ゲヘナとトリニティをまたいで聳え立つ名もなき山。月が昇った真夜中、そこを通る峠道に、ガソリンを爆発させる音と、それによって動くピストンの唸り声が響く。
「もうこんな時間……ジュリが心配してるかな……」
その音を生み出している車輛には、『給食』の二文字。オレンジと白のツートンカラーのホルヒ108。そして、それを操るドライバーは……。
「まったく、毎度毎度美食研がこの子を盗んではぶち壊すから……」
ゲヘナの給食部に所属する、愛清フウカ。なぜこんな時間にこの道を走っているのか、その理由は今朝まで遡る。
相も変わらず美食研が暴動を起こし、いつも通り誘拐されるフウカだったが、今回は風紀委員長であるヒナの全面出撃も相まって、見事に美食研は鎮圧された。だが、その流れの中でトラックも破壊されてしまった。
その破壊されたトラックの修理のために、先生の紹介で、フウカはミレニアムへと赴いていた。ミレニアムエンジニア部の協力で、修理&改修を行ったのだ。そして今は、その帰り。
「……この山も、走り慣れたものね」
ゲヘナへと入る道は何本かあるが、ミレニアム、トリニティ、DUシラトリ区方面から帰る際は、この山道が最も近道だ。美食研の行動範囲が広いことも影響して、フウカは帰宅のために、何度もこの山道を通行していた。
今となっては、目を瞑ってでもフウカはこの道を走ることが出来る。
「はぁ……早く帰ろ」
S字カーブに一切アクセルを緩めることなく突っ込んでいくフウカ。まずは右にステアを切ると、大きく弧を描きながら車体が曲がる。そのまま壁へと激突コースを進むが、再びステアを大きく切ると、軽い車体が大きく方向を変え、慣性の動きに従って車体が左を向き、滑るようにして移動していく。
一切の減速なくS字カーブを越えていくその姿は、後に『ゲヘナのテンハチ』と呼ばれることになるのだった……。
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一方その頃、トリティの一角で、万魔殿代表とティーパーティー代表が一つ屋根の下、一つの机を囲っていた。
「ほう、二校協同のレースバトル、ですか」
「そうだ、我ら二校の仲が安定していることを見せるいい機会だと思うが?」
その会議の中で、万魔殿の代表であるマコトは、ティーパーティーホストのナギサへと、二校対抗のレースバトルを持ち掛けた。
表向きの目的は、何度か実施されている二校の友好を取り持つための交流会だが、マコトの腹の内では、トリニティを負かし、ゲヘナ優位の風潮を作る目的があった。
ゲヘナには虎丸を駆るイロハが所属しており、車輛での競い合いでは負けることなどありえないとマコトは踏んでいた。
「……いいでしょう、面白そうです。そのバトル、受けさせていただきます」
「ナギサ、本気か?」
少し考えた後、ナギサはマコトの提案を承諾した。それを受け、セイアは少し躊躇い気味にナギサへと尋ねる。わざわざゲヘナの土俵で戦わなくともという抗議を込めてのものだった。
「本気です。勿論、これはただの交流、ですものね?」
「キキキ、無論だ。あくまでもゲヘナとトリニティの友好のため」
ほとんど躊躇わなかったことを見て、マコトは何か自分が見落としていることでもあるのだろうかと不安に襲われるが、イロハという絶対の強者がその不安を払拭した。
ここに、ゲヘナVSトリニティの、戦車レースバトルの約束が取り決められたのだった。
そのまま細かなルールも決められる。トリニティ、ゲヘナ、それぞれの公道で1回ずつ二校の領地二つにかかる山で2回レースを行う。弾薬等の積み込みは可だが、発砲は禁止。勝利数が多い方が勝ち、引き分けた場合、総合タイムが少ない方が勝ち。使用車輛に特に規定なし、ただし車輛に限定する。
互いに公正となるようにした結果、平地で2回、山の上り下りを1回ずつというレースの予定が組まれる。これが後に、大波乱を生むことになるなど、誰も予想できる者はいなかった。