ジャポンは島国だし、渡航の際には身分証が必要になるから、旅団がグリードアイランドに侵入したときのようにするか、泳いでいく以外に現時点では無理だろう。行って行けないことは無いだろうが、ワタシの念が海との相性が悪いことを考えても、ハンターになってからにするべきと考えていた。
そしてよく考えれば同じように天空闘技場にも行けないことが分かった。要するにワタシはこのヨルビアン大陸から普通には出ることができないのである。興信所に辞表を持っていったついでに、ネットで思いついた地名を検索してみる。かなり先のことだからと、今まで気にしていなかったのだが――。
「大陸_違うし」
残念ながらドーレ港やザバン市があるのはヨルビアン大陸の北西にあるフブリカ大陸の西海岸であった。色々と面倒ごとが多いので早々にハンター試験を受験してしまおうか。
陰鬱で沈みがちな調子をなんとか闇医者を殴ると奮い立たせ、廃墟に偽装された非合法診療所へと向かった。
「は?なんで、んなこと気にしてんの?」
“絶”状態で一発ぶん殴り鼻血を噴出させたので勘弁してやることにして、今後のことを相談すると、訳が分からないよとばかりに、闇医者は首をかしげて言った。
「いや、確かにお嬢ちゃんはデータベースに載ってない訳だけど、ここの住民パス渡したでしょ?それ普通に使えばいいよ。身分証を作るような時とか、逮捕されたときにはデータベースに照会するけど、その偽の身分証を提示して何かに登録する場合にはわざわざ照会なんてしないさ」
つまりは考えすぎと言うことらしい。こうしたことにはさすがに疎いが、よくよく考えれば抜け道はあるはずなのだ。でなければ旅団が大陸を股にかけて活動することができないわけである。この世界には一般人侵入禁止の土地や地域がごろごろあるわけで、それならば越境の審査などは厳重だと思っていたのだが。そういえばこの世界では機密情報保持のために、一般人を閉め出すのではなく、魔獣やらで危険だから閉め出しているのであった。確かにそれならば有って無いようなものだ。
「携帯電話も持てるし、ホームコードも電脳コードもそのパスで取得できるし、口座も開設できるよ。もし権限がある人物がパスに記載されている番号からデータベースに照会かけても、そういった偽造用に用意されている極秘データにぶち当たるだけだし。っていうかね。そこまでちゃんと使えるようにしてこそ偽造というわけだよ。オレは仲介しただけだけど、この仕事してる奴に知れたら怒られるよ」
それは申し訳なかった。素直にごめんなさいしよう。聞けば“インディゴ”の偽造身分もそのようなものだったらしい。あの炎に投げ込んだ携帯はジョニーが裏のつてで手に入れたのではなく、ワタシの偽造身分で正式に手に入れたものだったようだ。後の祭りだがインディゴを死なす必要はなかったのかも知れない。
そのことには少しばかり後悔したが、大手を振って歩いても大丈夫というお墨付きは、それを帳消しするぐらいに嬉しかった。一人暮らしの新生活を始めたときのようなわくわくがある。
ホームになるようなマンションを買おう。携帯もちゃんとしたのに換えて――。やばいすごく楽しくなってきた。自然にニヤケ顔になっていたが、それを見て闇医者は引きつった笑みを浮かべやがった。どういう意味だよオイ。気分がいいから今は許してやる。
そんなルンルン気分で診療所を出たが、待ち構えていた昨日の生き残りコンビを見てがっくり気落ちした。何だか今日はテンションの上下がいつも以上に激しい。
「やり合うつもりはない。勝てないのは理解しているからな」
眼鏡は自嘲気味、ゴツイ方は苦虫でも潰したかのような渋い顔をしている。
「“突然”欠員が二名も出たから上が焦ってる。現状この街で一番の戦力である君につなぎを取りたいらしくてね。彼とは興信所で会ったんだ。依頼主は別だが、目的が同じだから一緒に来たんだ」
ワタシが一番の戦力。笑えてくる。マフィアという組織構造上、どうしても強い能力者というのを抱えられないのだろう。この街に観光で来ているプロハンターでも居たらそいつが最強になる訳か。
ちゃんと師事を受けた能力者は余程のことがない限りこのマフィアの世界にわざわざ来ない。チンピラが能力者になったら力に溺れて鍛錬しない。そりゃまともな奴は居ないだろうな。
「昨日_言った。この街の_上には、興味_ない」
「何でだよ。お前“陰獣”になれるかも知れないんだぞ。十老頭お抱えの! 待遇だってもっと良くなる。こんなところで使いっ走りさせられなくてすむ!」
ゴツイ男がやけにヒートアップしている。貴方が欲しいモノをワタシが欲しいとは限らない。
「だが_断る」
一度言ってみたかった言葉が言えて少し満足した。気分も持ち直した。
「元々、ワタシは_フリーランス。報酬_合意出来れば_やる。コードは、闇医者に_聞いて。教えて_おくわ」
しつこかったらどうしようかと思ったが、すんなり二人は解放してくれた。が、どうだろう。そう簡単に諦めるだろうか。新生活に思いをはせてワクワクしていたが、その障害にしては面倒くさすぎる。新居に襲撃されでもしたらと考えると、やはりほとぼりが冷めるまで旅に出るのがいいだろう。
せっかく飛行船にも乗れそうだと言うことが分かったのだ。距離的にはジャポンが先か。調味料さえあればワタシは何とかそれっぽい家庭料理ぐらいは作れるが、ちゃんとした日本食はまだこの舌で味わったことがない。米は日本米とは違ってパラパラだったから炒飯ばかり作っていたのを思い出す。あぁ炒飯は日本食じゃなかった。茸の炊き込みご飯が変なおこわみたいになって、それでも父さんは意外にいけるとか言って食べてくれたなぁ。
尾行けられてはいたが、止めようとはしてこなかったため素知らぬ顔で空港へ。少々びくびくしながらも何の問題もなく飛行船に乗ることが出来た。飛行機とは違い殆ど揺れずに快適である。離陸時もかなり静かだったし。
直行便がなく一度クルクルーツク空港で乗り換えて北西へ。季節風の影響で、この時期北に向かうのは通常よりも時間がかかるらしく、一度フブリカ大陸で降りたりと飛行船旅は一週間にも及んだ。正直最初は物珍しいので船内を歩き回ったり、景色を眺めていたが二日目には飽きて、個室でずっと修行していた。
結論。飛行船は思っていた以上に遅い。
そんなこんなで苦労してジャポンに辿り着いたのだが、空港を出ると予想外な光景が広がっていた。
ワタシは記憶の中にある日本を思い浮かべていたのだが、目の前に広がっているのは【ナルト】か【銀魂】もかくやというような日本家屋の街並みであり、帯刀はしていない様子だったが半数が和服で、一部には髷を結っている者もいた。かと思えばルフチンバラにいた若者のような格好の者もいるし。ジーンズスカジャンサングラスでチョンマゲってある意味格好いいけどさ。
そんなわけだからワタシの格好は浮いていたが、周りは余り気にする様子もなかった。和服洋服入り交じって皆好き勝手に着飾っているので、こうして浮くことを変に感じないという変な状況だった。正直今すぐ図書館に駆け込んでジャポンの歴史を紐解きたい。どうしてこうなった。こんなことなら予習してくるべきだった。
旅の予習は大事。夕食に入った寿司屋で失敗してワタシは尚更そう感じた。