世界はワタシにコスプレを強いる!   作:usausado64

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23 屋敷侵入

 王様ゲームというのは宴会余興というか、パーティーゲームというべきか、とにかくそういった目的のものである。くじを引いて一人の王様と番号の点いた家臣を決め、王様が番号を指定し勅命を下す。勅命の内容はその時々TPOを考慮して王様が決める。気心の知れた仲間であれば罰ゲーム的であったり、男女混合であればセクハラ的なスキンシップであったり、ワタシの知識の中ではその勅命を決めるクジやサイコロなんてのもあった。どうやらクロロの反応的にこの世界でも同じように存在するらしい。

 

 もし現在ワタシ達が念を用いた王様ゲームに囚われているのだとすれば、ルールの把握が重要である。例えばその勅命の強制力がどの程度のモノなのか。ワタシ(3番)クロロ(6番)を殺すという勅命が下った場合、戦闘能力が劣るワタシがクロロに勝てるのか、ワタシに拒否の余地があるのか、もしワタシが勅命を達成できずに死んでしまった場合はどうなるのか、またワタシ以外がクロロを殺した場合はどうなるのか。

 

 クロロの言う数字の無い人物が王様であり能力者であるというのは、希望的観測に過ぎない。ワタシがこの王様ゲームという念能力を扱うのなら、自分にも参加者と同じダミーを記すだろうし、ヒソカの《薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)》のようなことが出来る能力者が他に居ないとも限らない。

 

 シャルナークとパクノダが使用人の住居から出てきた。一冊の本のようなモノを持っている。

 

「ここのメイド長はずいぶん几帳面な性格らしいね。これは業務日誌では無いみたいだけど、この日記もそれと変わらないみたいだ。判ったのはメイド長が二番目の古株で、今日はコレクションの追加のために秘書が滞在していて、普段より人数が多いってこと。この日記を鵜呑みにするなら、僕等以外に執事が3人、メイドが3人、庭師に秘書の8人がいたはずだ」

 

「数が合ってるな。つまり屋敷の連中も把握していない侵入者が別に居るか」

 

「どういうこと?」

 

「ソーヤー曰くこれは“王様ゲーム”だそうだ。それなら数字の無いキングがどこかにいるはずだ」

 

「なるほど。取りあえず屋敷に侵入して見回りでも捕まえようか。幸い1人で行動してるようだし」

 

 侵入したことがばれているのであれば、もうコソコソする必要は無いのだが、念を十全に使えない状況下なので大まかな作戦変更はしないようである。携帯も圏外となると、屋敷に電波妨害装置があるか念による遮断だ。念であるならば増援がこの島にやってくる心配は無い。そもそもあの膜を越えて入ってこれるのかが判らないから悩んでも無駄だ。

 

 数字を除外して考えてみる。相手に何らかの制約を掛けるのは非常に難しい。例えばクラピカの“鎖”は自分の命とクモ専用という制約があっても、接触しなければ縛れないし、他人に制約を植え付けるには“説明”をしなければならないはずだ。ナックルの《天上不知唯我独損(ハコワレ)》やヂートゥの《鬼ごっこ(仮)》も、相手を縛るという段階の前に接触や条件を満たす必要がある。

 

 実際“絶”状態や、オーラのコントロールを不能にするといった致命的な制約ではないものの、“練”や“発”を封じるというのは強力である。身に纏っている“纏”のオーラを何とか攻防に使い回すしかないこの状況なら、能力者を銃器などで非能力者が殺傷可能だろう。そう考えるとこの制約は何らかの解除手段が用意されていると考えるべきだ。ナックルだったらオーラを返す、ヂートゥだったら捕まえる。余程の能力者か余程の制約がなければこの能力は成り立たないのだから。

 

 別荘は3階建ての洋館である。洋館という表現がこちらで使えるかは謎だが、そういうモノだと割り切る。案外調べれば“何とか様式”だとか“何とか調”だとかわかるかも知れない。現在は圏外だが。

 

 シャルナークがおそらく使用人用の勝手口と思われる扉を開けた。これぞ盗賊の見技だ。庭は防犯のためでは決してないのだろう。使用人用の別宅から屋敷へ続く石畳は前面からは隠されており、独特の庭も前面だけ。そもそも籠城戦でもするかのように気を張って見張りを立てていてもわずか数人で全面をカバーするのは難しい。それだけ屋敷は豪奢で広い。現在見張りがツーマンセルではないというだけでも人が足りないと言っているようなものだ。

 

 案の定扉の先はゴミなどを集積している部屋だった。掃除道具が壁に吊るしてあったり舞台裏といった印象である。先に扉は二つ。装飾の様子から簡素な方が使用人の休憩室、レバー式でやや大きめの扉はキッチン辺りに繋がっているのではないだろうか。

 

 早速皆さん盗賊の本領発揮。パーティでも頻繁に行われるのなら違うのだろうが、詰めている人数的にそれほど利用頻度の高くなさそうな特殊な刃物類を各自物色している。

 

「“周”はやっぱり駄目みたいだね。これなら肉弾戦の方がマシだ」

 

 中華包丁――こっちでの正式名称は知らない――を握って試していたシャルナークが適当に放り投げる。料理人としてそれは咎めたいところだがぐっと我慢しつつ、一応かさばらないサイズのナイフなんかをポケットに入れておく。

 

 結構団長は勝手に先に進んでしまうタイプらしい。置いて行かれそうになって慌ててキッチンを飛び出した。

 

 空調設備があるわけでも無い屋敷の内部はほぼ無音だった。微かに鳴る――主にワタシの衣擦れの音ぐらいだ。正直小さい頃は暗殺者だったわけだから、隠密行動の訓練なんかもさせられたが、扱う得物が騒音を撒き散らすので念を覚えてからは殆どその手の訓練はしていなかった。キルアのように『癖になってんだ』とかは言えない。訓練をしていなくても身体に染みついている部分は確かにあるが、身体が大きくなったりしてその変化に対応していないので、“絶”で気配を消してもある程度の能力者なら動くとバレる。

 

 先頭を行っていた団長が廊下の角で止まりハンドサインを送ってきた。止まれってことはわかったが、それ以上のことはわからなかったので静かに待って任せることにする。

 

 と、廊下の先から足音が聞こえてきた。これを感知して止まったのか。クロロさすがだな。軽い足音だと思う。音の高さと床板の軋み的に戦闘訓練を受けたような――訓練された歩行をしている音ではない。小柄な少年か女性か。団長の合図でパクノダとシャルナークが飛び出す。サインがわからなかったのでワタシは一応後方監視に努める。

 

 呼吸音のような微かな声が漏れたが“7”のメイド見習いを無事確保すると適当な部屋に押し入り尋問を開始。オーラの様子から見るに一般人のワタシと同じぐらいの年齢に見える少女だ。少し浮いたそばかすと栗毛色の三つ編み。ワタシより発育がいい。パクノダが居るから拷問する必要はないが突如暗闇から襲われたメイドは完全に混乱状態で、ボロボロ泣いている。ちょっと可哀想ではあるが仕方がない。

 

「さて質問タイムと行こうか。声を上げる必要はないから。こっちの話を聞くだけでいい」

 

 人好きしそうな笑みをシャルナークが浮かべ、メイドはスゴイ勢いで肯いた。パクノダが後ろから抱きしめるように拘束している。これはある意味彼女の能力を観察する絶好のチャンスである。あれ?パクノダの能力は問題なく使用できるのか?

 

「なぜ1人で歩いていた?」

 

「『キッチンにある予備の大型懐中電灯を取りに行くところ』だそうよ。いつもより少し時間がかかるけれど問題なく使えるわ」

 

 それはつまり“発”が封じられている訳では無いということか。“不可能”なのではなく“負荷”が多大にかかっているため“無理”。だとすれば、もしかしてオーラの顕在化に対して強力な抑止力が働いていて、結果能力のキーとなるモノが具現化できずに不可能と判断したが、顕在化が苦手なワタシがその過程を飛ばして出現させる《前回出荷鎖鋸(インスタント・チェーンソー)》ならば使用が可能なのではないだろうか。

 

 試してみる。ごっそりとオーラを消費した脱力感。ずっしりと手に重たい感触。ああ、いつもは身体能力をブーストしている――いわゆる戦闘状態で握っているから、少し重く感じる。音が出るせいで試運転が出来ない。

 

 これ具現化したはいいが、十分な動作が出来るほどオーラを流せるだろうか。出してしまったはいいが、出したり消したりするのはオーラ消費量的に得策ではない。つまりワタシはこれを持ち歩く必要があるわけだ。別に重たくて行動に制限がかかるわけではない。ただ、正常に動作させられないのであれば邪魔なのは確実だ。

 

 クロロとパクノダの問答を聞きながらワタシは少し途方に暮れた。

 

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