いきおいトリップ!   作:神山

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二十五話目

なんだかんだで夕方まで延びた話し合いと雑談を終え、ミハエル教授と誓約書を交わしてララちゃん経由でアイザックに届けてもらう事を約束したのちに俺は二人と別れて宿に戻っている。というのも、詐称を防ぐためにギルドに出すのに当事者が持っていたら意味がないからだ。まぁララちゃんは疲れたと言って寮に戻ったので提出は明日になるだろうけど。

 

 

「うん?コウヤじゃないか。おかえり」

 

 

「ただいま」

 

 

宿に入ると、丁度クレアがウィスキーを客に出している所だった。それを見て、朝と同じくまた空いていたカウンターの席に座る。ざっと見ただけでもウィスキーを飲んでいる奴らは結構いた。これは客受けは上々と考えていいだろう。そして少しするとクレアが空になったウィスキーのボトルを手に持ってこちらに来た。

 

 

「調子はどうだ?パッと見そこそこ売れてるみたいだけど?」

 

 

「上々ってところかね。丁度常連の行商人が来てくれたから出してみれば、好評だったよ。そいつは女のくせに無類の酒好きで有名でね。美味い美味いと飲むもんだから、そこから少しずつ広まって、珍しい酒が飲めるって客が集まりだしてるよ」

 

 

「そいつは僥倖」

 

 

「まぁ、そいつは今日は仕事場に泊まるみたいでいないけど、上手い具合に他にも冒険者のパーティが何組か依頼を終えて戻った所だったみたいだし、運も良かったみたいだけどねぇ」

 

 

そう言ってカラカラと笑うクレアに俺もつられて笑う。規模がどうかは知らないが、パーティが数組戻ったというのはここらの商売人には朗報だろう。特にこういう宿関係にとってみれば待ってましたと言わんばかりのはずだ。

 

 

そう考えると昨日よりも宿内の人が多い。酒飲んで帰るやつもいるだろうが、泊まる奴が普段より増えるのは確実なはずだ。クレアがホクホク顔なのも納得出来る。俺は一頻り観察して、Pip-Boy3000から追加のウィスキーを出す。

 

 

「朝言ってたやつだ。仕事が終わり次第飲むといい」

 

 

「おぉ!ありがとねコウヤ!約束を破らない男は大好きさ!」

 

 

そう言って一度俺に抱きついた後、ウィスキーの瓶にキスをした。うん、色々当たっていい匂いがして最高だったと言っておこう。

 

 

「それじゃ、約束は果たした事だし、晩飯を頼むよ。なんだかんだで昼は食べられなかったからさ。多めでよろしく」

 

 

「ん、わかった。じゃあちゃちゃっと作ってくるから待ってな。今日はヴェスペディと山菜のパスタだよ」

 

 

「おぉ、了解。パスタは好きなんだ。頼んだぞ~」

 

 

ウィスキーを手に持ってキッチンに向かったクレアを見送り、俺はPip-Boy3000からミニ・ニュークの報告書と鉛筆を出して頭の中の知識を書き写していく。こういう空いた時間を有効活用しないと来週までの期限には間に合わないからな。とにかく書くのはこいつの危険性とおおよその被害範囲、被害を受けた後に起こり得るグール化の可能性とグールは《普通》のやつなら外見を除いて人間と変わりない事などなど色々書き綴っていく。そしてフェラルに変わることは無い事も。特にグールの人権的な所を重点的に。この身体でだけど、ゴブやカロンみたいな友人はいることだしね。彼らは結構好きなキャラだったし。

 

 

ちなみにヴェスペディとは鳥の一種で柔らかな肉質と飼育のしやすさでこの世界では一般的な鶏肉だ。値段的にも安いし歯ごたえあるガラガラ鳥とは違って少し癖はあるが中々美味いんだ。個人的にはガラガラ鳥のほうが好きだけども。

 

 

「はい、お待ち。とにかく大盛にしといたよ」

 

 

「おぉ……これはまた」

 

 

水と一緒にクレアが持ってきてくれたパスタは、周りの人達のように四角い白の皿ではなく、青い陶器の丼に入っていた。もうなだかパスタとは別な料理に見えてくるのは何故だろう?食えるけども。

 

 

「あれ?コウヤ、何書いてんだい?」

 

 

「これはギルドに提出する書類。貴族の坊ちゃんが危険な遺物をおもちゃ代わりにしてたもんだから、その遺物の処理さ。一応これでも遺物には詳しいつもりだから、危険性やらなんやらを纏めて提出しなけりゃいけないんだよ。これな?解除済みだから安全だけど、もし見かけたら注意しておくかギルドに報告してくれ」

 

 

「ふ~ん、こんな緑のおもちゃみたいなのがねぇ……まっ、私も気をつけとくよ。店を吹っ飛ばされたらたまらないからね」

 

 

Pip-Boy3000から見本として渡したミニ・ニュークを受け取り、一度報告書を片づけて目の前の丼に向き合った。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

翌日、朝7時に目が覚めた俺はそそくさと飯を済ませてクレアと雑談し、宿を出た。今日一日は自由なのでとりあえず観光でもしようと思う。ギルドに行っても一日で出来る依頼なんか少ないし、学院には明日行くしだからこれしか選択肢が残ってないともいえるが。宿でごろごろするのにも暇つぶしがないから逆にキツイ。ゲームなんてギャンブルかトランプみたいなのしかないしね、この世界。相手がいればまた別だったんだろうけど。

 

 

レスト通りから露天を冷やかしながら移動して、コーシャル通りに入る。日用品や雑貨、レストラン等が所狭しと並んでおり、商人や呼び子の人達の声が行き交っている。冒険者や荷馬車の姿も多く見え、何人かは値切り交渉をしながら買い物している人も見かけた。粗が目立つな……あんな値切り交渉じゃあ安くなる物も安くならないぞ。

 

 

「……ん?」

 

 

そんな風に色々と見ながら歩いていると、何やら聞き覚えのあるカラコロカラコロというベルの音がする。気になったので探してみると、居並ぶ馬車に隠れて数人の護衛と最前列を歩く女性に囲まれた赤いバラモンを発見した。

 

 

バラモンとは、核戦争による放射能により変異した牛の事だ。肌は真っ赤で頭が二つに分かれており、気性は縄張りや子供の近くに入らない限り穏やかで変わらず人に飼育されていることが多い。馬がいないウェイストランドで行商人に連れられたり、食用として飼われていた。今はどうか知らないがゲーム時には数が少なく、野生のバラモンを見るのは希少な生き物だった。最も、Animal FriendのPerksのおかげで野生のバラモンの縄張りに入って襲われる事はなかったんだけど。

 

 

とにかく、そのバラモンがいて、更に見た目もゲーム同様緑のバッグを下げてベルを付けている。しかも護衛と女性は銃を持っているとなると、かなり気になる。ちなみに護衛と女性を何故分けているかだが、護衛らしき奴らはコンバットアーマーを全員着込んでいるが、女性はチェックのシャツにズボン、ブーツ、茶色のカウボーイハットと明らかに違う格好だからだ。恐らく彼女がこの商隊のリーダーだろう。というか、明らかに現地人だ!話しかけるほか無いだろう!

 

 

「……さて、第一現地人はどんな人かな?」

 

 

何だか無性にワクワクする気持ちを抑えつつ、俺は先に進んだ彼女達を追った。……一応消音器付き10mmピストルとコンバットナイフを装備して。だって下手して喧嘩にでもなったら丸腰じゃ危なすぎるし、もし当時とさほど変わりない現地人なら尚更だ。

 

 

「……ギルド?」

 

 

しばらくカラコロカラコロと何だか異様に懐かしく感じる音を聞きながらついて行くと、バラモンはギルド前に止まり、女性は2人の護衛をバラモンに付けると残りを連れて中に入っていった……なにやらあそこからは見づらいがこちらからは丸見えな脇道に隠れている怪しい男が2人いるが、まぁ俺には関係ないか。あの護衛が何とかするだろう。ふむ、なら俺も入ろうか。

 

 

「へぇ、あんた銃使うのか?こっち側で銃使う奴を見たのは久しぶりだぜ。まともに使えんのかは別にしてな」

 

 

「え?あ、本当だ。珍しいですね。僕は初めて見ましたよ」

 

 

ギルドに入ろうとすると、扉横の壁に寄りかかっていた護衛に声をかけられた。先に声をかけてきたのはアフリカ系の図体のデカい筋肉質でスキンヘッドの男だ。背中から見える銃底から武器はアサルトライフルのようだ。次にその男の横からひょっこり顔を出したのは真っ黒な男の肌と対称的に白人系の爽やかな感じの美がつく少年で、オレンジ色の髪を肩ぐらいまで伸ばしている。腰には.32口径ピストルと10mmサブマシンガンを装備していた。パッと見かなり使い込んでるというか、壊れかけ寸前なのがいただけないが。

 

 

「ハッ、そんな暴発しそうな銃を装備している奴に言われたくはないな。ウェイストランド人なら赤ん坊でももう少しマシな整備をするさ。まぁ、あんたらが本物のウェイストランド人か、見た目だけの張りぼて野郎かどうかは別にしてな」

 

 

「なっ!このやろ「それに!」うぉっ!?」

 

 

とりあえずムカついたので言い返すと、デカいのはアサルトライフルに手をかけ、少年はそれを見て呆れて静観にまわるようだ。全く、短気はいかんよ短気は。なんて考えながら俺はデカいのの言葉を遮って消音器付き10mmピストルを抜いてパスパスと乾いた音と共に引き金を即行で四発分引く。それと同時に彼らの後ろ、バラモンの近くでうめき声が聞こえ出した。

 

 

「うぐっ……!」

 

 

「痛ぇ!痛ぇよぉ!」

 

 

「お前いきなり撃ち……って、あぁ!てめえら何しようとしてやがった!!」

 

 

デカイのが文句を言いながらバラモンの方を見ると、そこには先程の怪しい男二人組がうずくまっていた。ようするに、さっきの発砲はこいつらの両足を全て撃ち抜くためだったんだ。なにやら俺に護衛二人が注意を向けた瞬間にこっちに来てバラモンに手を出そうとしたからな。素人なのかどうかは知らないが、タイミング早すぎだし、俺が向いてるのに取ろうとするなんてアホの極みだ。

 

 

「うはぁ……お見事」

 

 

「どうも。というか、お前ら俺なんかにつっかかってないでちゃんと護衛しろよ。怒られるぞ?」

 

 

それを聞いて成り行きを見ていた少年は苦笑しながら両手をあげて降参したとの意思表示をし、デカイのは盗人連中をバラモンから出した縄で縛っている。この学院都市、意外にも治安がいいとはいえないらしい。昨日の裏路地のヤンキー然り、今回の盗人然り、元の世界や他の国と違って自治組織が自警団しかいないのが結構大きいだろう。学院都市は騎士もいなければ常備軍も少ない。その常備軍も傭兵や学院に通っている金持ちの寄付のような形でいる兵士だけ。それでもなんとかやっていけてるのは、ここが交易の拠点である事と、各国の学生が学びに来ているため完全な中立という事、そして学院長が結構権力がある人というのがある。自警団も頑張ってるみたいだけどね。

 

 

「えぇ、そうね。ちゃんと荷物番も出来ない隊員にはお仕置きが必要よねぇ……!」

 

 

その声に振り返ると、苦笑しているカウボーイハットの女性と護衛3人、そして拳をバキバキと鳴らしながら近づいてくるオレンジ色の前髪をかきあげて後ろで小さなポニーテールにしている護衛の女性がいた。それからしばらく後ろで小さな悲鳴を上げた2人がボコボコにされるのを見ながら、俺はとりあえず合掌した。


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