動かせるかと聞かれたので、オーラを流してチェーンを廻す。回転数も自由自在だが当然速度を上げるとオーラの消費も大きくなる。さっき時計を加速させていた時は2,3分で回転数が落ち始めたが、やはりやり慣れた“チェーンソー”であれば疲れている状態でも多少は保つ。“堅”で自身とチェーンソーを覆っても十数分は大丈夫だろうか。
駆動音がうるさいので出力を換えつつ2分程度で止める。これ以上やってると近所迷惑で隣人に怒られそうだ。勿論アイドリングSTOP。環境ではなくワタシのオーラ消費に配慮してだが。
「こんな_感じ」
「そんなにオーラ使って平気?」
気になるところはそこか。確かに自分でも最大容量と潜在オーラの量は人より多いだろうと思っていた。なんせ念を覚えてから常にそれを意識して修行していたのだ。具現化系ということはそもそも人よりも攻防力が劣っていると言うことであり、“堅”や“流”は人一倍重要な技能になってくる。あいにくと“練”は苦手でつまり顕在オーラ量が少なく、“堅”は長く維持するのは大丈夫だが、強い攻撃に対して備えるにしてはやや弱い。完全にスプリンターでは無くマラソンランナーなのである。“念”においては苦手の克服も重要だが、残念なことに完全に克服ということが系統などの関係もあり不可能なのだ。ならば長所を出来るだけ鍛えるのが正解だと思う。《
「平気。これから_戦闘は、きついけど。お昼には_戻る」
「ここまで精巧に“動く機械”を具現化するのは正直並の能力者には居ないわ。それが強さには直結しないけれど、それだけオーラを込めて作ったんなら相当丈夫でしょうし。――てかなんでチェーンソー?」
「ワタシも_よくわからない」
強いていえば運命とでもいうべきなのだろうか。
「まぁいいわ。正直アタシから言えることはあまりないかも知れないわね。アタシにはその能力は完成しているように見える。そのチェーンソーを活かす方法を考えたり、生成の時間短縮なんかの効率化に比重を置くべきだわ」
やっぱりそうなるか。今まではとにかく回数をこなして慣れるという方法しかとれなかったわけだが。
「あとうるさい」
それは仕方が無い。“音のしないチェーンソー”は“何でも切れる刀”並に不可能な代物だ。
「とにかく“念”を込めるのが得意なら“神字”を使ってみることかしらね」
でた。オタク男の知識であることは知っていたが非常に曖昧だった部分だ。正直この知識だけでも誰かに師事を請う価値はある。旅団の強さのキモはやはりこの辺りか。
「神字」
「そう。念を込めて決まりに沿った文字を記すことで、一時的な制約を得ることが出来るの。ただ根本的に戦闘には向かないものだけど、補助ぐらいにはなるし、修行するにはもってこいよ」
ワタシは俄然やる気になったのだが、残念なお知らせ。神字は決まり事が多く、それを口頭で教えるのは難しいので指南書を用いるのが普通なのだが、手元に無く知り合いに借りるしか無いそうだ。そしてその指南書はいわば念にとっての奥義書。おいそれと貸し出すのは難しいそうだ。
要するに指南書の所有者に認められることが条件になるだろうとのことで、マチは多分大丈夫と言ってくれたが、それはつまりクロロとご対面と言うことだろうか。書籍ハンターだし、きっと彼の蔵書だろう。
結局押し切られるように二週間後、拠点の一つに行くことになった。そこで仲間と仕事の予定があるのでその時に会うことが出来るそうだ。クロロと会うということだけでも暗澹たる気持ちになるというのに、仕事と言うことは旅団員が集まるわけで、ヒソカはまだ居ないはずだが、パクノダに会うのは危険極まりないし、時期的にどうもクルタ族襲撃が次の仕事なんじゃ無いかと思う。
ワタシはオタク男の倫理道徳の影響を受けているが、殺しに対しては特に忌避感を持ってはいない。これは暗殺者という環境から人生がスタートしたということも要因として考えられるが、この“世界”があまりにも個人主義で危険であるというところも一因になっている。
念だけに関わらずこの世界は“守ってくれる存在”というものがあまりにも少なく、単純に言えば“奪われないために奪う側に回る”しかない世界なのである。ハンター協会はそんな中で割とよくやっているのではないかと思うが、正直そこから一段も二段も格落ちの国家や組織は有象無象の集合体で、内部の力を抑えるのにも苦労しているのに、どうして弱者を保護など出来ようか。
まぁワタシは弱者であるつもりはないが、結局のところ殺さないで納められる程に強くないのは確かである。
閑話休題。
それにしても一族虐殺と緋の目では釣り合わない。犯すリスクが大きいのにそれで得られるリターンがあまりにも少なすぎるのだ。宝石や美術品と考えれば価値は個人によって違うわけだが、少なくともワタシはそうした嗜好品を、誰かを殺してまで奪おうとは思わない。
ワタシがルフチンバラで請けていた仕事も結局のところ殺しには違いないのだから、別に“キレイ”“キタナイ”と言える立場ではないんだろうが。
ともかくそうと決まればマチの行動は早かった。持っていないことを知らせるとその日のうちに携帯とホームの契約をさせられた。せっかくなんで保護区がいいかなと思ったが、あそこはジャポンの国籍を持っているかハンターライセンスがなければ、居住許可が下りないらしい。文化保護のために所有物などに指定がかかるらしいが、税金が安かったり衣類――和服が配給だったりなかなか面白そうだったのだが駄目みたいだ。
不動産屋を巡って色々物件を見たが、マチの部屋の隣が空いていたためそこを購入する羽目に。完全に気に入られてしまっているようである。これは入団もやむ無しかも知れない。ちなみに観光ビザで入ったのだが、住所を入手したため外国人用就労ビザに変わった。年に一度更新が必要だが、審査は緩いらしく税金さえ払えば定職に就いていなくてもいいらしい。なんなんだそれはと思ってしまった。
携帯はジャポン製のものをチョイス。職人思考でやはり電化製品の質もいいらしい。部屋に家具をそろえるのは帰ってきてから。一応闇医者にホームコードを連絡しておくが、折り返しが来てもしばらく放置だろう。
シンジことノブナガと合流して夕飯を食べるとそのまま空港へ行き、ジャポンを出た。
少々慌ただしいが仕方がない。そもそもこの世界は移動にえらく時間がかかるのである。二週間後と結構先のことに思えるが、ジャポンから出て他の大陸に行くだけで数日かかるし、大陸移動となると一週間は見る必要があるのだ。
飛行船内で大事な話があると呼び出されてみれば、本名を教えられて“幻影旅団”という流星街出身者で作った盗賊団であると知らされた。逃げ場のない空の上でちょっと卑怯なんじゃないかと思ったが、これももう仕方がない。マチは明言してはいないが、ノブナガ曰く『マチが弟子にしないんだったらオレが拾ってた』とのこと。ジャポンの居酒屋で遭遇してしまった時点でこうなる運命だったようである。