世界はワタシにコスプレを強いる!   作:usausado64

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21 孤島の誘い

 盗賊団の仕事というものは端的に言えば“盗んで売る”だ。指定のモノを盗み出せという依頼がある場合だとか、買い取り手の関係上盗むモノの傾向があったりするが、クモの場合は大前提として団員の嗜好品が含まれるかどうかが何より重要になってくる。なにを盗むかによって団員の集まりが違うのだ。

 

 今回の目標はとある貿易商の所有する書物。発案者は団長で依頼があったわけではない。シャルナークの調べによると貿易商は200年程前に滅んだとある王朝のコレクターだそうで、団長がご所望の書物の他に、絵画や彫刻、装飾具や壺、果ては特殊な建築様式の柱なんかもお宝として保管されているそうだ。

 

 正直こうした所有者が限られているようなお宝は稼ぎになりにくい。幻影旅団の犯行であるということを隠していなかったりするので、足が付くのを気にすることはないが、残念ながらそれを売り買いするディーラー連中はそうはいかない。そうすると団長はホクホクだがそれ以外の団員はコレクション内に食指が動く物がなければ、ただ働きになるわけである。

 

 一週間の猶予があったが結局参加表明の連絡は無く、流星街の拠点に居た4人で向かうことになった。

 

 場所はバルサ諸島北東の地図にも載らない個人所有の島。貿易商の別荘と管理用の住居がある以外に建物はなく、普段は10名前後の使用人や庭師などが住んでいるだけらしい。森や山なんてものもあるにはあるが、面積が小さすぎて魔獣の心配も無くわずかばかりの野生動物が生息している程度。島の周囲は切り立った崖になっており、中央の入り江以外に上陸する場所はない。なるほど別荘としても宝物庫としても中々にいい物件だ。使用人以外に護衛を雇う必要が無いほど守りやすい場所なのだろう。

 

 シャルが用意したクルーザーに乗って最寄りの港から出る。おそらく原作でグリードアイランドに行ったときもこの港を利用したんであろうなどと考えながら、優雅な船旅である。この辺りは常夏というほどではないが四季の起伏がなくかなり過ごしやすい。

 

 港で新鮮な海産物を仕入れたので、船上ディナーは中々豪勢なコースを作ることが出来た。私的な認識の仕方としては、ヨルビアンはユーラシア大陸というか丸ごとヨーロッパと考えるのが理解しやすい。それは歴史的なことや文化などもそうだが、とりわけ食文化がそれにあたる。

 

 つまりなにが言いたいかというと、お造りは不評だったということである。まぁ醤油が代替え品だった故ワタシ的にも少々生臭く感じたのだが、これは和食調味料は持ち歩くべしということだろうか。いつの間にか料理人の位置に置かれているが、サシでクロロの相手をしろとか言われるよりはいい。

 

 ともあれシャルにクルーザーの運転方法を習ったり、パクノダとチェスをしたり、釣りをしたり、その魚で料理を作ったり、結構充実した移動だった。

 

 孤島は崖の関係でまるで人工物のようでもあるが、その見た目通りならば走れば一時間とかからずに横断できそうな大きさである。丁度入り江の反対側の岸壁にクルーザーを泊めると立ちふさがる崖を見上げる。海流のせいで波が強く岩壁は徐々に削られているらしく、返しのように天辺が突きでている。とっかかりはあるし、まぁ能力者でなくても頑張れば上れるレベルか。

 

 作戦としては、守人の人数は大した数ではないが援軍を呼ばれて足を潰されると面倒なので、崖を登ってこそ~りと侵入し連絡させずに潰していくという、スニーキングミッションが採用された。

 

 すっかり日が落ちて時折月明かりがあるぐらいの薄ぼんやりとした闇の中、50mの岩壁を上る。こんなことならもう少し動きやすい衣装にしたのだが、ワタシはいつも通りのゴシックパンクスタイルである。まぁパクノダもスーツで崖登りなのだから黙って上ることにするが。

 

 崖を登り切ると一面に芝が広がっている。その先にあるのは広葉樹のうっそうとした森である。周囲一応警戒しながら森に入ったところで何だか嫌な予感がした。強敵に相対したとか、遠くから向けられる殺気を感じたとかそういった感じではない。立ち止まり“凝”を施して警戒を強くする。どうやら他の三人も同様のようである。

 

「ソーヤー。その腕」

 

 シャルナークがそんな形で沈黙を破った。言われた通り腕を見る。飾りチェーンが巻き付いたロンググローブは崖登りのために外していた。ちょっと自慢できるぐらいの白い肌に数字がいくつも浮かんでいる。1から12の数字。ワタシの団員番号と同じ数字である10の色だけ赤であと黒。“絶”にしても変化無し、擦っても落ちない。ペイントと言うよりは刺青だ。いや、そんなことよりも問題がある。“絶”と“纏”、“練”を繰り返す。これは明らかに負荷がかかっている。ワタシの修行倉庫よりも負荷のレベルは高い。“練”がほぼ出来ない。

 

 袖を捲ると三人も同じように左腕の前腕部外側に数字が記されている。違いはそれぞれの赤い数字が、クロロが“9”パクノダが“11”シャルナークが“12”。

 

「これは、――森に入った順番か?」

 

「現状それ以外の関係性は見つけられないね。あとは――圏外か」

 

「“練”_無理。負荷_きつい」

 

 纏をしている分には違和感を感じる程度なのだろう。ワタシの指摘にハッとしてそれぞれが試しているようだ。

 

 《盗賊の極意(スキルハンター)》の本を出そうとしたのか、しばらく右手をじっと見たあとクロロは腕を組んだ。口元が笑っているが、そんな余裕無いだろと突っ込みたい。明らかに何らかの念攻撃を受けているのだから。

 

「“発”も無理だな。――面白い」

 

 ワタシは全然面白くない。ここに居るのは特質系二人に操作系と具現化系。“発”を封じられたら戦力半減以下のパーティだ。司令塔と参謀と情報処理と食事係。正直バランスが悪すぎる。

 

「どうする?いったん帰るべきじゃないか?」

 

 シャルナークの言葉を手で制してクロロは踵を返す。森の境界に手をかざすと火花が散った。

 

「どうやらそれも無理のようだな」

 

 痺れたのか手を振りながらそう言ったクロロは、やはりどこか楽しそうな表情をしていた。

 

 

 

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