いきおいトリップ!   作:神山

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十八話目

あれからしばらく二人で話し、なんだかんだで仲良くなった俺達はアイザックの部屋から出て通路を歩いていた。

 

 

「受付から報酬を貰うと良い。他の職員は……丁度休み時間か。まぁフェリカがいるから遠慮なく貰っとけ。デスクロー分は勿論追加しとく」

 

 

「わかった。じゃあ俺は今日の宿でも探しに行くとするよ。明日、魔法について聞きに来る」

 

 

「おぅ」

 

 

腕時計を見ているアイザックの返事を聞いてから俺はヘルメットを被って扉に手をかける。すると後ろのアイザックがそういえば、とポンッと手を叩いて俺を止めた。

 

 

「俺イチオシの宿があるんだが……そこの一泊タダ券をお前にやろうとして部屋に忘れてた。期限が今月いっぱいで、俺は休みが取れそうにない。勿体ねぇから使ってくれや」

 

 

「あぁ、悪いな」

 

 

「中々面白い話が聞けたからよ。その代金って事で。取ってくるからちょいと待っててくれ」

 

 

「了解。依頼見てるか、フェリカちゃんと話してるよ」

 

 

ナンパすんなよ~、と手をヒラヒラさせながら戻っていくアイザックにやれやれと思いながら扉を開くと、ちょうど他の冒険者の依頼を整理し終えたフェリカちゃんが座っていた。うぅむ、耳が長いからエルフでいいんだろうか?

 

 

「あ、戻られたんですね。マスターから聞いてます。報酬はこれです」

 

 

後ろにいるのもなんなのでカウンターの前まで行くと、フェリカちゃんが両手で恐る恐るといった具合に報酬を差し出してきた。はて?

 

 

「え、えっと、これがデスクロー分の白金貨20枚、20万ゼニーです……はわわ、あんな大金初めて持ったよ」

 

 

俺としてもビックリな額を俺も恐る恐る手に取って数えた後に、即行でPip-Boy3000に入れる。今はパワーアーマーだからポケットないし、落とすとかなったら洒落にならないからな……小声のフェリカちゃんの発言に軽く萌えたのは秘密だ。

 

 

「それと、こちらが部位報酬と常時討伐依頼分の白金貨3枚と金貨8枚、そして銀貨6枚と銅貨5枚に鉄貨7枚の38657ゼニーです。お、お疲れ様でした!」

 

 

「あぁ、ありがとう」

 

 

今度はまぁ上位種も含めてあれだけ狩ればいくだろう金額だったので、変に安心しながら金をPip-Boy3000に入れる。何だか一気に金持ちになったな……こないだまでの微妙に金の無い生活とこうも早くおさらばするとは。収入と支出のバランスがまるでなってなかったから、今回のは非常に嬉しい。変に高価な買い物をしない限りは一年はまず遊んで暮らせるぞ。

 

 

「じゃあとりあえず、達成した分の常時討伐依頼をまた受注しておいてくれないか?」

 

 

「あ、はい。わかりました」

 

 

フェリカちゃんにギルドカードを渡して水晶に翳してもらい、依頼をカードに読み込ませる。そしてカードを返してもらい、やっぱり水晶について気になったので思い切って聞いてみる事にした。アイザックには田舎者と言ってるから、なんとかなるか……な?

 

 

「なぁ、フェリカちゃん。毎度疑問に思ってたんだが、その水晶って何なんだ?」

 

 

「え?あぁ、これですか?これはですね、ヴィスタという魔水晶です。世界中の各ギルドの情報がここに詰まってるんです。例えばギルド員の皆さんの情報とか依頼とか諸々。それはこの水晶の特性で、登録されているギルドの物は常に最新の情報を共有出来るのです。どうしてなのかは未だにわかってないらしいですけど」

 

 

ふぅ、と一気に喋ったからか一息ついて、良いですかとの確認に頷き、戻ってきたギルドカードをPip-Boy3000に入れた。まぁ要はパソコンみたいな物だろう。というか、コレ無しだと本当に大変な事になりそうだな。

 

 

「そういうのだったのか……ふむ。ありがとうな」

 

 

「い、いえいえそんな……私はお仕事しただけですからー」

 

 

ブンブンと首を振りながらお礼なんて~とつっかえながらも妙に間延びした声で遠慮してくるフェリカちゃん。そこまでされると何だかな……感謝されなれてないとかか?

 

 

と、それからしばらくフェリカちゃんの可愛らしい対応に癒されながら話していると、急に何やら騒がしい集団がギルドに入ってきた。人数は……八人?

 

 

「だーかーらー!ついてくるなっていってるでしょ!」

 

 

バンッと勢い良く開いた扉の方へ向くと、赤い髪を肩まで伸ばして制服らしき物を着こんだ少女が横にいる気障ったらしい金髪のイケメン君に怒鳴っていた。残りの六人は半分がイケメン側でニヤニヤしてて、もう半分が怒りを込めた目でそいつらを睨んでいた。なんか大体の展開が読めた気がする。

 

 

「相変わらず恥ずかしがり屋だね、ララ君。このナルシィ男爵家三男の僕が!一年生の中でも実力がトップ20の僕が!こんなに君を好きだというのに!あぁ、僕は君を――」

 

 

ララというらしい少女に向かってやけに芝居がかった風に家名と実力?を強調し、一人話を続けるナルシィ男爵家の三男くん。実際そんな凄そうに感じないのは気のせいか……?いや、確かにトップ20というのは凄いんだろうけども。なんだかなー。最初に会ったのが公爵家だったからなー。それにララとかいう子とその友達、無視して依頼の掲示板に行ってるからなー。

 

 

「フェリカちゃん、何だあのウザったいのは。学生だよな?」

 

 

「あはは……あれは私と同じクラスの一年生の子達です。課題でギルドの依頼をこなすのがあったのでそれだと思います。あ、私は勿論もう終わってますよ?」

 

 

「へぇ~、っていうかフェリカちゃん一年生だったのか。もうちょい上かと思ってたぞ」

 

 

「むっ、コウヤさんそれってどういうことですか?」

 

 

「[LadyKiller]フェリカちゃんが魅力的な大人の女性ってことさ。少なくとも俺はそう感じた」

 

 

「[成功]はわわわ、み、魅力的だなんて……」

 

 

受付のカウンターに寄っ掛かりながらフェリカちゃんと話す。するとフェリカちゃんが顔を真っ赤にして、テンパりだした。あれ?スキルが勝手に……俺今もしかしなくてもアイザックが言った通りの事をしてるか?ちなみに今ヘルメットは外して話してます。女性と話すのにフルフェイスヘルメットは駄目だろう?

 

 

「フェリカ~、課題で来たんだけど……って、何してるのよ?」

 

 

やっちまったと思っていると、先程のララが依頼の紙を持って受付のフェリカちゃんに差し出していた。しかしフェリカちゃんは顔に両手を当てていやんいやんと口に出しながら首を振っており、聞いていない。それを見たララちゃんが、いきなりフェリカちゃんにチョップした。うむ、手慣れた感じだったな。

 

 

「いたっ!もうっ、何するんですか!」

 

 

「あんたがクネクネしてるからでしょうがっ」

 

 

「へっ?あ、ララ……」

 

 

ため息をつきながら言うララちゃんに、フェリカちゃんの顔がより赤くなる。しかし仕事は忘れてない様で、手慣れた手つきで依頼の受注をこなしていく。

 

 

「お?フェリカもようやくこの仕事に慣れたって感じだな?」

 

 

「うん、お陰様で。ガリバー君やマイルズ君、それにララやルーシーが何度も来てくれたからだよ」

 

 

「最初は見るに耐えなかったからねぇ。対応はガチガチ、カードは落とすしコーヒーをマスターの頭にひっくり返すなんてのもあったね」

 

 

「こらマイルズ、あんまりフェリカをからかうんじゃないの」

 

 

緑色のツンツンした短髪のガタイの良いイケメンがガリバー、空色の髪をウルフカットにして細マッチョなイケメンがマイルズ、そして紫色の艶やかな髪を腰までのポニーテールにして極めて女性的な体型をしている美人がルーシーのようだ。その点で言えばララは小柄でぺったんこだが美少女といえる。フェリカちゃんが一人一人を順番に見てから言っていたので間違いないだろう。本当に、この世界のイケメン・美女率はなんて高いんだろうか。

 

 

「じゃあフェリカちゃん、俺はそこらに座っておくとするよ。アイザックが来たら教えてくれ」

 

 

「あ、はい。わかりました。マスターが来たらお呼びします」

 

 

せっかく友人がいるのに俺がこのままいるのもどうかと思うのでその場から離れて空いた席に向かう……と、その前に横の酒場のカウンターで昼飯でも頼むか。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

Side三人称

 

 

コウヤが背を預けていたカウンターを去り、酒場のカウンターに昼食の注文をしに行ったのをなんとなく見届けたララ達は、フェリカからララをパーティリーダーとしたカードを受け取りながら質問をした。

 

 

「ねぇ、フェリカ?なんだか随分仲良さげだったけど、あの人誰なの?」

 

 

「それにうちのボケ兄貴を呼び捨てにしてたみたいだし……」

 

 

ルーシーが可愛らしく人差し指を顎につけ、うーんと考える仕草をしながらフェリカに問えば、ララも続けてフェリカを見た。実はララことララ・ザクレブはギルドマスターのアイザック・ザクレブと兄妹だ。これはこの学院メンバーの中では周知の事実である。似ているのは赤毛ということと整った顔立ちという、コウヤが聞けばカール兄妹を思い出す事だろう。

 

 

「そうだな、大分治ったとはいえ人見知りのフェリカが普通に接してるから悪い人じゃなさそうだが……」

 

 

「うん。でも珍しい鎧着てたね。あと遺物使いみたいだし」

 

 

ガリバーはその筋肉質な腕を組み、マイルズはニコニコしながら答えた。マイルズとフェリカ以外は遺物と聞いてもう一度コウヤを見れば、注文を終えて腰に付いている遺物がここからよく見える席についていた。

 

 

「あっ、本当だ。珍しい物見たわね」

 

 

「でもあれってもの凄く高いんでしょう?っていうことは、あの人って貴族の方かしら?」

 

 

「可能性はあるな。で?フェリカ、結局誰なんだあの人?」

 

 

デスクローの件のせいか、コウヤの周りの机には誰も座っていない。それで更に不思議に思いながらガリバーは苦笑しているフェリカに聞いた。

 

 

「あの人は今日この学院都市に来たばかりの旅人のコウヤさん。さっきまでマスターと話してたんだけど、なんだか仲良くなったみたい」

 

 

へぇ、と全員が軽く驚いた表情をする。それと言うのも、アイザックは基本的に気分屋で皮肉もよく言うので他人から見れば誤解されやすいのだ。よくつるんでいるララの兄ということで、このメンバーはよくアイザックと会っているために慣れたが、初対面の人とこうまで親しくなったアイザックを妹のララでさえ見たことが無かった。

 

 

「まったく、目の前にいないと思ったらこんな所にいたのか」

 

 

「げっ」

 

 

しばらく見ていたコウヤから目を離し、今回の依頼のランクEⅠ、マジカ・ゴブリン――魔術を使うゴブリン――を含めたゴブリン10匹の討伐のためにさぁ行こう!……とした矢先、先程まで一人で寸劇を続けていたナルシィ男爵家三男こと、ストデス・ナルシィと取り巻き三人がララ達の前に躍り出た。

 

 

「あんたまだいたの……」

 

 

「君がいるならどこへでも現れるさ」

 

 

「それってストーカーじゃね?」

 

 

「言えてる」

 

 

ストデスが髪をかきあげながら気障ったらしく言っている中、ガリバーとマイルズはストデスを見ながら肩を寄せあいヒソヒソとドン引きした目で話している。それに気づかないストデスは、うんざりしているララの手をとり、懐から緑色の物体を取り出す。ララは鳥肌がたった。ルーシーに至っては横で口を押さえていたりする。それほどまでに、うざかった。

 

 

「今日は君にこれをプレゼントしようと思ってね。とても珍しい物なんだよ?ほら、ここを押すと……」

 

 

「……なんか音が出だしたわね」

 

 

「見事なまでに等間隔でランプが点滅してるけど……で?」

 

 

誇らしげに胸を張るストデスだが、取り繕う取り巻き以外のそれで?という視線が突き刺さる。確かに物珍しい物であり、約20cm大の先は尖っており真ん中は太く四つ突起が下についている。そして穴が空いていて、側面には先程ストデスの押したボタンが赤く点滅し、ピッピッと等間隔に音を出していた。しかし、この道具の用途のわからないララ達にとっては、邪魔なものでしかなかった。その後その視線に耐えられなくなったストデスが男爵家御用達の商人から買ったアンティークだと必死に説明していると、奥に座っていたはずのコウヤがこちらに歩いてくるのがララ達に見えた。

 

 

「あれ?さっきの人がこっちくるよ?」

 

 

「あら、本当ね?でも何だか焦ってる顔してるわよ?」

 

 

マイルズとルーシーが最初にコウヤに気づくと、背を向けているストデスのグループ以外はコウヤに気づいた。そして何をするのかと見ていると、いきなり――

 

 

「よし、少年。動くな」

 

 

「「「「なっ!?」」」」

 

 

――ギルド中が驚く中で、どこからともなくサバイバルナイフを取り出し、ストデスの首筋に当てた。

 

 

「コ、コウヤさん!?一体何を!?」

 

 

「[strong]あぁ、そのままそのまま。全員死にたくないなら……そこのララちゃん達も動くんじゃない。特にララちゃんと少年は手も足も、指先に至っても絶対に動かしたら駄目だ」

 

 

「[成功]わ、わかったわ……」

 

 

コウヤのいきなりの行動にフェリカがカウンターから身を乗り出すも、消音器付き10mmピストルを即座に構えて銃口をララに向け、コウヤのその口調からは信じられない程の重圧を感じる言葉を発した。今丁度この時にこの場にいるのが学生を含め、ランクの低い者達だったというのも災いし、全員の動きが止まる。特に間近で聞いた9人は最悪だった。ストデス側の人間は特に顔が青ざめ、ララ達も手足が震えるが、ララとストデスはコウヤの命令で指先一つ動かすことが出来ない。

 

 

「良い子だ。そのまま絶対に動くなよ?」

 

 

コウヤがナイフを収めて、ララに向けていた消音器付き10mmピストルをホルスターに入れる。そしてコウヤは二人の手の上にある緑色の物体に近づこうとストデスから離れ――

 

 

「……うぁ」

 

 

「あ」

 

 

「馬鹿野郎!!」

 

 

――すると、コウヤがナイフを収めたからか、ストデスがいきなり気絶し、ララも銃口が下がって少し気が抜けた矢先だったので二人で支えている形だった緑色の物体がバランスを崩し、落ち始める。しかし、コウヤが飛び込みそれを抱える事に成功すると同時に、音が鳴りやんだ。




クエスト メガトンへ

◇メガトンへ向かう。

◇[オプション]フェルナンド魔法学院都市で魔法について調べる。

◇[オプション]帝国を経由する。

◆[オプション]お金を貯めつつ旅に馴れる。

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