いきおいトリップ!   作:神山

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九話目

あれからマリネさんに教えてもらった店に行き、飯を食っている。ここに来るのも教えてもらったからか、Pip-Boy3000のマップに記録されていたので楽々来れた。その間にPip-Boy3000からお金もしっかり出している。しかもオススメするだけあって普通に美味い。料理は材料が違ったり使う生き物が違うからか、名前が変わっていたり、見た目がちょっと怖い感じになってはいるが。後特筆すべきは女将さんが豪気でいい人であると言うことだ。

 

 

「はいよ!ガラガラ鳥の唐揚げ定食!」

 

 

「いただきます」

 

 

目の前に出されたのはちょっと形が歪な鳥の唐揚げ。この世界には箸という概念がないため出されたフォークでいただきます。今度暇があったら造ろうと思う。ちなみに座ってるのはカウンター。

 

 

「ん?何だいそれは?」

 

 

「これはですね、うちの田舎でやっていた食事をする時の……言うなれば作法みたいなもんですよ。自らの血肉になってくれる食物に対しての感謝を込めてるんです。食事とは命を食ってるんですからね。んで、食べ終わったらごちそうさま。まぁ作ってくれた料理人の人達への感謝もありますが」

 

 

「へぇ!いいじゃないのそれ!今後うちも使おうかねぇ……最近の冒険者は命を軽んじてたりするけど、あんたは全然違うみたいだ。そうだあんた。名前何てんだい?」

 

 

この世界はやっぱりいただきますは無かったか。まぁ日本だけだしねこれは。元はアメリカなんだからあるわけないか。そんで冒険者とは多分ギルド員の事だろう。そんなに無謀なやつが多いのか?

 

 

「コウヤ・キサラギです。しがない旅人です。今後ともよろしく。女将さん」

 

 

「コウヤだね、覚えたよ。アタシはシエナ・リーフレット。ここを旦那と二人で切り盛りしてる。っと言ってもこっちはアタシの趣味みたいなもんだがね?そうだ、あんた旅人ならうちは宿屋もやってるから、決まってないなら来なよ?サービスしたげるからさ」

 

 

「アハハ!ありがとうございます。でも今日は決まってるんでまた今度」

 

 

「そうかい。そりゃ残念だ」

 

 

女将さん改めシエナさんと自己紹介。言われてみれば二階に続く階段があり、幾つかドアがある。公爵家から出たらここに来るのも良いかもしれない。

 

 

「お?シエナ、ご機嫌じゃないか。どうした?」

 

 

「あら、あんた。帰ってきたのかい?今日は早いねぇ」

 

 

それから二、三話を続けていると、後ろからいかつい身体のハゲて黒い尖った口髭をしているおっさん――多分旦那さん――がシエナさんに話しかけてくる。羽織の様な物を着て腰にトンカチとかをつけているから大工さんなんだろうが、杖を持って足を庇うようにして歩いていた。

 

 

「仕事が思ったより早く片付いてな。それで?こいつは?」

 

 

「この子はコウヤ・キサラギって言ってね。中々どうして、話してみれば楽しいし、いろいろと博識だったからつい話し込んでしまったのさ」

 

 

「ほぉ……シエナに気に入られるたぁ中々やるな坊主!こいつ人を見る目はすこぶる高いんだぞ?儂はザック・リーフレット。ここいらの大工を纏めて棟梁なんかやってるもんだ。ま、昔ヘマしちまって右足がこんなんになっちまったがな」

 

 

俺の横に座ってシエナさんから俺に向き直るザックさん。その際に自分の右足をじっと見つめてから切り替えるように俺に向いていた。ふむ、右足……骨が変な風にくっついてて神経が切れてる?スキルパワーで見ただけでレントゲン要らずの診断が下せるんだが……スティムパックで治せるっぽい?

 

 

「ヘマどころじゃないだろう?十年前に現場で落下するとか……アタシがどれだけ心配したか」

 

 

「ガハハハ!すまねぇシエナ!……ん?どした坊主?」

 

 

「んぐっ……少し、右足を診せてもらえませんか?」

 

 

俺はガラガラ鳥の唐揚げを一つ飲み込んでザックさんと向かい合うようにし直す。それにザックさんが怪訝な顔をしている。まぁこれも何かの縁だ。こういう技術は使うために有るんだからな。

 

 

「[medicine]俺はこれでも医者ですからね。安心してください」

 

 

「こりゃたまげた!坊主医者だったのか……だがまだ若い。坊主がどうするのかは知らないが、診るだけならタダだしな。何処の医者もダメだったんだ。坊主が出来るとは思わんがね」

 

 

まるで信用されてないが、とりあえず足を診せてもらえた。ざっと診て、俺の医療スキルがもうちょっとマシに治療出来なかったのかと言っているが、もう過去の事なので無視。ここってばそんなに医療技術が悪いのか?それとも単にヤブ医者に当たったのか?

 

 

「はぁ……まぁいいや。ちょっとチクッとするかもですが、気にしないで下さいね」

 

 

「おっ、おい何をって!」

 

 

俺は即行でPip-Boy3000からスティムパックを3つ取り出して、有無を言わさず足に突き刺す。ちょっと痛がってたが、そこはご愛敬だ。

 

 

「てめぇ!いきなり何すん……だ?」

 

 

「あ、あんた!足が!」

 

 

俺に怒鳴ろうとしたのか、思わず立ち上がったザックさん。するとあら不思議!右足が治ってるじゃないの!スティムパック何処まで出来るのさ!?十年前に切れた神経治すとかどんだけだよ!

 

 

「[medicine]これで右足は治りましたが、怪我をしたのが十年前ということでまずは感覚や歩き方のリハビリをしばらくは行なって下さいね。調子に乗って現場で働くとかは論外ですので「あんたっ!」……」

 

 

「シエナっ!足が!足が治ったぞ!」

 

 

俺の治療後についての説明を無視して抱き合う熟年夫婦。気持ちはわかるが、話を聞いてくれ。なんか惨めだから。

 

 

「おい坊主!いや、コウヤ!何と礼を言ったら良いのか……」

 

 

「ありがとうコウヤ!あんたは最高だ!」

 

 

「ぐむっ!」

 

 

礼を言うと同時に、興奮気味にシエナさんに抱きつかれる。しかし、意外と筋肉質で力が半端無い……!しかもカウンター越しで体勢がおかしくなってるから余計痛いッ!しばらくして腕を何度か叩いて解放してもらったが、めちゃくちゃ苦しかったぞ……。

 

 

「げほっ、げほっ……と、とにかくさっき言ったように安静にしといて下さいね?思ってる以上に身体が動かないとか今なら普通ですから。職場直行とかしてまた同じようになりたくないでしょ?」

 

 

「任せときな!アタシが責任を持ってこの人を動かさないようにしとくよ!わかったねアンタ?」

 

 

「お、おぅ!肝に命じとくぜ……またシエナに怒鳴られるのはごめんだからな」

 

 

咳き込みながらも今度は説明に成功し、テンション上がりっぱなしのシエナさんに対して顔がひきつるザックさん。痛かったのを思い出したというより、シエナさんに当時よっぽど怒られたんだろうな。

 

 

「ハハハ、なら心配いらないですね。あ、何かあれば訪ねてきて下さい。今日と明日の朝は確実に公爵家にいますから」

 

 

「公爵家だって?何でまたそんなとこに?」

 

 

喋りながら食事を再開し、念のために居場所を伝えておく。案の定聞かれるが、これは素直に答えてもかまわないだろう。別に悪いことしたわけじゃないんだし。と、考えて昨日あったことを伝える。ヤオグアイのことは伏せといたが。

 

 

「とまぁこんな感じで、家に居させてもらってるんですよ」

 

 

「ほぉ!よくやった!公爵様はこの国で平民や他種族の差別を行わない一番の貴族だからな!あそこの豪邸は俺が造ったんだぜ?まだサテラ嬢ちゃんもこんなだった時で――」

 

 

 

ザックさんが思い出話に浸っているのを聞きながら、飯を食べていく。差別……か。ウエイストランドでも奴隷とかがあったが、ここでも適用されてるかもだな。封建社会というやつか。それに他種族……ファンタジーで言えばエルフとか獣人とかだろうか?ここに来てからは見てないが、ザックさんが言うからにはいるんだろう。他種族には会ってみたい。が、どちらにせよ気をつけるにこしたことはない。気づいたら奴隷商人に捕まってたとか嫌だし。

 

 

「ふぅ。ごちそうさまでした。俺はこれから買い物に行かなきゃいけないのでこれで失礼します。足についての事は先程言った事を守って下さいね。不安なら一度この国の医者に行ってもらえればいいですし。治療代は今度ここに来たときにサービスしてもらえれば十分ですからね」

 

 

「良いのかい?なら次に来たときにうんとサービスさせてもらうよ!」

 

 

「おぉともよ!あとこの国に住む気になったら声かけな!最高の家を造ってやるからよ!それとだ、雑貨屋に行くなら儂の名前出してみな!サービスしてくれるからよ!」

 

 

食事を終えて立ち上がり、カウンターに飯の料金30ギルを置く。公爵家を出た後にお世話になるかもだからな。しっかりとコネを作っておこう。しかし家か……まぁまずはこの世界を見て回りたいから後で考えるとするかな。拠点作りはその時だ。それにしてもサービスしてくれるとか……顔広いなぁ。

 

 

「しかし、ここに来てからまるっきり医者だな俺……」

 

 

飯・宿屋リーフレット――外に出てから看板を見た――から出てからポツリ。まだこちらに来て二日目だが、よくよく考えればあの盗賊討伐以外治療行為か診察しかしてない気が……?まぁいいか。

 

 

「雑貨屋は……と。ここか」

 

 

ちょっとの間人混みの中を歩き、ようやく着きましたよリーフレット雑貨店……あれ?リーフレット?

 

 

「いらっしゃい!」

 

 

疑問に思いながらも店の真ん前に突っ立っていては迷惑がかかるので中に入ると、凄く威勢のいい声が響く。店内は武器屋を少し小さくして一階のみの様な感じで、商品が綺麗に並んでいる。簡易食料や毒消し、傷薬等々いろいろと置いてある。声の聞こえた所に目を向ければ、カウンターに茶色の短髪で筋骨隆々のお兄さんがいた。紹介がある事伝えて、洗濯機の前に食料を適当に見繕ってもらおうか。

 

 

「あの、武器屋のマリネさんとザック・リーフレットさんの紹介で来たんですが」

 

 

「お?マリネちゃんと親父にか?マリネちゃんもだが、親父からたぁ珍しいな」

 

 

「親父?」

 

 

「おぅよ!俺はザック・リーフレットとシエナ・リーフレットの次男坊のブラッド・リーフレットだ!こんなナリだが、雑貨店の店長やってる。よろしくな!」

 

 

なんと、息子さんでしたか。しかも次男坊ということは長男さんが居るわけか。大工の方を継いでるのかな?しかし、親父さん似だなぁ。

 

 

「で?何でまた親父に?あの堅物がそうそう人に自分の名前出させる事は無いんだが……」

 

 

「あぁ、とりあえずシエナさんに気に入られたみたいで話してて、ザックさんが足を怪我してたので治しただけです」

 

 

「なにっ!」

 

 

「ぐえっ!」

 

 

事の次第を伝えたらまたもやカウンター越しに、今度は肩を揺さぶられる。く、首が……!この家の人達は力が強すぎる!

 

 

「親父の!足を!治しただとぅぅぅ!?お前店見てろよ!親父ぃぃぃぃ!」

 

 

「ぐ……ぁ……」

 

 

一頻り俺を揺さぶった後に叫びながら店を飛び出すブラッドさん。たまらず俺は脳が揺れてカウンターに突っ伏す。残った店の客の同情の目が痛い……。

 

 

「馬鹿野郎!店をほっぽりだして来るたぁどういう了見だ!」

 

 

「だ、だってよ親父ぃ~」

 

 

しばらくして俺も回復してきた頃に、ブラッドさんがザックさんと共に戻ってくる。何でまた連れてきたんだろうか?ザックさんは一応歩いているが、ちょっとぎこちない。たまに躓きそうになっている。

 

 

「ザックさん、俺安静にしてろって言いませんでした?」

 

 

「堅いこと言うなよ。リハビリだ、リハビリ。それにこのバカ息子が飛んできたんでな。渇入れながら来たわけよ」

 

 

来たわけよって……まぁいいか。そんな遠くないし、ブラッドさんも一緒だったんだからな。一人で来てたらシバいているが。つかシエナさん任せろって言ってたじゃないか。

 

 

「ちなみにシエナの目を掻い潜ってきたぜ!」

 

 

そんな誇らしげに言われても……後で連れてくか。シエナさん店もあるから離れられないだろうし。ザックさんの気持ちはわからんでもないが、今後もありそうで怖いな。

 

 

「しっかしコウヤ!親父から聞いたぜ?パパッと治しちまったんだってな!どんな秘薬を使ったのかは気になるが、まぁいい!さぁ欲しいもの言ってみな!サービスしてやるからよ!」

 

 

俺の背中をバッシンバッシン叩きながら豪快に言うブラッドさん。それを横で更に豪快に笑いながら見ているザックさん。この親ありてこの子あり、だな……。

 

 

「えっと、水はあるんで食料と全体地図と周辺地図を。あと洗濯機と乾燥機っていくら位します?」

 

 

「洗濯機と乾燥機?旅人のあんたに必要なのか?ちょいとでかいぜ?」

 

 

「[speech85%]大丈夫ですよ。俺力持ちなんで」

 

 

「[成功]まぁいいか……一つ白金貨一枚だ。二つ買うなら白金貨二枚だな。食料はどのくらい必要なんだ?」

 

 

多少強引だったために成功確率が下がったが、なんとか成功。それにしても白金貨二枚か……10mmピストル分が全部吹っ飛ぶな。まぁ今後も使い続けるし、便利なんだからここで買っといて損はない。いざという時食料は放射能汚染された物があるが、出来れば食べたくないから多めにするか。ガイガーカウンターがチキチキいってて怖いんだわ。

 

 

「とりあえず一ヶ月分で」

 

 

「おぅ、わかった。地図代は無しだ。親父の治療代代わりとしてくれや。食料もちょいとおまけしとくからよ。俺の気持ちだ。受け取ってくれ」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

ブラッドさんの中で勝手に話が進み、俺が遠慮する間もなく押しきられた。まぁ貰えるんなら貰っとこう。とりあえず頼んだのはいいが、金が足りるか……?

 

 

「これ全部ひっくるめて合計で……22000ギルだ。大丈夫か?」

 

 

「えぇ。サービスのお陰で安くついたので、大丈夫ですよ」

 

 

「ガハハハ!ま、ここまでするのは今回だけだがな?毎度してたら店が潰れちまう。毎度あり!ちょいと準備してくるから待ってな!」

 

 

俺が白金貨二枚と金貨二枚を渡すと、ブラッドさんが店の奥に入っていった。これで残り6300ギル。これだけ買ってこんだけ残れば行幸だろう。買わなかったら食料で放射能が無いのはブンガフルーツ位だしな。あとは、どうやってこれらをPip-Boy3000に入れるかだが……ザックさんがいたらどうにも誤魔化せんな。

 

 

「アンタぁ!」

 

 

「うぉっ!シエナ!?何でここに!?」

 

 

「ディーンが帰ってきたから店番頼んだのさ!まったく、コウヤにまで迷惑かけて!さっき安静にしとけって言われたばかりだろう!」

 

 

後ろを向けば般若の如く怒り狂ってるシエナさんがのしのしやって来て激怒。なんて好都合……!ご都合主義万歳!でもめちゃくちゃ怖いです!

 

 

「よいしょっと。ん?どしたんだこれ?」

 

 

「あぁ……シエナさんが迎えに来たようで」

 

 

しばらくそれを見ていると、奥からブラッドさんがでかい袋を持って戻ってくる。そして説明開始。

 

 

「……なるほど。あの状態のお袋には近寄らん方がいい。とばっちりを食らいかねん。さて、食料はこれだ。袋に詰めといたからこれ「ブラッド!アンタが父ちゃんを連れ出したんだって!?」……な?」

 

 

「あ、あはは……」

 

 

説明を遮ってのシエナさんの檄。それにやけに悟った様子で俺の肩を叩いてくるブラッドさん。なんぞこれ?

 

 

「じゃあそこの扉を入ったとこに洗濯機と乾燥機があるから、取ってけ。お前まで巻き込まれかねんから裏口から出ていくように」

 

 

まるで戦場に向かうかのような背中を俺に見せて、ゆっくりとした動作でシエナさんの前に正座するブラッドさん。俺はそこに漢を見たね。

 

 

俺はその場でザックさんに敬礼してからそそくさと袋を持ち扉を開けて、買ったもの全てをPip-Boy3000に入れて裏口から出ていった。

 

 

余談だが、この後二時間近く説教が行われ、ブラッドさんとザックさんは燃え尽きたらしい。その間二人しかいない店の従業員はてんやわんやだったとか。


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