いきおいトリップ!   作:神山

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二話目

あれから周りを警戒しながら進み、森に到着した。どんどん近づいていくにつれて土が変わっていき、今は一面栄養のある大地に変わっている。

 

 

ここまで歩いてきた訳だが、パワーアーマーを着ているにも関わらず全然疲れなかった。これは主人公のレベルマックスで、パワーアーマーは着なれているし、更には神様パワーがついているからだろう。

 

 

元の俺なら着ただけで崩れ落ちる自信がある。が、今はパワーアーマーが普段着の如く軽い。まだ日も落ちてないし、体力的にもしばらくは行けるはずだ。

 

 

「で、ここまで来たのはいいが……どうしようかな」

 

 

ここに来た事でPip-Boy3000には地図登録され、名前がわかっている。その名も『ベルドアの森』。集中してサーチすると、奥の方で気配がした。

 

 

「とりあえず、行くしかないか。人なら町が何処か聞けるし」

 

 

俺はクサンロング・アサルトライフルを背負い、ホルスターからブラックホークを抜く。森だとうまく取り回しが出来ないだろうからな。ハンドガンタイプのが小回りが効く。でも……

 

 

「……もう一個出しとこ」

 

 

ビビリで悪いか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっへっへ、持ってるもん全部置いてきな!」

 

 

「たっ、助けてください!」

 

 

「……何故こうなった?」

 

 

俺の目の前には小汚ない服を来て、剣を抜いて美人のお姉さんと気を失ってるらしい騎士っぽい甲冑を着たイケメンのお兄さんを縄でグルグル巻きにして人質に取ってるおっさん達がいる。その数六人。うち一人が後ろに隠れているが、サーチで丸わかりなので何の問題もない。

 

 

ことの始まりは少し前に遡る。俺が反応に向かって進んでいくと、そっちから悲鳴が聞こえてきたんだ。で、テンプレ展開?って思いながらも見捨てる訳にもいかないのでブラックホークと.44口径マグナムを両手に持って行ってみると、丁度イケメン騎士が後ろから殴られて負けてるじゃないか!それで思わず

 

 

「テンプレ展開だっ!」

 

 

ってその事実にテンションが上がってわりかし大きめな声で言ってしまったのが運のつき。それで思いっきり気づかれて、今に至る訳だ。その時の驚きがホント怖いくらい顔や声に全く無かったのも記憶に新しい。

 

 

『あっ、いるじゃん。あれ?俺案外冷静?あ、そういえば驚きがねぇんだった。キメェ(笑)』ってなったからね?

 

 

「おいてめぇ!何とか言ったらどうだ!?」

 

 

「ん?」

 

 

おっと、思いの外時間が経ってたみたいだな。それにおっさん達は苛立ったのか、お姉さん達に剣を突き立てる。

 

 

「あんま嘗めたことしてるとこいつら殺すぞ!」

 

 

「ひっ!」

 

 

「む~ん……どうしたもんか」

 

 

ブラックホークを肩にトントンしながら考える。正直言えばこの人達知り合いじゃないし、人質にしても意味ないんだが……まぁこれも何かの縁か。助けといて損はないはずだ。

 

 

「そうと決まればやるしかないか」

 

 

ボソリと呟いてからV.A.T.S起動。このV.A.T.S機能はゲーム内ではポイントを消費して時間を止めて、撃つ箇所を決定してからボタン操作だけで撃てるというシューティング苦手な人でも出来るようにしたものだ。頭、胴、腕、足と選択でき、しかもそこに当たる命中率まで出ているというチート染みた機能である。使用している間はそれ以外の行動が出来ないのが難点ではあるが……まぁ俺はV.A.T.S用のPerksも取ってるので、本来ポイントは使ったら自然回復するまで待たなくてはいけない所を、それで敵が倒せれば瞬時に回復出来る。よって連続使用が可能な訳だ。

 

 

俺はそれを使い、まずは人質にしている奴等を狙う。とりあえず可能なその二人の頭部を決定。九十五%なら確実だ。

 

 

まぁ……当たったらゴメンナサイということで。発砲!

 

 

「うげっ!」

 

 

「なぁっ!」

 

 

「なっ!こいつ!」

 

 

上手く当たり、頭部を弾き飛ばす。それに奴等は同様しているが、気にせず連続使用!フル回復だぜっ!今度は後ろの奴と人質に近い奴!

 

 

「ぐぇっ」

 

 

「がぁっ」

 

 

「あと二人っ!」

 

 

今は両手に持っているので腕を広げる形で両方で発砲、命中。神様パワーで身体能力強化されてる俺にはマグナムの反動なんて屁でもないのだよ!そんでまたフル回復!残った二人が今度は人質を盾にしようと動き出すが、こっちのが早い!

 

 

「ラストッ!」

 

 

ドンッ、と同時に発砲。見事に頭部が弾け飛んだ。ふー……周りがえらくスプラッタな状態になったな。それにしてもゲームみたいに頭ぶち抜かれても生きてるとか無くてよかったわ……まぁあれが異常なんだよね?

 

 

「あ、あの……助けて、くれたんですか?」

 

 

考えながらリロードしていると、お姉さんに話しかけられた。言葉が詰まっていることから動揺しているようだ。

 

 

「ん?あぁ……だって君が助けてって言ったじゃないか」

 

 

「そ、それはそうですけど……ひっ!」

 

 

カチャカチャとリロードが終わり、銃をホルスターに収める。返事をしてから顔を上げると、彼女の顔が真っ青になっていた。どうやらふと下を向いてしまったようで、彼女の目線の先にはおっさん達の下顎しかないスプラッタな頭部があった。しかもまだ痙攣してるし……いかん。女性にこういうの見せちゃいかんな。さっさと縄を解かないと。しかも彼女ドレス着てるから、結構裕福なとこの子女さんかもだから余計ヤバイ!

 

 

「あぅ」

 

 

「……気絶してしまった」

 

 

声をかける隙もなかったな……まぁいい。今は好都合か。

 

 

俺はおっさん達の死体に近づく。剥ぎ取りがゲームと同じなのか、手作業なのかを見るためだ。で、結果から言えば大体ゲームと一緒だった。

 

 

Pip-Boy3000に自分の持ち物欄と相手の持ち物欄が表示される。見てみると、ロングソードと盗賊の服と書かれている。ぶっちゃけおっさんの服は欲しくないし、汚いのでロングソードだけ貰う。すると地面にあったロングソードが消えた。Pip-Boy3000を見るとちゃんと入ってるのがわかる。だが明らかに耐久値がすり減っていて、もう壊れそうだ。

 

 

なので他のやつらも同じのを持っていたため、それらを全て取る。同時に銀貨五枚と銅貨十枚を手に入れた。この世界の通貨なんだろうが価値がわからんので入れとくだけ入れとく。ついでにイケメン騎士にも試してみたが、出来なかった。どうやら生きている人間には無理なようだ。

 

 

そして六人分、つまり六本のロングソードが集まったのでPip-Boy3000内でニコイチ修理する。ようは二つ使って一つにして耐久値をあげる訳だ。しかしこの六本じゃ足らなかったので、持っていた中国軍将校の剣が使えたのでそれも合わせる。というか腐るほどあるからいくらでもいけるんだわ。

 

 

「よし、でき……た?」

 

 

そして修理が完了したと思って見てみると、何故か名前が変わっていた。ただのロングソードで攻撃力も10程度だった筈なのに、名前がミリタリーソードになり30まではね上がっていた。気になって出してみると、さっきまで見ていたボロい粗末な剣ではなく、しっかりとした造りの新品同様の両刃剣が出来ていた。

 

 

「む~ん……持ってるものは掛け合わしてもならないのにな。こっちの世界のと掛け合わすとなるのか?」

 

 

実際中国軍将校の剣を修理してみるが、変わらない。となるとそれしか浮かばないんだが……今現在試す物がない。後々試す事にしよう。

 

 

「とりあえず、こいつで二人の縄切るか」

 

 

俺は近づいて手に巻き付けられている縄を切っていく。お姉さんはそれだけだったが、お兄さんは体グルグル巻きにされていたので面倒だった。

 

 

「ふぅ」

 

 

俺は二人の縄を解いて、これからの事を考える。ちなみにミリタリーソードの切れ味は苦もなくわりと太めの木の枝を切り落とせる位高かった事に脳内だけで驚いていた。身体はさっさと剣を戻していたが。何とも変な感覚だが、こうなってしまったんだから慣れるしかないよな。

 

 

とりあえず、気絶したお姉さんをまた気絶させる訳にはいかないので、場所を移動するしかない。幸いここら周辺に敵対反応は無いので、二人を背負っていてもなんとかなるだろう。

 

 

「よっと……軽いな」

 

 

俺はお姉さんを肩に担ぎ、お兄さんを脇に抱える。お兄さんの甲冑がゴツゴツしてて痛いからパワーアーマーが脱げないので、お姉さんにはしばらく我慢して貰うしかない。と言っても気絶してるからわからんだろうが。

 

 

「うし、行くか」

 

 

俺はしっかりと二人を持ち、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

しばらく進んでいくと、川を発見した。しかもそこは少し開けた場所なので、休むには最適だ。ここで良いだろう。

 

 

「よっと」

 

 

俺は二人を下ろす。日も暮れてきたので、今日は野宿だな。

 

 

「ならちゃちゃっと準備するかな」

 

 

俺はまず辺りに落ちている木の枝を広い集める。粗方集まったところで、体の覚えているサバイバル知識をもとに火をつけていく。身体が勝手に動くようで気持ちが悪いが、何度か失敗した後にようやくつけることが出来た。そうすることで違和感が少し減ったから、自分で体験すると会得出来るのだろうと思う。

 

 

「ふぅ……」

 

 

俺は未だに気絶している二人の横に腰を下ろす。しかしパワーアーマーは座りにくかったので装備をなんとなくレギュレーター・ロングコートに変える。被っている帽子は今は邪魔なので横に置き、Pip-Boy3000を弄って中からきれいな水を取り出し一息。水はあり得ん程あるが、食料が汚染されたのしかないのが痛い……早めに調達しないといけないな。試しにポークビーンズ食ってみるとなんか苦かった。

 

 

さて、暇なので二人の容姿を説明しよう。彼女の方は金髪の背中までのロングストレートで端正な顔立ち、それに白い高そうなドレスを身に纏っている。前述した様に身分の高い人間か、金持ちさんだろう。

 

 

イケメン騎士の方は銀の短髪に白が基調な甲冑。そしてやっぱりイケメン。イケメンなんて滅んでしまえ!

 

 

「んっ……?」

 

 

「お?起きたか?」

 

 

俺がイケメンへ嫉妬の炎を燃やしていると、金髪のお姉さんが目を覚ました。これでようやく話ができるな。

 

 

「あれ?えっと……どちら様でしょうか?それにここは?」

 

 

どうやら記憶が混濁しているようで、少し困惑しながらも警戒気味に聞いてくる。まぁ無理もないんだが……ちょっと悲しい。

 

 

「落ち着いて。俺はさっき捕まってた君たちを助けたものだ。あのままあそこに居させるわけにもいかなかったからここに連れてきた。安心してくれ、危害を加えるつもりはないから。ただ二、三聞きたいことがあるだけだ」

 

 

俺がパワーアーマーの頭用の装備を見せると、納得してくれたのか彼女は肩の力を抜いた。だが目線だけはきっちりとこちらに向けている所を見ると、ただのお世間知らずのお嬢様ってわけでもなさそうだな……。

 

 

「そうですか……助けていただいてありがとうございました。あの、私の他にもう一人いたと思うのですが……」

 

 

「その騎士君なら君の後ろでまだ気絶してるよ」

 

 

「えっ?」

 

 

俺が言いながら指をさすと、くるりと振り返る彼女。そして騎士君に気付くと、少し慌てた感じで彼をゆする。

 

 

「れ、レオナルド!起きて!」

 

 

「くっ……どうやら、無事のようだね……っ!」

 

 

「レオナルド!しっかりして!」

 

 

彼女がゆするとレオナルドというらしいイケメン騎士君が意識を戻した。ってか死にそうじゃんか。V.A.T.Sで体力ゲージを見てみるとジリ貧だった。このままだと彼女がはたいただけでも死んでしまう!それは避けなくては!

 

 

「[speech100%]君、彼から離れるんだ。このままでは彼は危険だ」

 

 

「[成功]はっはい!わかりました!でも……どうしてわかるんですか?」

 

 

ん?なんかスピーチ判定出たな……変なとこでゲームと一緒だ。肉体がゲームのキャラだからそういうのはそのまま出るのか?

 

 

「[medicine]俺は医者でもある。運んでくる時は甲冑で気を失っていたからわからなかったが、今の彼の様子を見てわかったよ。だから、任せてくれないか?」

 

 

「お医者様なのですか!?なら、レオナルドをお願いします!」

 

 

正確にはスキルとPerkを持ってる医者の息子なんですがね。でもそのおかげで医療の知識がガッツリ頭に入っているんだが……その知識とこの体の経験がこの患者はヤバいと告げている。

 

 

「お、お前は……」

 

 

「動くんじゃない。死ぬぞ?」

 

 

言いながらビクビクプルプルしている騎士君の甲冑を慎重に取り、下に着ていた服をPip-Boy3000から出したハサミで切る。そうして身体を見てみると、彼は肋骨と右腕が折れていて胸部の内出血がひどい状態だ。幸い肺には刺さったりはしていないようなので安心した。

 

 

「さて、ちょっとチクッとするぞ?」

 

 

俺はPip-Boy3000からスティムパックを五つ取り出し、内二つを腕に、三つを胸部に打ち込む。するとあら不思議、みるみる内に治っていくじゃあありませんか!骨折は両方とも元に戻り、内出血も何故だか引いている。……ほんと何でだろう?

 

 

「くっ……?痛みが……!?」

 

 

「え?嘘……あんなに真っ青だったのに治ってる!?」

 

 

オペ終了!っつってもスティムパック刺しただけだけど。念のためもう一つ出してまた彼の身体に打ち込む。調べてみたが、もう大丈夫だ。完全回復!

 

 

「[medicine]傷は大丈夫だ。体力も回復したしもう動けるだろうが、無理はするなよ?ほら、水だ」

 

 

「あぁ、すまない。ありがとう」

 

 

俺が結局飲んでいなかった水を渡すと、寝ていた身体を起こして受け取る上半身裸のマッチョイケメン騎士。そして一口飲んでそれを置いた瞬間

 

 

「レオナルドー!」

 

 

「うわぁっ!!」

 

 

彼女がレオナルドに向かって抱きついた。だから無理さすなっての。

 

 

「レオナルドレオナルドレオナルドォー!!」

 

 

「あ、あははは……」

 

 

「……」

 

 

何故だか苦笑いしているレオナルド。後日談だが、もう離れない!とばかりに抱きついている彼女と嬉しそうなレオナルドを見て、俺の顔はひどく歪んでいたそうな。


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