キヴォトス先生生活記   作:ゆんゆんマル

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色々未完成ですが、とりあえずあげておきます。
裏設定等は各自のご想像にお任せ、もしくは質問なりしてください


消えた先生とノア (シリアス)

 

 

 

 

「ユウカちゃんも、覚えてないんですか?」

「? 何回も言ってるじゃない。そんな人知らないって」

「……」

 

 

「先生」という存在が消えた。ことにされている。

 

 

 

 

 

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 完全記憶。見たものを瞬間的に覚えて、忘れない。私の脳には幾億もの情報。いわゆるデータベースが出来上がっている。

 その中にはミレニアムの情報は勿論、ユウカちゃんやコユキちゃん、会長のことだって寸分違わず覚えている。彼女らが忘れたこと全て覚えていること全て、知っている。

 

 数日前、そんな私の記憶から1つ抜け落ちた。今は思い出せた。「先生」という存在だった。

 

 先生の顔や声、性格や体格など全てが一瞬にして抜け落ちた。思い出せないことがむず痒くてしばらく仕事が手につかなかった。

 

 でもそれは先生と一緒に過ごした時間、全てが無くなったわけじゃなかった。

 机の上を空にするまで共に向き合ったあの時間も、お礼にくれたちょっとキモカワなストラップも、目を細めて真っ白な歯を出すあの笑い方も。

 

 筆箱に付けたストラップを見ながら思う。

 

 

 

「なんで、皆忘れて……」

「先生は、どこに……」

 

 

 

 

 

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 先生がいなくなって1日目。

 

 

 皆は各々のやること、やるべきことをこなすためにせっせこ動く。そこに先生の軌跡や気にする影もない。

 私だってやらなければいけないことはある。そんなことはわかっていた。

 

 

「……? ノア? 手が止まっているけど、大丈夫?」

「? あっ、えっと。はい。大丈夫です」

「……今日は休んだら? 最近調子悪そうだったし……」

「い、いや、大丈夫ですから、ユウカちゃんも自分の分に集中しましょ?」

「む……ま、それもそうね。お互いがんばりましょう」

 

 思い出せないことで何週間も頭を悩ませていた事を、ユウカちゃんには知られている。珍しいわねと言われて少し自分が変わったことに臆病になっていた。

 

 ……今朝、先生を思い出せて1日目。この悩みは、悪化するようにしか感じれない。

 

 

 

 

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 先生がいなくなって1週間。

 

 

 今日もせっせこせっせこ皆が動き回る。時々トラブルが起きても、連邦生徒会が動けば解決する。前ほど大きな出来事が少なくなっていた。

 

 ……誰も、先生のことは知らない。ヒマリ部長ですら知らなかった。

 

「……申し訳ありません。この天才美少女ピチピチJKの私でも、その名前と情報には知識が及びません……」

「そうですか……」

「何かあれば連絡します。きっと、私の元へ来るほどの要件でしょうから……」

 

 

 ミレニアムに先生を知るものは居ない。私を除いて。

 確定した。そんな気がした。

 

 日々の足取りは段々と重く、周りとの歩くスピードの差にすら気づけなくなっていた。病院での診断も勧められた。原因がわかっているのに行くほど私も余裕はなかった。

 

 

 

 

「続いてのニュースです。最近、キヴォトス中の食料雑貨店や生活雑貨店が何者かによって万引きされる状態が続いています。監視カメラ等には犯人の姿がひとつも残っておらず、また商品が棚から動いた瞬間消えるという珍現象も起こっており、ヴァルキューレ警察学校によって調査が勧められております」

 

「それと同時に、連邦生徒会の従事生徒1人、ミレニアムサイエンススクールの生徒2人、トリニティ総合学園の生徒2人が先日から行方不明となっており、同じくヴァルキューレ警察学校によって捜査が進められています」

 

 

 

 

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 先生がいなくなって2週間

 

 

 先生がいた部屋に訪れた。と言っても、ここには先生が消えてから何度も訪れた。見慣れた配置の家具に緩く閉じられたカーテン。

 すぐそこには先生が座っていそうな椅子があるのに、誰もいない。温もりを感じるような、そんな気さえした。

 

 

 何度も何度も机の周りをぐるぐるする。どこかに隠れていたりしないのか。また変なことをして見つけられないだけじゃないかと。

 

 薄い埃の溜まった机を眺め、掃除する。いつ戻ってきてもいいように。一瞬でも先生のことを忘れないように、先生の物に触れる。

 

 きっと私が忘れてしまったら、先生は戻って来れないから。

 

 

「……先生、悪ふざけは終わりですよ……」

「お願いですから……帰ってきてください……」

 

 目が潤む。ひと時でも忘れることがしたくなかったあの人がいないことが、私のストレスの原因だった。

 

 

 ガダッ……

 

 空のコーヒーカップが倒れた。音だけがした。明らかに倒れない場所にあった、底だって平で倒れようがなかった。

 でも、今そのコーヒーカップは見えない。いや、「無い」

 手の届かない範囲に合ったそれは、倒れようがなかったはずだった。

 

「……誰か、いるんですか?」

 

 恐る恐る1人、口を開く。目には見えない、まるで幽霊みたいな物。理性と合理から最も離れた存在。

 でも、そんなものでしか説明できないようなことが起きた。それだけは事実だった。

 

 

 自身の心臓の鼓動音だけが聞こえた。少し早くなったそれも、何とか聞こえないようにする。

 ふと、ドアが少し開いたような気がした。急いで向かう。

 

「……誰も、いない」

 

 

 若干の風が廊下に吹く。さっきのも風だったのかも知れないと、結論づけてその日は帰った。

 

 

 

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 先生いなくなって1ヶ月。

 

 

 キヴォトスは今日も回っている。誰もが自分のことだけを考えて、その日その日を全力で生きている。

 

 私は、1週間の休みを貰った。先生のことだけで頭がいっぱいで、明日は明日はと帰還を待っている。

 

 

「……最近どうも張り詰めてたしね、ゆっくり休んで、私がその分頑張るから。また今度、お願いよ」

 

 その言葉に素直に答えれないほど、私の疲労は限界だった。精神的な負担は体にも直接出る。悲しかった。

 

「先生……ううっ……」

 

 

 枕にシミを作って、その日は終わった。休みとしてとった残り3日、無駄にしないと僅かに残った余裕で、決心した。

 

 

 

 

 

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 先生がいなくなって1ヶ月と1日。

 

 

 シャーレに再び来た。相変わらずこの部屋には誰も訪れないようだった。やはり誰も先生のことを覚えてないのだ。何も変わっていない。

 

 

 

「埃……」

 

 変わったところと言えば埃の厚さが増したことぐらいだった。床には私の前回通った足跡が分かるぐらいの埃の陰影が付いていた。

 再び、机の上を覗き見る。なにか変化がないかと、幽霊でもいいから、何か起きていてくれと願った。

 

 

 

「……タブレット……?」

「……!?!?」

 

 

 前来た時にはなかったタブレットが置いてある。これは先生がいつも持っていたもののはずだ。ああ! なんて! 

 

 嬉しさのあまり、持ち上げて抱き締める。先生がいた痕跡。それだけが、今欲しかったものだった。

 先生がいた事さえ信じれなくなるような、自分が嫌いになる。その前にこれがあった。

 

 

「ああっ! 先生……」

 

 

 

 

 

 

 

 ……ちがう。これは先生では無い。いた痕跡があったとして、それは先生では無い。

 

「……本人が居なきゃ……仕方ないですよ!」

 

 

 嬉しさにちょっと怒りが混ざる。自分に向けてのものだった。安堵が怒りを呼んでくれたのかも。

 電源を押してみる。タブレットに明かりは付くも、パスワードを要求される。

 

 見たことがあるような、数字7桁。でも、本当にこれだったか、自分の記憶力に不安がまとわりつく。

 

「7.7.7.7.7.7.7」

 

 ああ、帰ったら説教です。こんなパスワード、パスワードじゃないです。

 

「ラッキーセブンじゃないんですよ……」

 

 様々なゲームが入ったホーム画面を開くものと思っていたら、画面には質素にもアプリが2つしか入ってなかった。

 

 

 

「モモトークと、……?」 

 

 私には文字化けしているように見える。全く読めない。記憶もできそうにない。なんの予想もつかないアプリは後回しにした。

 モモトークには生徒から送られて来たメッセージだけが残っていた。先生からはなんの返信もない。生徒の日記帳が盗み見れるようだった。これも皆は忘れているのだろうか。

 

 ここにもこれといった先生の痕跡はなく、文字化けしたそのアプリを開くことにした。

 

 

 

 

「……ち……わ! ア……で……! う…………ア……ね!」

 

「……?」

 切断と接続が繰り返されてよくわからない。しかし、その声の主は相当若い。多分。

 

 

 

「あー! あー! きこ……ますか!」

 

「よし! 生塩ノアさんですね! やっと適応が終わりました!」

「……その、あなたは? どこから……?」

「見えてないんですか? やっぱり……」

 

「まぁ! 説明はあとです! 先生を探しているんですよね!」

「! ……はい」

「色々私が頑張ったのはこれまた置いといて、私を連れていってください!」

「……?? 姿が見えないんですけど……」

「タブレットです! まだ、私も先生を探しています……! 解析を続けるので、持っていってください!」

 

 

 1日目はタブレットを見つけた。そしてそれを持って帰った。なにか、今までと違う。諦めるには早いのかもしれない。

 

 

 

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 先生がいなくなって一ヶ月と2日目。

 

 タブレットは沈黙を決めている。時々起動してもあの時の声の主は出てこなかった。焦って充電を差してみても、彼女は出てこなかった。

 何があってもいいように、一応肩身離さず持っている。

 

 

 私は先生と巡った思い出の場所を巡っている。一緒に昼食を取ったベンチ。初めて会った廊下。仕事をしたあの部屋……。私自身ができることはほとんどないことを知った。

 

 

 だからこそ、先生を忘れないことこそが私の使命に感じた。

 人は名前を忘れられた時に、本当に死んでしまうと聞いた。絶対に生きてると信じること。帰ってくると迷わないこと。

 そうすることだけが、私に残された先生との絆だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つい先日から行方不明だった生徒の一人が無事見つかり、事情聴取が行われました。行方不明だった生徒はトリニティの一人であり、人が全くいないキヴォトスに迷い込んだ。気づいたらそばに見ず知らずの男性が肩に触れており、すぐに逃げた。と証言しています」

 

「ヴァルキューレ警察学校は生徒の精神状態を考慮し聴取を1度取りやめ、そのほかの生徒が居ないかに総力を上げています」

 

 

 

 ビルの巨大テレビに映し出されたそのニュースは、色んな人が足を止め、見ている。車のエンジン音に紛れたザワザワは決して音圧として負けない。

 ある人は恐怖を、ある人は関心を、ある人は生徒の帰還に喜んでいる。

 

 

 

 

 私は、そのニュースに他人事的なものを感じることが出来なかった。まるで自身が当事者であるような。

 動悸が激しくなり、早足で自室へと帰った。人混みを切り分け、1歩1歩を確実に、遠くへと進めた。

 タブレットのアプリを何度も何度も押し、彼女を待つ。

 

 

「……あのニュースで言われてた人」

「私は……私が知らない人、じゃない気がするんです……!」

 

 

 

 タブレットの彼女は出てこなかった。何度も何度も呼びかけさえした。出てくる気配は一向になかった。

 私は再び絶望感を感じて、その日を後にした。

 

 

 

 

 

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 先生が居なくなって1ヶ月と3日。

 

 

 

 私は昼過ぎに起きた。目元は赤く晴れ、髪の毛は顔を隠すぐらいボサボサになってしまった。

 

「私は……結局何も……」

 

 起きた瞬間から絶望だった。無力感に苛まれ、覚えることしか出来ない自信を恨んだ。

 

 その時だった。頭に激痛が走り、私は起き上がった体をもう一度ベットに伏せた。鈍い嗚咽を漏らしたかと思えば、直ぐに納まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、……なんでしょう。っても、もうお昼!?」

 

「あっ、でも今日は珍しく休みを取ったんでした。ユウカちゃん、大丈夫かな」

 

「……何かを忘れている……? いや、私がそんなわけ……」

 

 

 

 何も無い。ただ体調が悪いから休んだだけだ。

 

「髪の毛……はねてる……お風呂にでも入って目も……」

 

 

 

 いつも通りの身支度をし、体の調子を戻すために散歩に出る。ついでにお買い物やユウカちゃんへのお詫びのお菓子でも買っていこうかな。

 外はすごくいい天気で、何も悩むことは無かった。体調もすっかり治ったし、明日からまたユウカちゃんのお手伝いをしなきゃ。

 

 気分がすごくいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………!!!!」

「……?」

 

 

 何故か手に持っていたタブレットはブルブルと揺れる。……こんなの、持った来てたっけ? 私のじゃないし、間違えて誰かの持ってきちゃった……?? 

 

 

 

 

 

「……………………!!!!!」

「…………って!!!!」

「……………………行って!!!!」

 

 

 通知欄には文字化けしたなにかアプリからその文字が送られて来る。まるで会話のような文がポンポンと流れる。なんだこれは、少し怖い。

 

 

 

 

 バチッ……バチチ……

 

「えっ! えっちょ!」

 

 

 タブレットが急に膨張し始め、目に見える程の電流が空気に漏れる。スパーク現象だ。

 私の手には幸い触れなかったものの、熱くなる端末を私は手放してしまった。硬い地面に背面から落ちたそれは、生き物が死ぬように、パタンと動かなくなった。

 

 原因不明の爆発、謎の文章、そもそも誰のものかも分からないタブレット。

 

 

「行って……」

「あれ、……行くって、どこへ」

「……分からないけど、こっちな気がします」

 

 

 

 私としてはありえない言葉だ。「気がする」なんて言葉で動くのは生まれて初めてだった。

 確実な記憶、それに基づく行動全てに理由がある。

 だけど、今ここに私の記憶も理由もない。

 ただ、感がする。

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 歩いて、歩いて、でも何が違くて、結局体をよじって走って。

 小石につまづいて転びそうになって、それでも不思議なタブレットを抱えながら立ち上がって。

 段々と「思い出して」来て、隣にいたはずの人がいないことがすごく不安で。

 ……思い出すなんて言葉、初めて使った。

 

 

 

 いや、正確には、あの人のことを思い出すのは、

 

 2回目だ。

 

 ああ、全て、全て思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 何も無い草原。だんだんと日が暮れてくる。きっと他の人もここについては何も知らないだろう。

 

 私は足を1歩、1歩と丘を進む。その場所をめざして。

 

 

 

 

 あの日、キヴォトスの終焉へ後一歩だったあの日。

 彼はここに降ってきた。

 

「……まさか、裸だとは思いませんでしたけど……」クスッ

 

 数十年、数百年、いや、数万年に一度の綺麗な流星群だった。彼は輝いていた。

 

 

 

 

「先生、お久しぶりです」

 

「そっか、見つけてくれたんだ」

「……不思議だね。あんなにも言いたいことがあったのに、面と向かうと何も言えない」

 

「何も言わなくても良いんです」

「ただ、そこにいてくれるだけで」

 

 

 あの日、星が降ってきた場所。先生は1人寂しくうずくまっていた。私の手を取って、再び立ち上がる。

 

 星が降る。明かりのないこの場所では、この時間でもよく映る。

 

 

 

 

 

 

「……先生、ちょっと、お時間、い、いただきますよ……」

 

 

 立ち上がった先生の胸元で、しばらく顔を埋めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




遅れてすみません。現実が忙しくなりました。
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