また、不明点等ありましたら、こちらもご感想等でお伝えいただけると幸いです。
虐待先生と錠前サオリ 後編
天井から差し込む光によって、初めて先生の全貌が明らかとなった。
私は絶句した。一足遅かったのだ。
服は下着のみに剥がされていた。その驚きよりも先に目に入ったのは
その体だった。
片足には光が差し込んでもなお黒く焦げたような跡がある右足。
さらにはふくらはぎであるはずの部分に肉がない左足。
右手の二の腕には無数のタバコ痕のように見える爛れた皮膚。
背中じゅうに刻まれている深い切り傷痕。
肩の肉も抉れ、明らかに異なる高さだった。
一つ、背中からも見える私の銃痕が見えたことに気を失いそうになった。
ギャングからつけられたものと見える傷の中に、私からの傷が一際目立つのは
私の罪悪感を駆り立てるには十分すぎた。
ホシノ、そう呼ばれた生徒は銃を落とし、膝から崩れ落ちる。
すぐさま先生の前に立とうとするが、足が鈍い。回復には時間がかかる。
動こうとした時、先生の声が響き始めた。
「二人とも私の生徒だ! 敵じゃない! ……だから、戦わないでくれ……」
ホシノはたたない。立てないのか。涙が落ちる音が鮮明である。
「……二人には多分話してなかったね。この体のこと」
「……話すよ」
先生は光の差し込む二人の間に挟まったまま、淡々と語り出した。
「この傷は全て、親につけられた物……だから、さっきのギャングたちがやったわけでもないし、サオリがやったわけでもない」
「……僕の親はいわゆる毒親、だったんだ」
先生は一度言葉を途切らせた。これ以上の説明は聞くまでもないだろう、と言うことなのだろうか。
正直、その通りだ。その言葉でその傷の全てが説明できような気がした。
……私の銃痕を除いて……
それと同時に先生の想像を絶する幼少期が頭に浮かび、私も銃を思わず落としてしまう。
「……多分二人は頭がいいから、これ以上は言わなくてもわかると思う」
「だから、帰ろう? 私たちの場所へ」
先生の涙は音を立てず、その場に落ちていた。
その後、私の応急処置のためアビドス学園へ向かった。
ホシノは話の途中で気を失ってしまい、先生が担いで帰った。
私も先生が背負うと申し出られたが、あの体を見た後に負担をかけると言う発想は微塵も浮かばなかった。
なんなら私が背負うべきなのだが、それは断られた。
保健室なる場所にて先生はホシノをベッドに寝かせ、布団をかける。
異様に手際のよい応急処置を受けつつ、再び先生が言葉を紡ぐ。
手際の良さの理由は否応なしに想像できた。
「……こんなことに巻き込んでごめんね」
「先生は悪くない。自分を卑下しないでくれ」
「ごめん……」
先生は落ち着いた後でも、謝罪を繰り返す。
「……先生。謝罪は私がすべきなんだ……そのお腹の銃痕は」
「……これは優しい傷だよ」
優しい傷。銃痕がだ。
銃痕が優しい傷と言えるほどなんだ。
ほかの傷の深さをはこれとは比べ物にならない、そう言うことだと解釈した。
さらに私の罪悪感は加速した。これまでにない贖罪の念に押しつぶされそうだ
「今さ、サオリ、すごく申し訳ないとか思ってるでしょ」
「……! ……」
「俺の親はもう死んだ。心臓発作だった。今でも顔が出てくることがあるんだ」
「その、何が言いたいかって言うとさ」
「サオリには、僕とは違って前を向いて生きてほしいんだ」
「………………」
「勿論、過去を全部捨てろなんてクズみたいなことは言うつもりはないよ。
勝手にサオリの過去に同情してさ、僕の想像できないことも経験していると思う。すごく自分勝手だって思う。
でも、いやだからこそ、今からでも幸せになってほしい」
「……だから、この傷のことを忘れることはできなくても、これが二人を繋いでいるものとして覚えてよ」
柄にもないかななんて苦笑する。やっぱり忘れてとも言う。
「サオリ……」
「……あれ……なん、でだ……」
私の涙腺は限界だった。先生の弱々しい手に落ちる雫を先生はどうともしようとしない。
その手は私の頬へと渡り、一言
「よく頑張ってきたね」
翌日。日が回っていたかわからないが、太陽の顔と共に起床した。
既にホシノは起きており、寝ていたベッドには先生が代わりに寝ていた。
静寂をホシノが切り出す。
「……昨日はごめん。話も聞かずに」
「……仕方なかった。私も同じことをしていた」
互いにぺこりと頭を下げる。
「先生はどうだ?」
「寝てる。あなたが先生に抱きついたまま寝てて、先生もいつの間にか眠っていたんだと思う」
「……そうか」
「あなたも怪我が治るまではここで休んでおいた方がいいよ。今日は学校も休みだし」
「……分かった。お言葉に甘えさせてもらう」
生憎、足はまだ全快ではない。ブラックマーケットに戻る頃には日が暮れる。
先生が起きるまでいることにした。
「でも、その前に顔洗ってきた方がいいよ」
「その顔じゃ、先生に恥ずかしいでしょ」
思わず近くの鏡で見るが、みたこともない赤い腫れが目の周りにできていた。
後日、先生が誘拐されていたことが公になった。二日間の行方不明。本当にギリギリだった。
戻る最中に大画面でクロノス報道部がそう報道していた。
せせらぎが再び心地よい音を耳に届かせる。
いつもの場所だ。
「や、サオリ」
「久しぶり」
その声は聞き馴染みのある声だった。
「あぁ、久しぶりだ。先生」
河川敷の二人の時間は、後何度あるだろうか。
いや、何度でも共にしよう。
前後編にてあやふやなところを説明させていただきます。
穴があると思いますので、不明点あれば優しくご感想までおがいします。
Q 先生が攫われた理由は?
A 先生は普段からヘルメット団の子らへお弁当などを渡していました(生活を案じて)
しかしその好意が無知なギャングへと広まり、先生をだしに補給を要求しようとしていました。バカですね。
Q 先生はなぜコンテナの中でごめんなさいを復唱してたの?
A 単純に言ってしまえばPTSDの症状、もしくは閉所恐怖症の症状です。どちらかはご想像にお任せします。
先生は幼い頃の虐待にて暴行後、狭く暗い屋根裏にて幽閉されていました。謝ることが暴行中に強制されており、似た状況に陥った先生がトラウマの再発、と言った感じでしょう。
Q 先生は二日間のまず食わず?
A ギャングもそこまで人の心がないわけではないです。一応それなりのご飯は与えていましたが、先生は発狂中ですので、意識を失った後本能的に食事を摂ったのみに限られます。どちらにしても限界状態ですね。
蛇足は以上となります。最後までご観覧ありがとうございました。
今回の話のテーマは「過去」「音」でした。伝わっていれば嬉しいです。