キヴォトス先生生活記   作:ゆんゆんマル

20 / 20
昔の書きダメです。よければどうぞ


先生 「フリーハグしてみる」

「……」

「疲れた……」

 

 

 

 何度も見た山積みの書類。減ることのない山は圧が増していく。机も悲鳴をあげている気がする。

 

 生徒が帰ったあとも1人でやらねばならないストレス。

 つらい。ストレス発散もままならない私生活を送っている。休日なんてものは半年前に消えた。

 職場が家だから6時20時は当たり前。休み時間だって生徒に気をかけていたら、あってないようなもの。

 大人として、尊敬される立場に居続けるって、結構辛い。子供であり続けたいという願望が年々強くなっていく。

 

 

「計画的にやれとか、そういう問題じゃないよ……」

「……仮眠……するか」

 

 4徹は避けた。限界はある。俺にだってある。自分の腕を枕にそのまま机の真横で寝た。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 

 公園にポツンとたっている俺。突然何をやっているのかと聞かれれば、…正直俺にもよくわからない。ストレス発散の方法がわからなかった結果が現在である。

 俺の財布は軽い。正直転職だって考えた。でもこの職で得たスキルってハンコを綺麗に押すぐらいしかなかった。

 だからこそ、金ではなく時間を使うストレス発散法を試してみることにした。

 

 

 服は中身が俺だと気づかれないよう私服。顔には紙袋。

 まるでファウスト、いやそれは……。まあうん。

Tシャツはフリーハグをでかでかと、追い打ちに地面看板にも「フリーハグ、誰でもどうぞ」と書いておく。

 手を広げて直立していれば、あとは人を待つのみだ。

 

 

「……(きっと誰も来ない)」

 

 

 いつもはこんなに根暗な思考じゃなかった気がするけど、最近はどうも前向きになれない。

 フリーハグする癖にそういう思考でどうするんだ。いや、そういう人がフリーハグをするのか?

 とはいえ、平日の朝の公園。誰か来る方が凄い。皆はまじめにやるべきことをやっているんだろう。俺なんか仕事を抜け出して公園に立っているだけだ。

 

 考えれば考えるほど惨めになる。頭をすっからかんにしよう。今だけ、今だけは許して欲しい。誰に許しを得るのか分からないが。

 でも疲れた時に一番効くのはハグだと元カノから教わった。本当に誰でも良い。

 しかし一分一秒が長い。誰も通らない冬の公園。正直寒さが勝る。誰かの温もりを一生浴びていたい。

 

 

「…(恥ずかしいし、やっぱり辞めようかな)」

 

 

  

「あれ、……あれ?」

「ねね、先生?何やってるの?」

 

 

「……」

「……(フリーハグって喋っていいんだっけ)」

 

 下調べ不足である。なんも考えてなかった。頭をすっからかんにしたことの裏目がこうすぐに出るとは。

 白い息を吐きつつこちらに向かってくる。赤いマフラーに猫耳がある。これは……

 

 

「ふふっ、先生の匂いするなって思ったらこんなことしてるなんて」ギュ

 

 

 ……そういうとカズサは胸元あたりに顔を埋める。

 いつもは下向きの耳を私の体に密着させる。彼女のつむじが綺麗に見える。サラサラの黒髪は彼女の丁寧な手入れ所以だろう。

 

 小声でもちゃんと聞こえているよ。彼女の手は俺の背中に。ふわふわとした尻尾は抱き返す俺の手に。

 ああ、優しい温もり。人肌なんていつぶりだろう。生徒に触れることもしなかったから、こうしてぬくもりを感じることも怖い。しかし、冬の寒さは全て消え去った。

 

 

 

「(ハグしてくれた時は大丈夫だよな)……ありがとう」

 

「ひゃっ!……」

 

「…先生、急に耳元はダメ。くすぐったいから」

「……やっばダメじゃない。」

 

 

 少し力が強くなる。体は元々強い方なので安心度が上がるぐらいだ。嬉しい。なんだかしっぽがビクビクしているような気もする。

 力の入った距離感はより体温を感じる。…カズサ、すこしドキドキしてるのか?心拍が聞こえる気がする。

 

 

「……もう大丈夫だよ、ありがとうカズサ」

 

「……そ。わかった」 

「また今度、シャーレでね」

 

 他の人はいないだろうが、公園でいつまでも抱き合ってるのもあれだ。カズサは無駄なことは何も言わず、スタスタ去った。しっぽを上機嫌に振りながら。耳をパタパタと折りながら。

 

 手に残った温もりを握りしめる。逃がさないように握ったこぶしは開かない。

 

「……(やってよかったな)」

 

 

 若干満足したところもあるが、もう少しやって見る。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 さっきの来客は珍しい方だったのか、その後10分20分は誰も来なかった。生徒以外の人も公園を通りはするのだけど、やっぱり紙袋に真っ黒穴は怪しいか。皆目を逸らす。

 そもそもあれか、誘拐窃盗人質が横行するキヴォトス。犯罪率高すぎるもんな。こんなことしてる方があれか。俺はする側に見られているのか?される側、ではないだろう。

 

 そもそも、フリーハグを始めてすぐカズサが来たのがおかしかったのか。考えてみれば確かに、あまりにも早すぎたな。

 

 

「……」

「……」ギュ……

 

 

 優しくひまわりのような匂いのする人が抱きしめてくれた。ちょっとびくっとしてしまった。気を抜いていた。視界を下に向ければその子はいる。

 この紙袋の穴小さくてほとんど見えないから、これが誰かわからない。でもそれでいい。

 

 

「どうか先生に救いがありますように……」

 

「……!……ありがとう……ありがとうね……」

 

「……!」ピクッ

「…それでは……」

 

 

 マリー……多くは語らずまたどこかへ行ってしまった。

俺の口が丁度彼女らの耳あたりにあるからか、喋ると2人ともビクッと身震いした。

 

 ああ、いい匂いだったなあ。背中に回された手が小さくて可愛かった。マリーは可愛いんだ。全人類共通認識だ。

 俺が話しかけると逃げるように去ってしまった。う~ん。もう少し人肌を感じて居たかった。……いい匂い……。

 

 ……これ以上考えるのは不味いか。先生として。

 短い時間だったけど、だからこその温もり。向日葵のようないい匂い。寒い中のぬくもりは寄り身に染みる。

 皆優しい。好き。

 でも先生だから、本来皆に触るだけでもセクハラだもんなぁ。

 フリーハグ、定期的にしようかなぁ。

 

 

 

 ――――――――

 

 

 

 マリーが去った後。数分後にまた来客が来た。

 意外とフリーハグしてくれる人は多いんだと体感した。キヴォトスもまだ捨てたもんじゃないな。

 

 ……でもね。俺に莫大な量の書類をにっこにこで渡してきたり、そもそもも問題行動を起こして仕事を増やしてきたり……

 個人で関わる分には生徒の皆いい子だけど、集団とするといろいろ思う事はあるよねぇ……

 

 

「…あれ、あれあれ~?」

 

「‥‥」

 

「せんせい~?なぁにやってるんですかぁ?」

 

 

 ピンク髪を私の前でふわりと揺らし、そのままぐるぐると私の前をうろつく。

 問題児中の問題児。黒崎コユキだった。書類の半分はコユキのせいと言っても過言では無い。

 授業はどうしたのかと聞きたかったが、抱きしめるまでは喋らない。ひたすらに煽られる。耐えの時間だ。

 

 

「こんな時間に何やってるんですか〜?先生もサボりですか?えへへ〜」

 

 

 

「…………」

 

 なんだか少しずつ腹が立ってきた。サボりはお前もだコユキ。

 しかもあの書類山の中にはのコユキ専用の山がある。彼女の後始末はとんでもない被害が出るのだ。

 ミレニアムから連邦生徒会へ、連邦生徒会からシャーレへ業務が横流しにされている。

 コユキはそれを知ってか知らずか、脳天気さは変わらない。まあそれも彼女の良さでもあるのだが。

 

 

「……もしかして喋れないんですか〜?えいえい、w」

 

「…………」

 

 

 腹を小突かれる。このッ……。

 ダメだ。抑えるんだ。いくらコユキとは言えど彼女も立派な生徒。本当に困った時はコユキだって俺のことを真剣に助けてくれる。決して悪い生徒じゃないんだ。

 

「先生、イタズラしてもいいですか〜?w」

 

 

 ……決して。

 

 

「こしょこしょとか、たしか苦手でしたよね?脇ががら空きですよ〜?」

 

 

 …………

 

 

 ガバァッ!!

 

 

「えっ、ちょ!あぁ!」

 

「……コユキ。」「ひゃ、ひゃい……」

「……イタズラも、程々にな」

 

 

 

「……わ、わかりましちゃ……」

 

 

 何もしてこないと思ったか!目の前で俺の脇に手を伸ばすコユキをがっしりホールドしてやった。思いっきり私の胸にコユキの頭を包み込んだけど、キヴォトス人だし大丈夫だろう。

 

 コユキもびっくりして手をピンと伸ばしていたが、段々と俺の背中に手を回してきた。段々と抱きしめる力が強くなる。

 そうして急に大人しく何も喋らなくなってしまった。私の胸が苦しいのかと思って力を緩めると、逆にコユキの力は強くなる。よく分からない。

 

 

「……そ、その。ご、ごめんなさい」

「……?何の話?」

「…い、いつも迷惑かけてて、ごめんなさい」

 

「……」

 

 

 なんだか泣きそうな声で言われる。イラつきに任せた言葉が少し怖かったのだろうか。顔を上げてくれない。なんだか胸の当たりが湿っぽい。

 やらかした。

 そう感じるには遅かった。コユキが離れない。

 

 

「こっちこそ急にごめん。疲れてて、強く当たっちゃったな。ごめんなコユキ」

 

「うぅ、いつもすみません……」

 

 

 やはり胸のあたりが湿っぽい。頭をポンポンと宥める。

 誰かに見られる前にハンカチを渡して帰らせた。しょんぼり帰る姿は新鮮で、罪悪感がとんでもなかった。

 心をスッキリさせるためのフリーハグで、人を不快にさせてしまった。なんだがモヤを残すようなことをしてしまったと少し後悔した。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 その後は本当に誰も来なかった。正直昼過ぎにはリンちゃんでもユウカでも探しに来るかと思っていたけど、案外そうでもなかった。たしかに今日は誰も当番に入っていないし、こんな奴を探しに来る義理もないかと納得した。

 

 

 午後4時。そろそろ仕事に戻らないと山がまた増えてしまうと思い、被り物に手を伸ばした時だった。

 

 

「……まだ、フリーバグしてるのかしら」

 

 葉の飛ぶ音しかしない冬の公園。声が聞こえて慌てて紙袋から手を離し、ゆっくりと手を広げる。少し気まずい。

 

 数m先にいたのは、とてもわかりやすい子だった。白い髪の毛に大きなヘイロー。身長はやっぱり小さい。今日なんかそんな子ばっかだな。

 

 制服姿に大きな銃を携えたその子は、ヒナだった。

 

 

「……何も喋らないけど……いいのよ、ね?」

 

「……」

 

 

 一貫したルールを勝手に設けることにした。相手が抱きしめてくれるまで、手を広げる以外の行動はNGにしてみた。相手の純粋な気持ちに委ねてみる。

 

 

「……」ぽすっ……

 

 

 本当にそんな音がした。私の胸にヒナが潜り込み、そのまま音が出た。ヒナは銃を地面において、全身を預けてきた。

 手を回す訳でもなく、ただ身を寄せている。全身の体重を感じる。それでもまたまだ軽い。ヒナはもっと沢山食べて欲しい。

 俺も抱きしめていいのか迷うが、ヒナの様子を見て抱きしめる以外はなかった。きっと彼女も疲れているのだろう。

 

 

「……ヒナ、お疲れ様」

「…うん。ありがとう」

 

 

 普段は凛と聳え立つような威圧感があるヒナ。いるだけでその場の全員が1段姿勢を正す。

 でも今はそうでは無い。彼女の本質を、誰かに頼りたい弱さを見せてくれている。

 

 俺も弱さを見せるつもりでこんなことをしたのだが、ヒナは俺よりも頑張っている。いつも助けられてばっかりだ。今だけでも支えてあげるのが先生だろう。

 

「……パトロール、つかれた」

「……そっか、頑張ったね」

 

 

 頭をポンポンと手を置くと、ヒナは精一杯俺の背中に手を回す。ギリギリ手が着くかつかないかぐらいで、俺も腹を引っ込めて何とか抱きしめられるようにする。

 

「……俺も、少し頑張ったんだ。ヒナほどじゃないけど」

 

「…先生はいつも頑張ってる。」

 

 そう言ってヒナは顔をぐりぐりと胸に押し付けてくる。すごくいい匂いがするのだが、ヒナの髪の匂いを嗅ぐとどうなるか分からない。(物理)今だけは抑えなきゃ行けない。

 

 涙が出そうだが、あいにくハンカチはコユキに渡した。今は耐えるときである。でも優しさは全身で受け止める。どちらもやらなくちゃいけないってのが、先生の辛いところだな。骨の髄までヒナの労いを刻む。

 

 

「……これは、今日だけ?」

「またやるかもよ。わかんないけど」

 

「……その時は、また来るわ」

 

 短い言葉に、強い意志を感じる。ヒナはそういった後すぐに顔を離し、銃を軽く持ち上げこちらを向き直す。

 ヒナの顔はいつもの強いヒナに戻っている。元気を取り戻した、のかな?

 

 

「先生、この後は?」

「仕事だよ。ほっぽり出してきたからね」

 

「担当の子はどうしたの?」

「今日は誰もいないんだ」

 

 

 他愛のない身の上話をヒナにし、俺も彼女と同じく帰る準備をしていた。フリーハグの看板を久方ぶりに持ち上げ、温もりが冷えないうちに帰ろうとする。

 

 

「それじゃあ、私が手伝うわ」

「……やめた方がいいよ?書類、とんでもないから」

「どうせ横流しされた書類ばっかりでしょ?せめてゲヘナの分だけでもやらせて」

 

 的確に見抜いてくる。俺も動揺を隠せない。実際居てくれた方が楽だし、ヒナが手伝ってくれるなら百人力だ。

 

「……いいの?」「信じて」

 

「じゃあ、お願いするよ。ありがとう」

「ふふっ。それじゃ、終わらせちゃいましょ」

 

 彼女は空いた手で俺の手を取る。また紙袋を取っていないのだが、これじゃ不審者を連行する風紀委員会では?

 でも、先生よりかはましか。ゴタゴタにされないし。

 

「コーヒー、飲む?」

「それぐらい自分で……、あ」

「…大変ね。はい」

 

 自販機で買ってもらった小さなコーヒーが、冬の寒さを和らげてくれる。それよりも、みんなの温かさが忘れられない。

 

「早く行きましょ」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。