キヴォトス先生生活記   作:ゆんゆんマル

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病弱先生とコユキ(シリアス)

 病弱先生とコユキ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあコユキ、四つ葉のクローバーってどうして生まれるか知ってるか?」

 

「え? 自然に産まれてくるもんじゃないんですか?」

 

 

「クローバーは小さい頃に踏まれたりすると葉が別れることがあるんだ。それでも頑張って成長した姿が四葉五葉となっていく」

 

「俺は四つ葉のクローバーが好きだ。踏まれても立ち上がって、''幸運''の象徴となる。そんなところが」

 

 

 私から見えた先生の背中には、数え切れないほど別れたクローバーの葉の影が見えた。

 

 

「私も好きですよ! クローバー!」

 

「そうか」

「いいと思う。クローバー、大切にしろよ」

 

 

「?」

 

「あっ! 見つけました!」

「あっ、俺も。イエイ」

 

 4月21日。先生の誕生日は、一緒にクローバーを見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっちゃ! 先生! 今日の担当はこの黒崎コユ……キ! っていないんですか。面白くないですね」

 

 

 呼ばれてきたのにも関わらず先生の席は空いている。人を招き入れる態度としては最低なんじゃ? なんて思ってもないことを愚痴りつつ、普段は出来ない探索が開始する。

 

 

「ふふふ、なんか隠し持ってますよね〜」

 

 

 そう言って本棚の隙間や仮眠寝袋の中、机の引き出しなどを調べてみるも、出てきたのは生徒名簿だけだった。そこにも特段おかしなことは書かれていない。

 

 

「なんも持ってないんですね〜……」

 

 

 おそらく私が来るようになってから隠しものが減ったような気がする。ていうかそもそも物が減っている。部屋がすっからかんだ。

 

 

 

 最初に来た日に探索した時はかなり趣味のものがあったはずだが、来るたび部屋が寂しくなることに違和感があった。

 ……金庫が開けられないから、そもそも持ち帰る生徒まで出たことも原因だとは思うんだけど……

 

 

 

「つまらないですね〜、で〜も〜? パソコンには〜?」

 

 

 

 そう、先生は一つ大事なものを忘れていきました! パソコンです! 前回担当だった時はしっかり持っていかれたので、初の閲覧です! 

 

 

「私にはこれはおもちゃでしかないんですよ〜」

 

 

 パスワードなんてあってないようなもの。先生の趣味嗜好を暴いて弱みを握ってやりますよ! 

 カタカタとたった数文字の文字列を打ち込み、ロックが解除される。

 可愛らしい猫の背景だ。この柄はたしか、三毛猫? かな。

 

 

 

「ふふ、先生も可愛らしいところあるじゃないですか」

 

 

 

 普段は物静かな先生もしっかりとした趣味があって少し安心した。

 可愛い背景ばかりに気を取られていたが、画面の端っこに無名の書類フォルダがポツンとある。

 ExcelやWordなどとは距離を取られて置かれている。フォルダには明らかに異質感があった。

 

 

 

「〜? なんか、なんかえっちな画像とか……あるんじゃないんですか?」

 

 

 

 言葉にするのは恥ずかしいが、好奇心が勝ってしまう。

 ダブルクリックは止められなかった。

 

 

「あれ、またいろんな書類に分かれている」

 

 

 意外にもどどんとそういう画像は出てこなかった。

 

 私的用、仕事用、生徒用、雑多用と再び枝分かれする。

 仕事と生徒を分けていることによく分からない喜びを覚えた。

 

 

「流石に仕事フォルダは怒られそうですし、私的フォルダだけでも見ようかな」

 

 

 流れるように指を弾ませる。パスワードを要求されたがあってないようなものだった。

 

 

「そんなに見られたくないんですか〜……w。諦めてくださいね〜」

 

「……? これは……?」

 

 

 

 

 

 

 

 日記 20xx年4月21日〜20xx年4月2日.txt

 兄弟へ.txt

 兄弟へ.img

 生徒全員へ.txt

 

 ''生徒個人へ''

 

 終わりに.txt

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家族へのテキストデータと画像。そして、目に入ったのは生徒個人へという膨大な容量のフォルダだった。見てはいけないのかもしれない、しかし1単語ずつじっくりと読み取ってしまう。

 

 

 意識が戻る。何かとんでもないことをしてしまったかもしれないことを覚え、一瞬でパソコンを閉じた。

 鳥肌がじわじわと立つ。だんだんと心拍数が上がる。

 ドアは知らぬ間に弱々しく開いている。

 

 

 

 

「コユキ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日、私の頭のなかにはずっとフォルダのことが根を張っている。大きく書かれた''生徒個人へ''というフォルダ。

 あの中身には何が書かれていたのか。今では知る由もない。

 

 

 あの後、先生は驚いた顔をしながらも普段と変わらぬ対応をしてくれた。仕事もいつも通り、何もかも一緒。

 

 

 なのに、あの部屋に張り詰めていた空気だけは違かった。カタカタとなる打鍵音に私の言葉が遮られるのではないかと、普段なら気にもしない動作音への注意が向く。それほど私の緊張度は高かった。

 

 

 その緊張は仕事終わりまで切れることなく、

「今日は終わろっか」

 なにか同情を含むようなその一言が発するまで続いた。

 

 

 そして、今日は再び先生との補助の日である。

 別に休んでも良かった。忙しいと嘘をつくことも出来た。

 しかし、逃げた先に待つ未来の方が怖かった。

 

 

 

 

 

「失礼しますよ〜。せんせ〜……ってまた……」

 

 

 いないのだ。部屋は暗く、ただパソコンの光だけが照らす。明かりをつけ、気づいた時にはとうとう寝袋すらなくなっており、部屋には机1個となった。

 

 窓際に、一輪の花が刺さった花瓶が増えている。

 

 

「……? ……ッ、またあのパソコン……」

 

「……」

 

 今度は好奇心では無い。見る必要がある気がした。

 先生の身近に起きていることを書き込んでいるとしたら、見る必要がある。絶対に。

 

 

「こんなにものが無くなるなんて、普通じゃないですよ、!」

 

 パスワードは変わってない。と、思った。が私的ファィルに入るためのパスワードだけは変わっていた。

 

 

「四つ葉のクローバー……ッ!」カタカタ! 

 

 

 私的ファイルを開き、前回と同じページまで行く。

 ここにも変化が1つだけあった。

 

 

 

 

 日記 20xx年4月21日〜20xx年4月2日.txt

 兄弟へ.txt

 兄弟へ.img

 生徒全員へ.txt

 

 生徒個人へ

 

 終わりに.txt

 

 

 追記

 

 黒崎 コユキへ.txt

 

 

 

「」

 

 

 

 唖然としてしまった。やはり先生も私が開いた事、開くことは知っていた。でも、

 

「今は、そんなこと言ってられない気がするんです……!」

 

 一瞬の迷いを振り切った。マウスは勢いよくファイルへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒崎コユキへ

 

 

 やあ。

 まずはこんな形で伝えることになってごめんね。前回、見ちゃったかもと思って、ここに必要なことを書き足しておくね。

 多分この手紙が見られている頃には、シャーレには戻れる? 戻れない? かもしれないと思う。俺もいつどうなるか分からないんだ。

 

 俺、胃癌だったぽい。元々体も強い方ではなかったんだけど、本格的なものになっちゃった。ステージは、この手紙の時はステージ3かな。多分。まだ生きられるかもしれないのに、こんなことを書くぐらいには、多分俺も疲れてんのかな……w

 

 

 伝えんのが怖くてさ。ここに書くのも最後の最後まで書けなかったんだ。ごめんね。自分勝手で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんで……」

言ってくれなかったんですか……

「……ほんとに……自分勝手すぎます……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでさ、この追記にも意味があるんだ。ちょっと口調はおかしいかもしれないけど、弱い時の俺はこんな感じ。

 それでさ、多分察しはついてると思うかもしれないけど、この生徒個人へってのは、一人一人へ向けて書いたやつなんだ。全部パスワード付き。

 

 ……まあ、言えば簡易的な遺書だね。

 だからさ、俺も本当は未練タラタラなんだけどさ……もしもの時はコユキの力でさ、助けてあげてね。

 

 最後に、コユキ。たくさんの思い出とたくさんの時間を分けてくれたね。ありがとう。書ききれないね。

 

 クローバーを、信じてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普段とは違う口調。もはや別人が書いたとも言える。でも、これは先生が書いたものだと、絶対だと言えた。

 

「……クローバーを、信じて」

 

 私の勘はいつもいい方に働くという訳では無い。でも私はパソコンを持って走り出した。先生がいるところに向かって。ただの勘を頼りに。

 

 

 花瓶に刺さった花弁は最後の1枚になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあッ……! はあッ……!」

 

「……ここじゃない! 違う!」

 

「……ここでもッ! ない!」

 

 

「……はぁ……はぁ! ……」

 

 

 

 

 

「……ここだ……!」

 

 

 

 

 

 シャーレからは数十分。白かった塗装が剥がれた病院に、物怖じもせず入った。

 

 

 そこからはスムーズだった。

 受付からは知った顔のように病室を通され、さっきまでの勢いとは裏腹に病室を恐る恐る開ける。

 

 

 先生は横たわって寝ている。人口呼吸器と何本もの痛々し点滴が体に突き刺さってる。

 

 私の息が止まった。吸い込んで出てこない。指の1本1本の血管が浮き出るような感覚。

 

 

 

 カーテンの奥から来た腰の曲がった医者は驚いたような顔をしたかと思えば、思い出したかのように説明を始めた。

 

 

 

「先生は、生きてるよ」

 

 その一言から始まった説明は、ほとんど頭に入ってこなかった。

 ただ、「先生の」という言葉が出る時だけ飛びかけている意識が戻り、様態の細部まで聞き逃さないようにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2年前、先生と一緒にクローバーを取った場所に来ている。

 

「……! あっ! 四つ葉のクローバー!」

「久しぶりだ! やったぁ……」

 

 先生が病床に伏せた後、クローバーは1個も見つからなかった。

 このクローバーは、2年越しの幸運の象徴だった。前はよく見付かったんだけど……

 

「最近……あんまりいいこと無かったしなあ。これで良くなるかも!」

 

 

 

 四つ葉のクローバーを摘み取ることはなく、その場に生えたままのものをまじまじと見つめる。意味があるかは……分からない。

 

「……ふふ♪」

 

 

 

 

 

 

 

「よっ」

「わっ! せ、先生?」

「何を驚いてんの、コユキが呼んだんでしょ」

 

「そ、そりゃそうですけど……」

「いきなり上下逆の先生の顔が目の前に出たら、驚きますよ〜……」

 

「そういうなって、へへ」

 

 先生は同じく私の隣に座り込んでクローバーの海を眺めている。

 

 

 

「2年前を思い出すな」

 

「本当は、去年も来たかったですけど」

「先生、倒れちゃったし」

 

「あれは本当にごめんな。俺が弱かった」

 

「……まあいいです。治ってくれたので」

 

 

 

「あっ、四葉のクローバーみっけ」

 

「先生私の運奪い取りましたね?」

「あ、もいっこあった!」

 

 

 私と先生は、クローバーの海を眺めて誕生日を迎えた。

 

 4月21日。

 

 

 




ご観覧いただきありがとうございました。
そこまで曇らせないようにを意識しました。


案の定の蛇足と言いますか、補足です。と言っても、作者が勝手に言ってるだけです。でも、もうちょっと文章力を上げたいですね

先生の家具がだんだんと無くなったのは、勿論どこぞの狐や独占欲の塊が持ち帰ったのもありますが、先生が病が進行する事に家具を処分していました。メンタル雑魚雑魚ですね。

コユキがクローバーを見つけられなくなったのは、先生が癌から治ることに2年分の運を使い切ったからと思っています。完治してからはいつも通りに戻ってくれました。

コユキには先生に腕いっぱいにクローバーを抱き抱えて欲しいですね。

それでは次回もよろしくお願いいたします。では〜(ꕤ・・o)/
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