頭脳派ばかり集まっているのでワタシとしては特に発言する必要も無かった。パクノダと二人で話を聞きながら周囲の警戒の方に意識を割く。森の木々は月明かりを遮り潜むには十分な影を作り出しているし、幹は小柄でなくとも身を隠せるほど太く大きい。出来ることなら“円”による警戒が望ましいが、“円”の距離は顕在量が多くなければ数mがいいところである。ワタシも最近やっと“円”と呼んでも差し支えないレベルになったばかりだ。
顕在量は系統の得意不得意とは違うのだが、強化系や放出系は能力を強化する際により大きなオーラを求め、逆に具現化系や操作系は念の密度を上げることで強化する方向性になる。言ってしまえばこれは卵が先か鶏が先かという話になるのだが、系統修行の関係上自然と大量のオーラをよく運用する強化系と放出系が範囲で優れ、オーラの形を変化させることを修行としている変化系が技術的に“円”の達人になりやすい。
ただこれはあくまでそういう傾向にあるというだけである。例えば同じ変化系でも密度に寄っているマチよりも柔軟性に寄っているヒソカの方がおそらく“円”の範囲が広いだろうし、操作系で例に出すならシャルナークは操作することに特化している一方、モラウは操作する量にソースを振っているため、後者の方が“円”の距離は広いだろうと予想できる。ノブナガの“円”が作中で登場したときに狭いという印象があったのも、ノブナガの能力が大量のオーラを運用するタイプの能力ではないことが要因だろう。ワタシはまだ詳しく知らないが、居合抜き系の必殺技なら斬撃を飛ばすなんてことをしない限り、必要なのは量ではなく密度だと思うし。
ともあれなにが言いたいかというと、ここに居る四人はどう考えても密度タイプに寄っているという話である。おそらくだがこの中ではクロロの“円”が一番広いのではないだろうか。
「これ程待ってもこちらに対してアプローチが無いということは、位置が特定されているわけでは無さそうだな」
「そうだね。でもだとするとこうして番号を振る意味はなんなのかな」
「番号を見る限り、私達以外の8人にも同じように数字が現れているはずよね。だとすれば侵入者が居ることは分っているはずだわ」
「神字で範囲を補ったりは出来るだろうけど、対象を指定せずに一部の人間に負荷をかけたり閉じ込めたりは考えにくいから、向こうの能力者も弱体化してそうだけどね」
番号に意味があるのなら、隠しておくべきだろうとグローブを着けようとして気がついた。
「数字が_変わってる」
赤い数字が“10”から“3”に変わっていた。変化はそれだけではなく、最大数が11になっている。確認するとクロロが“6”シャルナークが“10”パクノダが“5”に変化し、皆同じように12が消えている。
「素直に考えれば、誰かが死んだか範囲から出たかだけど、なんで数字を振り直したんだろ?」
「規則性_なさそう」
「――情報が足りないな。取りあえず一人捕まえてみるか」
木々に隠れながら本来の目的地である別荘に向かう。森の木々を切り取るように放射状に庭が広がりその中央に豪奢な三階建ての大きな洋館が姿を見せる。この庭はとある王朝の再現なのか、腰丈の庭木は迷路のように独特の模様を描いている。庭としては華やかさに欠けあまりいい庭とは思えないが、丈の低い庭木のせいで隠れられそうな場所が少なく、二階や三階から見下ろせば森まで見通せそうで、防犯面ではよく働いている。
屋敷の中をときより明かりが動く。見回りか森の方にも光の帯が当てられる。跳んで行くにはちょっと遠い。匍匐前進でもしていかないと屋敷までたどり着けそうにない。
「使用人の住居があるはずだ。先にそっちに行こう」
別荘の裏手。庭の外側で森に埋もれるように建っているそれはごく普通の一軒家である。気配を消して近づく。一階に明かりが点いているが、人の気配はない。数字が浮かんだことで侵入者を察知し洋館へと移動したのだろうか。
「望み薄だけど一応情報が無いか調べてみるよ」
「単独行動は避けるべきだな。パク手伝ってこい。ソーヤーは俺と見張りだ」
さっさと鍵を開けて二人は中に入っていく。団長とワタシは両方の出入り口が見える位置に移動し森に潜む。微かな風に木々が揺れる音と微かに響く虫の鳴き声。クロロと二人っきり。別の意味で緊張する。
「数字の意味。なにか思いつくか?」
ずっと押し黙っていたかと思ったら急に団長が投げかけてきた。数字が減っていくということで思いついたのはビリヤードだがおそらく違うだろう。一つ球が落ちるごとにまた1から並べ直すルールをワタシは知らない。
消えるのは順番では無い。だとすれば1番か12番だったシャルナークが消えているはずで、数字を入れ替える意味が無い。プレイしたカードはゲームから除かれる。1プレイ終わると再びカードを配布し直す。数字の重複が無いならトランプで考えるべきでは無いか。
「わからない。ただ、ワタシ達_以外が、誰かを_殺した?」
ワタシ達以外に他の侵入者でも居なければ、別荘を管理する使用人達の中で刃傷沙汰があったということである。数字の欠落=死亡とはまだハッキリしていないが、もしそうだとすれば仲間割れが起きたことになる。人間なのだから軋轢などが一切無いとはいわないが、孤島に対して侵入者が居る状況で、宝の守護を任された人たちが一致団結せず、足の引っ張り合いをするのは不自然だ。
つまり、ワタシ達以外にも侵入者が居るか、使用人として盗人が侵入しているか、或いはそうしなければならない“ルール”があるかだ。
「――王様_ゲーム」
数字が再配布されるのなら、これは近いのでは無いだろうか。ただ、そのままでは決して守備のために用いられるルールではない。王様は間違いなく術者で変わることは無いにしても、自分の味方も含めてバトルロワイアルになるのでは使い勝手が悪すぎる。もしこの念の術者が侵入していた盗人で、目的がワタシ達同様コレクションの奪還だとすれば筋は通るか。
「だとすれば、殺るべきなのは数字の無い奴か」
憶測の域を出ないが、だとすればとんだゲームに巻き込まれたものだ。