レオナルドを担ぎ、案外すぐに仲良くなったサテラとヤオグアイを先頭にして歩き出してしばらく経った。サテラはヤオグアイの背中に乗って何処のもののけ姫?って感じなほど仲良くなっている。その間特に何が出てくる訳でもなく順調に進んでいる。途中でどのくらいかかるのかと聞くと、このまま何もなければ夜にはつけるらしい。意外と近場だったようで助かった。
「そういえば、コウヤはギルドに入ってるのかい?入っているなら、君ほどの力の持ち主だ。さぞ高ランクだろうがね」
レオナルドが聞いてきて勝手に自己完結。聞くなら普通に聞けよ。落としてやろうか?
「いや、何かとドタバタしていて入ってないんだ。だからそこらへんの知識も無い。バルムンクに着いたら入るつもりだから教えてくれないか?」
「ふむ、そういうことなら教えよう」
スピーチスキルのおかげか口が回る回る。でもおかげでうまく情報が聞き出せた。レオナルドによると、ギルドはこの世界の街には必ず一つはあり、そこで依頼の受注、ギルド員への掲示を行っているそうだ。それとなんともテンプレでランクがあり、下からFⅠ、FⅡ、FⅢとアルファベット一つにつき三つに分かれている。それである程度ギルドに貢献、もしくは依頼を達成することで加算されるポイントをためることでランクが上がるらしい。そしてⅢまで上げてさらに貯まるとFならEへ、EならDへと次のアルファベットに格上げされる。最大ランクはAの二つ上のXだ。それで上位の依頼が受けられるようになるらしいが、その分危険が増えるらしい。だが金の回りはいいようなので、資金集めにはもってこいだ。バルムンクに着き次第、入るだけ入っておこう。
「と、ざっとこんな感じだね。詳しいことは実際に行って聞くといい。僕も一応入ってて、ランクはBⅡだ。これでも頑張ったんだよ?」
「へぇ、すごいじゃないか。なら化け物共も結構な数を倒しているのか?」
「いや、さすがのギルドも化け物には手を焼いていてね……魔法も効きづらいし、なにより近接戦闘では向こうに分がありすぎる。例え依頼が出ていたとしても、受ける人は限りなく少ない。高ランクの者でも戦力差がありすぎる。だからほとんどの人は化け物の相手はせず、魔物を倒してランクを上げてるのさ。化け物が出た日には、ギルド員総動員で相手をしているよ」
「ふぅ~ん」
中々大変なことで……なら銃で普通に殺せることは黙っていた方がいいな。それと銃がべらぼうにあることも。バレたら絶対無理やり取り上げか、ずっと働かされるハメになりそうだ。こいつらと別れ次第銃は使っているところを見せないようにしてなるべく隠そう。
「あ、出口ですよ!これであと少し行けばバルムンクです!」
話しているうちに結構時間が経っていたようで、森の出口が見えてきた。思ったより早く出れたのはヤオグアイが周りに威嚇しまくっていたおかげだな。敵対反応はそこそこの数が出ていたが、ヤオグアイが威嚇すると逃げてったからね。
「無事に森を出れて良かったです。あとはこのまま一直線だから楽ですね!」
「そうだね。後少しだから、すまないけどよろしく頼むよ」
「任せろ」
森から出ると、周りはあの荒廃した土地よりは格段に良い道があった。そこを真っ直ぐに歩いていくと、遠目からでも大きいと思える街が見えてきた。おぉ……ファンタジー……!
「見えてきました!あれが私達の家があるバルムンク王国です!」
俺が内心感嘆していると、サテラがヤオグアイの背中で指をさしながらえらく嬉しそうに俺に言ってくる。レオナルドも苦笑してるじゃないか。
「ハハハ……彼女の言う通り、あれがバルムンクだ。中々に大きいだろう?」
「あぁ、正直驚いたよ」
周りはグルッと高い外壁に囲まれていて、更にその周りには堀がある。水は見えないから何かしらしてあるんだろう。そして俺達の行く真っ直ぐ先には門があり、堀に橋をかけている。時間毎に閉めたり開けたりするんだろうな。その付近には門番が立っていて……やっぱりなんてファンタジー!
「ところでさ。ヤオグアイを中に入れてやりたいんだが……」
外に待たせておいて何かあったら困るからな。殺されたりは無いとは思うけど。勝手に入れたら入れたでパニックになるのは目に見えてるし。
「それは任せて下さい!公爵家の名にかけて、必ず入れてみせます!ねー、ヤーくん?」
「ガゥッ」
か、飼い慣らされてる……?こいつらの間に何があったのさ!
「あー……サテラは元々動物が好きでね。抱き癖があるから、ヤオグアイは丁度よかったんじゃないかな?君のお陰で大人しいし」
「なるほどなー」
サテラ最初とキャラが全然違うな。俺にガンガンに警戒していたあの時の凛々しいサテラは何処行った?
◇◆◇◆◇◆◇◆
で、歩きに歩いてやっとこさ着きましたよバルムンク。夜で暗いけど、近くで見るとやっぱり外壁デカイ。堀にあったのは木でできた先の鋭くなってる杭みたいなのだった。落ちたら死ぬな、こりゃ。
「バルムンク王国公爵家長女、サテラ・フォン・キュライアスです!門を開けてください!」
俺が堀を観察していると、ヤオグアイから降りたサテラが門に向かって叫ぶ。サテラ曰く、普通なら朝方まで待つんだがヤオグアイを入れるからこのまま行くそうだ。パニックをなるたけ防ぐためにもコソコソ行くんだとさ。
――ギャリギャリギャリギャリ
返答は無かったが、サテラに気付いたようで鎖が擦れる音を響かせながら橋が降りてくる。橋兼門みたいだ。
「サテラ様!よくぞご無事で……って化け物!?」
完全に開いた橋を渡ると恐らく責任者のダンディーなおっさんがサテラに話しかけるが、ヤオグアイに気付いて剣を抜いた。周りの兵達も同様だ。
どうしたもんかと考えていると、肩のレオナルドがもぞもぞ動いた。ん?
「ガリアス!兵に剣を納めさせろ!この化け物は大丈夫だ!」
せっかく止めてくれてるんだがなー……俺が担いでるからなんとも締まらん。
「なっ!レオナルド殿!どういうことですか!?」
「説明は後でしっかりとする!まずは剣を納めろ!現に今この化け物は大人しくしているではないか!」
全員で見ると、わりとシリアス気味なこちらを他所にサテラとじゃれてます。サテラ?普通君も入るべきなんじゃない?
「……その様ですな。はぁ、なんだかこちらが警戒するのが馬鹿らしくなってきました。お前達!剣を納めろ!」
ガリアスというおっさんが言うと、周りを取り囲んでいた兵士達が剣を納めていく。その中で指示を出したガリアスさんがこちらに来た。
「一応下げさせましたが、あなたがその状態なのとこの御仁、それとあの化け物について詳しく教えていただけるのでしょうな?」
「あぁ、勿論だ。実は――」
「むむっ!なんと!」
――レオナルド肩に担がれて説明中――
「その様な事が……お二人ともご無事で何よりです。はぁ……しかし、サテラ様もいくら動物好きとはいえ化け物にあのように……」
説明が終わり、ガリアスさんが疲れたようにため息をつく。そんな気をよそに門の兵達はヤオグアイの周りに集まって観察していた。背中にサテラが乗ってるからまぁ下手につつくことはないだろう。
「まぁ、わかりました。ならば早く公爵家に戻ると良いでしょう。御仁、感謝する。よくぞお二人を助けてくれた」
「いや、たまたま通りがかっただからなー……」
寧ろ街の事やいろいろと教えてくれた事に感謝してる位だしね。
「それでもだ。お主がいなければお二人がここにいることは無かっただろうからな」
「はぁ……」
「まぁそういうことだ。それと公爵家へお二人を連れていってくれないか?こちらは門の警備を欠かすわけにはいかないからな。それに行けば何らかの報酬があるだろうし、なによりあの化け物を何とか出来るのはお主だけなのだろう?」
「多分な。まぁどちらにせよ行くつもりだったから行くよ」
「そうか。なら、頼んだぞ」
ガリアスさんはそう言うとレオナルドに一礼してからたむろってる兵達に喝を入れている。
「レオナルドって意外と上級職の人?」
「アハハ……騙すつもりはなかったんだけどね。僕はサテラの護衛兼この国の騎士なんだ。サテラはこの国の姫様と仲が良くてね。その姫様がサテラを心配して許嫁でもある僕に護衛を任せたのさ。わりと上の階級なんだよ?」
「へぇ」
俺の肩に担がれてるこいつがねぇ……それに姫様直々とは恐れ入る。
「……驚かないんだね?」
「だって俺が姫様と会うわけでも無いしさ。今更媚びへつらうつもりもないし」
「ハハハ!それもそうだね!今更敬語を使われても変なだけだ!」
レオナルドがひとしきり笑い終えた頃にようやくサテラとヤオグアイがこちらに来たので移動を開始する。何だかんだで少し騒ぎになったから人が見てくるのがうざったいけど、まぁ我慢するしかないか……。