女妖怪達が育てるようです   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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1548年 武士になるために 女河童のハマ

「皆にもっと良い生活をさせたいから、俺···成り上がりたい。皆を娶れるくらい偉くなりたい!」

 

 吹っ切れた俺は皆の前でそう宣言するとお玉さんが

 

「ならば知見を広めよ。身体や学を鍛えるもの良いが、それでは広い知見は得れんからのぉ。どれ」

 

 お玉さんが壺から一貫ほど取り出して、俺に渡してきた。

 

「一貫(12万円ほど)を渡すからこれを5倍に増やすのを修行としよう。5倍に増やすまでは交わることを禁じる。皆の手を借りても良いが、手を借りるにも金がかかると思え···知恵を振り絞ればできると思うぞ」

 

 そう言われた。

 

 俺は一貫を受け取り、銭を稼ぐ算段を考える。

 

「お玉さんは知見を広めろといったのだから···」

 

 俺はこの金をお雪さんに全て渡し

 

「お雪さんの上質な布をこの金で買えるだけ買わしてはもらえないか」

 

 と掛け合った。

 

「おお、初手で私か···うん、良いよ」

 

 と言うとお雪さんは布を俺に渡してきた。

 

 お雪さんの布は上質で熱田の町でもよく売れると草子さんから聞いていた。

 

 お雪さんの綺麗な布ならば然るべき所で売れば今よりも高値で売れるだろうと目論んだ。

 

 その日は自分の持ち物を整理して翌朝、荷物を纏めて旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 籠を背負い、籠の中には布の束を幾つか入れて走る。

 

 熱田の町に到着するとまずは前に草子さんと喋った町の顔役の人を訪ねた。

 

「加藤殿はおりますか!」

 

 戸を叩き、加藤殿を訪ねると加藤殿の下で働いている小僧が出てきたので、草子さんと昔物売りに来た小僧で、この度は草子さんの許可を受けて一人で売りに来たと事を伝えると、顔役の男性がやって来て

 

「おお、ずいぶんと立派になったな! 佐助だったな。草子の嬢ちゃんから熱心に修行に打ち込んでいたって聞いたが···そうかそうか!」

 

 バンバンと背中を叩かれた

 

「もしかしてヤッたのか?」

 

「···はい」

 

「そうか! そうか! 初々しいねぇ。羨ましいぜ! で、売りに来た理由を聞いても良いか?」

 

「はい、草子さんと婚約するにあたり、条件が出されまして一貫を5倍にしろと言われたのです。ただ五貫にするだけでなく、色々と旅をして知見を広めて相応しい男になりたいと」

 

「いいじゃねぇか! おっちゃんそういう青臭いの好きだぜ···ならその布を1500文(一貫と500文)で買おう。で、お使いをしてもらおうじゃねぇか」

 

「お使いですか?」

 

「美濃の国では鮎が良く獲れるんだが、信秀様と美濃の斎藤道三っていう殿様が争っているから交易がやりにくくてな。俺みたいに明確に織田方の町人衆の使いとして買付を行うと揉めるんだよ。だから鮎を買えるだけ買ってきてはくれないか?」

 

「なるほど···」

 

 俺は腕を組んで少し考える。

 

「美濃の町では何が足りてないとかわかりますか?」

 

「そうだな···塩だな。海から遠いから海の魚の干物とかも需要がある」

 

「では持てる分の塩を買わせてはもらえませんか?」

 

「···わかってるじゃねぇか。流石草子嬢ちゃんの弟子だな」

 

 交易の基本は空荷で行かない事である。

 

 俺は草子さんからそう教わっていた。

 

 塩の値段は一斗(18キロ)で200文(約6500円)であり、俺は三斗ほど購入した。

 

「一斗でも相当重いのに大丈夫か?」

 

「平気です!」

 

 俺は塩の詰まった樽を軽々背負うと加藤さんはおぉと歓声をあげた。

 

「じゃぁ鮎を沢山買ってきますね!」

 

 と俺はそのまま美濃に向かっていった。

 

 

 

 

 

 関所毎に税を取られ、美濃の町に到着する頃には10回も関所通らされ、時間もかかってしまった。

 

 日が暮れる前には到着したが、塩の値段交渉は難儀した。

 

 俺がまだガキってのと、信用が無いのもあるが、買い叩かれそうになり、じゃぁ別の所で買うよとか塩を安く売るから代わりにそっちが売ってる物を安く売ってくれよと交渉を繰り返し、結局500文と針100本、紙一束(480枚)、そうめん60把(1把で1人前)と味噌六升に化けた。

 

「鮎を買うつもりが、交渉していたら色々な物に変わってしまった···鮎は幾ら買えるだろうか」

 

 で、翌日に川の上流の方に向かうと、ふと皆と似たような感覚を感じた。

 

 こんな場所に四人が居るはず無いのにと思いながらも、感覚を頼りに進むと

 

「おや? おやおや? 迷い人かい?」

 

「か、河童!!」

 

 川で水浴びをする女の河童と出会った。

 

「かっぱっぱ! ここで出会ったのも何かの縁だ! 相撲をしようじゃないか!」

 

「す、相撲?」

 

「そうさ、河童は瓜と相撲が大好きなんだよ。見た感じ瓜は持っていないようだから相撲で勝負だ。勝負に勝てば僕が叶えられる願いを1つ叶えてあげよう! ただし負けたら尻子玉を抜かせてもらうからね。どうだい?」

 

 俺は荷物を置いて

 

「やってやろうじねぇか」

 

 と臨戦態勢を整える。

 

「おお! 相撲をしてくれるのかい! いやぁ逃げ出したら無条件で尻子玉を抜かせてもらうところだったからねぇ···賢明だよ。勇者に対して名乗ろうか。女河童のハマだ!」

 

「佐助だ。相撲だから土俵は必要か?」

 

「いいや、手をつくか、倒れたら負でいいだろう」

 

「わかった」

 

 俺はハマに一礼をするとハマも一礼をする。

 

 ハマを対面でしっかり見るが、おかっぱ頭で、肌の色が人よりも黄色に近いくらいで、頭に皿があるわけではないんだと、俺は思った。

 

「はっけよーい」

 

「のこったぁ!」

 

 俺は思いっきりハマの胸部に張り手を突き出すと、ハマは吹き飛んで、地面を数回跳ねた後に川にバシャ──ーンと水飛沫を上げながら突っ込んでいった。

 

「えぇぇ···軽く一発入れただけだぞ···大丈夫か?」

 

 川に向けて声をかけるとぷかぁと女河童のハマが浮いてきた。

 

 ピクピク動いていたが、川に流され始めたので、慌てて川から引っ張って岸にあげると、気がついたのか

 

「は、え? 負けた? ···かっぱっぱ! 佐助だっけ! 強いねぇ! すごく強い! こんなに強いの他の河童にも居ないよ!」

 

 と笑っていた。

 

 大丈夫なのか聞いたが

 

「河童はこの程度大丈夫だよ! まぁ流石にあそこまで吹き飛ばされたのは初めてだったけど!」

 

 とニコニコしながら話している。

 

「さぁ約束は約束だ。僕が叶えられる願いを聞こうじゃないか」

 

 と言ってきたので、樽いっぱいに鮎が欲しいと言うと

 

「そんなんでいいのかい?」

 

 と言われた。

 

 ちょっと待ってなと言われて待つこと半刻(1時間)樽を背負ってきたハマは樽一杯に大きな鮎がピチピチと跳ねていた。

 

「約束の鮎だ。···もし少しくれるなら天日干しするのを手伝うがどうだろう?」

 

 と言われたので、手伝ってもらうことにした。

 

 石を割って包丁の代わりにし、鮎を開いて蓙に引いて干していく。

 

 干しきれない鮎は焼いてから塩をまぶしてハマと一緒に食べた。

 

「うん〜生の鮎も上手いが焼くと更に美味いな! 塩が効いていてとても旨い!」

 

「それは良かった。···ハマは定期的に旅人を襲っている感じなの?」

 

「迷い人ならね。大抵は野盗ばかりだから川を汚そうとするし尻子玉を抜いてから肝を食べてるけどね」

 

「そ、そう···仲間とかもいるの?」

 

「そりゃ居るさ。ただ昔よりはだいぶ減ったね。平安時代はもう夜の川に来たら河童と出会わない日はないくらいいっぱい居たらしいけど、鎌倉時代に退治されまくってこうした山奥とかに行かないと河童は見なくなったねぇ。あとは人に化けて生活してたりもするよ。河原者っているでしょ」

 

 河原者とは河原で生活する者で、牛や馬等を解体して皮を剥いだりしたり、川魚等を取って生活する者達の総称であり、江戸時代等では穢多非人と呼ばれる者に繋がっていく。(現代で言うホームレスに近い)

 

「ああ、いるねぇ···人に化ける?」

 

「おや? 盟友、しらないのかい?」

 

「いや、盟友って?」

 

「河童に勝てる強者は皆盟友さ!」

 

「まぁいいや、人に化けれるの?」

 

「妖怪は人に化けられるよ。僕もほら」

 

 すうっと肌の色が肌色になり、尖っていた口や獣の様な瞳が人間のものに変わる。

 

 おかっぱのどこにでも居るような少女の姿に変わっていた。

 

 ···全裸でなければ完璧だが。

 

「多分盟友の近くにも妖怪が···しかもだいぶ格の高い大妖怪が匂いからして四人ほど居るね」

 

「四人···」

 

 思い浮かぶのはお玉さん達のお姉さん達だ。

 

 というか今まで彼女達としか関わってないから彼女達が妖怪と言われてもああ、だから容姿も優れてるし、色々な知識を持っているのねとしか感じないが。

 

「あ、盟友に言っておくと河童は基本気にしないけど、他の妖怪は人に自身が妖怪であることを言われるとその人から去らなければならない決まりがあるらしいから。もし大切な人とかであれば知らないフリを続けるのが賢明だよ」

 

「そうか、助かった」

 

「日干しには一日かかる。もっと色々な話をしようではないか!」

 

 と女河童のハマと話すが、彼女は人間界の情報に疎い為、近場の妖怪の住んでいる場所等を教えてくれた。

 

「大妖怪と言われる存在···特に鬼はめっきり見なくなったな。源頼光とその四天王が東西南北飛び回って狩り尽くしたからね。残党も鎌倉時代にほぼ壊滅したと聞く···生き残りが人間と交わって同化したとも聞くがな」

 

「鬼の末裔とかはいるのかな?」

 

「確か安芸という国だったか、あそこには強い鬼が逃げて、討伐されたって話を聞かないから土着したかもな。ここらには強い鬼は居ないハズだよ」

 

「なるほどなぁ。ありがとうなハマ」

 

「どういたしまして盟友! あ、そうだ。妖怪ではないが伊賀に行ってみてはどうだ? 忍びという集団が居たはずだ。暗殺、諜報、火薬や薬学、壁登りの術なんかを身に着けていたって聞くし、何かの役に立つかもしれないよ」

 

「伊賀か···機会があれば行ってみることにするよ」

 

 他にも色々な話をしてハマと別れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「加藤さん、お使いから帰りました」

 

「おお! 凄い荷物だな! おお! 大きな鮎の干物が沢山!」

 

「どれくらいで買います?」

 

「これだけの量に質だ。二貫で買おう」

 

「他に味噌とか針とか紙とかそうめんも買ってきたんですが売れますかね?」

 

「まぁそこそこの値で売れるだろうな。俺が買い取ろうか?」

 

「いいんですか? ありがとうございます」

 

「おっと、もし商人を目指すならここでも交渉をするもんだぜ」

 

「いえ、最終的には武士を目指してみようかと」

 

「そうか···まぁ女を守れる男は頼り甲斐があるからな。それもまた男ってもんだ」

 

「全部で三貫と500文ってところでしょうか」

 

「まだ足りねぇな。なら伊勢の町に行くのはどうだ?」

 

「伊勢ですか?」

 

「あぁ、伊勢は伊勢神宮とかがあって名門の北畠が守護をしているから治安も良い。伊勢の町は大層賑わってると聞くし染料の紅花の産地でもある。それを京に運べばある程度の金になるんじゃないか?」

 

「なるほど···そんな情報を教えても良いので?」

 

「ただ伊勢から京に向かう街道は山賊が大量にいるんだよ。上手くいけば五貫どころか二十や三十貫にもなるが、身包み剥がされて殺される可能性もある。ただもし武士になるんなら山賊ごときに恐れてちゃぁ出世はできねぇだろうな!」

 

「加藤のおっちゃん、伊勢には何が売れる?」

 

「蝋燭だな。伊勢神宮や伊勢の町で大量に蝋燭を使うからな」

 

「なら三貫分蝋燭を買わせてくれ」

 

「まいど!」

 

 こうして今度は伊勢に旅立つのであった。

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