ギルドから出た俺は真っ直ぐ目の前にある武具店に向かう。金は出来たには出来たが、多いに越したことはないし。それに普通の人達はどんな武器を使ってるのか見とくのも悪くない。
「いらっしゃいまぁせぇ~」
「……」
扉を開けて入ると、一番奥のカウンターにいる店員がなんとも気の抜けた挨拶をしてきてつられてこちらの力が抜けた。が、気を取り直して足を進める。建物の中はギルドと同じ二階建てで、他の冒険者や店員がちらほらいた。
「はぁい、今日はどんな御用ですかぁ?ナイフから遺物までぇ、幅広くありますよぉ?」
カウンターにつけば先程の良く言えば癒し系の声の眠そうな目をして臼緑色の髪のお姉さんがじっとこちらを見てくる。一つだけ言っておこう、デカイ!何がとは特に言う必要はないだろう……とにかくデカイ!
「?どうなさいましたぁ?」
「あぁ、いえ。えっと……これを売りたいんですが」
「わかりましたぁ。ちょぉっと、見せてくださいねぇ」
腰からミリタリーソードを抜いて彼女に渡す。思わずガン見してた……危ない危ない。
「へぇ……結構良い剣ですねぇ。曲がりも刃こぼれもないしぃ、全体的に綺麗でぇ、なにより切れ味も良さそうですぅ」
剣を横にしてじっと見たり、軽く振っている彼女。声質は相変わらずだが、目は凄く真剣で、やっぱりこういう武具店にいるだけはあるんだなぁと感心した。というかそれだけでここまでわかるのは凄いな。他の店や店員さんこんなに即行でわかるものなんだろうか?
「う~ん、これなら1800ギルでどうですかぁ?」
おぉう……思ってたより高いな。チラッと見たが、数打ちの大量生産の武器は大体500ギルだからこれはそんだけ良い武器だったのか。
「結構良い値段するんですね?」
「はい~。重さも大きさのわりには軽いですしぃ、なにより状態が良いのですぐに売り出せますからねぇ」
なるほど、これで状態が悪かったらもうちょっと下がってたわけか。修理してて良かったな。
「じゃあそれでお願いします」
「はぁい。えっと、金貨一枚と銀貨八枚ですねぇ。ありがとうございましたぁ」
彼女の手から金を受け取り、そういえば遺物を扱ってると言っていた事を思い出して聞いてみる。
「そういえば、ここにある遺物って何があるんですか?」
「遺物ですかぁ?それならぁ、二階のマリネちゃんが管理してるのでぇ、行ってみてくださぁい。あ、でも気をつけてくださいねぇ」
「?わかりました」
礼を言って階段を使って二階に上がると、一階は重装備が多かったがここは軽装備のようだ。まぁ重装備を二階に持ってくるのは大変だしねぇ。
「えっと、遺物を扱ってると下の店員さんから聞いたんですが……」
キョロキョロ辺りを見回しながら進み、カウンターに濃い青の短髪の女性を発見。下の店員さんが言っていたマリネって人だろう。
「はい。私の趣味で数点遺物を取り扱っていますが……」
お前使う気か?みたいな目で見てくるマリネさん。周りを見ても無かったし……というか俺はぶっちゃけほとんどそれしか使えないです!それに趣味とか……なら交渉の余地は有るかもな。バラさないと決めたのに、さっそく二人に自分から言ってしまう事になるなぁ……まぁこの人がそのタイプの人なら大丈夫だろうけども。
「ざっと見て無かったので、どんなのがあるのかと思いまして。これでも遺物を扱う者でしてね」
「ホントですか!?」
先程とはうって変わってカウンターから身をのりだしながら俺に詰め寄るマリネさん。下の店員さんが気をつけてって言った理由はこれか……ってか近いっ!
「はい。しかし少しお静かに。周りの方が驚いてますよ?……それに、こちらとしてもあまり知られたくないので」
「あ、はい。申し訳ありません……遺物を扱う方に会うのは初めてで。遺物を使う方は珍しいですし、これは高いから何かと慎重になりますよね」
乗り出していた身体を引っ込めて小さくなるマリネさん。それを見て周りの客も動き出した。ちなみに遺物部分は全部互いに小声で話してる。
「すいません。商品を見せてもらえますか?」
「わかりました。奥の部屋にあるのでついてきて下さい。カウンターお願いしまーす!」
「はーい!」
マリネさんがそう言いい他の店員さんが来たのを確認すると、カウンターの後ろの扉を開いて俺を手招きする。それについて入っていけば通路に幾つかドアがあって、『休憩室』、『在庫』等々、ここが関係者以外立ち入り禁止的な所だとわかった。
俺はその間にバレないようにPip-Boy3000を弄り、コートで隠しながら10mmピストルをホルスターに入れたままの状態で足に装備する。その時にわかったのだが、Pip-Boy3000を弄ってる時にはゲーム同様時間が止まるみたいだ。それ以外の動作は出来なくなるが、これのお陰でゆっくり選択が出来る……なんてチート。前までは誰も居ない所でしか使ったことなかったからな。ここで確認出来たことは行幸と言えるだろう。ちなみに10mmピストルを出したのは、ここで初期武器であるこれがどのくらいの値段がするのかを見てもらうためだ。弾薬もポケットに入れとくか……。
「さ、着きましたよ。ここに保管してあるので入ってください」
弾薬を30発程ポケットに入れた所でマリネさんが一つのドアの前で振り向く。そのドアには『マリネちゃんのプライベートルーム』と書いてあった。仕事場にこんな部屋作って良いのか?
「わかりました」
そんな風に考えながら中に入る。するとそこにあるのはガラスケースに保管されていたり、壁に飾られている銃、銃、銃……数えると10挺もあった。個人としては3挺でサテラに驚かれたが、武器屋ならこのくらいが普通なのだろうか?
「凄いでしょ?武器の研究とかなんとか言って頑張って集めたんだから!これだけの数はそこらの武器屋じゃお目にかかれないわ!」
俺がじっと銃について頭を巡らせていると、なにやら興奮して素に戻っているマリネさん。銃を見ると人が変わるタイプなのか?ゲーム内でもヌカ・コーラで似たような反応をした人がいたような……まぁ口調はそっちのがやりやすいからいいかな。俺も敬語やめるか。
「マリネさん、手に持って見ても?」
「良いけど、変な風に弄ったり壊さないでね?まぁ遺物を扱うんだから大丈夫だろうけど」
マリネさんの許しを得てから辺りを物色。調べてみると、大体耐久値は半分程度残っていて、種類はアサルトライフル2挺、.32口径ピストル3挺、ハンティングライフル1挺、ソードオブショットガン2挺、最後にレーザーピストル2挺だ。弾薬も少ないが確認。思ったより種類があるんだな。
「へぇ……結構種類があるんだ。これいくらするんだ?」
俺はアサルトライフルを手に持ってマリネさんに向き直る。持ってるから買うつもりはないが、値段確認。10㎜ピストルはこの後で見せればいい。
「えっと、それなら白金貨3枚ね」
高っ!普通のアサルトライフルがこんなにするのか!ミリタリーソードが1800ギルだったんだぞ!?こっちの世界に来てから一日目にして白金貨の商品をみるとは……とりあえず壁に戻して、.32口径ピストルに持ち変える。
「そっちは白金貨1枚と金貨8枚ね」
「むぅ……」
やっぱ高ぇ。スーパーミュータント相手には厳しい武器なんだが……希少価値ってやつなんだろうな。こんだけあれば洗濯機と乾燥機買えるんじゃないか?
「今回は手持ちがないのでやめとくよ。そのかわりと言っちゃなんだがこれがいくらするか見てほしい。値段によっては売ろう」
「嘘!?遺物売ってくれるの!?しかもこれ私が見たことないタイプじゃないの!」
俺が10㎜ピストルを真ん中にある机に置くと、扉近くで待機していたマリネさんがすごい勢いでこっちに来る。しかもまた机に身を乗り出して。ちなみに10㎜ピストルは完全に修理してあるのを出してます。
「すごい……小さいけどここまでの美品は見たことないわ。どうやって手に入れたかは仕事中だから聞かないけど使い方わかる?」
「あぁ。ここを――」
一応仕事中というのは覚えてたんだ、と考えつつマリネさんに10㎜ピストルの使い方を教えていく。その際威力のことも聞かれたので、.32口径ピストルよりちょっと上ということも伝えておいた。
「――と、こんな感じ。どうだ?」
「んー……ざっと見積もって白金貨2枚と金貨2枚ってところね。装弾数があれより多いし、持ち運びもしやすい、威力もあれより高い。なにより私の見たことないタイプだから4000ギルアップよ。どう?」
「30発弾薬とホルスター付き」
「なら更にプラス4000ギルで」
「よし売った」
俺はホルスターを外してポケットから弾薬を出す。金の支払いはカウンターでやるとのことなのでそれを置いたままカウンターまで戻っていく。この時に洗濯機とかが売ってある雑貨店といい飯屋も教えてもらったので、洗濯機を買いに昼飯を食った後に行くとしよう。これだけあれば買えるとの事なので。
「じゃあ、はいこれ。また遺物が手に入ったら売らなくてもいいから見せに来なさいよ!」
上機嫌でそう言ってくるマリネさんに適当に返事をし、俺は店を出た。ふと目に入った鎧を全パーツ買いそろえるよりも今回の売値のが高かったのには驚いた。はたから見ればチラッと見ていたようにしか見えないが。
これで所持金500ギルから35300ギルに。1日で増える量じゃないのは公爵家の人達には黙っておこうと思いながら、俺は昼飯を食べるため人混みの中を進んでいった。
10mmピストルは店に置いてある位の状態なら.32口径ピストルと大差ないんですが、今回は売られる側が初めて見る物で美品ということであの値段に。美品と言う方が強いですが。