いきおいトリップ!   作:神山

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七話目

 

 

「ありがとな兄ちゃん!」

 

 

果物屋のおじさんに手を振りながらその場から歩きだす。あれからブラブラと聞いたギルドへの道を行く間に売り物や宿屋の値段、その他諸々から情報を集めてようやく大体の通貨がわかった。この世界の通貨は白金貨一枚=10000ギル、金貨一枚=1000ギル、銀貨一枚=100ギル、銅貨一枚=10ギル、鉄貨一枚=1ギルと分けられている。FFと似たような感じだったのでいまいち価値観がわからなかったが、食事とかは銅貨と鉄貨があれば何とかなるのはわかった。

 

 

「さて、果物は買えたし……剣売るか」

 

 

俺はコートの中に果物の入ったカゴを入れて特に人目がない時に即座にPip-Boy3000に入れる。ついでに初めから腰にあったようにコートに隠れる形でミリタリーソードを腰に差しておく。果物を買ったから現在所持金600ギルから500ギルに。一個5ギルだったから20個ゲット。これでヤオグアイとの約束は果たした訳だが、やっぱり金が全然足らない。今はこの剣とギルドでの賊討伐の報酬に期待するしかないか……と考えているうちにギルドに到着。でかでかと看板があるから丸分かりだ。ちなみに字はちゃんと読めたり書けたり出来る。見たこと無い文字だが、恐らく神様パワーだろう。

 

 

「……ザ・ギルド!って感じだな」

 

 

入ってみれば木造の酒場で二階建て。このまま真っ直ぐに行けば受付のようで、金髪の女の子が他のギルド員と話していた。判子を押していたから依頼だろう。俺もそれに習って受付へ。

 

 

「あの、すいません。ギルド登録したいんですが」

 

 

「あ、はい。わかりました。ではこちらに必要事項、そしてこの承諾文にサインしてください」

 

 

受付についてその机の上に紙を置かれる。それに目を通していくと、その紙の上部に氏名と年齢、性別の欄があり、その下には承諾文。つまり利用規約だ。要約すれば、

 

 

1.死んでもギルドは責任を負わない。

 

2.依頼を受けるときに契約金として成功報酬の一割を払うこと(成功した場合は戻ってくる)。

 

3.依頼を失敗した場合や破棄した場合、罰金として提示された額を支払う。この時支払っていた契約金は返ってこない。

 

4.基本的に依頼を受けれるのは一つだけ。常時討伐依頼、緊急時、国からの要請、化け物退治の場合は別とする。

 

5.簡単に命を捨てるべからず。死した命には例え魔物であっても最上級の礼儀を。

 

 

以上。大体こんな感じだ。とりあえず……最後のやつは感動したっ!いいね、うん。これ考えた人を抱き締めたい気分だわ。でも今はいくつか聞きたい事を聞いておかないと。

 

 

「この常時討伐依頼ってなんですか?」

 

 

「これはこの世界中で無限と言って良いくらいいくら狩っても出てくる魔物の討伐依頼の事ですね。これはその魔物を倒してその魔物の指定された部位とカードを二階にあるカウンターに持ってくる事で達成とみなします。設定された報酬は無く、倒した数だけポイントが増え、部位を持ってくれば報酬が増えるシステムです。登録された際に渡すカードにその数が自動的に加算されますし、それ以外にも倒した魔物等はカードに記録されていますのでご安心を。気になればいつでもギルドで確認出来ます。ですから群れに出くわして部位が持ちきれない等となっても、部位報酬は無いですがポイントは加算されます。そしてこの依頼は重複してもオーケーで、好きなときに達成報告が出来るのです。ですが、普通にそれ以外の魔物を倒して指定部位を持ってきて頂いても換金はするので初心者サービスみたいな感じが強いですね。ランクが上がれば皆さん受けるのが面倒で、部位だけ持ってきますし」

 

 

「ふむ、その指定された部位ってのはどこで確認が?」

 

 

「あちらの本棚に図鑑と常時討伐対象の本があるのでご覧ください。持ち出し厳禁ですからね?」

 

 

「わかりました……じゃあこれで」

 

 

指差された方を見れば本棚がドンッと設置してあった。それを確認して俺はサインする。後でしっかり確認しとこう。

 

 

「……はい。コウヤ・キサラギさんですね。カード申請してきますから、ちょっと待っててください」

 

 

受付の女の子はそう言うとカウンターの後ろの扉の中に入っていったので、俺は先程言われた本棚へ直行。ざっと見てみれば、常時討伐対象の同じ本がいくつかあって、他にも図鑑がズラリ。とりあえず俺は常時討伐対象の本を手に取る。

 

 

「えっと……ワイルドドッグにブロートフライ、ってブロートフライは魔物に設定されてるのか……」

 

 

確かにデカイ虫で攻撃方法がなんか撃ってくるだけで体力もないが……ちゃんと放射能で変異した化け物なんだがな。んで部位は羽か。肉しか持ってないや。と、思いながらペラペラめくっていくと。

 

――メモが追加されました。

 

 

チンッとゲームみたいに音がして、頭の中に文字がよぎる。不思議に思って更に捲ると連続して音が鳴っていた。周りは気づいていないから……まさかここまでゲームと同じなのか?

 

 

「おぉ……ホントに追加されてる」

 

 

試しにPip-Boy3000のメモ欄を見れば今まで捲っていたページの魔物情報が載っていた。いやはや便利すぎだろPip-Boy3000。これでいつでもどこでも情報が手に入るわけだ。

 

 

「それなら片っ端から見ていくか」

 

 

パラパラ捲っていくだけで更新されていくので常時討伐対象の本はすぐに終わり、魔物図鑑に移行してまたパラパラ。それもすぐに終わって他の本を見てみると、一冊だけある化け物図鑑。情報が少ないのか、討伐数が同じく少ないのか凄く薄い。

 

 

「うーん、設定部位以外は全部知ってる事だらけだな……」

 

 

載っているのはミレルークにヤオグアイ、スーパーミュータント、デスクロー、アリ系だけだ。しかも絵と大まかな攻撃方法、そして部位しか載っていない。これでよく今まで攻撃耐えられたな……スーパーミュータントやミレルークに上位種がいるなんて言ったら皆どうなるんだ?それに部位報酬が他の魔物と比べて格段に高い。デスクローの腕がSランク、上から二番目と同義とか……どうしよう、いっぱい持ってら。

 

 

「コウヤさーん!」

 

 

「ん?」

 

 

化け物図鑑を収めて本気で売ろうか悩みながら受付に振り返ると、ちょうど出てきた所だったようで呼ばれのでそそくさと移動する。

 

 

「はい。これがコウヤさんのギルドカードです。無くしたら再発行にお金がかかるので注意してくださいね?」

 

 

「了解です」

 

 

カウンターに戻りカードを受け取る。名前とランクが刻まれている。あ、そういえば手紙を出さないといけないな……説明とかですっかり忘れてた。

 

 

「あの~、そういえば手紙もらってたんですがこれで討伐報酬もらえます?」

 

 

俺はポケットに入れていた手紙を出してお姉さんに渡す。

 

 

「えーっと、おぉ!公爵家の方の手紙ですか!どれどれ……え?」

 

 

手紙を開いて見終わると同時に目を見開いて俺を見る受付の女の子。何か変なことが書いてあったのか?

 

 

「どうしました?」

 

 

「あの、ここに書かれている盗賊なんですが……数は六人と少ないですが、魔法や接近戦闘も出来るからとCⅡランクなんですよ?」

 

 

マジですか!いや、でも強くは……あぁ、即行でぶっぱなしたんだった。そうでした。

 

 

「この手紙には頭が吹き飛んでいたって書いてありますが……どうやったんですか?人質があったともあるのに」

 

 

そこまで詳しく書かれてるのかよ!どうする?素直に教えて何かの拍子にしゃべってもらったら困る、

でもギルドで受付してるんだから変に誤魔化せる人じゃあ無いだろうしな……っ!こういうときのあのPerk!

 

 

「[LadyKiller]今はないが、その時は遺物を使ったんだ。しかし俺は遺物の事をあまり知られたくない。取り上げられたりしたらたまらないから……ね?」

 

 

正直使いたくは無かったが致し方ない!体と口が勝手に動いて彼女の手を取り、顔を耳元に近づけ囁くように言うこの身体。そして言い終わって彼女を目を見つめれば、なんと顔が真っ赤です!

 

 

「ひゃっ、ひゃいっ!わかりましゅたっ!でででではギルドカードを~っ!」

 

 

「はい」

 

 

「そそそれではちょっとお待ちを~っ!」

 

 

カードを渡すと先程入っていった扉に凄い勢いで入っていった。うーむ、案外初な人だったのか……悪いことしたか?このゲームキャラの顔は悪くないからな。今度何かお詫びにプレゼントしよう。絶対。

 

 

「お、お待たせしました。上位のランクの盗賊を討伐したことで一気にFⅠからDⅠに昇格です。それと、こちらが報酬の金貨七枚です」

 

 

「そんなにあるの?」

 

 

まだ赤みのある顔だが幾分落ち着きが出てきた彼女に、顔はLadyKillerの笑顔のままで、内心かなり驚いた。ランクが一つ飛び越えた事もだが、Cランクでそんなに報酬貰えるもんなのか?

 

 

「い、いえ。本来報酬は金貨三枚だったのですが、公爵家と門番長の方から合わせてプラス四枚という指示が書かれていたので……」

 

 

飯や風呂、泊めてもらって更には服も洗ってもらったのにまだくれるんですか!ここまでしてもらうと逆になんだか申し訳ないな……。

 

 

「ん?なんで門番長が出してくれてるんだ?」

 

 

そういえば、と一言。これは多分ガリアスさんだろうが、あの人に金を出す義理はないはずだからな。ちなみに敬語はLadyKillerを使ったから今更な感じがするので解除。

 

 

「あぁいう名の上がった盗賊関連の依頼は大体国から出ているんです。いつもはギルドに張り出すんですが、今回は特に集まらなかったので門番長のガリアスさんが兵を率いて討伐に行くように昨日言われてたんですよ。でも準備始めてたらコウヤさんがやっちゃったんで、ギルドの仲介料諸々と準備費用の余りがこちらに来たわけです。ちゃっかり準備費用は抜かれてますがね」

 

 

「なるほど……」

 

 

後で礼をライルさんに言っとかないといけないと思いながら、金貨七枚を受け取る。そしてそれを握りしめ、ポケットにその手を入れる。後でPip-Boy3000に入れておこう。

 

 

「ふむ、説明ありがとう。えっと……」

 

 

「あ、私ミリア・カールと言います。よろしくお願いしますね」

 

 

「あぁ、よろしく……ん?カール?」

 

 

そういえば名前聞いてなかった事に気づき、詰まっていると彼女の方からしてくれた。これは素直に助かったが……カール、レオナルドと同じ名字じゃないか?

 

 

「なぁ、レオナルドって知ってる?」

 

 

「え?兄の事をご存知なんですかコウヤさん?」

 

 

兄……だと?まるで似てねぇ。いや、金髪で顔が整ってるのは同じだが。とにかく、俺はレオナルドとの事を話す。手紙に書いてなかったみたいだな。

 

 

「えぇー!この人質って兄とサテラさんだったんですか!?私一昨日からちょっとギルドで寝泊まりしてるから知らなかったです……」

 

 

やっぱり手紙に書いてなかったみたいだな。それにしても、こんな偶然ってあるんだなぁ……。

 

 

「まぁ、今は公爵家でサテラが付きっきりで看病してるし、身体の傷とかは治療したから大丈夫。後はしっかり休んで血を作ればいいだけだから。近いうちに見に行けばどうだ?」

 

 

「はい。そうすることにしますね。それと、兄を助けて頂きありがとうございました」

 

 

「気にするな。ただ通りすがりで偶然だったんだから」

 

 

この世界で何度目かのこのやりとりに同じように返す。

 

 

「さて、ちょっと長く話し込んじゃったな。ミリア、常時討伐依頼あるか?」

 

 

「はい。えーっと……どれにしますか?」

 

 

俺が言うと、彼女がカウンターの引き出しから何枚か紙を取り出して広げる。ふむ、さっき見た図鑑のやつだな。ならいっそのこと全部にしとくか。Pip-Boy3000のおかげで持ち運びに困ることは無いし。

 

 

「じゃあ全部やってくれ」

 

 

「わかりました。こちらは一度達成報告をすると、再度受注をする必要があるのでご注意を」

 

 

「わかった。じゃあ俺は行くよ。しばらくはこの街にいるから、何かあれば言ってくれ。これも何かの縁だしな」

 

 

ギルドカードを渡して、それを置いてある鑑賞用だと思ってた水晶にかざすとその水晶に俺のギルド情報が出る。うぅむ、パソコンみたいなものか?

 

 

「はい。その時はよろしくお願いします。これでカードに受注した事が記録されました。達成報告時にもカードを渡してくださいね?」

 

 

「あぁ。それじゃあ、また」

 

 

「お気をつけて~」

 

 

そう言って立ち上がると、元気に手を振ってくれるミリアに俺も返し、ギルドから出た。


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