

 

渋々、何度も振り返っては屋台へ向って行くベル。

アルフィアは胸に手を当て、口をもう一方の手で覆って咳をした。手袋には吐き出した血がついて、胸の鼓動も歪に感じられた。口元を拭い汚れてしまった手袋を外して、近くにあったゴミ箱へと投げ捨てる。そして戻ってきたベルから『じゃが丸君』を受け取って咀嚼する。

 

「不味い」

 

「え、そうかなあ」

 

甘味が苦手なベルは何もトッピングがされていないものを頼んだのだろう。美味しそうに小さな口で齧ってむぐむぐと食べている。アルフィアは口の中の血のせいで口の中にいれた『じゃが丸君』が不快に感じた。

 

「ベル」

 

「んー?」

 

「他人の甘味には手を出すなよ、甘味への恨みは恐ろしいぞ」

 

「?」

 

いつだったかメーテリアの甘味を食べてしまって怒られたことを思い出してベルに釘を刺しておく。甘味が苦手なベルには関係のないことかもしれないが、言っておくに越したことはないだろう。じゃが丸君で小腹を満たして少し休むと再び都市内を散策する。時折、都市内を見回っていたアリーゼ達に出くわすこともあったがアルフィアの邪魔をしないようにベルに手を振ってはすぐにどこかへと姿を消していった。バベルにあるテナントを見て周り、それが終われば治療系派閥の薬舗なんかへ行って、最後にはアミッドのいる治療院へ行き、星屑の庭へと帰る。その頃には日も暮れていて、歩き疲れたベルは夕飯までの時間、アルフィアの膝を枕に眠りに落ちてそんなベルの頭を撫でながらアルフィアもまたうたた寝をする。そんな親子をアストレア達は微笑ましく見守っていた。




①アリーゼ達はアルフィアと戦ってランクアップしました。
この点はアストレアレコードとほぼ同じ。
敵として立ちはだかるか、身内として立ちはだかるかの違いです。攻略法を調べている内にアルフィアの病が不治の病であることに気付きました。もう永くないことを知って割り切って素直に喜んで「ランクアップしたわよ」と報告する者と素直に喜べない者って感じですね。心配してもアルフィアが普段通りに接したりベルを取ってマウントしかけてくるので「おいっ!」ってなっちゃいます。

②敵にはザルドがいるんだ、アルフィアが戦ってくれれば早く大抗争も終わるのにという声は冒険者であるないに関わらずありました。が、アルフィアは無視。ロイマンはアルフィアが永くないことを知っていたので、永くない人物を戦わせたところで今後のオラリオのためにならないと黙認。アストレアはせめて本拠と治療院は守って欲しいと頼んでアルフィアは世話になっているしベルの安全のために従いました。
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