いきおいトリップ!   作:神山

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二十九話目

スリの少年を投げ飛ばした翌々日。昨日も当たり障りなく簡単な講義を済ませた俺はキャスとクレアと共にギルドに来ていた。護衛としてライリー、カノン、アルスが来ている。他のメンバーは荷物とバラモンの番をしているそうだ。まだ少し仕事の道具が残っているんだとか。あと、あの緑色のバックは最初にこの学院都市に来た時に見た収納の魔導具らしい。容量をバックをつなげることで大きくし、バラモンの負担を少しでも和らげているとかなんとか。見た目以上に大量の商品が入っているらしい。

 

 

ちなみにクレアの宿は従業員だけで回している。何かあれば新入り君が飛んでくるそうだから心配はいらないだろうと言っていた。まぁ、クレアがいないでどれだけ上手く回せるかの実験的な意味合いもある。クレアはこれが良い機会じゃないかと考えているそうだ。

 

 

「よし、じゃあ契約内容を決めていきましょう。値段は時間がかかるから後に回すとして、運搬方法や互いの連絡方法についてを先にしましょうか。まずはこれね」

 

 

キャスがコトンと机の上に置いたのは丸い金属の円盤だ。鈍い金色と銀色の2つで、陣のような幾何学的模様が描かれている。厚さは2cmほどで分厚く、大きさは直径で30cm位だろうか?その分厚い側面にはボタンの様なものがあってなにやら無性に押してみたくなる。

 

 

「これは酒の転送用魔法具よ。対になっててそこにしか送れないけど、私達には十分ね。側面のボタンを押すと魔法で1m位に伸びてくれるから一気に送る時も大丈夫。送る時には真ん中のボタンを押してくれれば3秒後に転送するわ。1年に一度魔力補充をしないといけないのが面倒だけど、それを差し引いても十分使える代物ね。私とコウヤが金色、クレアとコウヤで銀色の2組用意してるから間違えないように」

 

 

「ふぅん。なかなか面白い物見つけてきたんだねキャス。でも高いんじゃ?」

 

 

「そこら辺は先行投資と専売させてくれることでチャラよ。売れなかったらそこまでだけど、その時は私の見る目がなかっただけね」

 

 

「なるほどね」

 

 

まぁ商売をやる上で多少のリスクはつきものだ。これがいくらしたのかは知らないけど、キャスがそういうのならお言葉に甘えてタダでもらおう。

 

 

「それと、これが連絡用の魔法具よ。連絡先は5つまで登録可能で、それぞれボタンが分かれてるわ。色が違うから間違えることはないでしょうけど、気を付けるように。使い方はボタンを押して、話すだけ。かけられた方はそれが振動して知らせてくれるから真ん中のボタンを押すだけよ。それで相手の姿が魔法で映るわ。まぁ、実際にやってみた方がわかるか」

 

 

そう言ってキャスが渡してきたのは手帳のような形をした黒い石だ。そこには赤・青・黄色・緑・白の5つの六角形の石がボタンやのようについており、真ん中には丸い黒のボタンがある。キャスの説明から考えるに、携帯のような物だと思う。なんとも便利なもんだな、魔法ってのは。

 

 

「えっと、私のは二人とも赤に登録してるわ。今から私がかけるから取ってみて」

 

 

そう言って少し離れたキャス。すると机の上に置いている石の赤いボタンが光りながら振動を始めたので、言われた通りに真ん中のボタンを押す。

 

 

「おぉ」

 

 

「へぇ……なかなかどうして、面白いじゃないか」

 

 

そこには某星戦争ズの通信機のような青白い立体映像姿のキャスがいた。大きさは30cm程度だが、かなり精巧だ。しかも見る限りタイムラグは無い。やっぱり凄すぎだろ魔法。

 

 

『こんな感じかな。大体の場所ではしっかり動いていてくれるけど、たまに不安定になる場所もあるらしいから気をつけてね』

 

 

それだけ言うとキャスは通信を切って戻ってくる。そしてそのあとからは値段交渉の開始だ。それに加えてほかのも一気に決めてかなり長くなったから簡単にまとめると

 

 

・供給元へ1本あたり18ギル。

 

・まとめ買いで多少割り引き。

 

・組織・団体への転売不可。あくまでも個人向け。

 

・上記に違反した場合取引停止及び場合によっては賠償もあり。供給元であるコウヤ・キサラギも例外ではない。

 

 

他にも細かいことは多々あるけど、まぁこんなところだろう。これであんまり自由にウィスキーは飲めなくなったが、商売に出す以上仕方がない。出来ればもう少し値段を釣り上げたかったんだが、これ以上はキャスが梃子でも動かなかった。やっぱり本職の商人にはスキルが効きづらかったよ。

 

 

「じゃあこれで取引成立ね。あとは互いにサインして終了。これは売れるわ。いや、売ってみせる!」

 

 

ぐっと手を握り締めるキャスにクレアと二人で苦笑する。そして書き終えた誓約書をギルド職員に渡して残りをちゃんとPip-Boy3000に入れ、ギルドを出た。キャスは宣伝に行くとかですぐに別れたため今はクレアと二人だ。

 

 

「んーっ……ふぅ。必要なことだってのはわかってるんだけど、どうも交渉とかあぁいう場は好きじゃないよ。肩が凝ってしかたがない」

 

 

「ははっ、お疲れさん。さて、もうなんだかんだで昼時か……御一緒にお食事でもいかがですかレディ?」

 

 

頭上を見れば太陽は真上にあり、丁度お腹も空いてきた。なので少しふざけて、仰々しくお辞儀をしながらクレアに手を差し出してみる。するとクレアは一瞬キョトンとした顔をして、小さく笑い出した。

 

 

「くくっ、はいはい。では、エスコートをお願いしますね?ミスタ?」

 

 

手を取ったクレアと数秒目を合わせ、どちらからでもなく笑い出して通りを進む。店に行くまでに二人でぶらぶらと歩いて買い物と会話を楽しみつつ、目的のクレアお勧めの料理屋に向かう。

 

 

一週間休暇の初日はとても満足出来た1日になったのは言うまでもない。


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