いきおいトリップ!   作:神山

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十一話目

翌日。俺は朝飯をもらって少し話をしてから街に出ていった。昨日の道筋はPip-Boy3000に記録されているため、今回はあえて別の道を通ってみる。遠回りになるが、今日でしばらく見納めになるんだから思いで作りみたいなもんだ。

 

 

「ん?……『グリノリィ鍛冶店』?」

 

 

大通りから少し逸れ、店の並びが少ない所にポツンと建っている一軒の店。少し広めに土地を取っていて、看板のかかっている店の後ろにあるもうもうと煙突から煙がたっているのが作業場だろう。

 

 

「ふむ……初めて見るな」

 

 

感嘆しつつそこから目を離して、入口に立て掛けられている宣伝用の看板を見る。そこには販売している武器防具等の名前がズラリと並んで、一言コメントも書いてあった。

 

 

『武器防具の修理、販売、作成、なんなりとお申し付け下さい!そして当店ではアクセサリーの修理、販売、作成も承っております!自分だけのオリジナルのアクセサリーはいかがですか?』

 

 

「アクセサリー……ねぇ」

 

 

それを読んでふと頭によぎるのはギルドの受付のミリア。LadyKillerのお詫びをしとくか……。幸いPip-Boy3000にはエイリアンのUFOから奪った宝石、エイリアン・クリスタルが大きい赤とそれより少し小さめな緑がいくつかある。これはゲーム内でもそんなに取れなかったから数は少ないが、まぁ緑の方なら加工すればネックレスかブレスレットにする事は出来るだろう。赤は拳大位あってでかすぎるからな。

 

 

「ポケットに……三つ入れとくか」

 

 

俺はPip-Boy3000を弄ってエイリアン・クリスタル(小)を取り出す。つまりは緑の方なんだが、三つ出したのは金を出来れば残しておきたかったからだ。金の代わりに一個渡せば足りるだろうが、念のため出しておき店に入った。

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

 

扉を開けると取り付けられていたベルが鳴り、商品を磨いていた女性店員がハキハキした声で振り返る。量は少ないが質の良さそうな武具がズラリと並び、アクセサリー専用のコーナーもある。こりゃ良いとこ来たかな?

 

 

「これをネックレスに加工してもらいたいんですが……」

 

 

「あ、はい。ちょっと見せてもらいますね~」

 

 

俺はその子にクリスタルを渡すと、彼女は小さな筒を取り出してじっくりと見始める。恐らく鑑定用の物だろう。

 

 

茶色い髪をバッサリと切っている彼女は見た限りではまだ顔に幼さが残っていて、実際14、5歳だろう。だがその目は職人、プロの目である。俺がそうやって見ていると、彼女はへぇ、と感嘆した声をあげた。

 

 

「これは凄いですね。純度から何までかなり高いし、金で周りをグルッと囲んでるのも中々……そうそうお目にかかれない良い宝石です。こちらをネックレスにするんですね?」

 

 

「ええ。お願いします。代金の方はこれで足りますか?」

 

 

俺は一つクリスタルを取り出して彼女に見せる。まぁあの大きさならアミュレットになるかもだが、加工する手間賃を合わせて足りればいいが。

 

 

「大丈夫ですよ。むしろお釣りがくる位ですが……」

 

 

マジか。でもクリスタルは換金以外には使わないし、金はギルドで稼げるからなぁ……あ、磨き油とそれ用の布を付けてもらうか。

 

 

「じゃあ鎧用の磨き油と布、それと出来上がったら宅配してもらえますか?」

 

 

「宅配、ですか?」

 

 

俺は彼女にクリスタルを渡して頷く。俺は今日でここをしばらく離れるからな。釣りがくるならお願いしといていいだろ。

 

 

「はい。ギルドの受付のミリア・カールという女性に。この間お世話になったのでね」

 

 

「あら、ミリアちゃんにですか?ふふ、ハードル高いですよ?」

 

 

お世話になったと言っているにも関わらずカラカラ笑いながら勘違いする知り合いっぽい彼女。まぁ確かに美少女であったし、フラグが立てばガッツポーズものだがさ。ってかやっぱりそういう風に見られるか……ならちょっとノってみるか。レオナルドには悪いがね。

 

 

「ハハハ、ハードルが高くても越えるまでですよ……なんて、言っても今日でここをしばらく離れますが」

 

 

「残念。しばらく話に事欠かないと思ったのに」

 

 

そう軽口を叩きながらも作業を開始する彼女。すでに二つのクリスタルをカウンターに置いて、磨き油と布を棚から引っ張り出している。

 

 

「はい、これですね。磨き油が三つとそれ用の布が六枚です。宅配は出来上がり次第で?あとお釣りです」

 

 

「えぇ、お願いします。お釣りは手間賃で取っておいて下さい」

 

 

「じゃあ貰っておきますねぇ~」

 

 

ペンキ缶の様な大きさの丸い磨き油と白い他とは違うちょっとゴツめの布が置かれたのを重ねたりしてまとめて、返事をする。お釣りは銀貨六枚だったが、言うや否や即行で引き戻された。手間賃で、の部分でもう動いてたな……流石商人。

 

 

そう思いながら、デザインは俺のセンスが無いので彼女に一任することにして俺は磨き油と布を抱えて店を出た。即座にPip-Boy3000に入れたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

あれから特にやることも無くなった俺は公爵家に戻り、部屋で洗濯機と乾燥機を出していた。勿論、今のうちに洗濯しときたいからだ。

 

 

「えっと……上手く洗えるかわからんが、まぁいけるか」

 

 

大きさは両方共に1m20cm程で、ドラム式。魔法石で動いているので機械を入れていないから容量も少し多くなっていた。金属製のそれらの上部には洗濯機には青色の宝石、乾燥機には緑色の宝石がつけられており、これが魔法石とやらだろう。そのすぐ下には小型の時間表示のディスプレイと開始と停止のボタンがついていた。

 

 

俺はそれに変な感じを覚えつつ、Pip-Boy3000からCND(コンディション・耐久値)最大の傭兵服アドベンチャーと傭兵服チャーム、傭兵服トラブルメーカー、ウェイストランドレジェンドの服、トレーダーの服をぶちこんでスイッチオン。すると不思議な事にどこからともなく水が出てきて普通に洗濯しだした。

 

 

「なんとまぁ……魔法ってば便利なもんだな。それに20分しかかからないのか」

 

 

無駄にそこだけハイテクなディスプレイに表示されているのは20の数字。排水とかどうしてるんだとめちゃくちゃ思うが、そこら辺は魔法だからということだろうと自己完結。深く考えても進まないしね。

 

 

その間に俺は落ち着いて見ていなかったPip-Boy3000を弄って中身確認。ラジオが聞けないのは勿論のこと、他にもゲーム内でやっていたクエストは全て消去。マップも切り替わり、メモも神様からの手紙とギルドでの魔物と化け物情報以外には無い。手持ちのアイテムは無駄に集めまくったゴミみたいなのもあり得ない位所持している。水はきれいな水とアクア・ピューラ、ヌカ・コーラがあるので問題なし。ヌカ・コーラは1RADしか上がらないから気兼ねなく飲める。

 

 

現に今飲んでるんだが普通に美味い。ウェイストランドにヌカ・コーラが普及してた理由がよくわかる。流石にヌカ・コーラクアンタムには怖くて手をつけられないが……だってあれは放射能を直のみしてるもんなんだからな。飲んだ後に尿が光るらしい。

 

 

「お?終わったか」

 

 

飲んでいたヌカ・コーラを置いて洗濯機から中身を出す。うん。大丈夫だ。あとは同じ作りの乾燥機に入れて、再び開始。その際に同じまだ持ってる服を洗濯機に入れておく。傭兵服シリーズはレギュレーター・ロングコートと同じくここの世界じゃ別段不思議がられない服装だから今のうちに準備しとかないと。それほどひどく汚れている訳じゃないが、今までそういうのを着て過ごすことはまず無い生活だったのでなんか嫌だからな。

 

 

「あ、パワー・アーマー磨かないと……」

 

 

そういえばと思い出した俺は、せっせとパワー・アーマーシリーズを順番に磨くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「もう、行くのかい?」

 

 

「あぁ……ライルさん、サーシャさん。お世話になりました」

 

 

時間は飛んで一気に深夜。俺はヤオグアイと一緒に公爵家一家とレオナルドに見送られる形で門の前に立っていた。時間が経つのが早いのは気にしないでほしい。ちなみに今俺はここに来たときと同じ装備で綺麗になったパワー・アーマーを着込み、ヤオグアイには果物の籠を持たせている。なるたけ怪しまれない様にしたいからな。

 

 

「いや、こちらとしてはもう少しもてなしてやれればよかったんだがな……」

 

 

「ホント、それにヤオグアイちゃんと会えなくなるのは寂しいわ」

 

 

「ハハハ、ありがとうございます」

 

 

サーシャさんが他のヤオグアイに突撃しないかひどく心配になりながら、もう何度目になるかのやりとりをし、俺は二人に頭を下げてサテラとレオナルドに向き直る。時間は短かったが、思えばこちらの世界での初めての同年代の友人になるからな。

 

 

「コウヤ、しつこい様だが改めて礼を言わせてくれ。ありがとう」

 

 

「またバルムンクにいらっしゃる事があれば立ち寄って下さいね?」

 

 

「あぁ。その時はまた、顔を出すとするよ。そうだ、結婚式には是非とも呼んでくれよ?」

 

 

「コ、コウヤ!」

 

 

「ふふふっ、勿論です」

 

 

別れの挨拶がてらからかうと、顔を赤くするレオナルドと同じく顔を赤くしているが素直に頷くサテラ。うぅむ……何か吹っ切れた感じが否めないな。やっぱり俺のせい?

 

 

「では、また会う日まで」

 

 

「ガルル」

 

 

そして二、三言話してから、特別に開けてもらった門をくぐって俺達は外に出た。さらばバルムンク!そしてようこそ未知なる世界!


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