二つ下のなにもないフロアでワタシはもう1人の候補と相対していた。浅黒い肌で銀色の短髪という特徴的な容貌だがそれよりも目立つのは大きさだ。ウボォーギン並かそれ以上の巨体と筋肉量。これで強化系じゃなければ何だというのだ。ああビスケのような可能性もあるのか。
どうもワタシは“ゴツイ男”というやつと縁があるらしい。ファッションセンスは元上司を思わせる荒々しさだった。漫画のキャラクターとして登場したならどう見ても噛ませ犬だが、これから戦わなければならないのはワタシなのだ。そして彼を推薦したのは何番だか知らないがトゥールという神経質そうな男で、どうやら結成当初から居るメンバーらしい。ワタシの知識の中には居ないが、幻影旅団のメンバーが仲間として引き入れようと目をかけた人物ならば、戦闘描写が省略されるような腕なはずはない。おそらくワタシが今まで戦った人物の中では一番のはずだ。
決闘に特にルールはなかった。得物も自由、生死も自由。とにかく最後に立っていた方が合格らしい。まだ団員じゃないから全力でやり合えということか。団員の入れ替えが殺し合いなのだから想像はついていたが。
ウボォーギンとシャルナークはトランプの結果、買い出しに行っていたらしく、相手の男が来る前に帰ってきていた。聞けばこれで全員だそうだ。団長クロロを除いて9名。まだ番号に空きはあるようだが2人合格にはしないようだ。
マチに準備はいいのかと聞かれたが大丈夫と答えた。得物を先に見せて間合いを調節されるより、オーラを多く消費することを選んだ。今すぐに出せるのは普通の形状のチェーンソーだ。大剣の時のように出したはいいがその後別のところに支障を来すようなものではない。
「ワタシ_は、ソーヤー」
まがりなりにもこれは決闘らしいから、一応名乗っておくべきだろう。対する彼はどういう人物なのかがよくわかる『アン』という疑問符付きのしかめっ面――というより眼をつけてきたが、どういう意図なのか察したらしく不敵な笑みに変えると挑発付きで名乗ってきた。
「オレはバルブロだ。嬢ちゃん止めるなら今のうちだぞ」
その言葉にマチが微かに反応した。トゥールもにやりと笑う。なるほどトゥールの方は代理戦争のつもりらしい。先程までの団員同士のやりとりを見ても彼はあまり好かれていない様子。まぁ団員の中で細々神経質に言われるのを黙って聞いていられるのは、クロロとシャルナークぐらいのような気がするし。
オーラは臨戦態勢か。いやまだギアは上がりそうだな。ただ拳を引っ込める気がないのは誰が見てもわかる。さっきトゥールと喋っていた時もさんざんけしかけられていたし。一応、旅団と関係を持つと割り切ったというか決断させられた訳だが、クロロと会ってやっぱり出来れば止めたいなんて思ってしまったが、これに関しては別段ワタシが優柔不断だとは言えまい。ワタシが入団を辞退するにしても、彼――バルブロにとってはワタシを倒すことが入団条件なんだから、この戦いは避けられまい。
軽く右足を退いて半身で構える。ワタシが習ってきた武道は特に構えや型がある類いのものではないが、これは防御に適した姿勢と教わったものである。ワタシが構えをとったことでバルブロも構える。合図は特になくワタシは彼が動かないのなら一日でも待つつもりだったが、彼はそうではなかったらしい。
呼吸の合間――まばたきに合わせて踏み込んでくる。それぐらいのことはするらしい。
一応互いの距離は20mほどあったが、やはりあまり意味はない。一瞬で長い腕の間合いに詰められる。だが組み手の時のノブナガの踏み込みよりは遅い。どこの流派か肩からぶつかってくるような不思議なフォームからやや遠回りに拳が飛んでくる。体格差的にワタシが屈めば攻撃しづらいだろうと、ワタシからも間合いを詰めて丸太のように太い腕をくぐるようにように避ける。彼の右足が上がっているのが見えて慌てていなす。両手で払い落としたが気にせずに叩きつけられた右足が床を粉砕して破片をまき散らした。掌にかなりのオーラを集めていたが痺れている。続いて右の肘鉄から裏拳。まるで壁のようなオーラで叩きつけられ防御は出来たがかなり弾き飛ばされた。
防御に使った両腕と左足に痛みが走る。このまま戦えば防御でダメージを受けて、こちらの攻撃は当たってもダメージにならないだろう。バルブロは見た目よりもちゃんと格闘家で必要以上に攻撃にオーラを割くようなことはしていない。やはりワタシの火力はチェーンソーにかかっているようだ。
再び初撃と同じ踏み込み。オーラが爆発的に膨れあがる。決める気できているようで今度は打ち下ろすような角度。任せろ丸太とは相性がいいんだ。《
「なにッ!?」
一瞬の驚愕はこちらもだった。拳に当てた刃がオーラを削るがすんなりいかない。力比べのような形になってしまった。出力を上げるが彼の右足に横薙ぎされて再び吹き飛ばされる。咄嗟に左肘で受けたが意外に重傷だ。バルブロの右拳を割ることは出来たようだが、こちらも左腕は骨折、あばらも折れてる。
激高してオーラの顕在量が上がったバルブロは雄叫びを上げながら追ってくる。まさか両断できない相手にこんなに早く会うとは思わなかった。いつかはと予想していたがワタシもまだまだ修行が足りないらしい。
再構成はオーラを消費すれば出来るが、戦闘中に構造を組み直して威力を上げることは出来ない。このチェーンソーで戦うしかないのである。幸い刃が欠けたわけでも止められたわけでもない。だからあとは我慢比べだ。彼がもう一発いれるか、ワタシがかいくぐって削りきるか。