前後編にて分かれておりますが、よろしければお目をお貸しくださいませ。
虐待先生とサオリ 前編
夜の河川敷にて、先生と川のせせらぎを共にする。
毎週土曜の夜はこうして二人で近況報告をさせてもらうことを取り付けさせてもらった。
恩人であり恩師の先生と時間を過ごす時間が、一週間の張った気を緩ませる唯一の機械になっている。
「先生、今週はどうだった?」
「普通だね。でもキヴォトスの総決算が近づいてきて、ちょっとばかし忙しいかな。
サオリは?」
「バイトの依頼者に気に入られて、少し報酬が増えたんだ。今後も安定した仕事をくれるそうだ」
「ふふ、うれしそうだね。それじゃ、今度はお祝いでご飯でも食べに行こっか」
「……ああ、ありがとう」
耳触りのよい先生の声はずっと聴いていたかった。
ちょっとした話題を話せるこの関係がこれほどに心地いいとは知らなかった。
「おっと、そろそろ時間だね。行こっか」
「あぁ、もうそんな時間か。わかった」
月が上り切る前に私たちは解散した。
蝉の合唱が夜を賑やかせる。もうそんな時期か。
同じような時間に河川敷に腰掛けていると、コツコツとした音が近づいてくるのがはっきり聞こえた。
自分の耳が先生の音にだけ敏感なのは自分でも驚いた。
「やぁ。今日は夜ご飯でも食べにいこうl
「! 、そうか。この前の」
「うん、遅くなってごめんね」
「いや、覚えていてくれたことが嬉しいんだ」
「? そうかな?」
二人、談笑しながら川沿いの小道を歩く。
時々先生が転びそうになるのを心配しつつも、やがて都市街へ着いた。
私と先生は態度には出さずとも少なからず興奮していた。
「ね! サオリは何が食べたい?」
「いや、私は先生の意見に合わせる」
「そんなこと言わないでさ、せっかくの機会だし!」
「む……それなら……」
目の前にあった店の看板を指差し、先生の様子を伺った。
先生は快く承諾し、その夜は二人でお好み焼き? というものを食べた。
正直目の前にあったからというのに加え、食欲をそそる匂いがしたのが原因だと思う。
先生もあまりこの料理は食べないらしく、二人で店員さんに熱心に焼き方を教わっていたのは、正直面白かったと思う。
そうして食べた料理はお腹だけでなく教養も心も満たしてくれた。最高のひとときだった。
「サオリの笑った顔、すごく素敵だ」
「……酔っているのか?」
「あ、急にむすっとした。酔ってないよ、本心」
「最初会った時はすごく怖い顔してたからね。僕なんかに気を許してくれてるんだと思って」
「サオリが美味しそうに食べてくれてて嬉しいよ」
そう言って涙を流してしまう先生を慌てて宥める。不思議だった。
なぜ涙を流してしまうのか。私はしばらく悩んでいた気がする。
その日は食べ終わってすぐ解散した。
先生が別れを言う際の若干寂しそうな顔。やはりわからなかった。
私の言葉ではこの程度でしか言い表せないが、
ただ、幸せだった。
蝉の大合唱の盛り上がりは落ち着きを見せ、段々と鈴虫の豊かな音色に変わる。
先生はいつまで待っても来なかった。
勿論、忙しい時期などに連絡があった日はあった。今回はそれがない。
気にしすぎと言われればそれまでだ。気が乗らなかったとか、寝ているだとか考えようは様々だ。
……ただ、出会ってから先生をそんな人間には見えなかった。
時間には忠実に、与えられたものをこなし、人に失望をさせない。
ただ、完璧ではない。そう言う人間だったはずだ。
「…………」
鈴虫は鳴き止める。嫌な予感がした。
月が上り終わった頃、腰を上げゆっくりと、だが確実に加速する足でブラックマーケットへと向かった。
ブラックマーケット。
……無法地帯であるが故に情報の拡散が早い。使い慣れた情報網の網に私は乗り込んだ。
「……先生の居場所を知らないか」
「は? 先生? あのシャーレの? そりゃシャーレにいるだろ。そもそも」
「あっおい!」
………………………
「先生の居場所を教えろ」
「なんで先生の居場所を知っていると思ってんだこのウスラトンカチ?」
「バカなんじゃねえの? まずはこんな場所に来るわけないってこともわかんねぇのか?」
「はは、こいつは天性のバカだな! 笑えるぜ!」
バンッ! バンッバンッ!!
……店のシャッターが降り始める。同時に開くものもあれど、閉まる枚数の方が多い。
手当たり次第探し、当ても残りわずかとなった。急ごう
……………………
「先生の居場所を」
「はっ、情報だけ抜こうってか? いい度胸じゃねえか」
「……その態度、お前は"知っている"と言うことだな?」
「……さあな? 知ってるかもしれないし知らねえかもしれねえなぁ」
「言え」カチャ……
「おいおい……。そこまでしてほしいもんなのか? なぜお前が」
天井に放つ。若干の煙が舞う。
「……本気らしいな。お前、
先生はアビドスのギャングに誘拐されていた。告げられたのはそれのみ。
その店を離れ、全速力でアビドスへと向かった。
砂塵が舞っている。天候が悪い。視野が悪くならないようヘルメットを被る。
月が沈む方向へ切り替わり、一刻でも早く見つけ出さなきゃいけなくなった。
「朝になれば場所を変える可能性が高い。行くなら今晩中に探し出さなきゃ情報の撹乱も始まるだろう。
……その方法手段はわからないが目的は明白。人質だろうな」
その言葉を脳に焼き付け、アビドスに入ってからも足を休めることはない。
風が体を避ける音だけが耳に入っていた。
「……ここか」
元倉庫地帯の一つが指定された場所だ。
正直、私をはめる罠の可能性もある。完全武装状態にて突入した。
バァァァァン!!!!
空虚な一帯には爆発の轟音が響き、単独作戦の開始が合図された。
中には休憩中であっただろう反武装状態の組員と見られるもの数名と、複数のタレットがあった。情報通りである。
大きな倉庫の中には積み重ねられていないコンテナが複数置いてあり、そのうちのどこかに先生が幽閉されていると予想した。
すぐさま敵部隊員は砲門をこちらに向けたり、タレットへと向かう者もいたが混乱が目に見えてわかる。
鉄の階段を飛ばし飛ばしで上り、上層のタレットを先に破壊。
こちらへ向かう低階層の部隊員を射撃、行動不能を確認。
グレネードの投擲すぐさまコンテナへと乗り移り回避、追撃。撃破。
壊し損ねたタレットの標準がこちらを捉えたのを機に再び接近戦へと移行。撃破
コンテナへのダメージがないことを確認し、すぐさま戦闘へ。
撃破……撃破……撃破……
たった数十分にて敵の射撃は止んだ。被弾はゼロに等しい。
圧倒的戦力差にて完全勝利した。
しかし、作戦は終わっていない。先生の安全を確保することが最重要目標だ。
コンテナの錠を一つ一つ撃ち壊し、中を確認する。
兵糧などしかない。すぐさま次へ。
その繰り返しであった。
あるコンテナは中が空洞に近いことを悟った。明らかに音の響きが違う。
すぐさま中を確認した。
奥までは光源が皆無のため見えないものの、何かをつぶやく声だけが確実に響いていた。
「……!! 先生だい」
「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
コンテナの端にうずくまり、その言葉だけを復唱する。
「先生! 助けに来た! 早くここを」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
こちらの声は届いていないことを悟った。
精神的ストレスにて一時的にコミュニケーションが取れないことがある。
それに近しいものだと察し、すぐさま先生を持ち上げて離れようとした瞬間だった。
「止まれ」
低く聞いたことのない声だ。しかし、銃口が確実に向けられている。
狭く密室に近いコンテナから逃げる術はない。
完全に油断した。
「先生を降ろし、すぐさま床に寝そべれ、武装解除も同時にしろ。行わない場合すぐさま発砲する」
「……わかった」
言われた通りにする。先生は黙っている。先ほどの復唱をやめた。
「……」バァン!
「ッ! ……」
片足を発砲された。明らかにこちらの逃走手段から潰してくる面からして、明らかにさっきまでは訓練の質が違う。
発砲音から相手はショットガンと見た。この閉鎖空間では明らかに不利だ。
「……先生を誘拐した目的を言え」
「……? 目的とはどう言うことだ。私はただ」
バァン!
天井に発砲された。轟音が鳴り響く。脅しの発砲だ。穴から倉庫内の光が差し込む。
しかしこちらが誘拐犯だと思われていると言うことか。ギャングの一味とは立場が違う。
「次、回答が得られなかった場合もう片方に射撃する。もう一度聞く。誘拐した目的を吐け」
「待って! ホシノ! お願い待って!」
先生が突然立ち上がり、敵の方向へ向かうが転倒する。
その際敵が明らかに動揺したことを息遣いから判断し、咄嗟に銃を握り発砲体制を整えた。
「……!」カチャッ
「……」カチャ……
目の前にいたのは、アビドスの制服と思われる物を着た女生徒だった。
いつ発砲されておかしくない状況だが、先生への誤射を防ぐために構えたままだ。
「ヘルメット団。動いたら殺す」
「……」
「だから! 待って! あっ!」
再び転倒する。私ですら気が紛れそうになるが、銃口は絶対に外さない。
光が差し込む場での転倒。初めて先生の全貌が明らかとなった。
説明等は後編最後にてお送りします。
よければ次回もおねがします。