世界はワタシにコスプレを強いる!   作:usausado64

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12 遭遇

 少々広めの武家屋敷といった佇まいで思わず素通りしそうになったが、図書館の利用は問題なく出来た。観光客ではさすがに借りたりは出来なかったが、読書スペースの畳で思わずごろごろしてしまった。

 

 日本語――ジャポン語の書物を見て何だか懐かしく思ってしまう。きっと普通なら携帯の翻訳にお世話になるんだろうが。

 

 そもそもこの世界の言語体系というのはかなり不自然になっている。言語は全世界で共通の“共通言語”が話されているにもかかわらず、文字にはそれがない。一応広く使われているのはハンター文字なのだが、これは日本語――ジャポン語のひらがなのみを変換したものである。

 

 共通言語とはジャポン語のことなのだから、文字もそうしてしまえばいいのに、そこをあえてハンター文字という使い勝手の悪いものを使い、ジャポン文字を広めていないのである。確かに漢字や文字の種類としてはかなり多い部類の言語体系ではあるのだが、難しいから習っている人がいないのではなく、ジャポン人以外は何らかの目的がなければ習わないのである。

 

 ハンター文字は要するにひらがなだけなので、長文には圧倒的に向いていない。そんな理由からか、書物や本は基本的に様々な民族言語の文字に翻訳されて綴られることになる。

 

 ワタシが推測するにハンターが意図的に、数多くある民族言語を守るために共通の文字を使いにくいものにしたのではないだろうか。『意思疎通のために言語を統一します。ただ各民族の言語が喋られなくなって、廃れるのは問題があるので、文字に関してはそちらを使ってください』といった感じに。

 

 ハンターの保護精神がそうさせたのだろうが、遺跡を保護するのとは訳が違う規模の話である。昔の偉い人はすごかったと言うべきか、それとも暗黒大陸には完全に人間の上位に位置する知的生命体が住んでおり、彼らから言い渡された決まりなのか。ちなみにオタク男はコミック派だったようで、ワタシの知識は《世界が実はちっぽけだった》と判明したところで終わっている。

 

 閑話休題。

 

 ジャポンの街並みも、独自文化を保護するということを最優先にした結果のようである。そのためよく観察すると日本家屋のような見た目と構造をしていながら、内部は超ハイテクだったりする。ワタシから見ればわざわざ古い構造を最新技術で再現しているように思える。

 

 ちなみにジャポン文化が余り世界に進出していないのは、昔鎖国していたということと、ジャポンの職人気質という文化も保護されているからだということが分かった。道具や知識は入れるが、人は入れないし出来るだけ出さないだそうである。文化保護はいいがおかげで排他的になっているのは、別にジャポンに限ったことではないようではあるが。

 

 ハンターなんてモンは結局のところ一部の少数派なのだが、それが少数派の正論を振りかざせるほど力を持っている。というのがこの世界の本質なのだろう。世間の一般大衆は大抵面倒臭い慣習よりも、利便や効率、利益を優先し、そういったものを蔑ろにする。だから普通は少数派の良心や正論は、理想として掲げられはしても実現しないことが多い。ところが、それが善いことか悪いことかは別にしても、情熱さえあれば個人で可能なのである。

 

 夢があると同時に非常に危ういとワタシは思うのであった。

 

 歴史のお勉強もほどほどに、ジャポンを満喫するためのガイドブックなんかを読みあさり、昨日の失敗を糧に地元民ご用達の居酒屋に入った。

 

 カウンターだけのこぢんまりとした店だが、いい雰囲気である。席はほぼ埋まっているが、うるさく騒いでいる者もおらず、どこか皆上品に酒と料理を楽しんでいるようだ。ここのおでんが絶品なんだそうだ。ちらと見えるおでん鍋からはいい臭いが漂ってくる。店主は奥で天ぷらでも揚げているのかいい音が響いてくる。

 

 空いている席に腰を下ろして、何気なしに隣の客をちらと見やると話しかけられた。

 

「嬢ちゃんが来るには、ちぃとこの店は早くないか」

 

 ニヤニヤと男は笑いながら言う。ワタシは思わずフリーズしてしまった。

 

「止めなよ。“使える”んだろうけど、どうも“その気”はなさそうだよ」

 

 女が言う。そう言いながらも鋭く観察するような視線である。

 

 男はノブナガ。女はマチ。確かに二人は名前的にも服装的にもジャポン人だろうと思っていたが、まさかこんなところで鉢合わせになるとは思ってもみなかった。

 

 

 

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