女妖怪達が育てるようです   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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1552年 萱津の戦い

 辻鬼という苗字が与えられてもやることは粛々とやるのみである。

 

 仕事は油売りを続けてていた。

 

 ただこの頃熱田に油を売っている縁から熱田宮司の千秋季忠という人物とも仲良くなっていた。

 

 千秋季忠は信長様と同じ年の現在18歳の若武者で、父親や兄が相次いで亡くなってしまい、急遽宮司になったという経緯があり、俺の子供達の名前をつけて欲しいと頼んだ事や前田利家や津田盛月の兄貴分として面倒を見ていたのでその縁もあって仲良くなった。

 

 今日は油を売りに行った時に千秋から呼び止められた。

 

「千秋様、何かありましたか?」

 

「いや、信長様がなぜお前を冷遇しているのかわからなくてな」

 

「冷遇···されているのでしょうか?」

 

「信長様は気に入った者は身分問わず同じ釜の飯を食ったりする。周囲からは奇行と思われるが、親衛隊入隊の儀式でもある···信長様から誘われたりしなかったか?」

 

「···いえ、無かったですね」

 

「信長様は美男子が好きだから佐助も誘われていると思ったが···私はてっきりそれを断ったから距離を取られたのだと思っていたが」

 

「私自身が信長様を認めていないのもあるからかもしれません」

 

「認めてないのか!? 信長様を!?」

 

「不敬かもしれませんが正直私は信長様よりも下方様の方が仕えていて楽しかったですね。信長様の無茶振りを応えたのですが、それから油役になりましたが···それっきりで、給金よりも油を作って売っている方が収入になりますし···」

 

「···なぁ夢みたいなのを聞かれなかったか?」

 

「···最初に聞かれました」

 

「なんて答えた?」

 

「家族を養いたいと答えました」

 

「···別に変ではないな。何が佐助が避けられる原因か本当に分からんぞ」

 

「親衛隊の皆さんから見た俺はどういう評価なのでしょうか?」

 

「親衛隊の皆からは武も知もある。美人の奥さんを四人を満足させている男の中の男という評価だな。ただこの前の戦での暴れぶりは人を逸脱しているとみられていたがな」

 

 俺は手をみながら話す

 

「幼いときから鍛えましたので後天的な怪力ですがね。勉学も嫁達に叩き込まれたからできるのであって···生まれ持っての才とは言い難いですがね」

 

「わからんなぁ···」

 

 と千秋様と首を捻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 那古野城では濃姫と信長が喋っていた。

 

「辻鬼という名を与えた男を殿は冷遇しているように見えますが何故でしょう?」

 

「歪故だ」

 

「歪?」

 

「大成する器がありながら夢の小さな男故にな。国を取れる器があるにも関わらず、城一つで満足とのたまった。油売りの役を与えたが、その利益で満足しているところがある。家族を守るためと言うが、自身の由来の欲が希薄だ。欲を成そうという気が薄い者よりは必死に気を掴もうとしている者の方が余は気に入る」

 

「なるほど···」

 

「まぁ使える者であることにはかわり無い。次に武功を挙げれば村井の下にでも付けて育てるか」

 

 村井とは村井貞勝の事で、信長の奇行により親衛隊以外の家臣達からそっぽ向かれているが、敵対ではなく中立の立場として尾張全体の内政を担っていた。

 

 普段は織田信勝のいる末森城にて働いていた。

 

「村井殿に付けて信勝の内情を探るのですね」

 

「問題は余も佐助も互いに信用していないところだ。下手すると辻(佐助のあだ名)も信勝に付いてしまうかもしれないがな」

 

「良いのですか? あの者の武力は魅力的では?」

 

「魅力的ではあるが集団戦に向かん。尾張の兵は弱兵故に工夫をする必要があるが、辻の場合工夫の前に個の力でどうにかしようとするだろう。余が欲しいのは将だ。強すぎる兵は要らない」

 

「あらあら···」

 

 

 

 

 

 

 

 赤塚の戦いから4ヶ月後のある日、信長様より召集がかかった。

 

 信長の上司である清洲織田家が織田弾正家討伐に動いたのだ。

 

 完全な奇襲で、2つの城が陥落し、信長の叔父や親族が捕らえられてしまった。

 

 普段は信長の意見を聞かない重臣達も織田弾正家が攻撃されたということで一致団結し、信長の召集に応えた。

 

 かかれ柴田と呼ばれる柴田勝家もこの時信行の部下であったがこの戦に参加していた。

 

「おお、お前が辻鬼か! 顔は幼いのに鎧の上からでも筋肉がわかるとは···良いな」

 

 と褒められた。

 

「どこの部隊だ?」

 

「小森某殿の部隊です」

 

「よし、俺の部隊に加われ。最前線に突っ込むぞ」

 

「それは···最高ですね!」

 

「だろ!」

 

 と意気投合し、柴田勝家の部隊で戦うことになった。

 

 柴田勝家も元々足軽大将と比較的低い身分から数々の武功で織田弾正家の重臣に成り上がった人物である。

 

 しかも武一辺倒ではなく内政や人を育てるのにも長けていたし、人望もあった。

 

 織田信行の教育係の一人に抜擢されていたのも総合能力の高さ故にだろう。

 

「かかれぇ!」

 

 柴田様の突撃に合わせ···というか先頭で突っ込む。

 

 弓を射掛けられるが、先頭で視界が開けているのと、正面からの弓であれば避けることは容易い(ほぼ人外の意見ですので参考にしないように)。

 

 弓を避けながら進み、槍を合わせて突き出してきた兵の槍を逆に掴んで槍を奪い取ると、周りをなぎ倒して穴を作る。

 

 柴田様に鍛えられた兵は弱兵と言われた尾張兵でも信長の親衛隊ぐらいの練度があるため、穴ができればそこから濁流の様に穴に群がって穴を広げ、勢いそのままに戦線が崩壊する。

 

「辻鬼佐助一番乗り!!」

 

 大声で叫び、そのまま近くに居た兵を槍で突いて殺すと柴田様が敵の将と戦っていたので援護に入る。

 

 敵将の脇腹に槍を突き、柴田様が首を取った。

 

「坂井甚介(清洲織田家の4人の家老の一人)辻鬼佐助一番槍! そして柴田勝家が討ち取った!!」

 

 坂井の首を柴田様が掲げると、兵の士気が崩壊して逃げ始めた。

 

 柴田隊が無双状態で横の部隊にも襲いかかった事で清洲織田家は敗走。

 

 信長様自身が率いる場所や信長様の叔父の織田信光率いる部隊も清洲織田家を圧倒し、敗走する清洲織田家の将に襲いかかった。

 

「辻斬り佐助いざ参らん!」

 

 辻斬りは本来町中で斬り殺す事を意味するのだが、語呂が良いのでそう言うと柴田様から

 

「それはちとカッコ悪い。風の様に素早い動き故に辻野分と名乗れ」

 

 野分は台風を意味するので嵐の様に暴れ回るという意味になる。

 

「わかりました!」

 

「俺は権六の親父と呼べ! 行くぞ辻鬼!」

 

「は!」

 

 追撃戦では馬に追いついて馬を殺し、落馬した武将の首を挙げる戦果を稼ぎ、そのまま本拠地の清洲城まで追い込んだ。

 

 信長様は清洲織田家が一応上司であることと、守護の斯波義統を清洲城に囲っていたので攻撃したくてもできなかった。(攻撃をしたら織田家は謀叛人になってしまうため)

 

 なので城下での乱取りの許可が出て、清洲城下で略奪と放火が行われた。

 

 俺も乱取りに参加して、逃げていた牛を数頭捕まえて縄で繋いで家に持ち帰った。

 

 武功の褒美として信長様から足軽小頭の身分と5石分の知行を与えられた。

 

 ちなみに銭換算にすると2.5貫である。(現代だと年収30万円ということになる安いが、当時の物価が十分の一程度なので実質年収300万円と同等)

 

 それと油役をやりながら村井貞勝の補佐をしろとも言われたのだった。

 

 

 

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