ベイジルの運転する車に揺られて辿り着いたのは、ルフチンバラの工業地帯――市街地からは川を挟んで外れ――にある貨物集積所だった。整然と立ち並ぶコンテナ達が壁となり、まるで迷路のようになっているその奥に、集会所となるコンテナがあった。扉が開いていて中には椅子とテーブルが用意されている。
待っていたのは三人の男。皆念能力者だった。格好は全員スーツで眼鏡、チンピラ風、格闘家といった感じか。
「まぁ座れ」
三人の中では一番一般人に見える眼鏡の男が言った。ワタシは椅子を引くために手をかけたが、ベイジルは座ろうとしなかった。だから気づけた。反応できた。ベイジルの《
ワタシはチェーンソーを具現化して受けた。ワタシの《
なんとか、構造を意識せずに具現化した場合、“前回正常に起動したチェーンソー”が自動的に具現化されるという決まりを作ったが、そうして咄嗟に具現化すると通常チェーンソーを具現化するよりオーラの消費量が極端に高い。しかも運の悪いことに、今具現化したこれは【某モンスターを狩るゲーム】に登場する大剣をモチーフにした非常に燃費の悪い大型のモノだ。これを動かすとなると“堅”はおそらく無理だろう。が、大振りであることが幸いし、刃を立てて拳型の念弾を受けると、それは削られて霧散した。
「具現化系じゃねぇか!」
ワタシのすぐ左に居たチンピラ風の男が叫びながら人差し指を銃のようにこちらに向ける。ああその構えはどこかの【不良霊界探偵】と同じだ。発射モーションまで似たような感じだったが、残念ながら念弾はレーザーのように細かった。身体を捻って避ける。そのまま一本背負いをするように――あるいは大剣の抜刀攻撃のようにチェーンソーをコンテナに叩きつける。そもそも2mの得物である。オーラを流して刃が回り始めたときにはもう天井に接触して火花を散らしていたのだ。案の定コンテナは中から真っ二つに切り開かれる。すぐさまそこから飛び出す。いつ念弾を撃たれていてもおかしくなかったが、どうやら思ったより再装填に時間がいるらしい。
まず追って出てきたのはベイジルだった。
「てめぇふざけんじゃねぇぞ!本気出してなかったってことかよ!?」
具現化系で得物を出してないのが本気ではないと言われたら、確かに組み手修行の時に本気は出していなかったことになるが、ワタシの肉弾戦の本気はあんなもんだ。
「話が違うぞベイジル!」
「なにが『操作系で得物が無いなら余裕だ』だよ!」
なにやら揉め事らしい。コンテナから出てきた眼鏡、ゴツイヤツが口々に言う。察するに、陰獣に上がるためにはこの街で功を稼ぎアピールしなければならないわけだが、出る杭を打つための密かな結託だったのだろう。眼鏡の男がベイジルからもワタシからも大きく距離を取る。
壊れたコンテナの影からレーザーのような念弾が飛んでくる。今度は【試作型機械大剣(仮)】で受けてみる。やはり念弾というよりは帯か光波と言うべきだった。回転する刃に接触するとチリチリと念線が削れていき数秒で消える。刃が一方にしか付いていないというのはどうなのかとも思ったが、逆にそのために内部構造を分散して配置することが出来、重心を先端部に置くことででかい割には振り回しやすい。それよりも何よりも一番の利点は峰があるために、防御に使いやすいというところか。オーラの消費が馬鹿みたいに高いことを除けばありだな。
チンピラもコンテナ影から出てきた。どうやら全員が割に合わないと考えているらしい。それとも、元々この場で背中から撃つつもりだったのか。四人で牽制し合っている。ゴツイ男とチンピラは見た目通りに短気なのか、ベイジルに掴み掛からんばかりであるし、眼鏡の男は一歩引いて優位な位置に立ち、ワタシも含めて警戒している。彼は確かに荒事は苦手そうに見える。戦えるにしてもベイジルやゴツイ男と一対一では不利だからこんな感じで集まったのだろう。
帰っていいだろうか。距離があるので普段の声量では聞こえないかもしれない。そう思って息を吸い込んだ拍子にとんでもない言葉が飛び込んできた。
「クリオ!てめぇ誰のおかげで今の位置に居ると思ってやがる!」
掴み掛かったチンピラを振り払いながらベイジルはそう言った。
「うるせぇよ!ここにいるのはオレの功績だ!アンタは引退した前任者の居場所を教えただけだろうが!それをヤッたのも、この街で認められてるのもオレの力だ!いつまでもアンタの指図なんか――」
最後まで聞いていたくなかった。丁度熱くなって視線はそちらに集中しているし、間合いだってひとっ飛びだから彼の頭を飛ばすのは容易かったし、横凪に払ったチェーンソーの刃を返し、咄嗟に構えを取っていたベイジルを真っ二つにするのも楽勝だった。大剣という形状をしていたからか、思いのほか威力が大きかったらしく削る感触を味わえなかった。クレーター的なモノまで出来ている。
念は感情にも左右されるモノだ。これ程の顕在化ができるとは思ってもみなかった。今度からこれを目指して修行しよう。
「――待て!俺は関係ないぞ!」
慌てて跳び退いたゴツイ男が両手を挙げて言った。どうでもいい。実にどうでもいい。眼鏡の男もそうだ。オーラの揺らめきが動揺を教えてくれる。萎縮し微かに震えている戦意が無いことは一瞥で分かった。
「ワタシは_上に興味_ない」
言っておかなければそれはそれで面倒事を呼びそうだ。
「目的_は、達し_た。後は好きに_すれば」
聞こえていたか定かでは無いが、彼らは追ってこなかった。
こうした偶然は喜ぶべきなのか悲しむべきなのか――非常に微妙である。いや、色々な思惑に翻弄されたと言うだけで、別に偶然ではないのだから、これはある意味いつか訪れることではあったのだ。ただワタシとしては予想外だった。
ミステリ小説を探偵視点で推理しながら読んでいて、途中でネタバレをくらった。並んで待っていたが前の客で品切れになった。録画していたドラマを見ているとクライマックスでHDの容量が無くなり最後まで見られなかった。ワタシの今の心境はそんな感じである。
月並みな台詞ではあるが、復讐を遂げたところで故人は帰っては来ない。しかしワタシは区切りとして、復讐は必要なことだと思った。特になにも欲してこなかったワタシにとって初めて手に入れたいと思ったモノだ。ところがどうだ。こんなにもあっさりと思いも寄らないところから降って湧いたように手に入ると、達成感もなにもない。
これが“復讐”だからなのか“苦労しなかった”からなのか、あるいは“ワタシ”だからなのか。
これからどうするか。取りあえず世界を見て回ろう。ついでに天空闘技場にでも行って、苦手な肉弾戦の修行でもしようか。あとはそうだ。ジャポンにでも行ってみるとしようか。だが正直コソコソするのはもう面倒くさい。修行にはなるが徒歩だけで大陸横断とかアホのすることだ。
明日闇医者を訪ねよう。そして一発殴ろう。色々やったのはベイジルとクリオとかいうチンピラだが、それを知っていてベイジルの下にワタシをやったのはアイツだ。彼にはこの終局図が見えていたのだろう。趣味の悪い。
オーラの消費が多く酷い疲労感だったので、ベイジルの車で帰った。運転は二十年近くブランクがあったが特に問題はない。無事その道のディーラーに引き渡し、処分することができた。そういえば事務所はどうするのだろうか。ベイジルの代わりが派遣されてくるのなら街を出るしかないか。割と気に入っていたのだが、これ以上マフィアと関わり合いになりたくない。
その日、ワタシは久々に熟睡できた気がした。