「お恥ずかしい所をお見せしました……」
「俺は別に構わないんだが……レオナルドのためにもしばらくは我慢しろよ?」
「はい……」
あの後レオナルドが貧血で体が動かなくなったために正気に戻った彼女は、顔を真っ赤にして謝ってきた。流石のスティムパックでも血液は生成出来ないようだった。血液パックは清潔な注射針とかが無いから使わない。まぁあれだけでも十分凄い訳だが。
「わかってくれて何よりだ。そういえば、まだ名を聞いていなかったな?」
「あぁ、そういえばそうでしたね。私はバルムンク王国キュライアス公爵家の長女、サテラ・フォン・キュライアスと申します。そしてこちらが……」
「サテラの護衛をやってるレオナルド・カーリーだ。レオナルドと呼んでくれ」
彼女、サテラはまだ少し赤みの残った顔で、レオナルドは動けないため寝転がったまま自己紹介した。というか公爵家で長女……めちゃくちゃ身分高い人じゃん!助けて良かった!
「そうか。俺はコウヤ・キサラギ。しがない旅人だ。よろしくな」
「はい」
「あぁ」
名前が外国っぽかったのでそれっぽく名乗る。恐らく彼らは魔法を使える側の人間だろう。ウェイストランドにそんな国は無かったし、長い歴史の間で出来たとしても、スーパーミュータントとかの化け物共もいるんだ。ドレスを着て歩く馬鹿はいないはずだ。
「それにしても、何でこんなところにいたんだ?レオナルドはともかくサテラはそんな格好で……」
「あぁ、それはですね……」
「これは僕が話そう。いいね?サテラ?」
「あ、うん」
事情を聞こうとすると、サテラが少し俯いてしまうがレオナルドが引き継ぐ。なんかあったみたいだな。
「僕が彼女の護衛だって言ったよね?それで僕は彼女とだいたいいつも一緒にいるんだが、今日はちょっと離れた所に用があってね。その帰り道だったのさ。行きは出ても下級の魔物のワイルドドッグだったんだが……帰りは運悪く熊型の化け物に会ってしまってね。僕も攻撃を受けてしまい、仲間の護衛と馬車を犠牲にして命からがら逃げてきたんだ。それで森に逃げ込んだんだけど、あの連中に後ろから不意打ちされて、この様さ」
ふむ、下級の魔物の事はよくわからんがとにかく連続で襲われてヤバかった所で俺が来たと。ならベストタイミングだったわけか……それにしても熊型の化け物か。化け物がどんなのかわからないが、用心するべきか。まだ近くにいる可能性もあるし。
「そうか……大変だったな」
「あぁ……だが何にせよ、助かったよ。君には盗賊の事も含めて二度も助けられた。今は何もしてやれないが、バルムンクについたら何かしらお礼をさせてくれ」
「バルムンクの実家についたら、丁重におもてなしいたしますね?」
「アハハ……まぁ、貰えるなら貰っておくよ。まずはここから無事にそこに行ってからだがね」
苦笑いしながら返すと、向こうも同じようになった。しかしこれで町に行けるようになった。初めは現地民側に行きたかったが仕方がない。バッチリ情報を集めさせてもらおう。
「それでコウヤ、君はどうしてここに?」
「[speech100%]あぁ……適当にぶらぶら旅をしていてな。そんで食料も尽きたから何かあるかと森に入ったんだ。そしたら叫び声が聞こえて、な?[嘘]」
「[成功]なるほどね」
我ながらこうまで綺麗に嘘をつけるとは思わなかった。スピーチ判定最高だな!それに食料に関しては二人を放射能汚染させるわけにはいかないので、無いと言っておく。何か起きてからじゃあ遅いからね。
「あ、そういえばコウヤさん凄い上手に遺物使ってましたよね?私はよく知らないんですが、とても高価で数もそれほど無くて使い手が少ないと聞いています。それを三つも持ってるなんて……」
「へぇ、そんなに凄いのかい?」
マジかよ……ただの銃が遺物?とかいうえらく大したもんになってやがる……そこんとこもちっと詳しく聞かないとな。
「遺物?」
「あぁ、君が今足に付けている小さいのと置いている大きいのがあるじゃないか。旧世界の遺物。僕もそんなに見たことはないから何とも言えないけど、そこまでの美品は見たことがないよ」
「そうか?これは貰い物だからよくわからん」
とりあえずポーカーフェイスと即答する事で誤魔化したが、いきなりしくじったか?遺物なんてたいそうな名前してるんだから、もう作れないかそれとも文明が遅れていて理解できていないだけなのか……どちらにせよ、今後は誰かいるときに迂闊に銃は使えないな。
「そう。くれた人はそれをとても大事にしていたようだね?」
基本、略奪物です。
「……あぁ、多分な。まぁ今日は終いだ。暗くなってきたし、見張りは大丈夫だから、ゆっくり休め」
「そうかい?ならお言葉に甘えるとするよ」
「何から何まで……本当にありがとうございます」
やや強引に話を終わらせ、さっさと寝させる。下手してボロを出すわけにはいかんからな。しばらく番をした後、二人が寝入ったのを確認して俺はサーチをかけたまま眠りに入る。これで敵対する奴が来ても一発でわかる。俺が寝ている間も作動するようで、とても便利だ。
とにかく、今日は寝て明日に備えよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「きゃあぁぁぁ!!」
「……ん?」
翌朝、俺はサテラの元気の良い悲鳴で目が覚めた。と言ってもうつ伏せで寝てたからまだ目を開けていないんだがね。動体センサーにはなんの反応もないんだが……あれ?敵対してないけど増えてる?しかも目の前に?
「ん?」
「動くんじゃないコウヤ!……落ち着いて聞いてくれよ?今君の目の前に昨日話した熊型の化け物がいるんだ」
なんと……でも敵対してないからそこまでビビらなくてもよくないか?ちょっと獣臭いが。
「だから刺激しないようにゆっく「よしよし」とぉぉぉぉ!?」
起きてそいつを撫でるとレオナルドが何か言ってるが、無視。なんだ、ただのヤオグアイじゃないか。元々の熊の怪力を強化されてる少々厄介な奴だが、アニマルフレンドのPerkを持っている俺にはただの友達さ!
「起きるまで待っててくれたのか?ありがとな」
「ガゥ」
俺の顔の所に顔があるから見つめあう感じになる。目が真っ白でちょっと怖いが、こうやって大人しくして撫でられるのに気持ち良さそうにしているのを見ると、なんだかとても可愛らしく思えてきた。だって、律儀に待ってくれてたんだよ!?何処の忠犬かっての!
「な、なついてる?何で……?」
「……これはまた。遺物を扱う戦闘能力といい、傷を即座に治す高い医療技術といい……中々どうして、君は規格外だな」
「まぁな。努力の賜物と考えてくれ」
俺がそう言うと、少し納得できない顔で頷くレオナルド。横のサテラは呆然としている。つい昨日仲間を殺した奴が俺になついて擦りよってるんだから、そりゃそうか。
「よし、そろそろ行こうか。ここに長居するわけにもいかん。怪我人に対して衛生環境もよくないし、食料もないからレオナルドの血が中々生成されない。それに俺達も腹へるしな」
俺はヤオグアイをひとしきり可愛がってから、二人にそう言う。Pip-Boy3000で時間を見ればもう七時だ。天気も良いから行くっきゃない。
「あぁ、そうしよう。僕も君のお陰で何とか身体は起こせるようになったしね……まだ歩けないけど」
そう。スティムパックパワーか知らないが、レオナルドの奴身体が起こせる程度には回復したのだ。血が足りない癖に一日で。こいつの自然治癒力が高いのか、この世界の人間はみんなそうなのかは知らないが、医者として言うならば……こいつ化け物か。
「それは仕方ないさ。むしろそこまで動く事が凄い」
「そうなのですか?」
「あぁ。普通なら血が足りなくて昨日の状態のままか、起きてすらいない。まっ、俺が担いでいくから安心しろ」
「面目ない……」
何を言っても歩けないんだからしょうがない。幸い身体があり得ん程強いからね。さぁて、レギュレーター・ロングコートのままじゃ何かあったら心もとないな……パワーアーマーに着替えなきゃならんが、昨日の話だとPip-Boy3000を使ってやるのは危険かもな。何処で情報が漏れるかわからん以上、適当に誤魔化しながらいくしかないか。昨日の水は横の川のお陰で、スティムパックはドタバタで何故かバレてないみたいだし。
「俺はコイツを放すついでに鎧に着替えてくるから、ちょっと待っててくれ」
「あ、はい」
まぁこう言っておけば覗いてくる事はないだろう。レオナルドは動けないから、サテラをこれで大丈夫だ。俺はさっさとついてくるヤオグアイと共に少し離れた木に隠れる。こいつどうしよ?
「なぁ、お前さんどうすんだ?」
俺はPip-Boy3000を弄って昨日のリオンズパワーアーマーに着替えて、ヤオグアイにご飯としてバラモンステーキを十個出す。待っててくれたお礼と朝ごはんです。俺も食料が無いと言った手前堂々と食えないのでここで食べる。ミレルークケーキ、普通にケーキでうまかったです。でも放射能測定のガイガーカウンターがチキチキいってたのが怖かった。まだ全然大丈夫だけどさ。
「ガゥアゥッ!」
「いやそんなついてくぜっ!ってされても」
バラモンステーキを食いながら胸を張るヤオグアイ。何でかなー、アニマルフレンドのPeakのお陰か知らんけど、なんとなく言ってることがわかる。かなり便利だ。
「ガゥ……」
「え?奥さんに追い出されたからしばらく帰れない?それはまた……何したのさ?」
項垂れるヤオグアイ。何この意外な諸事情。
「ガァ……アゥッ!」
「えぇー、子育てを手伝うのを疎かにしてしまったと?そりゃお前が悪いよ」
「ガゥッ!」
「土産物かー、そうだよな。手ぶらじゃダメだよな。それじゃあ町で何か買ってやるから、あの人らの護衛してくんない?」
「ガゥゥゥゥーッ!」
交渉成立!なんだか凄く可哀想なので引き受ける事にします!報酬は果物と子供の遊び道具に野球のボールで良いそうだ。俺達は二人の所に戻ると、レオナルドはサテラに手伝ってもらって鎧を着ていた。
「着替えたんですね……ってまだなついてるんですか」
「いやさ、かくかくしかじかで……」
「ふむふむ」
――説明中――
「――という訳で、ボディーガードとしてついてきてくれるヤオグアイだ」
「ガゥッ!」
「何というか……化け物でもいろいろと諸事情があるんですね」
説明が終わると、サテラは驚いた様に、レオナルドは苦笑している。ちなみにレオナルドら護衛を蹴散らしたのは違うヤオグアイだったようで、こいつは本当に知らなかった。イラついた嫁さんの可能性も無きにしも非ずだそうだが、それは言わないでおいた。
「ハハハ……まぁ何にせよ彼が味方についてくれるなら百人力さ。それにしても、化け物と話せるなんてね……本当に、何者だい君は?」
「[speech100%]昔からの体質か知らんが、特定の動物とは意志疎通出来る。こちらが手を出さない限り味方としてね。俺も良くわかってないんだ。まぁ気味悪がられるから内緒にしといてくれないか?[嘘]」
「[成功]そうか……君自身わからないなら仕方がない。あぁ、誰にも言わないし気味悪がる事もしないよ。君は命の恩人だし、何よりそれは素晴らしい能力だと思うしね?」
スピーチスキルの無駄使いの気も大いにするが、Perkですとか言ってもわからんだろうしな。実際俺も何でこうなるのかわかってないから全部嘘ってわけでもない。
「えぇ、それはあなた自身の個性ですからね。それにヤオグアイ、でしたっけ?この子があなたになついているのを見ると何だか可愛く見えてきましたし……私達は大丈夫ですよ」
「あぁ、ありがとう」
何故だか凄く優しいの目で見られている。あれか?気味悪がられる発言で俺が苦労していたとか勝手に思ってるのか?というかそうとしか思えない……まぁいいか。その方が都合が良い。スピーチスキル万歳!
「そうと決まれば行こうじゃないか。このヤオグアイのためにもね」
「ガゥッ!」
レオナルドがそう言ったので、鎧を着たのを確認してから担ぐ。クサンロング・アサルトライフルは運ぶときに邪魔なのでサテラに持ってもらった。見せてしまった手前、Pip-Boy3000にいれられないからな。とりあえずトリガーに指を入れない事だけ伝えておいた。
「バルムンクはどっちだ?」
「あぁ、そうでしたね。なら私が先導しますのでついてきて下さい」
道がわからないのでやりたくないがサテラを先頭にして歩く。だが何かあったらいけないのでヤオグアイをつけよう。
「ヤオグアイ、サテラの横についていてくれ。俺はコイツがあるから大丈夫だ」
「ガゥッ」
俺はホルスターからブラックホークを抜いてヤオグアイがサテラの横についたのを確認する。ちょっとサテラがビビってるが、まぁしばらくしたら慣れるだろ?多分。
クエスト 公爵家長女と護衛騎士
◇公爵家長女サテラと護衛騎士レオナルドをバルムンク王国公爵家まで送り届ける。
◆[オプション]レオナルドの傷を治す。
◇[オプション]ヤオグアイのために果物を買い、野球のボールを渡して森に戻る。
クエスト名が日本語なのはご容赦下さい。