世界はワタシにコスプレを強いる!   作:usausado64

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18 十番

 拳を振るたびバルブロの血が飛び散る。怒り任せの攻撃は単調で避けやすく、伸びた手足に刃を当てるのは左腕が負傷している状態でも簡単だった。直ぐさま退かれるため両断にはほど遠いが十分に削れる。ワタシは嬉々としてオーラを流し込んだ。エンジンがうねりチェーンが奔り駆動音が響き渡る。

 

 いつしか攻守は逆転していた。バルブロのオーラが全体的に減っているように思える。オーラを削った効果かそれとも怪我で血を流したためか、単純にスタミナ不足か。攻撃時に全身に残る量が減っている。そろそろ切り倒せそうだ。

 

 穴だらけの床に足を取られた振りをすると彼は簡単に誘いに乗った。全力の一撃。ただ、壁のように膨れあがったオーラは見る影もなくなっていた。振り下ろされた右腕を足場に跳んで首を薙ぐ。咄嗟の“流”による防御もオーラを削られて意味はなさなかった。ボトリと切り落とされた頭部が落ちて、太い首から血が噴き上がる。

 

 さっさと離れて血の雨を回避する。こんな洗濯がろくに出来そうにない場所で血塗れになんかなりたくないが、よく見ると至る所に返り血が付いている。チェーンソーという得物故これはどうしようもないのか。バルブロも出血していてもかまわず腕を振って攻撃してきたからそれもあるし。

 

 遠巻きに観戦していた団員が集まってくる。案の定マチには怒られた訳だが、こうして怪我で済んだのはワタシとしては有り難い話だ。初撃が通らずに乱戦になるという経験を骨折で買ったと考えればいい。押し合いに必要な膂力を付けなければとか、《前回出荷鎖鋸(インスタント・チェーンソー)》の威力はできる限り格上を想定して準備しておくべきだとか。

 

 ともあれ約一名渋い顔をしていたが、問題なく幻影旅団の団員試験をパスすることが出来た。出来ることなら違う意味でパスしたいと思ったが、神字の知識が報酬なら釣り合いがとれると思いたい。利用するから利用してくれ。

 

 初めてのお仕事はお留守番。まぁ腕が折れてるからしっかり療養しろとのことで、この流星街の最低限の規律やら決まり事を教わりながら割とのんびり休めた。

 

 団員番号は10番だそうだ。入れ墨の場所はどこにするか聞かれたが、場所はどこでもいいから数字を漢数字にしてくれと頼んだらあっさりOKがでた。首の後ろ――背中と首の境界辺りだ。思っていたよりもキュートなできでワタシは満足だ。

 

 目的の神字に関する書物を借り受けることも出来た。ついでにルフチンバラにも拠点を一つ新たに借りた。こちらはマンションではなく工場区画に大きめの倉庫。目的が修行場なので居住空間はおそらく事務所に割り当てるだろう二階の一室。広い空間には神字記したボードをべたべたと打ち付ける。

 

 結局のところ神字はプログラムに近い部分がある。たとえば直径~㎝の円形に『対象』『対象の位置』『効果範囲』『干渉作用』『継続時間』などを事細かに記すことで、その対象に何らかの影響や制約をかけるわけである。かけられる影響も対象が動くか動かないか、生物か無機物かで単なる円形では済まなくなったり、どういった図形の組み合わせが相応しいかだとか、言葉遣いなどで記さなければ文字数に差が出たり、かなりプログラミングの性質に近い部分がある。

 

 ワタシは当初、これってお札やファンタジー世界にありそうな魔法具みたいに使えないかなぁと考えていた。原作にあったジンの残した箱のように念攻撃を防ぐ耐久性や、ラジカセを操作するように物体を操作出来れば、ちょっとした切り札になり得ると思ったからだ。

 

 しかし、条件設定がかなり厳密に行われる必要があることと、書き込まなければいけない文字量が膨大であるため、精々懐中電灯や便利道具にしかならないのだ。しかも一つの命令を複数に分けると言うことが非常に難しいのである。巻物や経典のようにまとめても、起動時には完全に広げておかなければならなかったり、そんなことなら小型ライトを普通に持ち歩いた方がマシである。

 

 つまり神字は原作のように修行に使うか、精々ボクシングの彼のように極めて限られた条件下でしか使いようがない。そして、対象を指定する関係上、自分やそこにあることが決まっている物にしか使えない。もしワタシが操作系であれば、愛用品を無くさないようにするだとか、本体強度を上げるような目的で使えなくもないだろうが、神字が刻まれた物体を具現化しても念を込めて記さなければ、単にそういった模様になるだけで意味がないのだ。

 

 ジンの箱やウイングのミサンガを参考に、なんとか実用性のありそうなものを考えるが、そう簡単にいきそうもない。あれらの再現ですら現状ではおそらく倍以上の大きさや長さが必要になってしまう。

 

 そんなこんなで神字の勉強はかなり面白く、留守番といっても流星街の拠点に居る必要はなかったため、かなりの時間を倉庫で過ごすことになった。重力負荷や念の顕在化を阻害する空間を作った上での生活や修練は、今まで以上に修行しているという実感があって充実していた。ちなみに【精神と時の部屋】の再現は無理だった。

 

 次の仕事は不参加故、情報は無しだったが、時期的にクルタ族襲撃を警戒していた。クロロの様子を見るに何らかの目的がなければ、わざわざ皆殺しにはしないと思われた。勿論これはワタシの第一印象がもたらしたクロロ像なわけで、読み違っていたのならばそれまでだが、緋の眼に美術品以上の何らかの仕掛け――たとえば最期に見た光景を映すだとか、とにかく複数入手する必要性がなければ、全てを奪うことにはならないはずだと考えたのである。

 

 毒を食らわば皿まで。ここまで足を突っ込んでしまったのならいっそ同行して何があったのか、当事者になる方が救える気がした。元々救えないと切り捨てたはずだったが、こうして加害者側で手が出せる状態なら出すべきなのだとワタシは考える。例えば失明させることになっても命を救うことは出来るかも知れない。

 

 だから無理を言ってマチに次の仕事が何か聞いておいた。それがさるお方の屋敷から美術品を盗んでくることであり、安心して皆を送り出したのだったが、テレビから流れるニュースを見てワタシは愕然とした。

 

 クルタ族虐殺が起きてしまったのだ。

 

 

 

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