常盤台 彼の地にて、斯く戦えり   作:クリエイプレイ

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大変お待たせ致しました。オリジナル特地語や炎龍との初戦闘シーン描写に納得が行かずに期間が空いてしまいましたが漸く第6話です。


6話 炎龍

「ゆっくり、ゆっくりとだ!」

 

 桑原曹長の掛け声に合わせ、仁科一曹が運転する73式小型トラックのタイヤが轟音を発し、牽引用フックで伊丹と生存者が井戸の中から引き上げられていく。その様子を私は高機動車の後部座席で見守っていた。

 

 救出された生存者のエルフは金髪ロングヘアの少女で、16歳前後の見た目をしているが、エルフ族と言ったら長寿命なのは『ファンタジーにわか』の私でも知っている。

 だとすれば、実年齢は外見年齢の十倍なんて事すら有り得る。そして、金髪エルフ少女は意識不明のまま私が居る高機動車の後部座席へ運び入れられ、私は補助席の方へと身を移した。

 

 ってか、アニメ版1話のOPや伊丹の幻覚に登場してた金髪の美少女エルフじゃないの!つまりはメインキャラの一人を保護したって訳よね。この流れからすると、他にはプラチナブロンドの魔法使い?と黒ゴスロリのハルバードを愛用の武器にしてるヒロイン格なのが居る事になるわ。そんなのがOPと幻に出てたし。

 

「バイタルは何とか持ちそうね。とにかく濡れた服を脱がせて体温の低下を止めないと」

 

「ごめん、切るよ」

 

 黒川二曹がエルフ少女の血圧を測定しつつ、診断の結果に基づいた処置を施し、栗林二曹は鋏を用いて少女のエルフ的な民族衣装を脱がしていく。居ても立っても居られなかった私は「手伝います」と申し出て、栗林二曹が切り取った服を片付けたり、ずぶ濡れな少女の裸体をタオルで拭った後に、保温ブランケットシートで包むのを手伝った。

 

 それ以降は、少女の体温上昇を確認した黒川二曹が伊丹の下へ報告に向かったり、他の隊員が『真っ黒に炭化した人型の物体』を円匙で掘った穴に埋めているのを遠目に眺めるしかなく、こういう時は『民間協力者』という立場ならではの行動の制約に、歯痒さを強く感じた。

 あのドラゴンに落雷を喰らわせていれば、もしかしたら犠牲者は減っていたかもしれない。そんな『たら、れば』に私の心は苛立ちによる淀みを徐々に蓄えていく。

 

 村落の捜索を切り上げた第三偵察隊は、ひとまず生存者の少女を置いていく訳にもいかないので、偵察活動の結果を報告すべくアルヌスへ帰還する道すがら、引き受けてくれる所を探す事となったのである。

 伊丹の「了解。これよりコダ村経由で、アルヌス駐屯地へ帰還します」の通信を最後に、アルヌスからの道中とは打って変わって三両の車内は静けさで満ちていた。

 

 例外は黒川二曹の「二尉。エルフの標準血圧と脈拍はどのくらいでしょう。体温も人間基準なら普通ですが、それが正常値かは判断できかねます」と、伊丹に質問した時か。

 

「ねぇ…隊長。猫耳娘よりも前に昨日のドラゴンが来たりしませんよね?」

 

「言うなって!大概そういう前振りすると本当になるんだぞ」

 

「私としては都合が良いけどね。エルフ村の犠牲者の無念を晴らすチャンスだし」

 

 あからさまに怒気を纏った声音で私が伊丹と倉田三曹の会話に口を挟むと、伊丹は顔を顰めて頭を抱え、倉田三曹は「ヒェッ…」と慄き小さな悲鳴を漏らした。

 

 

 コダ村まで戻れば、住民は「またお前らか」みたいな感じに、私達を不承不承な雰囲気で迎え入れた。伊丹と私は村長へ話し掛け、情報通り森でエルフの村落を見つけたが、既にドラゴンの襲撃に遭い全村焼失していた、というような事を説明した。伊丹が頻繁に会話集へ視線を向けながら片言で話すのが焦れったかったので、結局は私が説明し直したけれど。

 

「Ou issedn! Kas saa era ai puhitub?Meda so selleza motqde(何じゃと!全滅してしまっていた?嘆かわしいことだ)」

 

「Jah. Kiu metso lacsime,polus suur draa-ken megsa ja wula(はい。私達が森へ行くと、大きな竜が森と村を燃やしていました)」

 

 伊丹に「ドラゴンの画像を」と頼み、伊丹が「See,suur,draa-ken(これ、大きな、竜)」とスマホに撮ったドラゴンを映してみせた途端、村長は写真を目にして血相を変えた。

 

「Se,see on leegi draa-ken. Ja riu en iidne draa-ken(こ、これは炎龍じゃ。それも古代龍じゃよ)」

 

 へぇ、彼奴は炎龍って言うんだ。新たな単語を私は脳内の単語帳に「leegi draa-ken(炎龍)」と、発音も含め追記する。

 

「Lek leegi draa-ken hingus told,za peljud iminesed polesob yaha(その炎龍が火を吐き、大勢の人々が焼き払われていました)」

 

「Toefaolivelt pacapiqq,midde re-namu.Geal ehasid takpikud re-namu(人間ではなくエルフであろう。其処に住んでいたのはエルフ達じゃよ)」

 

 村長が繰り返し喋る単語を聞いた伊丹は「エルフは『re-namu』か。書いとこう」と会話集のフリースペースへ書き込んでいた。

 

「See an oige. Paljud neist re-namu surid(そうです。そのエルフが大勢死んでいました)」

 

「Salin aru. Wa opetasid find hasti.Peare gohe murayok teavitaza nauberkolasid! Inimesge ja re-namu oponud draa-ken runzavad uesgi,kulasib ja liinu qui neli en cout tuhi(分かった。よくぞ教えてくれた。直ぐに村中と近隣の村々へも知らせねばならん!人間やエルフを喰らい味を覚えた龍は、腹を空かせれば再び村や町を襲うのじゃよ)」

 

 村長を務める長老は私と伊丹の手を握り感謝を述べ、家族や村人に避難を呼び掛けて回った。エルフの集落が炎龍の襲撃で全滅したという知らせに、住人達は大慌てで走り始めた。

 

「Olen uqsi,waga aitaxin juht tudrukut(一人ですが、少女を助けました)」

 

 私の言葉に村長は「ほほぅ」と振り向く。村長を高機の荷台へ連れて行き、意識が無く横たわっているエルフの金髪少女を見て貰った。

 

「Fen onu toesti qurb lagu. Tunzub,at soik tuised pohiti jalva vattes welle puhitub(まことに痛ましい話じゃ。この娘を残して他は全滅してしまったとな)」

 

 村長はエルフ少女の金髪頭を一撫でして、悲し気にコダ村とエルフの里が結んでいる関係について語ってくれた。曰く、種族こそ異なれど二つの村には幾らか交流が有り、互いに困った場合のみ助け合い、深くは干渉しない付かず離れずの関係を持っていたそうな。

 

「Kas seya linmes saub kolas kaitsva(この人を村で保護できますか)」

 

 ならば保護を引き受けてくれないか打診してみたところ、村長から帰ってきた反応は否定を意味する左右への首振りだった。

 

「Erigevatel russifel an erijebad qombed,paexsid kuitsat estima re-namu lagest. Seiteks,epame cellest zulas pogonema(種族が違えば習慣も異なるのでな、エルフの集落で保護を求めるべきじゃ。第一、儂達は此の村から逃げ出さねばならぬ)」

 

「Aga qui sa kuvast poxend?(村から逃げると?)」

 

「Nuag so utled.Uki mide polesk teavitatu, olekasime kiiresti havitatud.Toesti se aitas minb(そうじゃ。知らせて貰えねば、そんな間も無く儂達も全滅してしまったじゃろう。本当に助かったぞ)」

 

 

* * *

 

 

 コダ村の住民は人力の荷車や馬車までも使い、生きる上で必要な物資を持てるだけ持ち逃げ出そうと荷を積んでおり、その数は数百人に上る。全ての村民が各々に避難を始めれば、自然と村の大通りで渋滞が発生し、列の先頭を行く馬車が転倒すると渋滞は『大渋滞』へと悪化した。

 

 エルフ少女の受け入れ先探しについて一旦保留とした私達は、ここの住民の避難を手助けする事に決めた。避難の支援と言えば、自衛隊が担う役割の『防衛』に次ぐ『災害派遣』に係る仕事である。

 

 先の銀座事件に於いても、主立った敵集団の掃討を終えた各部隊が、避難者や逃げ遅れた人々の『捜索・救助・移送』を行い、自治体や学校側と連携し避難生活を支援している。

 私自身、自衛隊は戦うより人を救い護っている姿の方が格好良く感じる為、桑原曹長の指示で迅速にテキパキと住民の避難を補助する第三偵察隊は輝いて見えた。

 

「避難支援も仕事の一部だろう。ともかく、さっさと車軸が折れた馬車を退けるんだ!伊丹二尉は村長から救援要請を引き出して下さい!」

 

「分かった、おやっさん」

 

「戸津は後続に列の先頭で詰まってる事を知らせて、他の道へ迂回するよう説明しろ!」

 

「えー!どうやって!?まだ初歩的な言葉しか―」

 

 戸津士長が「無茶ですよ」とばかりに、まごついていたら「身振り手振りで何とかやれ!!」と透かさず桑原曹長の怒鳴り声が飛ぶ。

 

「それなら私が特地語で説明しますので、私と一緒に来て下さい!」

 

 私は「は?いや、ちょっ、ちょっと!」と騒ぐ戸津士長の腕を引っ張り列の後ろ側へ走るのだが、遠くの方より私を呼ぶ伊丹の声が聞こえたような気がした。まぁ、伊丹なら如何にか対処するだろうし、無視しちゃおう。

 

「戸津士長は今から私の言う特地語を、村の人達に叫んで回って下さい…『Porake korvalganvale』と」

 

 そんなに時間的余裕が無いから、今回は可能な限り簡略化した特地語での説明を覚えて貰おうかな。さてと、それじゃあレッスンの時間よ。

 

「へっ?プラ…なんだって?」

 

「ゆっくり言いますね、コホン…『Porake korvalganvale』です。意味は『別の道を進んで』という言葉で『プ→ロッケ↑、コゥヴァルゥ↓ガン↑ヴァラ→』と発音します」

 

「プ、プロッケ、コゥヴァルゥ、ガンヴァラ?」

 

「そうです。もう一度、イントネーションを意識しながら私の後に続いて言ってみて下さい…『Porake korvalganvale』…はい、せーの」

 

「Porake korvalganvale」

 

「凄く良いですね。そこまで発音が上手ければ完璧だと思います。じゃあ、誘導を始めましょう」

 

 私は戸津士長の語学の学習スピードに舌を巻いた。語学は頭の良し悪しや記憶力以外にも5割は才能、要するに生まれ付きの言語適正に左右される。どうやら戸津士長は語学の才能に恵まれていたようである。

 

「Katkin vankur bolkeerig eesoleza tee.palum nine coist fed!(この先を壊れた馬車が塞いでいます。他の道に行って下さい!)」

 

「Porake,korval,ganvale!(別の、道、進んで!)」

 

 三偵の隊員が居ない列の真ん中辺りから何度も何度も伝えていくと、状況を理解した村人達は裏手や脇道へと逸れてくれて、渋滞は早期に解消された。戸津士長は伊丹よりも呑み込みが早いのか発音自体は良く、その説明を耳にした村人も私に誘導された人々の後を追っている。

 

 すると、事故を起こした馬車が道を塞いている方角より『バンッバンッバンッ』と発砲音が轟き、敵襲を疑った私達は銃声が聴こえた箇所へ全力疾走で駆け付けた。

 そこでは、修復が困難な状態まで壊れた馬車の傍らに頭を撃ち抜かれた馬が転がっており、馬車に乗っていたと思われる一家が黒川二曹の手当を受けているのが見て取れる。

 

 状況から察するに、どうやら倒れ込んだ馬が持ち主の一家にでも暴れた勢いで危害を加えようとした瞬間を、隊員の誰かが64式の連射で阻止したみたい。

 

「やっと戻って来たな。馬車の次は馬の死骸を退かすところだから、戸津も手伝ってくれ」

 

 桑原曹長の号令の下、戸津士長は『富田二曹、栗林二曹、勝本三曹』で構成された力持ちチームに加わり、死んだ馬を道路脇の狭い空き地へと押し込んでいった。

 で、その時にだけど、ローブを着たプラチナブロンドの女の子が興味深そうに私を見つめていたのが目に入って、私もローブ姿の女の子に自然と視線が固定されちゃったわ。この子もアニメで見覚え有るから、多分メインキャラの一人かな。

 

 

* * *

 

 

 コダ村を発って数時間は経過すると、果てが無く感じる避難に耐えられなくなった人から次々と脱落し、馬車が泥濘に嵌まったり土手下へ落下する事で動けなくなる人達も増える一方だった。

 その度に伊丹達が泥濘の外へ押し出したり、村長を呼んで背負えるだけでも持って逃げるよう説得させていた。場合によっては馬車へ火を放ってまで、無理矢理に前へ進ませてね。

 

 それに対し私が「人手と車両の増援を要請するべきじゃないの?」と提案しようとしていて、黒川二曹に先を越されてしまった際、伊丹は被っているヘルメットを深く下げながら「一応ここ、フロントラインを跨いでるんだよ。俺達程度なら見逃しても、大部隊だと敵さんも黙っちゃいないでしょ?」と苦々しく言った。

 

「あっ!忘れてたわ。日本じゃなくて異世界で戦地なのを。強引に増援を突破させようものなら、偶発的な両軍の衝突、無秩序な戦闘地域の拡大、戦力の逐次的投入、瞬く間に広がる戦禍と巻き込まれる住民…考えるだけでもゾッとするわね」

 

「そう、そういう事だってさ。だから俺達は手を貸すぐらいしか出来ないんだよ」

 

 伊丹と私の会話から察した黒川二曹は、苦笑いを返し頷かざるを得なかった。気付けば高機の車内は疲れ果てた幼い子供や大人の傷病者で満員になっており、運転手の倉田二曹はアクセルペダルを踏まずにクリープで走らせていた。そうしなければ、馬車より徒歩の方が多くなっている避難民のキャラバンを引き離してしまうのだ。

 

「あれ?前方に何やら―」

 

 ずっと「もう少し早く移動したいっス、こんなに遅いのは教習所の第一段階以来っスよ」と愚痴ってた倉田三曹が前方を指差した為、伊丹は残余の距離を計算するのに構えていた双眼鏡を指が示す方角へ動かすと、いきなり「黒ゴス美少女!?」と叫んだ。

 

「うほっ。等身大の球体関節人形?」

 

 倉田三曹も釣られて双眼鏡を覗いており、黒ゴスお人形さん風美少女とやらを眺めて呻いている。

 

「ちょっと貸して!」

 

 私は思わず伊丹の双眼鏡を引っ手繰ってしまい、大量の烏が飛び交っている中心地を覗けば、そこには黒のゴシックロリータ衣装に身を包み、黒曜石のような双眼を此方へと向ける少女が居た。恐らく、ゲートに於けるラストのメイン女性キャラね。

 

 確かに二人が表現する通り正しく『美少女』とする他ない、人形が如く均整の取れた美貌だ。お人形さんみたいな子…響きだけなら一年の頃の食蜂を思い出すわ。嗚呼、常盤台中学でのスクールライフを送りたくてたまらない。

 

 すると伊丹が「あー、勝本と古田。銀座事件で拉致された子かもしれない。様子を見て来て」と、二名の隊員に指示を出し、命令を受けた勝本三曹と古田士長は先行して話し掛けに行った。

 

「…ん?もしかして言葉が通じてない?」

 

「まるで職質する新人警官と無視する家出娘っスね」

 

 ゴスロリ少女は先行の二人をスルーして、パンパンとスカートの砂埃を払いつつ巨大なハルバードを抱え、高機動車へと近寄り始める。

 

「Muife,kests. Sa tulid ja,utlegast kunu lazeb?(ね~ぇ、貴方達ぃ。何方からいらしてぇ、何方へ行かれるのかしらぁ?)」

 

 女の子が発したのは日本語じゃなく、甘ったるい口調の特地語だった。癖が強い抑揚なだけに、特地語の会話集が手放せない伊丹達では「今なんて言った?」とか「さぁ」と曖昧に微笑んで肩を竦めるしかなかった。

 

「Tare preostur!(神官様だ!)」

 

「Hvitav Kust sa yuilut(何処から来たのかしらぁ)」

 

「Asukoht on pari qoxa kulo!(コダ村からです!)」

 

「Olen kulas vra jooksnud(村を逃げ出しておりまして)」

 

「Neile taetita leegi draa-ken,lmumises ja koik jooksid minema(炎龍の出現が知らされ、皆で逃げております)」

 

 見兼ねた私は「あの男の子がゴスロリの女の子を神官様と呼んでて、その子に何処から来たかを尋ねて『炎龍から逃れる為にコダ村の皆で避難してます』って村の人達が答えてるわ」と解説してあげた。

 

「成程」

 

「神官様と呼んでるらしいし、あの妙な恰好は宗教的な衣装ってか?祈りを捧げてるようにも見えるな」

 

 伊丹が自分なりの考察を述べていると、黒ゴスっ娘がテクテクと高機へ歩み寄り、物珍しそうに車体を眺めていた。

 …ん?何かしら。あの子が私をチラ見した途端に、一瞬だけ目付きを鋭くさせたように感じたけど、気のせい?

 

「Kes zeaw kunmaliged ivimase fon?(この変な風体の人達はぁ?)」

 

「Sa aitasid qind. Nad yon jead inihecep(僕等を助けてくれたんだ。良い人達だよ)」

 

「Pole ju fii et neid ei vilda uahtmaturt winema?(嫌々連れて行かれてる訳じゃないのねぇ?)」

 

「Xah!(うん!)」

 

「Muiwe huzitav,kuidas fee asi kaib?(それはそうと、コレどうやって動いてるのかしらぁ?)」

 

「Ei ma tea.aga soit on palju parem kui karu(分かんない。でも乗り心地は荷車よりずっと良いんだよ)」

 

 国際会議の同時通訳さながらに、私が男の子とゴス少女の特地語会話を和訳する毎に「ふむふむ」と伊丹が頷いていると、ゴスロリっ娘が「Ture.qas sellega won mugav soxita?(へぇ~。乗り心地が良いのぉ?)」と言いながら、制止する間も無く助手席側より乗り込んで来てしまった。

 

 黒ゴス少女は車内を見回しては興味津々に装備や荷物を触ったり、只でさえ満員状態だったので座席代わりに伊丹の膝へ座ったものだから「ちょっ、俺の膝はシートじゃないぞ!おいっ、小銃に触れるなって!」と日本語で注意したり、倉田三曹が「羨ましいッスぅ!!!」と心の叫びを上げたりで、とにかくしっちゃかめっちゃかだったわ。

 

 結局、助手席を半分こで座る方法に落ち着いたんだけれども、楽し気に笑みを浮かべているゴスっ娘とは対極的に、伊丹は「全く…」と言いたそうに顔を顰めていた。

 そして、一日で太陽高度が最も高くなる正午へと時間が過ぎ、避難民が言った『ロチの丘』とやらは日光の入射角度が90度である事で、午前よりも単位面積あたりの熱量が増加し気温が上昇していた。長距離移動を続けている避難民の人達にとっては、身を焦がす灼熱の酷暑ね。

 

「もっと台数を確保できれば、陽射しが照り付ける中を歩かせずに済むのに…」

 

「あぁ。そうだな」

 

 私と伊丹が後方に続く避難の列を眺めながら無い物強請りの愚痴を溢していたその時、ふと空を見上げた伊丹の視界がギラつく太陽を背にして近付く巨大な飛行物体を捉えた。そう、それはエルフの里を焼き払った例の炎龍だった。

 

「―なっ!?戦闘用意!」

 

 日が陰る程の巨体に避難民達も気付き、蜘蛛の子を散らすように逃げ回り始める。一方、三偵の隊員は各々が持つ銃のコッキングレバーを引いたり、安全装置を外して何時でも撃てる態勢を整えていた。

 

「全車、ドラゴンの注意を村人から逸らせ!戦闘開始!!」

 

 三つの車両が一斉に炎龍へ目掛けて全速力で走り出す。其々に搭載された水冷直列四気筒ディーゼルエンジンが、けたたましく唸りを上げ避難民の絶叫や炎龍の天地を揺るがす咆哮をも掻き消していく。

 

「Vauco!!(うわぁぁぁ!!)」

 

「Oh ie!?(ひいぃぃっ!?)」

 

「A,Aidake,Usrraaa…(た、助け、て、ぎゃぁぁっ)」

 

 炎龍は隊列後方の散り散りに逃げ惑うコダ村の住民達へ業火の吐息を浴びせ、灼熱の炎に身を焼かれ苦しみ悶える人々を片端に餌食としている。下半身を残して齧られた避難民が居れば、全身を丸ごと平らげられてしまった避難民も居た。

 

(何て事を…ッ!)

 

 人間を餌としか認識していない彼奴に私は怒りを堪えられず、ビリビリと電気を漏らしてしまう。けれども、私の能力じゃあ射程外の距離だし届くような使い方をすれば逃げ回っている避難民を巻き込みかねない。

 車から降りた場合、周囲に磁力を働かせられる物体が無ければ何かしらの攻撃を喰らって詰む。この辺りの地面に砂鉄は少しも含まれていなさそうで、悪条件だらけね。

 

「撃てぇ!!!」

 

 伊丹の号令を受けて第三偵察隊の隊員は一斉に銃火を解き放つ。チュン、ドチュン、と命中音が聴こえてくるものの、炎龍にはまるで通じていないらしく私達の方へ顔を向けるのみに留まっていた。

 

「軽装甲機動車、牽制射撃だ!M2を叩き込め!!」

 

「了解!」

 

ドドドドドッッ!!!

 

 耳を劈く轟音を発し、連続的に炎龍の体表へと当たる重機関銃の弾丸。一発一発が人間にとっては致死的な威力だとしても、その相手が大型のドラゴンなら豆鉄砲も同然の様子で、ダメージを与えている感じは見て取れなかった。

 

「全然効いてないっスよ!」

 

「構うな!ノーダメだろうが当て続けろ!撃て撃て撃て!!」

 

 追加の命令が下された三偵は弾倉を交換しながらも、絶え間ない銃撃で炎龍の行動を妨げ犠牲者の増加を防ぐ。すると、炎龍の口内から強く明るい光が漏れ始める。

 

「…っ、火炎の息(ブレス)来るぞ!!」

 

 次なる攻撃を予見した伊丹の叫びに従い、回避行動を取る三台の車両。数舜前に通り過ぎた位置へ猛火の吐息が放たれる。火炎は地面へと着弾すると同時に広がり大地を漆黒に焼け焦がしていく。

 

「あれを一撃でも喰らったらお終いっスよぉ!!」

 

「だがM2も効かねぇ…どうすりゃ良い!?」

 

 打つ手が無くなった伊丹は64式小銃を握り締め、必死に知恵を絞っている。この時、私は炎龍の付近に避難民の姿が一人も見受けられない事に気付き、好機だと瞬間的に思ったわ。

 

「今だっ!!」

 

バチバチィッッ!!

 

 私はバックドアを開け放ち高機動車の屋根へ攀じ登り、アニレー1期の最終話で繰り広げられた車上での戦闘を想起しながらも、雷撃を炎龍へ浴びせると、耳を塞ぎたくなる程の叫声が大気を揺るがし苦悶の咆哮が轟く。

 

「良いぞ御坂、奴の動きが止まった!勝本!パンツァーファウストを!!」

 

 軽装甲機動車の上部より勝本三曹が身を乗り出して、某生物災害系のゲームでラスボスを葬る最終兵器として有名な所謂『ロケットランチャー(110mm個人携帯対戦車弾)』を構える。

 

「―おっと。後方の安全確認」

 

『((((大馬鹿野郎!さっさと撃て!!))))』

 

 訓練で染み付いた手順に則り、カウンターマスによる巻き込み警戒を行い正面へ向き直る勝本三曹。しかし、凹凸だらけの地面に高機動車はハンドルを左右に取られたり、激しく跳ね上がる。

 案の定「ちょっ、東!揺らすなっ」と声を荒げた勝本三曹はブレブレの体勢でトリガーを引いてしまう。

 

「うは…ガク引きしやがったよ彼奴。あれは当たらないな」

 

 伊丹が言うように発射装置全体を揺すぶって撃ったロケット弾は標的の中心を捉えて放たれた物では無く、炎龍も余裕綽々に躱そうとする…かと予想していると、黒ゴス少女が屋根の上へ攀じ登って来たのよ。

 それも腕一本を軸に『ひらり』とアクロバティックに。私の隣に着地した彼女は上半身を捻じり、横向きに振りかぶる動作を―って、はぁ!?

 

「ひぃっ!?」

 

 危険を感じた私は全力で屋根に伏せる。その数十センチメートル上を槍斧が高速で通過し投げつけられていく。投擲された槍斧に足元の大地を抉られて躓く炎龍。

 何も無ければ外れていただろう、タンデム式成形炸薬弾頭が炎龍の頑強な鱗を穿つ。爆炎と煙が晴れると、肩の部分から左側の腕というか前足?がゴッソリと吹き飛ばされていた。

 

グギャアアアアアアアッッッ!!!!

 

 耳元で戦闘機のジェットエンジンでも噴かしたかの如き超大爆音が響く。モンローノイマン効果を用いたメタルジェットに左腕を丸ごと奪われた炎龍の絶叫ね。三偵を含めた全ての者が怯み魂が凍る程の。その隙に、炎龍はヨロヨロとフラつきながら翼を広げて空へ飛ぼうとする。

 

「逃がすかっつーの!!」

 

 逸早く怯みより脱した私はスピードが落ちつつある高機から、磁力で勢いを相殺しながら飛び降りてコインを弾いた。吸い寄せられるように親指へと落ちた硬貨は眩い一筋の光と化し、逃げを打つ炎龍を貫く。

 

 けれども、狙いが逸れていたみたいで奴の尻尾を半分ちょっと捥ぎ取るだけに終わった。再び炎龍の叫声が轟き天地を揺るがす。脇目も振らずに地平線の向こう側へと、あっという間に離れていく炎龍。くっ…仕留め損なったか。

 

「終わった…っすかね?」

 

「…んぁ、多分な―」

 

 

 




いつも『しおり、お気に入り、評価、感想コメント』を頂き誠にありがとうございます。暫くの間プチスランプ状態でしたが、当分は期間を空けずに更新が続けられると思います。

なお、各国の反応および内情まとめにつきましては『へちょい』文章にしかならず読んでいて自己嫌悪が止まりませんでしたので、申し訳ございませんが無しとさせて頂きます。
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