キヴォトス先生生活記   作:ゆんゆんマル

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解釈違いは自分でもそのパターンを書こう。世界平和になる。


作家先生と鈍感ハナコ

 カツ……スッスッス……

 

 

 ペンを進め、止め、そしてまた進める。とうに仕事を終えても私はこの音が好きで、帰れない。

 

「……帰ってもいいんだよ?」

「あら、お邪魔でした?」

「……いや、気にしただけだよ」

 

 ふふっと微笑む私に少し狼狽える先生。気にせず執筆を進めて欲しい。私は黙々と作業する先生を眺めていたいだけなんです♡

 先生は寡黙な人だ。基本黙ってるし、必要以上に何もしない。勿論生徒には構ってくれるし、そこに悪意や面倒くささが混じってるようには感じない。

 

 

 私はその雰囲気に魅了されている。寡黙で謎多き先生は、今まで何度も何度もキヴォトスも、そして私自身も救ってもらった。長い前髪で隠れた目が時折見える時が、補習授業部の皆と過ごす時程大切で逃したくない時間だ。

 

 

「……ハナコ、質問いい?」

「質問だけでいいですよ。先生♩」

「なんで君のヘイローは傾いているの?」

 

 

 先生はよく質問をしてくれる。それが好きだ。

 

 正直なところ、私の能力を買って出る人物や団体はことごとく嫌いだ。表面上の私の肩書きや能力しか見れない浅はかな人に対応する時間すら、昔の私には勿体なかった。今も全てを許した訳では無い。今でもそのような目的で近づいてくる人を人として見ていない。

 

 

 ただ、先生には許せてしまう。先生が頼ってくれることが本当に嬉しくて、その日の帰りは頭の中が質問への答えがあっていたかだとか、先生の求める答えだったろうかと頭を占領される。

 それが何故なのか自分でもまだわかってなくて、好奇心で先生に近づいてる。

 

 

「……ヘイローですか? 私の?」

「そう」

「どうして急に? なにかあったんですか?」

「君について気になったから」

 

 

 確かに傾いていると言われれば、疑問を呈するのも分かるが……なぜ今? 先生はいつも通り自分の小説を書いていて、関係の無いことだと思っていたんだけど……

 普段は小説に使うだろう言葉の意味や他愛のない質問。もしくは人によって回答の異なる深い質問が投げかけられる。考える時間が好きだった。

 わ、私のヘイローの話は何に分類されるんだろう……

 

 

 そもそも、君について気になったってなんですか? 私について気になることがあったんですか? モヤモヤが腫れずに先生は次の言葉を喋り出す。

 

 

 

「小説に使うとか、そういうことがしたい訳じゃないんだ。ただ君を知りたくなった。今」

「先生も物好きですね。そういう所好き、ですよ♡こんな2人っきりの部屋で好き同士、どうなっちゃうんでしょうね?」

 

 

 

 こうやって言葉に意味を含ませて、先生の反応を楽しみたい。ただ、先生がこの質問で顔を赤らめたり返答に困ったりしたことは無い。うちの寡黙な先生は、鈍感なのかもしれない。

 

 

「私は君のことが気になる。何故こんなにも面白くもない人に時間を使えるのか。少し心配もしてる」

 

「先生はそんなに自信なさげなことを言う人じゃなかった気がしますよ。立派な人なんです。無理はしないで欲しいですけど」

 

「……ありがとう。で、なんで一緒に居てくれるの?」

 

 

 この人本当にずるい。こういう時だけ目線がしっかりと会うんだ。メガネの奥から覗く綺麗な瞳が私を捉えて離さない。心まで握られてる気がする。

 きっと言葉の裏に意味は無い。言っている事通りのことが知りたいんだろう。

 

 先生のことが気になりだしてから、軽率に出逢った頃のように先生を誘い込むようなことは出来なくなった。

 心を揺さぶって面白がることも出来なければ、私が自分の言葉に動揺させられる事態に持ち込まれる。先生は私より遥かに強かだ。

 

 私の口数も減った気がする。のらりくらりと質問に返せる頭が、先生の前ではぼやけて先生のことしか考えていないのだ。

 

 

「……先生のことが気n……助けてもらった恩返し、もありますし。先生の書く小説が毎回私好みなので、その完成を今か今かと待っています」

 

 

 会った頃のように先生の心を揺さぶろうかとも考えたが、それをして先生は無傷。私は逆に恥ずかしい気持ちになる。私も裏表なく本心からの言葉を伝える。

 

「そっか」

 

 ……急に素っ気ないじゃないですか! 私の頭で考えてる文字数の何分の1ですか! 本当に強いというか。分からない人だ……。

 

 

「質問がズレたね。ヘイロー、なんでそんなに傾いてるの?」

 

 

 ……喋っていることだけを見れば先生も私も揺らいでないように見える。けど、このとおり私の脳内は先生の一言一言に意味を求めて堪らない。揺らいでばっかり。ポーカーフェイスでよかったと心から思う。

 

 

「ヘイローについてはあまり考えたことがありませんでした……。なんでついてるのかもわからないですし、傾いてるかどうかは……先生にしか見えないのかもしれません。私は気になったことがないので」

 

「そっか、ありがとう」

 

 

 言葉に迷いつつ、先生が一応の感謝をしてこの話を終えようとしてくれたので、私の回答は正しかったのだろうと安心する。どこか問い詰められてる感もあったから、ラッキーだった。

 

 

「この前、私の生徒が覆面を被って銀行を襲ってたんだ」

「!?」

「でもヘイローの形とか分かったらすぐバレるだろうなって思って」

「確かに、先生からすればバレバレですもんね」

「君たちが分からないんだったら、それでいいのかもね」

 

「大前提、銀行は襲っちゃダメですよ?」

 

 

 

 銀行の話のインパクトが強すぎて最初の質問なんて忘れてしまっていた。その日は珍しく先生との談笑が長くて、私は心から幸せだと思った。そのどれもが他愛のない話でも、私はその何にもとらわれない自由な会話が好きだった。

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 数日が経った。当番は交代制なので、私の番が回ってくるのはだいぶ先になった。

 ただ、面白い変化というか、嬉しい変化があった。普段は絶対に自分からモモトークをしない先生が、私に個人的なことを聞くようになってくれた。

「どんな髪型にしたらいいかな」「服はどういうのがいいかな」

 

 周りの視線を気にする先生が少し不思議だったが、先生が心を打ち明けてくれたようで、それはそれで良かった。モモトークにはちゃんと一般的な好みと、(少し自分の好みも混ぜて)返信した。

 

 

 モモトークは定期的にくるようになり、私から送る回数と同じ程度になった。一日に何度が来るメッセージが私を退屈な日々に戻さない最高のイベントになっていた。

 

 

「ちなみに、そういう先生はどんな髪型が好きなんですか?」

「男の? 女子の?」

「勿論、女性のです♩」

「ハーフアップ」

 

 私は次の担当の時、ハーフアップで行くと決心した。

 

 

 

 ────────────

 

 

 次の担当の時、というかその前日。事件は起きた。

 

 

 まず最初に言っておこう。

 先生は作家だ。それもキヴォトス指折りの名作家と言える。印税だけで暮らせるほどだと思う。不定期ではあるが先生の書く小説はどれも先の読めない展開と魅力的な世界観と表現が読者を飽きさせなかった。生徒以外にも一般受けも良かった。複数ジャンルを手がけているが、特に推理小説とsf小説の人気が高かった。

 

 

 絶対に恋愛モノを書かないことに文句を言う生徒が絶えなかったのは、私としては生徒らに同情する。

 

 

 先生の発刊日が私の担当の前日だった。私は発刊された短編小説集を数冊手に取り、先に自室で読むことにした。感想を言って先生と語り合いたいとも思った。

 

 短編集と言っても、読んでみるとどこか日記のようで、それも恋人との日記。まさか全てが恋愛モノの短編集だったのだ。

 

 

 

 

「膝下まで悠々伸ばしたストレートの髪が香る。鼻を透き通るように彼女の恋情が伝わってくる。彼女は私を揺さぶるように言葉をなげかける。私はドギマギする心を抑えるのに必死だ。勘弁してくれと毎回願う。悟られないよう、彼女の目を見て本当のことだけを告げる」

「君の聡明さと純情さに、惚れた」

 

 

 

 

「……」

 

 

 恋愛モノなのだ。そう、恋愛モノ。これはフィクションで、現実とは関係ない。このヒロインを想像しても、その完成形は先生の中にしかない。

 

「……♡」キュン

 

 

 この時だけは私は単純だった。ヒロインにそのまま感情移入して、先生から告白された気分になっていた。この小説に対しての感想が無限と言えるほど出てきた。先生に伝えたくて堪らなかった。

 

 結局何周も自分の好きな部分をリピートして、先生との妄想に明け暮れた。日を跨いだ頃、漸く担当のことを思い出して寝た。先生をサポートするんだから当然だ。

 

 

 だが、事件はこれだけで終わらなかった。

 

 

 

 ────────────

 

 

 

 翌日、私は始業時間よりも早く先生に会いに行った。この時点で手伝いに行くとか、好奇心で先生を知りたいだとか回りくどい言い回しは辞めた。先生にあって、ただ小説に関してありがとうと言いたかった。

 

 

 ドアを落ち着いた装いでノックする。開ければ先生はもう席に座っていて、誰かが来ることを待っていたようだった。

 

 

「おはようございます∧∧♩」

「……おはよ、ハナコ」

「寝不足、ですか? どこか疲れてますか?」

「少し、緊張してて」

「えっ? えっと、あれですか? 小説の売れ行きとかですか?」

「……その話かな」

 

 

 なんだ、先生も人間味があるじゃないか。人からの評価を気にするんだ。親近感が湧いた。もうこれ以上先生謎多き人じゃなくなったとしても、好感度が下がることは無いと思った。先生の謎への好奇心より、先生に好奇心があっ

 

 

 ……よく見れば、というかよく見なくても、先生は長い前髪を切りそろえて、なんならヘアアイロンぱーまがかった髪型をしている。服装は、いつも通りスーツだ。

 

 私が教えたセンター分けを実践してくれていて、また心がキュンとなった。愛おしくてたまらなくて、謎多き先生は庇護対象になった。

 

 

「そのさ、小説読んだ?」

「その話ですよ! 私がしたかったのは!」

「……!」ビクッ……

 

 

 先生は少し身体を震わせ、この話になにか緊張をしていることを感じた。というか、緊張していると話していた。

 

「あ、あの、すみません。この話は緊張するんでしたね」

「いや、違くて」

 

「でも私はこのヒロイン、とても好きです♡主人公を誑かすように言ってても、きっと心の中では自分もドギマギしているんだろうなって感じがして♩すごく可愛らしくって……」

 

 

 

 あれ

 

 

「そのさ、……話しずらいんだけど」

 

 

 あれ? 

 

 

「ハナコ、真剣な話」

 

 あれ……

 

 

 

「は、はひ」

 

 

 へ、変な声が出た。ヒロインの感想を先生に言ったら、なな、なにか、あれ、ちょっと待って。

 ヒロインの特徴が、なぜ自分にも当てはまるような気がしてならなかった。

 

 

 

「ハナコ、少し、耳を貸してくれ」

「この小説は、……気持ち悪いかもしれないが、君をイメージした」

「理由は……君のことが気になって、気づいたら書いていて、君への気持ちに気づいた」

 

 

 あれ、あれあれ? 腰に力が、入らないなあ。先生の前で。まるで乙女みたいに座ってる私。

 

 

「だから、そのこれから。……ずっと、君の隣にいてもいいかい?」

 

 

 涙がポロポロと流れる。一言一言が嬉しくて、嬉しくて。

 その言葉「君の隣にいてもいいかい」って言う言葉。私の隣にいてくれる人なんて居なかった。私の前を歩いてくれたのは、先生ひとりだった。

 その先生が、私の隣に居たいと、いてくれると言っているんだ。遠くにいる、もっと遠くに行ってしまいそうなあなたが、私のそばに居てくれると言ってくれた。

 

 返答まで変な余白が生まれる。

 

 

「ご! ごめん! 悪い気持ちにさせたら申し訳ない! 先生と生徒という関係を私は第一に尊重したいし、それ以上の行為ば絶対にもとめ「嫌です♩」

 

「えっ」

 

「むしろ、凄く嬉しいです。先生からの本心の言葉も聞けましたし、次は私にも言わせてください」

 

 

「私も、先生の聡明さと純情さに惚れました♩♩私と、付き合ってください♡」

 

 

 先生の手を取って、立ち上がって、抱きついて、しばらくそのまんま。まだまだ先生のことについて知り足りない。

 どうやら私は鈍感だったらしい。これからも鈍感だろうけど、あなたの気持ちにはちゃんと気づけるようになりますね♩

 

 

 




御観覧ありがとうございました  ‍♀️
 解釈の分かれ目であるハナコを書くことはしばらく迷っていましたが、短い時間でスパパっと書いてしまうと、思い切った解釈ができたと思います。
 好奇心で先生に近づいていたハナコは先生のことを鈍感なのかと思っていた節がありましたが、それは自分だったり、物語的にも上手く締められた気がします。
 解釈違い等等あると思いますが、楽しんで頂けたらと思います。またどこかの機会で会うことがあれば、その時はまたお願いします♩

 あと誰か、ハーフアップのハナコの絵を書いてください。以上です。
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