いきおいトリップ!   作:神山

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二十話目

あれから飯を食ってギルドを出た俺は、面倒だったので裏路地を通ってまっすぐ突っ切る事でレスト通りに向かっている。パワーアーマーはたまにある狭い道で傷が出来るのが嫌だったので、現在傭兵服・クルーザーに着替えた。これは白い半袖シャツに黒い革ジャケットを羽織り、黒いズボンにブーツというかなり動きやすい服装だ。道中出てきた不良や物取りには鉄拳制裁を加えて、逆に身ぐるみ剥いでやっている。というか、エンカウント率が何故か高いんですが……。

 

 

「ヒャッハー!ぶっ殺してやんよ!」

 

 

「死にたくなかったら金出しな!」

 

 

「またか……」

 

 

考えていると、何処かで聞いたようなセリフとモヒカンヘッドをしている物取り共が、口元をにやけさせ舌をべろべろと出しながらナイフを構えて俺の前後を塞いだ。この裏路地は、通りに面した店と店の間とはいってもその間は結構広い。その間にも店とかが幾つか並んでるし、居住区なんかも見つけた。どこかに隠れた名店とかもありそうな雰囲気だから、暇な時にでも見てみるのもいいだろう。

 

 

「聞いてんのか「汚物は消毒、だーっ!」びょっ!!」

 

 

「て、てめぇ!やりやが「だーっ!」ばぁっ!」

 

 

とりあえず邪魔な二人を会話する事なく掛け声と共に殴り飛ばす。この二人で大体30人程度を殴ったり蹴ったりした俺は、大まかな手加減を身につける事に成功した。最初は加減を間違えてバルムンクの不良共の如く粉砕骨折をさせたり、『頭ねじ切って玩具にしてやるぜぇ!』的な感じに何人かの頭をポンポン飛ばしてしまったものだが、今は軽い骨折や気絶をさせられるようになった。

 

 

「くそっ、てめぇぶっ殺し「だーっ!」てぶぅっ!」

 

 

……まぁ力加減が弱すぎると一発じゃすまないから、何度か殴る必要が出てくるんだがね。それと、うっかり殺してしまったやつらは火炎放射器で焼いてそこらに埋めて証拠隠滅し、目撃者は文字通りグールの顔になれるグールマスクをつけてちょっとお話したので多分大丈夫。しばらく夢にグールが出る事になるだろう。

 

 

「ふぅ、やっと出れたか」

 

 

案外あそこからは近かった様で、あの二人の不良から有りが……もとい、勝利報酬をPip-Boy3000で巻き上げた俺はレスト通りに出ることに成功した。少し血がついた傭兵服・クルーザーは、また同じのに着替えたので問題ない。後で洗濯しようと思う。

 

 

レスト通りは学院側には高級ホテルの様なものが通りを挟んで2つずつ並んでいる。そしてそれから先は大小様々な宿が立ち並んでおり、軽く見て回っただけでも同じ様な店は1つも無かった。まぁ、こういう所の競争に勝ち抜く為にはいかに他よりも優れていてオリジナリティがあるかだしな。ちなみに俺が出てきた場所は裏路地をクネクネ進みながら来たため、中間点にあったギルドから離れて学院側に出てたので少し歩くはめになってしまった。その分見て回れたから良いんだけどさ。

 

 

「で、ここが宿屋リーフレットか……中々良いじゃないか」

 

 

辺りを見物しながら進んでいくと、周りに幾つかある煉瓦造りではなく木造ではあるが、中々に味のある店構えをした宿屋リーフレットを発見した。木で出来た看板には店の名前の左上と右下の角に植物の彫刻が彫られてあり、どこか気品を感じさせる。それと、バルムンクと同じく飯屋も兼ねている様でオススメメニューの書かれた紙も張られていた。

 

 

「まっ、突っ立ってても邪魔になるから入るかね」

 

 

同じく木製のドアを開けて入ると、内観はバルムンクの店に似ていて2階が部屋で1階が食事場になっている。しかし本分は宿屋なのか、食事場はバルムンクよりも狭い。その分部屋数が多そうだ。奥には風呂っぽいのも見受けられたので、ここは当たりだ。アイザックが推すだけあるな。ちなみに風呂は必ず宿屋に有るわけではない。魔法で沸かす訳だが、そのための道具がそこそこするそうだ。中にはすでに何人か客がいるので、結構儲かっているんだろう。

 

 

「いらっしゃい。そのナリからすると、冒険者みたいだね。ちょっとカウンターにでも座って待ってておくれよ」

 

 

俺がこの店に満足していると、お盆に料理を乗せた美人の女性が声をかけてきた。他にも従業員はいるみたいだが、恐らく彼女がアイザックの言っていた女将だろう。他と感じが違うし、何よりかなり美人だ。シエナさんとブラッドさんと同じ茶色の髪を纏めて毛先が上に来るようにブローチで止めている。前髪は右目が隠れる様に鼻先まで伸びていて、左目の方はかきあげている。それに身長も高く、170cm以上はあるだろう。俺が180cm以上なので少し見下ろす感じになる。体系はスラッとしてて色白のボンッキュッボンッ!口調がシエナさんみたいだったから、姉系の人にはドストライクだろう。かく言う俺も当てはまる訳だが。

 

 

「待たせたね。で?泊まるのかい?」

 

 

「ええ、しばらく泊まるつもりなのでお願いします。お代は?」

 

 

「あぁ、朝夕の飯と風呂付きで一泊180ギルさ。昼は言ってくれれば別途で作るし、他で食べてきてもいい。味も部屋も抜群さ。どうする?」

 

 

先程の料理を客に渡し終えた彼女がカウンターに座っている俺の前にやって来た。一泊180ギルか……まぁ金はあるし、なによりこんな美人さんに毎日会えるんだから安いもんだ。今までは金の節約のためにボロっちいけど一応風呂のある安い所ばかりに泊まってたけど、金も手に入ってるし年単位で泊まれるから何の事はない。

 

 

「そうですね……とりあえず一月分で。それと、これをアイザックからもらったんですが……使えます?」

 

 

「?アイザックってギルドマスターのかい?」

 

 

「ええ」

 

 

Pip-Boy3000からタダ券を出して彼女に渡すと、何やら怪訝そうな顔をされた。それから2、3度タダ券を見てからため息をつき、俺に見せるように机の上に置いた。

 

 

「はぁ……その分じゃあの馬鹿には聞いてないみたいだね。これは『去年』私があの馬鹿も含めた常連客に渡した物さ。『去年』ね」

 

 

「……あの阿呆がっ」

 

 

やけに去年を強調して言ってくる彼女に恥ずかしくなりながらも、アイザックに憎しみを込めて小さく愚痴る。期間は丁度今。つまりは丸々一年間放置してたのを掴まされた訳だ。多分あいつには期間とかは見てなくて、タダ券という部分だけしかわかっていなかったんだろう。

 

 

「ふふっ、まぁいいさ。私は今機嫌が良いからね。一泊分はこれでタダにしてあげるよ」

 

 

「おぉ!ありがとうございます!」

 

 

「まっ、その他のお代はきっちり頂くけどねぇ」

 

 

カラカラ笑う女将さんに思わず俺もつられて笑顔になる。たまたま女将さんの機嫌が良かったのは運が良かった。俺は一泊分を差し引いた5220ギルをPip-Boy3000から出して女将さんに渡した。そして一カ月間お世話になるわけだから自己紹介位しようと思い、女将さんが金を金庫にしまって鍵を渡してくるのを受け取りながら口を開いた。

 

 

「俺はコウヤ・キサラギといいます。これから一ヶ月、もしくはそれ以上になるかもしれませんが……お世話になります」

 

 

「あぁ、ご丁寧にどうも。私はこの宿を切り盛りするクレア・リーフレット。あんた最近の冒険者共よりしっかりしてそうだね。それに良い目をしてる。気に入ったよ。それにしてもコウヤ……どっかで聞いたような」

 

 

鍵を見ればチェーンで繋がれた薄い鉄板に104号室と彫られてある。それでふと階段を上がった先を見ればすぐそこだった。これはちょうどいい時に来たのかね。奥の方じゃなくてよかった。クレアさんが顎先に人差し指を当てて考え込むという、非常に可愛らしい行動に癒されたが、今は精神的に疲れているので部屋に行くとしよう。まだあと一カ月もあるんだ。話は急がなくてもできる。

 

 

「じゃあクレアさん。俺は疲れたので部屋に行きますね。夕食の時に呼んでください。多分寝てると思うんで、起こしてくれればありがたいです」

 

 

「ん?あぁ、わかったよ。その時になったら起こすからゆっくりしてな」

 

 

俺はそのまま階段を上がって部屋に行き、そのままベッドにダイブした。


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