これは前々からのストックですがね……
時計の針は昼下がりを指す。カチカチと動く時計は睡魔を誘う。昼食は丁度分解され始める頃合でもある。
’’ねぇセイア’’
「……どうしたんだい」
ボールペンをカチカチと鳴らしては机に落とす。拾ってはまた音を鳴らす。まるでひとつの曲のように針の震音と重なる。
書類は案の定か、私の手には確認済みの書類すら来ない。
先生は目の下に常時隈を作っている。まるで義務であるかのようだ。見なかった日は無い。
目も大抵赤く血走っており、明らかに健康状態が悪い。
……といつも感じている。第六感を使うまでもなく不調であると言い切れる。
’’少し、手伝ってくれないかな’’
「……何かは知らないが、わたしにできることならやろう」
珍しい。何でもかんでも1人でこなしてきた先生が、どうやら私に頼み事らしい。しかし、嬉しい。勿論と言いたいが、性格が歪んでいるのか。遠回しにしか伝えられない。
そっか。そう言って微笑みを取り戻す先生。やはり先生は魅力的だ。その笑顔を見れただけでここに来た意味があるというものだ。
’’ちょっと、仮眠室のベットに来て。先に行ってるね’’
……………………
………………
…………
心の動揺はどうやら不要だったらしい。私が思っていたこととは別の要件だった。
’’出来れば、一緒に寝てくれないかい? ’’
「……まあ、いいだろう」
……何も言うな。あの誘い方と微笑み、まるで私を誘惑していたかのようにしか見えなかった。
……トリニティの1部の生徒には……その、……発情、期、というものがある。私は中でも控えめであるのだが、ない訳では無いのだ。
だ、だから、私がそう言われてああやって思うのも、し、仕方ないことなのだ。
’’助かるよ。その、他の子にはあんまり頼みづらくて……’’
「そうなのか……」
「(他の生徒とは寝ていないのだな……)」
体が若干痺れる。我慢だ。収まれ。健全な気持ちで。先生を助けると思え私。
いや、もしくはこの痺れ、先生を助けられることへの喜びなのか? そうであって欲しい。
’’多分、セイアのベットより立派じゃないんだけど。……おいで’’
「……」
私は無言で先生の傍に寄る。靴を脱ぎ、そっとベットをゆらさないように。四つん這いになって先生の胸元まで近寄る。
先生は静かに私が来るのを待っている。もう眠気があるのだろう。若干目を瞑っている。
伸ばされた先生の腕に頭をそっと乗せ、その硬さに驚く。筋トレをする時間もないほど多忙だろうに、先生の体は鍛え上げられた男の体だった。
「せ、先生の腕、筋肉が……」
’’ご、ごめん。嫌だったら退けるね’’
「い、いや! 大丈夫……そのままで、いい……」
’’……うん’’
普段だったら固くて退けてしまうような腕は、先生の腕。それが、そこにあって欲しい、くっつけていて欲しいと思える理由。それ以外はいらないとまで言えよう。
’’……少し、わがままを言っていいかな……? ’’
「……ん」
’’……失礼するよ’’
体を引き寄せられ、私の顔は先生の胸元にピタリのくっつく。足先は絡まされ、先生の腕は私の背中にまで回り込む。
私は息つく間もなく先生とくっついてしまった。息が、少し苦しい。でも、苦じゃない。
むしろ、幸せだ。人生の最高潮でもあろう。
お腹の辺りが内側に締まる。指先までピンと力が入り、多幸感で全てを包み込めるような。今、先生に顔を見られては行けない。
だって、蕩けているだろうから。
’’苦しかったら、言ってね’’
私は今、発情期である。入ったばかりではあるのだが、普段よりも劣情の波が激しい。
いや、この添い寝のせいである。
ただ、意中の相手がいるからと言ってどうしようもできないというのが、もどかしくてとても歯がゆい、唾液の量が見たこともない量出ている。飲み込むので精一杯だ。
’’……少し、寝る前に愚痴を聞いてもらってもいいかい? ’’
「……今日だけは、全て許容しよう……」
’’ありがとう’’
’’キヴォトスの皆は、凄いね。私より仕事が出来るし、優しいし、可愛いし……’’
’’みんな何も言わず私を手伝ってくれて、慕ってくれて……’’
’’……私は何か、みんなに恩返し、出来てるのかな……’’
「……」
「先生は、ただ慕われているのではない」
「先生として、大人として、人として」
「私たちの道標を成してくれている」
「学生が本分の私たちには、先生のような人生の師という存在が必要なのだ」
’’……えへっ’’
’’ありがとう’’
’’おやすみ、セイア。久しぶりに、よく寝れそう……’’
また、抱きしめる力が強くなる。抱きしめられる力が強くなればなるほど、私は先生を感じることが出来る。幸せの量も、増えていく。
全く、苦しくない。
キヴォトスの生徒で良かったと、つくづく思う。先生の抱きしめる力が、幸せで溢れている。あの先生の言葉が、私へも向けられている。
そう考えるだけで、劣情が純情へと変わっていく。
ああ先生、大好きだ。愛している。
「……」
’’ふふっ……’’
’’好きだよ、セイア……’’
「……!?!?」
私を惑わせながらも、先生は寝ている。全く、罪な人だ。
私はゲームの方はめっきりで設定を漁り尽くしているものです。解釈違い等はお許しください