いきおいトリップ!   作:神山

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二十一話目

あれから数日ぶりのベッドでぐっすり寝た俺は約束通りクレアさんに起こしてもらった。起きたら美人さんの微笑んでる顔が目の前にあるというある種の天国を体験できた事をここに報告しよう。

 

 

「しっかし、まさか父さんの足を治したのがあんただったなんてねぇ……はい、ガラガラ鳥の唐揚げ」

 

 

下に降りてクレアさんに話があると言われたためにカウンター席に陣取った俺は、バルムンクでも食べた今日の夕食であるガラガラ鳥の唐揚げ定食に腹の虫を鳴らせた。部屋から降りる時に少し聞いたんだが、クレアさんはやっぱりバルムンクのリーフレット一家の人間らしく、どうやらバルムンクのザックさん達から速達便で手紙が届いていたらしい。それにザックさんの足の事と、俺に会ったらよろしく伝えてくれと容姿と特徴を事細かく書かれた紙も同封されてたとか。

 

 

「ははは、隠す気は無かったんですがねぇ……俺としてもまさかここでもリーフレット一家の人に会えるとは露ほどにも思ってなかったですよ」

 

 

「まぁそうだろうさ。普通この学院に通ったり、冒険者だったりしない限りは大抵私らみたいな一般市民は生まれた国で一生を過ごすもんだからね。外は危ないし」

 

 

「[speech98%]へぇ、そういうもんですか。なら、話を聞いても?」

 

 

シエナさんの所の味に良く似ているガラガラ鳥の唐揚げを一口食べてバルムンクのシエナさん達を思い出しつつ、俺と対面して座り、机に肘をついているクレアさんに聞く。クレアさんは普通に休んでいるが、今日は他で夕食を取る人が多かったらしく、店は従業員だけで事足りるそうだ。そしてクレアさん、乗っています。何がとは言わないが、机に柔らかそうなのが乗っています。大事なことなので二回言いました。

 

 

「[成功]大したことないよ。私はバルムンクから出て、外の世界を見たかった。家はやりたい事や好きな事は存分にやれってのが主義だからさ、それに対して両親や兄弟は何も言わなかった。寧ろ店の1つも持てなかったら帰ってくるな!って言われたよ」

 

 

「あはは!あの人達らしい」

 

 

ザックさんやシエナさんがそう言ってる姿がありありと目に浮かぶ。短い間だったけど、底抜けに印象深い人達だったからなぁ。またバルムンクに行くときは、顔を出そう。シエナさんの宿に泊まるのも良いかもしれない。

 

 

「まぁ若気の至りってやつさね。おかげでここまで店を大きく出来たけど、未だに独り身さ。こんな性格だしね」

 

 

どこか自虐的な風に言うクレアさん。なんだか行き遅れみたいに言ってるけど、まだ20代前半にしか見えない。それかこの世界では本当にそうなんだろうか?感じとしては中世ファンタジーだし、寿命が短いんだろう。まぁ、どちらにせよクレアさんが落ち込むのは見たくない訳で。美人となればなおのこと!こういうときのスピーチスキル!

 

 

「[LadyKiller]あなたは若く、そして美しい。その凛々しく気高い性格もより一層あなたを引き立てるのに役立ってます。今までの男共が見る目が無かっただけですよ。少なくとも俺は、あなたに好意を持ってます」

 

 

「[成功]や、やだねこの子は……年上をからかうんじゃないよ!まったく……もう」

 

 

はっ!俺は今なんて歯の浮く様な台詞を……!それに俺はスピーチスキルを選んだと思ったんだが……まさかのLadyKiller。また勝手に出てきやがるかこの野郎!しかしすでに口に出した事だし、クレアさんも少し頬を染めて満更でもない様子。これはこのまま進めた方が良さそうだ。俺としても恥ずかしいので顔がかなり赤くなってるだろうが、もう良いさ!LadyKillerの暴走はもう知らん!

 

 

「ま、まぁとにかく、理由はわかりました。俺も放浪癖があるので、外の世界を見たいという気持ちもよくわかりますよ。危険は伴うけど、それもまた冒険の素晴らしさに一塩ですし。俺はある程度腕はたつから余計に」

 

 

これは本心だ。冒険者歴1ヶ月の素人が~とか言われればそこまでだが、この旅は俺を成長させてくれる。それに時たまある危険も見たことの無い魔物もスパイスになり、非常に楽しい。そうして乗り越えた先の街では色んな人との出会いがある。サテラやレオナルド然り、クレアさん然り。俺がそう考えていると、クレアさんは一瞬キョトンとするが、ぷっ、と噴き出して盛大に笑い始めた。

 

 

「あっはっは!そうかい!あんた根っからの冒険者みたいだね。それに、腕がたつのは本当みたいだしねぇ……くくっ、母さんがあんたを気に入ったのもわかる気がするよ」

 

 

「お気に召しましたか?」

 

 

「あぁ、勿論さ。中々どうして、あんたと話してると楽しくてしょうがないよ。それに、見た目だけ見て初対面でいきなり口説いてくる男は何人もいたけど、性格を理解して尚あんな情熱的に口説いてくる猛者はあんた位さ」

 

 

「それは今までの男共がチキンだったか、脳筋だっただけですよ」

 

 

「あはは!大当たり!今までは優男かガツガツくる脳筋かの両極端さ。あんたみたいなのはいなかったよ」

 

 

「それは僥倖」

 

 

目に涙を浮かべる程笑っているクレアさん。そこまで喜んでくれるのは嬉しい限りだ。まぁ初日でここまで好意的になれれば御の字どころか大団円だろう。それからしばらくの間、夕食を完食しつつクレアさんと話し込んだ。店を建てるまでの苦労話やナンパしてくる馬鹿共と酷い客への愚痴、対して俺はそれに合いの手をいれながら話を聞くのが基本だった。話し終えた頃にはすっきりした顔をしていたのでよっぽど溜まってたんだろう。時折俺の話になる時は元の世界の事を話す訳にもいかないし、かといって話さない訳にもいかない雰囲気だったのでゲーム内での簡単な話や今までの事をかいつまんで話した。勿論色んなところをぼやかしつつだが。レイダーは盗賊と置き換えたりね。

 

 

「へぇ、あんたもその年で結構苦労してんだねえ。それに、まさかあの裏路地の件の実行犯があんただったとは……色々噂になってるよ?」

 

 

「あれは正当防衛です。先にふっかけてきたあいつらが悪い。俺は無実です。でも、一応聞いときますけど、噂ってどんな?」

 

 

「ギルド通りからレスト通りの裏路地での怪異!不良や物取り、果ては最近首に値の付いた盗人等々……裏路地のゴミ共の一斉摘発を行おうとようやく動いたこの学院都市の自警団!しかし行ってみれば摩訶不思議!すでにリストのゴミ共は大半が地に伏せていた……ってな感じさ。何人かの首の吹っ飛んだ焼死体も学院の探知魔法を使える何人かの学生や教師と聞きこみで発見されちまったらしいよ。今は原因の調査中だと」

 

 

「あ~……やっぱり駄目でしたか」

 

 

「ふふっ、残念だったね。それに死後そんなに時間が経ってなくて特定の治癒の魔法を使えば時間はかかるけど死体でも傷は治るんだよ。結構丹念にあぶったみたいだから特定はまだまだかかるだろうけど、時間の問題さ」

 

 

やけに演技がかった口調でニヤニヤしながら言ってくるクレアさんに思わず苦笑してしまう。裏路地で何人か不良をぶっ飛ばしたってしか言ってないけど、この人にはまるっと筒抜けだったみたいだ。それにしても魔法ってのは本当に便利な技術みたいだな。探知魔法なんかは元の世界の警察の人からすれば、喉から手が出るほど欲しがるんじゃないだろうか……まぁなんにせよ、残った不良共に直接顔を見られない限りはばれはしないだろう。物や死体の記憶を読み取るとかの馬鹿げた魔法でもない限りはの話しだが。

 

 

「はぁ。でもゴミ掃除を楽にしてやったんだからおとがめは無しですよね?」

 

 

「さぁ?ここの自警団は真面目だから大丈夫だと思うけど、手柄を横取りされたって言う奴も出るかもねぇ」

 

 

「うわぁ、それがないことを祈るしかないですねこりゃ」

 

 

はぁ、と出てきてしまうため息にげんなりしながら、俺はグラスを2つクレアさんに頼み、Pip-Boy3000からきれいな水、ウィスキーを出す。そして受け取ったグラスにウィスキーと水を一対一で水割りした、俗に言うトワイス・アップと言われる入れ方をする。ウィスキーは度が高いけど、元の世界でも飲んでたし、Party Boyというアルコール中毒にならないためのPerkがあるため俺は全然大丈夫だ。それにこのウィスキーなどの酒には何故だか放射能が入っていないからクレアさんも気兼ねなく飲める。ちなみにこの旅の途中でヌカ・コーラ・クアンタム以外は全種類ちょびちょび飲んでいるから、安全面の保障はする。クアンタムに挑む度胸はまだないが、200年経った酒とは思えないくらいうまかった。むしろ色々と無視して熟成されてるような?

 

 

「ん?見たことない酒だね。私にもくれるのかい?」

 

 

「ええ。まぁ、俺の秘蔵の酒とでも言っときましょう」

 

 

「ふ~ん……まっ、ありがたく頂こうかね。今日はわたしの出る事がなさそうだし」

 

 

「じゃあこの出会いに感謝して、それと今後しばらくお世話になります。っということで」

 

 

「「乾杯」」

 

 

チンッという音の後、俺とクレアさんは話しながら飲みまくり、なんだかんだで仲良くなった。ある程度の敬語も外れて従業員の人が帰って、他の宿泊客が寝静まってボトル10本を空にした頃にようやくお開きになった。あと、俺はPerkのおかげかやはり酔わなくて、クレアさんは少し酔っただけというほとんどザルの人だったと報告しよう。

 

 

ほんのり頬が赤くなって、部屋に戻る際にギラギラ、というか獲物を見つけた肉食獣の目で『いつか襲うと思う、というか襲うからそのつもりで』と言われた。カモンッ!と思うウェイストランド的考えと、いやいや待てよというへたれな元の世界的考えが頭の中でせめぎ合っていたが、5分もしないうちにウェイストランド側が勝利した俺は悪くないと思う。




ウィスキーに関してはwikiで調べたのをそのまま張り付けたようなものです。なので、間違っていたらごめんなさい。

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