いきおいトリップ!   作:神山

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十九話目

 

 

「ふぅー……」

 

 

俺はカウンターに突っ込んで逆さを向いている状態で一息ついた。全員が俺の行動に驚いた顔をしてくるが、とりあえず間一髪……!

 

 

「あ、あの、コウヤさん……?」

 

 

「ん?あぁ……すまんなフェリカちゃん。怖がらせたか?ララちゃん達も、もう動いて良いぞ」

 

 

フェリカちゃんが少し青ざめた顔で恐る恐る聞いてくるのに苦笑しながら、未だに固まっている全員に逆さまで声をかける。すると俺がスキルを使わないで威圧感を無くしたからか、全員が息を吐いた。と同時に、フェリカちゃんの後ろのドアが開きアイザックが手に紙を持ちながら出てきた。

 

 

「う~ぃ、見つかったぞコウ……って何やってんだお前?アホなのか?」

 

 

「やかましい。それが命の恩人に対して言う言葉か?」

 

 

「はぁ?」

 

 

逆さまになってる身体を戻して立ち上がり、アイザックに向き直る。そして今起こった事の一部始終を話す。その事にアイザックは頭をかき、俺から目線をずらして横にいる息の荒いララちゃんに目を向けた。

 

 

「まったく、まだこのガキは言い寄ってやがるのか……おいララとお前等!まだこのガキに対処してねぇのかよ?」

 

 

「う、うるさいわね!ちゃんとしてるのに勝手に言い寄ってくるのよ!そ、それとあんた!いきなり脅すなんて何考えてんのよ!?」

 

 

俺が目を向けると若干ひるんだものの、ビシッと指を指して一気に捲し立てたララちゃん。その後ろの3人も警戒心バリバリの視線を向けてくる。足が震えてビビッているのが丸わかりだが。間にいるフェリカちゃんがオロオロしているのがかなり申し訳なく感じるぞ。

 

 

「それに関しては素直に謝ろう。でもな?そうでもしないと君達はコイツを渡さないだろう?」

 

 

「コイツが話に出てたやつか……で?コウヤ。それが何で命の恩人なんて大層なもんになるんだ?」

 

 

「そうだよ。それは確かに物珍しいけど、ただの音の鳴るアンティークか何かでしょ?」

 

 

俺はララちゃんに少し頭を下げて、未だに両手で持っていた緑色の物体こと、ミニ・ニュークをカウンターに立てる。それをしげしげと見るアイザックとフェリカちゃん。ララちゃん達も同様に不思議そうにそれを見ていた。それに加えてマイルズ君が妙に落ち着いた声で疑問を投げかけてくる。

 

 

「コイツを知らない君達にはそうとしか見えないだろうけど、コイツはれっきとした兵器だ。それもかなり強力な、な?」

 

 

「……嘘だろ?」

 

 

俺はPip-Boy3000から何故か入っていた解体用工具を取り出して机に並べつつ、そう言った。ガリバー君が驚いた声を出すが、俺はそのまま作業を開始する。このまま俺が持っていっても良いんだが、またこんなことが起きたら目も当てられないからな。アイザックに渡しておこう。軍事利用されない事を祈るばかりになってしまうけど、気がつけば爆発に巻き込まれて死んでましたとかは嫌だからな。

 

 

「これはミニ・ニュークと呼ばれる小型核弾頭だ。遺物の一種で、どの遺物よりも攻撃力、破壊力共に優れている。ここら辺一帯は軽く吹き飛ばせる位はな」

 

 

「じゃああなたが命の恩人なんて言うのは……」

 

 

「あぁ。すでに起爆スイッチが入っていたんだよ。あの音が出始めたスイッチな?あのまま地面に落ちていたら俺達と街の住民は即死、もしくはギリギリまで苦しんでから死んでいただろうよ」

 

 

「「「……っ」」」

 

 

そう。これはゲーム内でも屈指の攻撃力を誇る小型核弾頭だ。ゲームのエフェクトでも凄い威力だったのに、現実であるこの場で使えばここら辺一帯が人の住めない地帯になるのは確定だ。ゲームみたいに建物が壊れない訳がないし、下手をすればグールになってしまう人達も出てくるはずだ……まぁ、この身体がゲーム通りなら直撃してもなんとか生きていそうな気もするけど、試したくはない。

 

 

「しかもコイツは化け物共を生み出す放射能……毒って言った方がいいか。それを出すんだ。亜人はどうなるかは知らないが、少なくとも人間がそれを浴びれば耐性の無い奴等は大抵病気になる。それもかなり酷いものにな。そしてそのまま死ぬか、最悪外にいるフェラル・グールの様になるぞ」

 

 

「ちょっと待て。ということは、あいつらは元は人間だったのか?」

 

 

「その通り。あれは放射能を浴びて狂った人間の成れの果て……まぁあれは純粋に化け物として処理しても構わんよ。すでに完全に理性は無い」

 

 

「……そうか」

 

 

どこか納得のいかない様なアイザックだが、俺にはどうすることも出来ない。ただ事実を言って、後考えるのはあいつ自身だ。横にいるララちゃん達とフェリカちゃん、更に話を聞いている恐らく人を殺したことの無いギルド員達が沈んだ顔をするのがわかる。フェラル・グールは単体だとランクが低いので、初心者の相手にもよくされるのだ。だからだと思う。

 

 

「あぁ、しかし全部が全部そうなる訳じゃない。意識を残したままグールになる人達もいる。姿形は変わってしまうが、同じ人間ということは変わり無い。差別と偏見により不遇な待遇を受ける人達が多いが、君達がそうならない事を祈るよ……っと。出来た」

 

 

「ん?何してたんだ?」

 

 

いち早く一応立ち直った様なアイザックが聞いている中、ふぅ、と一息つく。知識やこの身体の経験でどこをどう弄れば良いかわかるけど、俺としては爆弾、しかも核弾頭解体なんて初めてだから精神的に疲れた。とりあえず起爆装置を解除してスイッチを押しても起動しないようにしてはいるが、メガトンの不発弾と同じく強い爆発には耐えきれずに誘爆する。要は直接銃をぶっぱなされたり、魔法で吹き飛ばされたりしない限りは大丈夫ってことだ。

 

 

「コイツの起爆装置を解体してたんだ。これで横から魔法で吹き飛ばされたり、遺物をぶっぱなされたりしない限りは落としたとしても大丈夫だ。ほれ」

 

 

「うおぉぉぉっ!?馬鹿野郎!こんな危ないもん投げんじゃねぇ!」

 

 

「だから大丈夫だっての」

 

 

冷や汗をダラダラ流しながらも両手で見事にキャッチしたアイザックに苦笑しつつ、工具を片付けていく。そして俺がヘルメットを置いている机に目を向けると、頼んでいた料理がいつの間にか置かれていた。

 

 

「そいつはアイザックに任せる。ギルドで会議に出すだの取締を強化するだのしてくれ。気づいたら爆死してたとか嫌だからな」

 

 

「あぁ、クソッタレめ。面倒事押し付けやがって……まぁ俺もそれだけは嫌だからな。各地のマスター達に話を出しておくさ。信じてくれるかは別にしてな」

 

 

「文句はそこで伸びてるガキに言え。あと、信じてくれなかったら俺を呼べばいい。それと本っ当にどうなっても良くて生き物が通らない土地を一つだ」

 

 

実際のところ、信じてくれるかどうかは可能性が限りなく低い。ここにいる奴等も本当に信じてくれているかは甚だ疑問だが、少なくとも俺の必死さは伝わったはずだ。それにアイザックには質問の時に遺物の研究者とも言っているので、アイザックとララちゃん達に関しては大丈夫だと思う。

 

 

「実況見聞ってか?そんな土地があるとは思えねぇがな。それにこのクソガキにも入手ルート聞かなきゃならねぇし、その後は調べて纏めて……あぁ、また俺の仕事が増えるぜ。どうしてくれんだこのタコ野郎」

 

 

「それが嫌なら会議で通せ怠け者。遺物に関しての調書位は俺が纏めておいてやるから、これ以上書類が増えたくなきゃ働け。それがお前の仕事だろうギルドマスターさん?」

 

 

「あぁ~、やだやだ。お前実力あんだから俺とギルドマスター代われよ。マスター権限使い放題だぞ?」

 

 

「生憎俺は放浪癖があってね。そんな書類に囲まれた窮屈な暮らしはする気はない」

 

 

「放浪癖とか、何だそりゃ?」

 

 

肩を竦めながら言う俺に、くくくっ、と笑うアイザック。それを真横で見ているララちゃん達が何故だか驚いた顔をしているのがわからない。

 

 

「あぁ~っと、忘れる所だった。コウヤ、これが言ってたタダ券だ。あくまで一泊だけだから後は自分で金払えよ」

 

 

「了解。で?場所は?」

 

 

名刺サイズの紙をPip-Boy3000に入れる。紙にはタダ券と有効期限しか書いてなかったからアイザックに聞かないと何処にあるのかさっぱりだ。とりあえず昼飯を食ってから行くつもりだが、ハズレじゃない事を祈るのみだな。

 

 

「あぁ、そういや書いてなかったか。ここから出てレスト通りの中間点にある宿だ。女将の親の店がバルムンクにもあるって聞いたが……まぁ看板が出てるからわかる。飯屋も兼ねてるリーフレットって所……ってどした?」

 

 

「……ゑ?」

 

 

アイザックの言葉を聞いて固まった俺は、悪くないと思うんだ。え?系列店?いや、親で女将って事は娘さんでいらっしゃいますか。最初に昼食を自分の金で食ったのもリーフレット、最初の旅の準備もリーフレット……俺はリーフレット家に余程縁があるらしい。


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