キヴォトス先生生活記   作:ゆんゆんマル

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不老不死先生とアリス (シリアス)

不老不死先生とアリス。

 

 

 

 

キヴォトスは、崩壊した。

 

 

諸行無常。いつかはものには終わりがある。100年と数十年前は問題はあれど抑えられていた方だと思い知った。

私企業の拡大と連邦生徒会の腐敗化。深まる各学園の溝。砂漠化の拡大…

頑張って、頑張って、頑張って…

矢面に立って、学園の協力を促して、黒服との交渉にものって…

自分の体を切り売りした結果。

 

 

 

キヴォトスは、崩壊した

 

 

 

「連邦生徒会の運営が停止、か。長かったな。」

「……」

 

「連邦生徒会長の失踪から150年。もう知っている生徒はほとんどいないな。」

 

「…寂しい」

 

アリスはそれ以降何も言わなかった。

窓の外を眺める二人。部屋は埃だらけ。

 

 

 

 

眺めている間。街頭のつかない町のビルが爆発で倒れた。

終わりが始まったんだと心から感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この後のキヴォトスはおそらく無法地帯へと変貌する。もうすでにと言われればそれまでだが

今の今まで真面目に過ごしていた民衆も溜め込んでいたものを吐き出すだろう」

 

「じゃあ、ここを離れるの?」

 

「…それが1番穏便だろうな。不老不死といえど痛みはまだ腐っちゃいないんだ」

 

私はそれが嫌だと、伝えたかった。

世界を終焉にもたらす王女として命を受けて、一度失ったとも言える私。

再び命をくれたこの学園が、この部屋が、このゲームが、この…友達らが…

 

 

「…別に急ぐことないさ、少しお互い考えよう」

 

 

 

その言葉を残して先生は足早に去った。

先生らしからぬ焦りと情のこもった最後の言葉に違和感を感じた。

 

先生との関係性は、生徒と先生というにはあまりにも重い。

しかし、私たちの間には愛欲なんてものはなく、純粋な"人間"関係が築けている。

言葉の一つ一つは、的確に情報だけを伝える原初の使い方に戻っている。

 

あのような感情の入った言葉を聞くのは久しぶりで、少し驚いてしまった。

 

 

先生が去った後、私は部室へと向かった。

 

数十年ぶりだろう。思い出の場所が風化していく姿に耐えきれず飛び出した以来だ。

数匹のネズミが足元をすり抜ける。

埃まみれになってしまった部室には、人がいたという痕跡は亡くなってしまった。

 

「…ごめんね、皆。…掃除、しなきゃ、ね」

 

 

 

ふと、目に映ったモモイの制服。ああ、私が掛けた物だ。

完璧に思い出せるゲーム部の風景。青春なんて、私が使うべきではないかもしれない。あまりにも幼かった。

 

くたびれて所々噛みちぎられた制服を抱える。

 

部屋には静かな嗚咽だけ響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、私はキヴォトスを出る覚悟を決めた。皆のものを抱えて。

モモイの制服。ミドリのヘッドフォン。ユズのコントローラー。

ゲーム部室の鍵はかけて、そのまま折った。思い出の場所は、思い出の場所であり続けるべきだと感じた。

 

 

 

 

 

 

「きっと…ここにいる」

 

執務室。というのか。仕事場。というのか。

私にはそれぐらいの言葉でしか表せない場所は、先生にとってはもっといろんな感情が詰まった一室。

最後の日、私だったらここにいると思ったんだ。

 

 

 

なぜか、ドアは半開きだった。

なぜか、中からは物が飛び交う音がした。

なぜか、先生の声だけは聞こえなかった。

 

私は浮浪者がこの部屋を荒らしているんだと、背中に背負っていたものをボスンと落とした。

私だったらどう思うだろう。いろんな生徒が来るたびに一つ変わる部屋。

何よりも大切にしていた子たちの思い出が破壊されるのは。

 

 

整備をすることすらままならなくなった黒いスーパーノヴァを抜く。

…殺そう。

 

 

 

 

そうして開けたドアの先にいたのは、先生だった。

 

ビリビリに破かれた仕事の書類。投げつけられた写真立て。倒れた棚。

見るも無惨な部屋になった部屋を作ったのは、いや作っていたのは

 

 

先生だった。

 

 

 

ドアを開ける際の金属の甲高い音すら、暴れる先生には届いていない。私が来たことにすら気づけないんだ。

椅子を放り投げ、机上の物をばら撒く。シャーレの窓はとっくに割れている。

 

「…先生」

 

私の頬をカッターが掠める。壁に突き刺さるほどの投力。初めて見た。

なお先生は暴れ続ける。私の声に呼応したわけではないことを感じ、再び呼ぶ。

 

「先生」

 

 

先生はピクッとものを投げる姿勢で止まる。だんだんと腕を下げ、そのまましゃがみ込む。

窓から吹いていた風がピタっと止んだ。

 

 

「…俺は結局何もできなかった…」

 

私は黙っている。ただ耳を貸す。

 

 

「100年という人にとってとてつもない時間、俺は何も全力になれなかった。

 キヴォトスでの生活も俺の途方もない人生の一端だと思っていた。創造と破壊の繰り返しで頭が狂った俺は…

 最初からここに諦めを見ていたんだ…最低だったんだ…

 バケモノはバケモノなりに、もっと、もっと…頑張ればよかったんだ…」

 

次第に声に熱が入ってくる。

 

「結局は…なんて考え方をしてしまった時から、俺は後悔の連続だった。今もだ…ぁぁ

 もっと、俺が動いていたら。

 もっと、俺が考えていれば。

 もっと、皆と話していれば。

 俺は、この壊れたキヴォトスを見るのが、辛くてしょうが…ない…」

 

顔を膝にうずめ、声を押し殺して泣いている。

ああ、先生。私はやっぱり変わってしまった。やっぱり子供ではないみたい。

昔なら、先生のせいじゃありません!なんて都合のよくてただプログラムされただけの言葉を投げかけていた。

 

簡単に軽い言葉を投げかけることの残酷さを知ったから。

 

私はただ、横に座って共に髪を靡かせていた。

 

風はまた吹き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…自動記録データ読み上げを終了します。

2xxx年◯月◯◯日 より

 

 

 

 

 

 

 

 

悠久の時が経った。私の故障で幾らの年月が経ったのかすら分からない。

今は再びキヴォトスがあった場所にいる。

"最後"の時間はここがいいと決めていた。あれだけ栄えていた…と思われる街はほとんど原型がない。いや、もう思い出せない。

自然に取り込まれ、鳥が空を舞う。

 

 

先生は、正確にいえば不老不死ではなかった。

尋常じゃない寿命と尋常じゃない回復能力を持ってるだけの人間。

バケモノなんて自分のことを言っていたが、彼は人間だった。

何にもできなかったなんていう彼は、今はきっと天国にいる。

 

「頑張った」っていえたっけな。

 

 

もうすでに右腕はない。いつかに無くした。もう痛みすら覚えてない。

それでも、まだ生きてる。本当の化け物はきっと私だった。

 

別に今はそれでもいい。

 

 

体に取り付けていた工業製品の代替品をバラす。四肢は分解され、彼の仕事机"だった"場所に置く。

いつのまにかパーツには苔が生えていた。

 

「あわいおいえんにあう(私も自然になる)」

 

発声をすることなんて、何世紀ぶりだろうか。音が出ただけ感動だ。

だんだん思考が遅くなる。

 

風が止む。ああ、この感覚、あの時の…

 

眼前にスーパーノヴァを据え、シャーレからの眺めを感じる。

 

「ありがとう。」

 

あぁ、言えた。

黒く寂れた鈍器に、蝶々が舞い降りた。

 

 

 

 

 




ご観覧ありがとうございました。
少々詰めが甘いですが、脳内補充しながら完成させてください。
次回はギャグかシリアスのどっちかです

補足
記録とある通り前半はアリスの音声記録と脳の一部を機械化していたために一部感情の記録ができていました。
しかし、最序盤先生の感情が混じったのは先生の脳のごく一部にあったチップから合成記録としたためです。

最終盤シャーレからの眺めを感じるとある通り、アリスにはもう目がありません。
ですが、長い旅の末に着いたシャーレにて一生を終えることができました。彼女のシャーレに対する思いも本物でしょう。

以上、うまく描写できなかった蛇足でした。
改めましてありがとうございました。

今回のテーマは「時」「思い出」でした。
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