いきおいトリップ!   作:神山

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二十六話目

「あなた達は何をしでかしそうになったかわかってるんでしょうね!?」

 

 

「で、でも未然に防げた訳だしよ「だ・ま・れ!」……はい」

 

 

「それは彼のおかげよ!私達みたいなのは信用第一!そしてそれは私達が代々一番気をつけてきた事でしょうが!」

 

 

盗人を自警団に引き渡し、2人の物理的制裁が終了した現在。次は言葉による説教が始まった。ギルドの中で邪魔にならない隅の方で正座させられながら叱られている2人は、もう涙目だ。デカいのは反論も許されず、少年はすでに真っ白になって燃え尽きながら悟りを開いたような顔をしている。そんな中で俺はというと、荷物を盗られるのを防いだ事でギルド内の円卓で護衛3人も含めて共に座って昼飯を奢ってもらっている。やはりカウボーイハットの女性がこの行商人、改めキャラバンの持ち主で、今2人に説教している女性が護衛のリーダーだそうだ。ちなみにギルド前で騒いだためにアイザックがダルそうに出てきたが、説明すると「仕事が増えた……」とか言って中に入っていった。今度何かしら詫びの品を持って行こう。

 

 

「あはは……あれは長くなるだろうから放っておきましょ。まずは自己紹介ね。私の名前はローズ・オブ・シャロン・キャシディー。長いからキャスでいいわ。形式上もう一度言うけど、このキャシディー・キャラバンの所有者ってとこ。基本的に今回みたいにギルドに物を納めたりしてるわ。他にもあるけどね」

 

 

カウボーイハットを脱いで机に置き、よろしくと言ってくるキャス。帽子の下に隠れていた髪は赤いショートカットで、結構美人さんだ。背中にはコンバットショットガン、腰にはコンバットナイフを装備している。

 

 

「それで彼らは私とキャラバンの護衛で、今説教している子がリーダーをしてるわ」

 

 

「紹介された護衛のロドリゴだ。このパーティ『ライリー・レンジャー』の副隊長をしてる。本来なら隊長のライリーがここで話すべきなんだが……彼女、説教長いんだよ」

 

 

「……ライリーだって?」

 

 

コンバットアーマーとヘルメットを被り、黒の短髪に銃身の溶けかかったレーザーピストルを装備したロドリゴの言葉に思わず聞き返す。ライリー・レンジャーといえばゲーム中にも存在し、傭兵稼業をやっていたからだ。クエストでマッピング作業中にスーパーミュータントに襲われてD.C.廃墟のホテルの屋上で身動きの取れなくなった彼らを救出するものがある。俺は一人も欠けることなく救出に成功していたわけなんだが……まさか子孫?そうやって見るとライリーなんかは名前も姿かたちもそっくりだ。

 

 

「あぁ、そうだが……どうした?彼女知ってたのか?」

 

 

「ん?あ、いや、なんでもない。昔の知り合いに同じ名前のやつがいてな。続けてくれ」

 

 

怪訝な顔をしてくるロドリゴに手を軽く振って先を促す。そういえばゲームの会話にも信用大事みたいなの言ってたなぁ……それによく見たらコンバットアーマーの胸の部分にライリーのマークあったわ。これで子孫、もしくはあのライリーから続いてきた組織の可能性が高くなった。傭兵よりもギルドに居た方が稼ぎになるからそこら辺は変えていてもおかしくない。可能性として低いと思うが、ギルドで全く同じ名前でたまたま容姿がそっくりなだけってのもあるけども。

 

 

「そうか。まぁ続けると、俺の隣にいるのが重火器担当のネルソン。口数は少ないが、根が優しい良いオッサンだ。んでその隣が狙撃手のカノン。せっかくの美人を台無しにするほど感情出さないが、狙撃の腕はピカイチ」

 

 

「……」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

あのデカいのより凄いコンバットアーマーがはじけそうな程の筋肉と体の大きさ。そして床に置いているボロボロのミニガンでやけに凄みが増している。顔も渋くて整った短い口髭が生えており、無造作に切りそろえた髪と左目に真っ直ぐある縦傷が正直怖い。その道の人と勘違いしそうだ。でも黙礼してからライリーの方を心配そうに見てるんだからロドリゴの言った通りの人なんだと思う。

 

 

そしてもう1人の声に抑揚を感じないまるで機械のような女性、カノン。スナイパーライフルを机に立てかけ、背筋を伸ばしてピシッと座っている。肩まである少しウェーブのかかった灰色は少し旅のせいかくすんでいるものの、かなり綺麗だ。顔も微動だにせず、少し不気味ではあるが、陶器のような白い肌をしている美人さん。

 

 

「んで、あそこで説教くらってるハゲが弾薬担当のセオ。横の坊主が遊撃でライリーの弟のレオンだ。レオンは今回初参加の新人で、セオも……まだ入ってからそんなに経ってねぇな。セオは実力もそんなに無いくせにすぐに突っかかるアホで、レオンは慎重すぎる。まぁこんなとこだな。今度はあんたの番だ」

 

 

指をさしながら説明するロドリゴ。とりあえず、弾薬担当のセオと聞いて思わず止まった俺は悪くないと思う。というのも、ゲームの中で弾薬担当のセオはスーパーミュータントに殺された死体として出てくるからだ。勝手な感情ではあるが、死亡フラグ満載だなセオ。

 

 

「俺はコウヤ・キサラギ。今のところここに滞在中の冒険者だ。ギルドランクはCⅢで、ご覧の通り銃全般を使う。あと整備も出来るから、何かしら対価を払ってくれればやるぞ?腕はそこらの鍛冶屋よりは上のつもりだ」

 

 

「へぇ、銃の整備も出来るの。凄いじゃない。最近じゃ簡単なもの以外は、メガトンとかの鍛冶屋しか整備の技法が伝わってないのにね……そういうところの出とかなの?」

 

 

マジかよ……またミスったな。なんだか最近うっかりミスが多くていけない。まぁこれくらいならspeechスキルでどうにかできる範囲内だが、とりあえず俺は首を横に振って、否定する。

 

 

「[speech78%]いや、親がスーパーミュータントとかの研究者でね。その関係で一番効果の高い銃も扱ってたんだ。生きていくためには必要不可欠だったし、俺はそういうのが好きだったから、自然と覚えたよ[嘘]」

 

 

「[成功]なるほど、ご両親と環境による影響と言うわけですか。私も狙撃を父に習いましたので、わかります」

 

 

首を僅かに動かして、まるで機械音声を聞いているような抑揚のない声で肯定してくれるカノン。まぁ全部嘘なんだけど。こうも真っ直ぐ肯定されると微妙に罪悪感が出てくるような……止める気はないけど。

 

 

「それで、私はあなたに銃の整備及び修理をお願いしたいです。ここフェルナンドでは銃の整備が出来る鍛冶屋はいませんし、あなたの銃の状態と先程の射撃技術、手や腕の古傷を見る限り、整備や銃、戦闘に関する腕前はかなりのものとお見受けします。それにギルドマスターが信用している様子から、あなたは信用出来る方でしょう……すみませんが、銃を見せてもらっても?」

 

 

「あぁ」

 

 

足のホルスターから消音器付き10mmピストルを抜いてカノンの方に置く。するとカノンはそれを手にとっていろんな角度からしばらく見て、ありがとうございますと言った後返してきた。ちなみにロドリゴやキャス、ネルソンもそれを見て「ほぅ」とか「へぇ」とか言っている。ネルソンは変わらずしゃべってないが、興味深そうに俺を見てきた。正直怖いです。

 

 

「やはり、かなり状態が良い。鍛冶屋に出してもこれほどの状態にはならないでしょう。私もバカ高い新品以外でここまでの物は見たことがありません。しかも、かなり使い込まれて何度も整備した形跡もありますし……報酬は払います。私の銃を整備していただけないでしょうか?」

 

 

そう言ってゴトリと置かれたスナイパーライフル。許可をもらって持ち上げれば銃底は何かを殴ったように傷があり、銃身は少し曲がっている。全体的に傷だらけで、正直よく使って来られたなと思う。しかし、パッと見ただけでもいろいろ魔改造されているな。この銃に愛着があるのもよくわかる。

 

 

「おいおい、こんな状態でよく今までもって来られたな……素人なりに何とかしてたみたいだから完全に壊れてはいないけど、このパーティに整備士はいないのか?」

 

 

「以前はいたんだが、魔物に襲われた時の怪我で引退してな。今までそいつにまかせっきりだったばっかりに、全員このざまだ。今回やけに魔物どもに遭遇する回数が多かったのも災いした。いつもならこんなになることはないんだが……運が悪かったよ」

 

 

「……なるほど」

 

 

引退したなら仕方がない……のか?銃を使う以上もう少しこういう事に目を向けてもいいと思うんだけど。それかよっぽどその人が優秀だったのかね。やる前に状態を察して動けるすごい人だったり。

 

 

「まぁ、このくらいならすぐに何とかなるな。いいだろう。やってやる。報酬は終わってから決めよう。バラしてみないとどれくらいなのかわかりゃしないからな。それによって変わるが、いいか?」

 

 

「はい。よろしくお願いします。いい整備士にはそれ相応の対価を払わないといけませんしね。いい仕事を期待しています」

 

 

「ハハッ!任せとけ。完璧に仕上げてやるよ」

 

 

なんだか良いようにのせられた感はあるものの、職人意欲に火がついたので迷わず受ける。そしてカノンから改造している場所や絶対にいじって欲しくない場所などを聞いてメモをしておく。これはPip-Boy3000のMisc欄とメモ欄に表示されるので便利だ。カノンにこれだけ改造していてなんで整備が出来ないのか聞いてみると、これは父親からもらってそのまま使い続けてきた物なんだそうだ。メガトンには父親からの馴染みある店に頼んでいたからあまり知らないとのこと。

 

 

しばらくメモをしていき、武器を預かる。互いに誓約書も書いてギルドの職員に渡したので大丈夫だ。仲良くなったとはいえ、初対面には注意するのにこしたことはない。特に銃を預ける向こう側からすれば特に。ちなみに一連の出来事を見ていた他のメンバーにも整備を強請られたのは言うまでもないだろう。誓約書書くのが面倒だった……。




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