リーダーを呪術世界に捻じ込みたかった話   作:あんまん太郎

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無下限呪術vs.メタリカ その②

 

 

 磁力には、透磁率が低い素材や介在物に妨げられることなく、磁性物を引き寄せる力がある。

 

 たとえばメモ帳を磁石で挟んで冷蔵庫に貼る……というように、生活に利便性を与えるものでもあるが、強力すぎると時として事故を引き起こすこともある。

 磁石の誤飲による体内貫通、電子機器類の誤作動や故障など……磁力は遠隔力の一種としては強力な部類であり、無限に広がる場をつくれる磁場は、遮蔽するものがなければ、あらゆるところでその力が働いてしまう。

 

 しかし世の中には、その磁力を遮断してしまう素材も存在する。 

 

 その一つこそが、【鉄】である。

 

 

 

「──!」

 

 リゾットが渾身の呪力でもって解放した術式もといメタリカの力が疾駆した先に──いくつもの()()()()()()()が、壁となって現れた。

 

「土遁や錬金術師ってわけじゃねーけどな、これでも立派な錬成だろ!」

 

 まるで地球全体を削っているかのような轟音を響かせながら、壁の向こうで、五条が吼える。 

 

「てめーに攻撃仕掛けながら、防がれた時用の()()に、後ろ手で「蒼」を()()してたんだよ。お前の移動で、磁力に反応する素材もだいたい分かってたしな」

 

 五条悟が片手でしか術式を扱えない、と考えていたわけではなかった。

 しかし【術式の発動・呪力を込める】【手をかざし】【呪力を放出する】という一般的なプロセスに気を取られすぎていた。

 また、五条が右手・左手どちらもほぼ同じタイミングで【蒼】を発動させたことで、放出された呪力量が一つだと誤認させられたのもある。

 どちらにしても、事を急ぎすぎて、五条が既に放出した呪力を保持している可能性を予測しなかったことはある種の怠慢だったとリゾットは瞬間で知覚する。

 

 五条の収束する力により錬成された壁。

 その素材は周辺からかき寄せられた鉄骨、機械、杭にバールに、と……鉄を含めて磁力に反応する金属には事欠かない。

 超圧縮されたそれらは、不純物を交えながらもひとつの強磁性体として完成されている。

 

(メタリカの力が、吸収される……!)

 

 即興の強磁性体の壁に阻まれた磁力は、反対側にいる五条に届くことはない。

 それどころか強力な磁力を放ったため、リゾットの身体が引き寄せられる。

 それらが、何を意味するか──

 

「オラぁ!!」

 

 メタリカの力を解除するよりも早く、壁の向こうから呪力が迸る。

 その圧力に耐えられなかった壁が()()()()()()()、罅割れた。

 

 隙間から垣間見える、血だらけながらも拳を振りかぶる五条のモーション。それがすべてを物語っていた。

 

 五条の鉄分と呪力を消耗させたとして、六眼がある以上呪力切れが起こることはほぼないと言ってもいい。

 さらにメタリカによる力を遮断されたことで、喉元に生成していたハサミは元の「鉄分」に戻り、頭部へのカミソリの生成と出血も止まっている。少しでも呪力操作が行える状態になれば、足を負傷していても【蒼】による瞬間移動でカバーできる。

 

 そこからの純粋な呪力強化による殴打。

 黒く散る火花。

 

 そうしてとてつもない衝撃を加えられた破片は、ひとつひとつが砲弾のような速度と火力を伴ってリゾットに迫る。

 

「ぐうッ……!?」

 

 引き寄せられたことで一瞬浮いた身体では、まともに回避をすることもままならない。

 破片に命中したリゾットは、まるで天地がひっくり返ったのかと思ってしまうほどの酷い衝撃に晒されながら後方に大きく吹き飛んだ。

 

 身体を捻りながら受け身の体勢を整えるものの、ダメージを殺しきれず、街路樹を薙ぎ倒しながら数十メートル先へ着弾する。

 

「……ッ」

 

 全身がシェイクされたかのような浮遊感、手足の痺れ、内臓にまで響く鞭打つ痛み、詰まる息、迫り上がる吐き気に導かれるように血を吐く。

 駆け巡る絶大な痛みと衝撃に、意識は白く黒く点滅を起こし、霧散しそうだった。

 

(呪力を身体強化に回したが、それでもなお威力を殺しきれなかった……術式なしでこれだけの練度、か……)

 

 産まれ落ちただけで日本のパワーバランスを揺るがし、呪術師の頂点に君臨する時代の寵児。

 大して労せずともある程度六眼や術式の仕組みを把握できるほど、五条悟という男は、良くも悪くも名を知らしめていた。だが、確かにこれだけの強さを持っていれば、いくら能力を知られたところで、なんの問題もないのだと身をもって実感する。

 地に膝を突きながらも、リゾットは踏ん張るようにふらふらと立ち上がった。

 

(順転させた術式ではなく、呪力をまとった殴打での壁を利用した攻撃か……)

 

 恐らく、五条は黒閃の発現を優先させたのだ。とリゾットは感じた。

 

 黒閃は意図的に出せるものではない。

 しかし、極限の状況下かつボルテージが最大限まで高まった状態だったからこそ、発現できるのではないかという判断を行い──そして、至った。

 圧倒的な全能感。反撃開始の合図。起死回生の兆し。ポテンシャルの解放。運や不確定な要素が絡むからこそ、黒い花火を揺り起こしてからのパフォーマンスが一番恐ろしいのだ。

 黒閃とはつまり、そういうもの。

 

「あの瞬間……運は、あの男に味方したというわけか。『命』を『運』んで来ると書いて『運命』……よくぞ言ったものだ」

 

 いくらか骨も折れているが、リゾットは体内の鉄分を操作し、酸素欠乏症にならない程度に即興のプレートを精製すると、折れた骨同士を固定させた。

 今はなによりも、動けなくなることの方が問題だ。

 

(さて、ここからどうするか……)

 

 そんな状況でも怜悧に思考を巡らせながら、暗殺者は口元の血を拭う。

 神の運命にも近い、その界隈の理に反旗を翻した出来事を思えば。これくらいのことは、些細な運命でしかないのだとばかりに。

 

 そうして、その覚悟に応えるように。

 リゾットのズボンの奥底で忘れ去られていた携帯が、その身を震わせながら小さく音を鳴らした。

 

 

 

 奇しくも同時刻。

 

 一度目の黒閃を決めたことで万能的な高揚感と戦意に包まれていた五条のポケットにある携帯にも、とある知らせが届いていたころだった。

 

 

 




ハァ、ハァ…文字数全然稼げてないのに…戦闘シーンって時間かかるし疲労感やばいですね。VS五はとりあえず次で終わります。
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