いきおいトリップ!   作:神山

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三十一話目

 

 

「で?とりあえず持ってきたと?」

 

 

「あぁ」

 

 

あれから駆け足で宿まで戻ってきた俺は戦前の春服に着替えて部屋にいた。クレアも仕事を片づけて来てくれたので事情を話している。あと、袋は未だ外さずに机に置いている。うまく座れているみたいなので大丈夫だろう。

 

 

「うーん、そういう下種な奴らの持ち物だっていうなら奴隷とかの線が一番強いんだけどねぇ……まぁ、考えててもしょうがない。さっさと開けてみなよ」

 

 

「了解」

 

 

クレアの言うとおりに袋に手をかけて紐を解いていく。奴隷か……また面倒な。もし奴隷解放とか言われたとしても俺はやらんぞ。パラダイスフォールズはなんとなく壊滅させたけども、ピットはアッシャー側についたからな。ところで向こうには行けたりするんだろうか。もし病気が残ってるなら行けても行きたくないけど。

 

 

なんて考えながらばさりと紐をほどいて袋を開けてみる。すると中から出てきたのはまず緑のくすんだ長い髪の毛と前髪に隠れた顔。それから同じく緑色のワンピース。体は細く、後ろ手に縛られているのが見える。足も同様だ。そしてよく見れば口にも小さな布が巻いてあった。

 

 

「これは……小人?」

 

 

「馬鹿言ってんじゃないよコウヤ。この子は妖精族(フェアリー)だよ。この都市にもそこそこいるんだけど、見たことないかい?」

 

 

「……あぁ。初めて見た」

 

 

クレアにバッサリ言われて少しグサッとくるものがあったが、本当に初めて見るのでジーっと見ていると向こうもジーっと見つめ返してくる。とりあえずナイフをPip-Boy3000から出して拘束している紐を切ってやる。すると少しの間手足を動かしていたが、突然へたりと座り込んで俺を見上げてきた。

 

 

「立てないのか?」

 

 

コクリ、と肯定。

 

 

「痛みはあるか?」

 

 

フルフルと首を振って否定。

 

 

「腹は減ってるか?」

 

 

コクコクと勢いよく頷く。よし、ちょっと待とうか。

 

 

「何この子かわいい」

 

 

くて、と首をかしげてくるこの姿のなんと愛らしいことだろうか。最近戦闘とか話とかばっかだったからなんだか異様に癒される。やさぐれた心にしみわたるというかなんというか……ちなみにクレアは腹が減ったという確認を取った後に速攻で部屋を出て行った。下で叫んでいる内容からしてこの子の飯を作らせているんだろう。はたして俺の分も作ってくれるんだろうか。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

用意が出来たというクレアの呼び出しに彼女を手に乗せて降りた俺は、いつものカウンター席について彼女の食事の様子を見ていた。何度落ち着くように言っても妖精族(フェアリー)用の食器に入ったスープを必死になって食べているのを見ると、どれだけ空腹だったかが見て取れる。クレアが状態を見てスープを選んだのは正解だったな。

 

 

「コウヤ、この子どうするつもりだい?奴隷用の刻印や首輪がないから、さらわれたってことなんだろうけどさ」

 

 

黙々と食べていく姿を見て優しい笑みを浮かべながら聞いてくるクレア。正直この案件に関しては自分の中で答えはすでに出ている。ゲームの中でもたまに会った奴隷は開放してきたし、こんな可愛らしい子をほっとくわけがない。

 

 

「元居た場所に帰してあげるつもりだ。それが最優先。次点は働き口と当面の金を渡してこの都市で暮らしてもらう。クレアの所でもいいし、戦えるならライリーに頼んでもいい。でもそれがうまくいかなければ最悪……俺がしばらくつれていこうと考えてるよ。彼女次第だけどな」

 

 

「まっ、それが一番かね」

 

 

コクコクと水を飲んでいる彼女を見ながらクレアに言う。どれを選ぶにしてもこれは彼女の自由だ。そしてしばらくの間俺と行動を共にするか、クレアと共にするのかも。どちらにせよ名前とか聞かないといけないし、服とか髪とかもきちっと綺麗にしてあげないといけないな。下手すれば俺がいの一番に反感を買う。

 

 

「さて、落ち着いたようだから話しをしよう。まず、俺の名前はコウヤ・キサラギ。こっちはこの宿の女将のクレア・リーフレット。君の名前を教えてくれるか?」

 

 

「………………リリィ」

 

 

静かにゆっくりと、しかし鈴の音のような声で呟いた。変わらずジーッと俺を見つめてくるリリィをしっかりと目を見て言葉を返す。

 

 

「そうか。いい名だ。リリィ、君はあのチンピラ共に奴隷として連れられたのか?それとも浚われたのか?」

 

 

「……私は、産まれた時から奴隷。首輪は、新しいのに替える途中だったから、ないだけ」

 

 

「……そうか」

 

 

これはまた、重い話になった。産まれた時から奴隷という事は帰る場所は無いということに他ならない。即行で最優先事項が変わってしまった。

 

 

しかし、俺のやることは変わりないわけで。

 

 

「今までは奴隷だったようだが、今日今からは自由だ。好きなように生きると良い。俺もクレアも手伝うつもりだ」

 

 

「……でも、私は何をしていいのか、わからない」

 

 

本当にわからないのだろう、変わらず無表情で見つめてくる。それもそうだった。リリィは『産まれた時から奴隷だった』と言った。つまりはそれ以外、主人に仕えていく事とかしか知らないのだ。

 

 

横でクレアがリリィの頭を撫でている。面倒見の良いクレアはリリィが可哀想でしょうがないのだろう。当の本人はよくわかってないみたいだけどな。

 

 

「わかった。なら選択肢を出そう。まずはこのクレアの宿で働いてみること。次に戦闘が出来るなら、俺の信用できる知り合いのパーティーに入ること。あとは、最悪俺についてくるか」

 

 

とりあえず、俺について来る事も含めて全ての案を出した。後のことは、彼女自身で決めることだ。他にも選択できるものがあるかもしれない、いや、あるのだろうが、俺が出来る範囲でのことはこれが精一杯だ。

 

 

俺は少し俯いて考えているリリィを見ながら、そのまま待つことにした。


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