太陽が沈み月が昇る。劇中の設定では影時間という特殊な異界でしか顕現しないタルタロスも、このデスゲームを始めた輩のせいか昼でも夜でも構わずにそびえ立っていた。そんな空想上であった筈の塔を窓から観察する。
あれから1日が経った。取り敢えず手元にあったマッカを使い、近場の宿へとその身を置いた。これは他のプレイヤー達も同じだったのか、ビジネスホテルの中はパンパンである。考えるのは一先ず後にして、今日の寝床をと早目に動いた自分の判断は間違っていなかったらしい。塔から目を外し、町中を見れば、ギリギリ乗り込めなかったのであろう人達が道端で野宿をしているのが見えた。他の区に行けばまだ空きもあるのかもしれないが、それには悪魔が蔓延るエネミーゾーンを通らなければいけない。ある理由から簡単には倒せなくなった悪魔達の事を考えると、野宿でもセーフティゾーンに居座るのは当たり前の行動なのかもしれない。
「ふぅ…じゃあ改めて聞くけど、ルール説明お願い…」
『OK、マスター』
一度寝れば嫌でも現実は分かった。なので昨日は半ば話半分に聞いていた彼女の説明を再び頼む。サポートAIバロウズ。元々ゲームにも居た存在ではあったが、此処まで流暢にやり取りは出来なかった。基本は依頼報告やらエネミーソナーの時に喋るだけで、まかり間違っても彼女から話し掛けてくるという自体は無かったのだ。
『先ずは時間制限から、昨日伝えた通りこれから一ヶ月。は…もう過ぎたから29日後ね。それまでにタルタロス規定階層まで到達しなければ削除。つまりは死ぬ事になるわ』
「うんうん…」
いつの間にか置いてあった朝食を摘みながら話を聞く。どうやら昨日のホテル代にはこれの値段も付いていたらしい。リアリティがあるとはいえゲーム空間で食べる必要があるのかという疑問はあるが、どうせ出されたのならば食べておこう。普通に味はあるしな。
『で、マスターが挑むのは、タルタロスっていうダンジョンになるんだけど…ペルソナ3はご存知?』
「知ってるしやった」
『そう。じゃあ細かい説明は省くわね。次は人数制限について』
「人数制限?」
『ええ、タルタロスの外でなら6人までで良いんだけど。タルタロスの中では仲魔と仲間を含めて4人までしか同時に行動出来ないの。所謂パーティー制限ね』
「そんなところまで似せるのかよ…」
確かにペルソナ3ではどれだけ多く仲間が居ようと全員でとはならなかった。ゲーム的な都合だといえばそれまでなのだが、変な話ではある。折角仲間を増やしても最大戦闘要員数は変わらないのだから。で、このデスゲームでもそのルールは敷かれているらしく、数の暴力作戦は取れそうに無い。
「…ちなみにルールを破ろうとしたらどうなるんだ?」
『4人以上で入ったらどうなるかね?その場合は入れはするけど、
「それは22階層の中で…?」
『いえ。タルタロス全層が対象になるわね』
「怖っ…」
つまりルールを破ったらレベル不相応の場所に単身で飛ばされると。今の状態でそんな場所に飛ばされれば即ジ・エンドである。業腹ではあるが、ルールには従った方が良さそうだ。
『後はタルタロスの中の装置についての説明になるけど…大体ペルソナ3そのままを再現してるから、既プレイのマスターに説明しても耳にタコかしら?』
タルタロスには一階毎にある転送装置。エントランスにはマッカを払うことで回復出来る施設。一応聞きはしたが記憶の中にある機能と変わりはなかった。まあそれはそれとして一階毎に最悪逃げ場として転送装置があるのは助かるな。で、問題はだ…
「質問いい?」
『何かしら、マスター?』
「何でレベルリセットされてるの?後めちゃくちゃ頑張って集めた武器防具アクセそれとマッカ!」
そうこれが今プレイヤー達が気軽に悪魔と戦えない理由である。ステータス画面を見た時はそれは驚いたものだ。あれだけ時間を掛けて築き上げたものが全て無くなっているのだから。しかもこれからは命を掛ける事になるのに、強くてニューゲームならぬ弱くてニューゲームとは如何なものか。
『プレイヤー達には同じラインからスタートして欲しい。…ですって』
「クソが!!」
こういう質問がされるのは予想済みなのか。バロウズからはその質問をされた時に喋るであろう言葉を投げかけられた。キレても何も起こりはしないが、怒るくらいは許して欲しい。努力が水の泡になった瞬間というのは得てして遣る瀬無いものであるから。
「はぁ…まあそれは置いておこう。で、次はこの■■召喚師?っていう肩書き何?」
ステータス画面には自分のレベル、耐性、力魔体速運、スキルの項目にある。レベルで勿論1からなので貧弱なステータスだ。おまけにアクセも防具もないから最低限破魔耐性があるだけ。スキルに関しては何も書いてない。で、肩書きとは何だという話だが、これは他のゲームでいう職業的なものだ。デビルサマナー、ペルソナ使い、人修羅等々見慣れたものや。造魔師。アプリ作成者。占い師だとかこの作品オリジナルの肩書きもある。
「黒塗りは読めないけど…召喚師って付いてるからデビルサマナー的な感じに捉えていいの?」
『うーん…?ごめんなさいマスター…それについては良く分からないわ』
「……そっか」
隠してる…という感じではない。ならば本当に知らないのだろう。これ以上は聞いても無駄と判断し、自分は残ったスープを飲み干すと、手を合わせてご馳走様と告げた。
取り敢えずはレベル上げと並行して仲魔を増やすところから始めて行こう。4人までしかパーティーは作れないが、数は力だ。多いに越した事はないだろう。言い方はあれだが盾が1つよりは4つの方が敵も迷うというもの。なのでホテルから出ると、ハンターズギルドへと向かった。
「まだ残ってたんだな〜」
下水道。其処に埋め尽くす程に居るスライムの群れを相手にしつつ、そう呟く。初心者クエストとして低レベルのうちだけ張り出されているクエスト。
スライム討伐命令。経験値がそこそこ貰えて、弱点の多いスライムしか出ない事から最初の頃はお世話になったものだ。マッカを落とさないのが傷ではあるが、今はとにかくレベルが欲しい。なので今日はスライム相手にレベル上げ作業を行った。その結果…
「レベル5到達…まあまあ良いんじゃないかな?」
初期のレベル帯だけあってレベルアップの間隔がとても早く感じた。これだけレベルがあれば仲魔集めに移っても問題はないだろう。とはいえ今日は1日レベル上げに勤しんだ。なので仲魔集めは明日にする事にした。
「仲魔出来ねぇ…!」
『何言ってるか分からないわね』
今更ではあるがこのゲーム。基本的にはサマナー業でなければ仲魔を作れない。サマナーを選択する事で与えられる悪魔会話アプリが必須なのである。何だかは分からないが、召喚師と名前が付いていたので普通に会話出来ると思っていたがそれは違うみたいだ。ガントレットの中身を確認したところ標準である悪魔会話アプリは無かった。
(ええ…まさか種族サマナー系か…?だとしたらどれだ?)
種族サマナー。これは一つの種族しか仲魔に出来ないサマナーの事を言う。デメリットはあるがそれ以上にメリットもある肩書きだ。先ずはその種族との交渉が100%成功する。つまりは一つの種族に限ってだが仲魔選び放題だ。次に種族スキルが使える。これはメガテン5にあったマガツヒスキルに近いものだ。なのでこのスキルを使う為にわざと種族サマナーをやっているプレイヤーも居る。
しかし序盤も序盤で種族を縛られるのはサマナーとしてはかなり致命的だ。種族サマナーをやっているプレイヤーもある程度防具やアイテムが揃ってからなるものだ。間違っても最初から選ぶ肩書きではない。どれだけその種族に好かれようとも、出会えなければ意味がないのだ。
「嘘だろ…まさか英傑とかじゃないよな…?」
『結局誰とも話せなかったわね…』
話し掛ける悪魔全てと話が通じない。これでは仲魔の居ないサマナーという何の意味があるのかという存在が出来上がってしまう。
「仲魔じゃなくて…仲間探してみるか…」
『…掲示板で募集出しておくわね…』
「ありがと…」
サマナーだから別に仲間は作らなくてもいいかなと余裕ぶっこいていたが、ここに来て自分の肩書きがドハズレである可能性に辿り着いた。仮に英傑召喚師だったとしても、わざわざ英傑を作るまで付き合ってくれる奇特な輩が果たして要るのだろうか。銃を持たないガンナー並みに存在意義の分からない肩書きで一応募集は掛けたが…
「まあそりゃそうだよな…」
『わ、私は居るからね。マスター』
そんな相手にお誘いのメッセージが来るわけもなく。式は仲魔集めという名目のもと、レベル上げという行動を取るしか出来なかったのだった。悲しい事にレベルだけは7に上がった。1人だから経験値が多く貰えるのだけはメリットかもしれない。
25日目。到達階層0階。
「もしかしたらシャドウが仲魔になるのかもしれない」
『…そうかもね』
半ばヤケクソ気味に出した結論だが、一理はある。掲示板を見る限り、どうやらメガキミには無かった肩書きも存在する事が判明した。ならば発想の転換である。悪魔が仲魔にならないのならば実はシャドウなのではと。
まだ時間に余裕があるとはいえ、0階層は流石にヤバい。仲間を探してとか安全策を取っている場合ではなくなってきているのだ。最悪ソロでも…そんな覚悟を決めなければいけない時なのかもしれない。
「今日はタルタロスに行くぞ!」
『了解。案内を出すわね』
一応ソロではあるが、レベルは高い方だ。自分と同じレベル帯は数えるくらいにしか居ないくらいには高い。まあその代わり仲間は居ないのだが。一抹の不安はあるが、動かなければ結果は出ない。式はこうしてソロでタルタロスの中へと向かった。
「良いな…皆仲間いて…」
タルタロスエントランスには、かなり人が居た。しかもそのどれもがパーティーを組んでいる。当たり前の光景なのだが、今の式には眩しい姿である。自分と同じサマナーも居た。仲魔が居た。とても悲しい。そんな人達と目を合わせないように、足早に式は一階へと続く階段を登っていくのだった。
「5匹目ぇ!」
ドロップした剣を振り回しながらシャドウを沈黙させていく。会話は試みた。しかし当たり前だがシャドウとお話出来る訳もなく、攻撃というお断りを貰うだけであった。シャドウに話し掛けている姿を変な目で見られた時の苦しみはこうしてシャドウへぶつける事で発散した。そうして勝てそうな相手には攻撃。無理そうなら逃亡というアタックアンドエスケープを続けている内に何だかんだ5階まで到達したのだ。
「真面目な話今は行けるけど先がキツイな…」
『攻撃方法が剣しかないしね』
銃はあるが、弾を決めなければ銃として扱えない。弾代はとても高いのだ。切羽詰まっているからといい、いちいち買っていたら直ぐに破綻する。アイテムも同様だ。1個ずつ属性魔法のストーンはあるが、それだけである。その場しのぎにはなっても先には繋がらない。
「結局、仲間募集が来るのを祈るしかないかぁ…」
『ちなみに今日は0ね』
「相手視点ならそうなるのも分かるけど…誰か奇特な人居ないかな〜…」
5階を踏破して、6階へと登る。今日はこの階の転送装置を見つけたら帰る事にしよう。そうして6階を探索していると、突如辺りに大きなサイレンのような音が鳴り響いた。
「うるさっ!…ってもしかしてこれソナーの音か!?」
『どうやら他のプレイヤーの端末から鳴っているみたいね』
耳を塞ぎたくなるようなけたたましい音。しかしこの音には聞き覚えがある。残念ながら今の自分には高い買い物なので付けていないエネミーソナーアプリだが、先んじて購入していたプレイヤーは居たようだ。
「──え」
音の出処は何処かと未だに鳴り響いているソナーを探す。とは言っても距離自体はそんなに離れてはいなかった。ただ、鳴っている場所に居た者が問題だった。
『────』
黒い衣を纏った死神。その者の周りには沢山の人だったものが転がっていた。衝撃は2度。死体という現代日本では見慣れないものを目にしたが故の思考の止まり。もう一つは、こんなところに出て来ていい筈がない存在への驚愕故に。
『──げて!早く逃げてマスター!!』
「!!」
漸くバロウズの声が届く。その声に式は我に返る。逃げるという思考へと式の頭は混乱から戻ると直ぐに切り替えたのだが。刈り取る者の前での呆けは悠長に過ぎた。
(あ)
死んだなという想いすら頭には浮かばない。それよりも早く刈り取る者はその銃口を式へと向けていた。弾丸は既に放たれていた。当たる。目の前で起こる動作が全てスローに見えた。式へと向かう弾の速度も。けれども式は動けない。だからどうしようもないのだ。
ガキンと音がしたかと思うと、刈り取る者から放たれた弾丸は上空へと逸らされた。一時の緊張感から開放され、冷や汗を垂らす式の前にそれは立っていた。
人間ではない。しかし服装は改造したかのような学ラン服。後ろからでも見える白いハチマキのようなものは風に揺らされ棚引いている。
「合流が遅れた。済まない、
声が聞こえた。初めて聞くはずなのに何処か聞いた事があるような声。眼鏡を掛け、八十神高校の制服を羽織る彼には見覚えがあった。
「ば…番長?!」
「……仲魔のバンチョウだ。コンゴトモヨロシク」
…変な所でノリが良いのは、彼らしいといえるのかもしれない。
「イザナギ!」
彼の声に反応し、イザナギは刈り取る者へと斬り掛かった。尋常ならざる相手。そう判断した刈り取る者は長い銃からクロスさせ、何とかイザナギの一撃を防ぐ。
「サマナー!逃げるぞ!!」
「え!?俺!?て、ていうか勝てそうだけど…」
「無理だ!今は何とか誤魔化してるが時間がない!!早く逃げてくれ!」
刈り取る者を相手する傍ら自分へと撤退するように彼は言った。互角、いや優勢なのは素人目からしても分かるのだが、彼は何処か焦っている様子だった。訳が分からないが、取り敢えずトラエストストーンを袋から取り出した。虎の子の一品だが直ぐに逃げるにはこれが一番であろう。それを確認した彼は、イザナギへとある命令を送った後、自分の下へと転がり込んだ。
『────!!?』
極大の雷が刈り取る者を痺れさせる。確かに出来た隙をつき、直ぐ様トラエストストーンを使用した。瞬間辺りの景色が変わっていく。痺れから開放された刈り取る者が此方に目を向けたが、此方の方が先であったが故に、何とか逃げ出す事がかなった。
「い…生きてる〜…!」
「エントランス…此処まで来れば大丈夫か」
突然現れた自分と彼に驚きの声が上がった。辺りを確認した後、彼は警戒を解いたようだ。
「バロウズ、刈り取る者が発生してる事を掲示板に書き込んでおいてくれ」
『良いかしら?マスター』
「え?あ、ああ構わないけど…」
刈り取る者。未だにレベル一桁台しか居ない状態で出会えば死は確実な相手だ。現に自分は助かったが、あの人達は…。
「大丈夫か?サマナー」
「ああ…まあ何とか…」
周りにいたプレイヤー達にも情報を話してきた後、彼は自分の下へと歩み寄った。差し出した手を掴み、立ち上がる。よりによっていきなりあんな大物と相対するとは思わなかった。だが今は、それ以上に気になる事があった。
「えーと…もしかして貴方って…」
「ああ、改めて自己紹介だな。…自分で言うのは少し恥ずかしいが…英雄ナルカミだ。今後ともよろしく頼む、サマナー」
どうやら自分の仲魔?はとんでもない奴であったらしい。
英雄召喚師
かつて何処かでヒーローだった彼、もしくは彼女を仲魔として使役する事が出来る。だがレベルはサマナーと同じになるため過信は禁物だ。
英雄ナルカミ
今のところ使えるのはイザナギのみ。
ここまでは思い付いたのでささっと。