いきおいトリップ!   作:神山

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二十三話目

ギルドを出てギルド通りを真っ直ぐ進む俺とララちゃん。そんな俺達の前はモーゼの如く人が割れて、穴が空くほどの視線が注がれている。まぁこのデスクローは通常サイズより少し大きいし、それを楽々担いでいる俺も十分異常なんだけども。

 

 

「な、なんだか居心地悪いわね……」

 

 

「まぁ、デスクロー担いでるからな。文句は箱を用意してなかったアイザックに言うように」

 

 

「そうね。次に会った時は一緒に学食のケーキ全部奢らせてやるんだから!」

 

 

やけにテンションの上がり出したララちゃんに思わず苦笑する。この子はそれで結局自分が太って困る事をわかってるんだろうか?多分わかってないだろうけど、言わないでおこう。

 

 

「ほら、ついたわよ。ここがフェルナンド魔法学院のギルド方面口。って言っても他と対して変わんないんだけど」

 

 

そうこうしている間に門に到着し、門のすぐ横にいた警備の人に許可証を発行してもらってる間に簡単に説明してくれた。白い先の尖った四角い石柱を両端に置き、どこの城だと聞きたい位の巨大な木製の両開きの扉がある。その周りも煉瓦造りの塀で囲まれているため、そう簡単に突破は出来ないだろう。理由を聞けば、まだ学院都市では無かった規模の小さい頃に、時折現れる魔物から生徒を守るためにここまで強固にしたとか。今現在は当時の名残として記念物扱いや防犯用として使われている。それにどうやら各通り毎に門が増設する形で設置されているらしい。俺としては何で最初に魔物も出る所に作ったのか不思議でしょうがない。

 

 

「はい、これ許可証ね。ここにいる間はずっと首に下げてる事。じゃないと不審者扱いされて警備に突き出されるわよ」

 

 

「了解。まぁ、外すような事は無いから大丈夫だと思うけどね」

 

 

「それもそうよね。じゃ、行きましょ?研究室だから特活棟に行かないと……」

 

 

青い紐に『ゲスト』と書かれた紙をぶら下げている許可証を首に下げて、歩き出したララちゃんを追いかける。石で固められて整備された区画、地面剥き出しの運動用っぽい区画、草木の生えた中庭っぽい区画やら……とにかく広い!建物は塔みたいなのから体育館みたいなのまで様々な種類があった。しかも、休みの日にも関わらずそこそこな数の生徒も見かけた。皆ビビって逃げていくか遠目から友達とヒソヒソ話してるかだったけど。

 

 

「今日って休みの日じゃなかったか?」

 

 

「そうよ?でもそれぞれ専門にしてる学科が違ったりするから、課題とかで学院に来るのも珍しくないわ。薬草学とか治癒魔法とかの医療関係だったり、他の共通筆記科目なら尚更ね。私は冒険者志望だし、魔法剣士タイプだから共通科目以外は依頼の達成報告で来る位かな?」

 

 

「へぇ、ララちゃんは冒険者志望か。アイザックも鼻が高いだろうに」

 

 

「ふふん、当たり前よ。こんな可愛くて将来有望な美少女が妹なんだもの!それなのにあのバカ兄貴ときたら……聞いてよ!あいつったら――」

 

 

もうそれから道中延々と、アイザックを誉めてるんだか貶してるんだか良くわからない愚痴っぽいのを聞かされる事十数分。まぁまとめるとお兄ちゃんが構ってくれない、だ。アイザックもあんな性格だし、ララちゃんも強気というか頑固というか……素直になれない性格みたいだから、余計に上手く伝わらないんだろう。でもアイザックも昨日のクソガキとララちゃんを見たときは目の色が変わってたから、あいつもあいつなりにララちゃんを心配してるみたいだった。ララちゃんも何だかんだでお兄ちゃんっ子なんだと思う。次にアイザックに会った時にさりげなく伝えておこうかね?

 

 

「――でね?あの時のお兄ちゃんがカッコイイのなんの……っと、ついたわ。話はまた今度ね?ここよコウヤさん。」

 

 

「ソウッスカー」

 

 

前言撤回。この子は何だかんだではなく完璧にお兄ちゃんっ子、というかブラコンだった!語り始めて数分、最初はアイザックの悪いところばかりで貶してはいたが、まぁ理由付きだったりで許す。みたいな会話をしていた。そしてそこから段々とアイザックが自分を守ってくれてるだの、あの時のお兄ちゃんはかっこよかっただの、ぶっちゃけお兄ちゃん大好きだの……徐々に壊れてきたと言ってもいい。要はただのツンデレかと思えば少しヤんだブラコンだった、というなんとも言い難い事だったわけだ。

 

 

「ここが研究室がある場所なんだけど……鍵がかかってるわね」

 

 

俺が少しぐったりしているのをそのままに、ララちゃんは特活棟から少し離れた場所にある研究室というか小型体育館サイズの研究所の扉を引っ張った。しかしララちゃんの言うように鍵がかかっていた様で、ガチャンと音がする。ぶっちゃけヘアピンとおれのLockPickスキルで開けられるタイプの鍵穴だ。不法侵入になるからやらないが。

 

 

「どうするんだ?ここで待つっていうのもアリだけど?」

 

 

「え~、そんなの嫌よ。私はギルドの依頼こなしてそのままだから、早く帰りたいもの。だから、職員室に行ってみましょう。研究室の先生じゃなくても、誰かいるでしょ」

 

 

ララちゃんの一言で行き先を変更し、一路職員室へ。途中まで来た道を戻り、整備された道を曲がって煉瓦造りの校舎に入る。デスクローが引っかかりそうになったものの、ララちゃんのおかげで傷をつける事なく職員室へ。やはり道中生徒が見ていたけど。

 

 

「失礼しまーす。1年A組のララ・ザグレブです。研究科の先生いらっしゃいますか~?」

 

 

「ん?あぁ!ザグレブさんですか!っとなると、もうお届け物がご到着というわけで!?」

 

 

中に入れば席に座っている教師教師教師……会議中だったことがありありとわかる。その中で一番奥にいるよれよれの白衣を着たメガネをかけた優男が興奮気味にこちらに手を振ってきた。しかし一番奥の席からそうすると自然に他の教師の視線も集まるわけで。

 

 

「お、おい君。その肩に乗っているのは……」

 

 

「デスクローですが、何か?」

 

 

「「「……」」」

 

 

俺の言葉にあんぐりと口を開けて固まる教師陣。中には気絶した女性もいるが……もうだいぶ馴れてきたからこれはスルー。俺はそんな教師陣を傍目にそのぼさぼさの白髪を揺らしながら鼻息荒く駆け寄ってくる受け取り側だろう先生に目を向けた。身体の線も細く、若いが完璧に学者型だというのがわかる。彼は俺の前に来ると、おぉ!おぉ!と言いながらデスクローをぺたぺた触っていく。それからクルリクルリと2,3回周りを回ったかと思えば、いきなり肩を掴んできた。

 

 

「素晴らしい!ここまで綺麗なサンプルを見るのは初めてだよ!今までは腕だけとか吹き飛んだ下半身だったからね!これは……見事だ!ありがとう!これで私の研究も格段に進むはずだよ!ハッハッハッハ!!」

 

 

「は、はぁ……」

 

 

血走った眼でかなり早口でまくし立てられて思わずひるむ。そんな俺を見たからか、ララちゃんがクイッと袖を引っ張って耳打ちしてきた。

 

 

「この先生こんなんだけど研究科の教授。まだ若いけど化け物研究の第一人者って言われてるわ。今ギルドにある化け物図鑑を作ったのも、この人」

 

 

「ほぉ……」

 

 

未だに目の前で高笑いしている教授を見て少し疑わしく思ってしまうが、ララちゃんが言うなら本当なんだろう。言われなけりゃ甚だ疑問ではあるけども。

 

 

「あ、いや、失礼。私としたことがはしゃいでしまったよ。じゃあ早速研究所に行くとしよう」

 

 

「あれ?先生会議は?」

 

 

「会議内容はデスクローの完全な死体が届く事の説明と私がそれを研究する事の報告だから問題ない。あとは精々今後の日程位か。まぁそれは後で書類を貰えば大丈夫さ。それよりも早く私は研究を開始したいのだよ。実際に討伐した本人もいることだし、いろいろと話を聞くからそのつもりでいてくれたまえ」

 

 

「あ~、了解」

 

 

嬉々として話す教授のキラキラとした目を見て、逃げられないとわかった俺は諦めて素直に頷く。横にいたララちゃんが憐憫の目で見ていたのに肩をすくめながら、俺達はデスクローにびびっている教師達をそのままに、職員室を後にした。


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