その血が歩む道すじ   作:亞忌羅

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 不定時法は昼と夜の感覚が云々です。


百十話

「時間の誤認。イヤ、時間の流動か」

「中々どうして、現代の加茂家当主は賢いらしいな。だが安心すると良い、これ以上の開示はしない。後は自分で考える事だ」

「そうさせてもらおうか」

 この女、不定時法と言ったな。不定時法……和時計か、確か和時計はーー

 

「戦闘中に考え事とは随分と余裕だね」

「どうせ当たらないからな」

 

 その言葉通り呪詛師の蹴りは晴蓮の体をすり抜けた。

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「!? (すり抜けた? 何をした?)」

「僕は多才でね、大抵の事はできるのさ。例えばこうやってーー」

 

 声が途切れたかと思えば呪詛師の後ろから「ね!!」の言葉と共に現れ拳を振るうが、またしても避けられ切り返しの蹴りを繰り出すも晴蓮は元の場所に居る。

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「いやはや多才だね現代の呪術師は」

「そう言うアンタも面白い事をするじゃないか、不定時法。実に面白い、君の術式は是非とも欲しい(・・・)ね」

「? 何を言っている」

「だが、今じゃない。今は見極めようか(・・・・・・)

「何が目的かは知らないが、アレらが逃げるまでの時間は稼がないといけないのでね、暫くは遊ぼう(呪い合おう)か」

「それは困るな、お前を捕らえて祓いに行かせてもらおうか」

 

 

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「分かってはいたがやっぱり千日手だな」

「その様だね、どうしたものか」

「仕方ない。今は取り敢えず君を殺そう」

「捕まえるんじゃないのかい?」

「手加減して()り合うのはできそうになさそうだからね。まあでも、死なない程度に殺すとしよう」

「矛盾してーー」

 

 全てを喋らせずにいつの間にか散らばせていた血漿の球が槍の様に伸び、急速に冷えて氷の槍になり襲う。

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「コレを全部避けるのか、本当に困ったな」

 全部同時に伸ばしたつもりだけど僅かなラグ(・・)でも有ったか? なら完全に同一の時間(・・・・・・・・)なら。

 

「おい呪詛師」

戦い(呪い)合いはお仕舞いかい?」

「最後の一撃(・・)だ、喰らっていけ」

 

シン・巌流ーー

秘剣・燕返し(ひけん・つばめがえし)

 

「は?」

 

 埋め尽くすは数十にも及ぶ一撃(・・)の剣閃が煌めく。

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「かッ……ハッーーはぁはぁ……ッはぁ。

 今、何を……何をした!!」

「なんて事はないさ。ただ、完全に同一の時間(・・・・・・・・)で斬っただけだ。流石にコレは避けられなかったな」

 避けられるのは俺くらいだろうしな。

 

「バケモノめ。はぁはぁ……。これ以上は無理か、それに私の役目はすんだ事だし私はこれで帰らせてもらうよ」

「逃がすとでも?」

「ははは……舐めるなよ現代の呪術師、拡張術式ーー」

「! やらせるか!!」

 

 術式を使わせないように音速(・・)穿漿(せんしょう)を放とうとするが一歩間に合わず、呪詛師の術式の行使が完了し晴蓮は術式を受けてしまった。

 すると感覚を完全に失い、歩くことすらできなくなり三半規管を若干ではあるが破壊された。その時間僅か一秒の出来事だった。

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「クソッ! 厄介な事をしてくれる! これだから概念系統の術師は面倒なんだ!」

 

 壊れた三半規管を反転術式で治しながら叫び周りを見渡すが、呪詛師の姿は既にどこにもなかった。

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「蓮クンこっちは終わったで」

「晴蓮くん我々も終わったが……」

「残念ながら僕の方は逃げられました」

「でも逃げられるのはしゃあないんやろ?」

「呪霊だけならね」

「まさか……」

「四人目の呪詛師は僕の方に来た、ソイツが呪霊を逃がす為に僕と()り合ってね。そしてソイツにも逃げられた。

 厄介で、面倒な呪詛師だったよ」

 受肉体なのは今は伏せておくか、伝えるのは東京高だけにしておこうかな。

 

「蓮クンから逃げられるってどないな奴や」

「少なくとも僕を足止めするには充分過ぎる術師だ」

「マジか」

「お兄さんがそこまで言うなんて……」

「我々では相手にすらなりそうにないな」

「はぁ…………やられたな」

「せやけど他の三人は捕らえたで」

「ああ助かるよ、一先ずソイツらから情報(・・)を吸い上げようか。僕が預かるよ、皆は会場に向かって」

 

 全員が「分かった」と口を揃えて返事をしそのまま会場へと向かった。

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「さて、吸い上げようか(・・・・・・・)

 

 

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「驚いたな、こんな術式を持っていながら準一級とかショボすぎんだろコイツ、ありがたく貰うと(・・・)しよう。だが、二級の奴らのは要らん(・・・)()、相応の術式だ。

 しかし肝心な羂索の情報すらマトモに無いどころか自然呪霊すら知らんときた、誰かを通して依頼を受けたか?」

 

 足元には泡を吹き白目を向いた三人の呪詛師が倒れていた。

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「ふぅー……。肉雫唼(みなづき)、呑んで牢に連れていけ」

 

 晴蓮の足首から『ズルリ』と淡黄色(たんこうしょく)の液体が滲みエイの様な生物が現れ、呪詛師を呑み込みどこかへと飛んで行った。

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 さて、俺も会場に行くか、今更行っても終わってるだろうけど。

 

 

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「うわぁお。ブチかましたね」

「あの馬鹿やり過ぎだ!」

(れん)すまない、自然呪霊は取り逃がした」

「そっちにもイレギュラーが有った?」

「そっち『()』? ………まさか(れん)の方にも?」

「やっぱりか。今回は()の負けだな、悔しいが認めてやるか」

(れん)? (あの(れん)が『俺』と言ったのか? 珍しいな、それともそっちが素なのか?)」

「加茂、口調が崩れてるぞ」

「ああ、すみません。ちょっと腹が立ったので。

 傑君、そっちには何があった?」

「呪霊が一体、それも特級が多かった」

「そっちには呪霊か」

「その言い方から察するに忌庫(きこ)には呪詛師か」

「はい、それも受肉体(・・・)の術師です」

 

 その言葉に空気がピリッとひりつき「どんな術師だ」と聞かれ、「まさかまさかの時間に関連する呪術師でした」と答えると更にひりついた。

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「まさか!」

「イヤ、団和(ウチワ)じゃない。ただの時計職人だよ」

 

 皮肉を込めて時計職人と言い「時計……だから時間か?」と聞き「時間をどうこうするのは分かりますが詳細までは」と答え、続け様に「ただあの呪詛師と僕が()り合えば千日手なのは確かです」と戦闘の結果を伝えた。

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(れん)と千日手!? あり得ない」

「お前はどう見ている」

「時間の流動。時間の流れを操っているのかな、と。未来視(世界視)でのシミュレーションではお互いの攻撃が当たらずに膠着状態に陥りましたね、ですので長時間()り合っても決定打に欠けてやっぱり千日手になります」

(れん)がそこまで言うレベルの呪詛師、か。何か手はないのか?」

「一つだけある」

「それでも一つか、なんだ」

「完全に同一の時間で斬れば(殴れば)当たります。コンマ秒の有余さえ与えずに斬り伏せる」

「燕返し《つばめがえし》か」

「うん、それしかないし、実際に燕返しで致命傷を与えられた」

「ならその呪詛師はどこだ」

「逃げられました」

「何!?」

「あの呪詛師の拡張術式です。全く、厄介な呪術を使ってくれるモノですよ」

「何が起きたんだ?」

「僕の感覚ですが、脳と肉体に『時間のズレ』が生じました」

「だからお前はその呪詛師の術式を時間に関するモノだと思い至ったのか」

「はい、燕返し《つばめがえし》と奴の拡張術式でそうなのだろうな、と」

団和(ウチワ)といいその呪詛師といい過去の術師は時間に干渉するできる術師が多すぎる」

「それだけのスペックが無いと呪術全盛期では生き抜けないんでしょうね」

「地獄の様な時代だな」

「それにしても時間に干渉できる術師が向こうに居るのか……」

 

 夜蛾が頭を搔き毟るのを横目に「その呪詛師は現状(れん)しか相手ができない」と呟く様に話すと、「もう一人居る」と返す。

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「もう一人? いったい誰が………。! そうか、甚爾さんか」

「うん、甚爾さんも燕返し《つばめがえし》ができる。それに甚爾さんはフィジカルギフテッド、いくら時間の流れを操れるとは言え甚爾さんのフィジカルなら相手の知覚速度(時間感覚)を振り切れる」

「それでもその呪詛師……受肉呪詛師は現状は加茂と加茂甚爾だけと言う訳か」

「ですのでソイツが出張ってきたら僕か甚爾さんを呼んでください、他の術師では相手になりませんので。ああところで禍求夜(カグヤ)ーー」

 

 そう話していると後ろから声が掛けられる。

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「ナイスタイミング。どうでした? 禍求夜(カグヤ)の術師は」

「ありゃあ間違いねぇ、本物の禍求夜(カグヤ)だ。それに人間の臭いがしなかったぜ」

「やっぱり受肉体か、どこで拾っ………違うな過去に自分で呪物にしたのか」

「そうか、呪胎九相図(じゅたいくそうず)を作れるのなら呪物も作れるか」

「次から次へと問題が増えていくな。

 加茂、お前は対策案を考えといてくれ、後手後手だがその対策案で対処するしかない」

「分かりました視えなくなるまでの未来(世界)を視て最良の世界線に修正していきます」

「頼む」

 

 一先ずの対策を考え、これから先に何が起きてもすぐに対処できる様に準備を整えていく。

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「あ、そうだ甚爾さん」

「あん、なんだ」

禍求夜(カグヤ)はどうなりました」

「お前が言った通り帳が壊れたら骨の羽生やして逃げてったな」

「まあそうですよね、取り敢えずは捕らえた呪詛師から情報を吸い上げましょうか」

「現状それしかできんか」

「羂索の体が誰なのかが分かれば御の字ですかね」

「情報の吸い上げは僕が最後にします他の人達が終わり次第教えてください」

「尋問意外に何かあるのか?」

「ええまあ取り敢えずは」

「拷問はするなよ」

「ソレは流石にしませんよ」

 肉体的にはだけど。

 

「それにしても驚いたよ」

「何が?」

海賢(かいげん)和尚が術師だった事だよ」

「ああソレか」

(れん)、まさか和尚は」

「僕が覚醒させた術師だよ、三年の時に任務先で出会ってね。海賢(かいげん)和尚は元々うっすらと感じ取れてたみたいなんだ、それで地元の人達から頼まれて怪異を鎮めるために廃村に行ってたらしい。

 だからその時は呪霊を見る事はできなかった、でもーー」

「被害に遭って見える様になった、と言う事か」

「うん、だから本人の了承を得て、尚且つ術式を開示して覚醒させた」

「それで呪術師に」

「本当に被害が多すぎる。呪霊によってその場で死ぬか、逃げきれて別の呪霊に殺されるかのどちらかだ。だからせざるを得ない、まあでも元々呪術師としての適性があったんだろうね、覚醒させるのも簡単だったよ」

 

 沈黙していた夜蛾が「あまり使うな」と言うが、「被害者を減らしてください」と以前と同じ様に返した。

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楽巌寺(がくがんじ)学長、残念でしたね」

「貴様、こうなる事を黙っていたな?」

「はい」

「何故言わなかった」

「情報漏洩を避ける為ですかね。後は楽巌寺(がくがんじ)学長の目的(虎杖暗殺)は知っていますので言わない方がこちらにとって有益ですから」

 

 杖を石畳に打ち付け舌打ちをし、踵を返して去って行ったら変わるように後ろから誰かが近づいてきた。

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「あの爺さんは相変わらず気に食わねぇな」

「丁度言い時に来たね」

「Mr.晴蓮、何か聞きたいのか?」

「そりゃ勿論悠仁君の事だよ、成った?」

「ああ、見事にな」

「何回? 六連チャンだ」

「へぇ、やるねぇ悠仁君。これは鍛えがいがあるね」

「俺も同席していいか? 超親友(ブラザー)と共に強くなるのは超親友(ブラザー)の役目だ」

「折を見てこっちに来るか転入するかのどっちかだね、考えといーー」

「なら転入だな」

「だよねー知ってた、手続きは僕がしておくよ」

「そんな事をすれば楽巌寺(がくがんじ)学長が黙っていない。どうするつもりだ」

「ソコはアレですよ、特別監査の特権でゴリ押しします」

 

 タメ息を吐いて「問題を大きくするなよ」と釘を刺すが「努力します」とだけ答えたら、またタメ息を吐く。

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「野球かー」

「うんまあ楽しそうだし平和的だから良いんじゃないか」

「その割には葵の扱いが酷いよね」

「ははは………」

「ところで美々子(みみこ)ちゃんと菜々子(ななこ)ちゃんは?」

「任務」

「頑張ってるね」

「私の役に立ちたいみたいでね、後は自分達でも呪霊を祓える事を示したいんだって」

「あの二人の術式は強いからね、頑張れば一級なはなれるんじゃない?」

「解釈の仕方次第、か」

「呪術師の基本だよ基本」

「それができたら苦労しねぇよハル」

「やあ悟君。楽しんでる?」

「それなりにはな」

 

 虎杖を見て「悟君には悠仁君がどんな感じで見える?」と聞くと「そりゃあもうバッチリレベルが格段に上がった、ハルの想定通りになった」と返事が戻ってきて「それは何より」と答えた。

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「………そうか、ありがとう火産霊((ほむすび(火の呪霊))

「なんかあったの?」

「恵君が宿儺の指を取り込んだ呪霊と出会ったらしい」

「問題は」

「強さは特級相当、でも祓えたらしいよ。

 未完成ではあるけど領域も展開したみたいだし、後一歩かな」

「やるじゃん恵」

「でもその一歩が高い。超えられるかは恵君次第か」

「その辺りは僕らの仕事だよ。

 ………これは参った、こっちは困った事になった」

「何があった?」

「悠仁君と釘崎君が受肉体………それも呪胎九相図(じゅたいくそうず)()り合った」

「マジかよ」

「初めて人間(受肉体)を殺したね。潰れるか、それとも乗り越えるか…………。

 あの二人なら乗り換えられるね」

「だな」

「あの二人は一本の芯が通ってる、きっと問題ないさ」

「そうだね。あ、それと釘崎君も黒閃極めたよ」

「やるじゃん。後は恵だけか」

「なんとかして極められる機会を作らないとね、ソレにプラスして領域もだね」

「俺達も手伝うとは言え化けるかどうかは恵次第。ま、恵ならできるっしょ」

 

 野球を観戦しながら「そうだね、恵君なら超えられる」と呟く。

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 ん? ……あー、喰われた。そんな事もできるのか、手渡しするのも気をつけないとね。

 

 

 

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 ある日、京都某所の喫茶店にて晴蓮と庵がおり晴蓮が「歌姫さんどうでしたか(・・・・・・)?」と、前置きをせずに聞く。

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「目星はついてるわ」

「与君ですか?」

 

 コーヒーを一口飲み事も無げに返す。

 ━

「!? 分かってたの?」

「あり得る可能性を考えれば与君以外に考えられません。それに与君は天与呪縛を嫌い、憎んでいる。

 そして向こうには(肉体)を改造させる事ができる呪霊がいます。

 これらを総合して考えれば答えは一つ、肉体()を治す縛りを結んでいても可笑しくありません」

「そうね、論理的に考えれば与君以外に考えられない。だからこの前与君が居る場所に行ったの」

「そうですか」

 

 下唇を噛みながら無言で頷き口を開き「行った時にはもぬけの殻だったわ」と返し、コーヒーを飲んでいる晴蓮は「それは良かった、僕の計画通り(・・・・)に進んでいますね」と耳を疑う発言をする。

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「晴蓮くん、それはどう言う……」

「継ぎ接ぎ呪霊とは違いますが、僕にも似たような事ができますのであっちが接触する前に僕が擬似的(・・・)ではありますが肉体を治しました。

 なので彼にはダブルスパイをしてもらっていたんです、まあそれでも一枚上をいかれましたがその上で被害は最小限ですみましたのでまあヨシって事で」

「いつの間に……」

「与君とは長い付き合いですからね、僕の提案をすぐに受け入れました」

「じゃあ与君は今どこに?」

「僕が用意したセーフハウスで匿ってます、見つけるのはほぼ不可能ですね」

「なんで今まで隠していたの?」

「情報を知っている人がいればいるほど漏洩の危険性増します。なので誰にも言いませんでした、アレですよアレ。『敵を欺くにはまずは味方から』ですね」

「でもそんな事に連中が気づかないなんて……」

「まあ普通にやれば気づかれますね、何せ相手は魂を知覚できますのでただの傀儡(・・)じゃあバレますね」

「なら余計に!」

 

 これまでの事をあっけらかんと話す晴蓮に焦って机を叩きながら大声を出し、「ボリュームを下げてください。建物と僕らの周りに結界を張っていますが、姿は見えますので」と窘められ、周りを見ると自分達を不思議そうに見ている。

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「え、あ、ごめんなさい」

「構いませんよ。まあ周りからは別れ話で揉めてると思われているかもしれませんが」

「わ、別れ話……」

 

 変な事を言われて頬を染め、モゴモゴ何かを呟きながら静かに座る。

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「それで? 与君は大丈夫なの?」

「大丈夫とは?」

「気づかれて問題が起きないのかよ」

「あぁ、それに関しては問題はありません。本物と瓜二つではなく、本物そのものですので」

「そのもの?」

「はい。ですので与君がどこに居るかとか、何かされる事はあり得ません」

「特定はされない。そう思って良いのね?」

「はい。僕以外にあそこに行けるのはーーあー、もう一人いますが、まああの人なら何もせず黙っていますね。僕の味方なので」

「………そう」

「与君が何か情報を掴めれば助かるんですが、ここは期待して待っていましょうか」

 

 話を締め括らせ、立ち上がり「ここは僕が払っておきます。次は有意義な情報を持ってきます、では僕はこれで失礼します」と、伝票を持って去っていく。

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「………遅かったな、忘れられたかと思ったぞ」

「そんなヘマはしないさ、呪縛の恐ろしさは君が身をもって知っているだろう?」

「相変わらずカビ臭くてやんなるね、もう敵なんだから殺しちゃおうよ」

 

 継ぎ接ぎ呪霊……真人の言葉にペスト医者の格好をした男が「まだ駄目だよ真人。私達に協力し、情報を提供するその対価として真人の『無為転変(むいてんぺん)で体を治す』。そう言う『縛り』を私達は彼と結んでいるからね、殺すのは治した後だ」と語る。

 ━

「彼には渋谷でも働いてほしかったけど……仕方ないね」

「『京都高の人間には手を出さない』。先に『縛り』を破ったのは貴様らだろう」

 

 軽薄な口調で「やったのは花御(はなみ)だもーん、八つ当たりはやめてほしーなー」と挑発ともとれる言葉を投げ掛ける。

 ━

「呪霊と議論する気は………イヤ……お前達呪詛師(・・・・・・)と話す気は一切ない」

「何?」

「んー? 治して欲しくないの?」

 

 その言葉に与幸吉は肩を揺らし次第に笑い声が大きくなっていく。

 ━

「ははは……揃いも揃ってバカの集まりだな。

 お前達はあの人(・・・)の怖さを知らない。

 お前達はあの人(・・・)の恐ろしさを知らない。

 お前達はあの人(・・・)の凄さを知らない。

 それがお前達の敗因だ、()をかかれたなペストマスク」

「まさか……晴蓮が何かしたのか!」

「ハッ、貴様ら呪詛師に話す義理は無いな」

「んー……良く分からないけどさ、殺して良いってこと?」

「駄目だ、殺してしまえば『縛り』を破る事になる。そうなれば私達が代償を受けてしまう」

「でもアイツが先に破ってんじゃん」

「イヤ、彼は縛りを破っていない。彼の縛りは『情報を対価に体を治す』事だ、彼はその条件を破る事にはならない」

「ならアイツは俺達に情報渡してきたのに治さないんだから縛りを破る事になるんじゃないの?」

「私達は体を治す事に期限は設けていない、彼がこのまま逃げれば縛りは続いたままになる」

「じゃあ殺そうよ」

「堂々巡りだよ真人、私達は『与幸吉』の『体を治す』事を『対価』として高専の『情報』を『提供』してもらっていた。彼は何一つ破っていない、彼は縛りを全うした。彼の縛りは果たされている。

 しかし私達は高専の『情報』を受け取っている、その時点で私達は彼を治さなければ縛りを破る事になる」

「じゃあ何? 指咥えて逃がせって言うの?」

 

 その言葉に首を降り「縛りを結んだのは私と真人だ、他の二人ならその限りじゃない」と不適な笑みを浮かべ与幸吉を見る。

 ━

「やっぱりお前達はバカだな。あの人がその程度の事を考えていないとでも思っているのか?」

「私達は君が逃げない様に阻めばいい、そしてその間に後詰めを待つだけだ」

 

 ペストマスクの言葉を聞き包帯に巻かれた顔で笑い、「だからバカだと言ったんだ」の言葉と共に与幸吉の姿が薄れていきながら「お前達はあの人を過小評価し過ぎだ、バカどもが」と最後の言葉を残して消えた。

 ━

「消え……た……。何をした……何をした加茂晴蓮!!」

 

 ここにはいない晴蓮の名を叫び呪力を爆発させ、建物を軋ませ与幸吉が入っていたケーブルだらけの浴槽らしきモノを破壊する。

 ━




 晴蓮君は与君に何をしたんですかね、それに与君も何をして、どこに居るんですかね。
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