アレは結局杞憂だった。
ジョニーは仕事で不在の時もあり、彼の念講習はかなり緩やかだったが、順を追って除念に辿り着くまでに三ヶ月かかり、そこで何とか自分がピアス男の念をまだ受けているかもしれないと訴えて、除念師に見てもらえることになったのは更に二ヶ月後のことだった。
正直筆談であったから子供のワガママとして押し通せたのだろう。喋っていたら色々とボロが出ていたように思える。ワタシが被っている《殺し屋として育てられたため、少し変な考え方をする子》という仮面も、無表情と筆談という要素でゴリ押しているようなもので、今もまさにギリギリだ。
とにかく見てもらった結果、ワタシは何の念の影響も現時点で受けておらず、またその因子が埋め込まれていることもないということがわかり、心の中でジョニーに土下座したのだった。
それからワタシの母親代わりになる家庭教師探しが思いのほか難航し、――難航した理由はジョニーがこの子の母親になってくれる人なんて募集の仕方をしたせいなのだが――そのためにジョニーの故郷へ帰ったり、そのときに幼なじみと再会したり、なんやかんやあってその人が家庭教師になったり、本当に母親になってくれたり、そのことでジョニーは便利屋を半ば引退する形で片田舎に引っ越したり、気がつけば裏路地で拾われてから一年が過ぎていた。
ジョニーが急に真人間街道を行きだしたので、生活の方は順風満帆といった感じだが、一方で念の修行は余り順調とは言えない。というのも、ジョニーに念を教えた師匠というのが、師事の途中というより序盤で亡くなっており、手本書として師匠が持っていたいくつかの書物を譲り受け、そこから独学で修練してきたというのだから仕方がないことだ。しかもこれまた武道から念に至るという、自然に起こすということがセオリーであり、その関係上強化系方面に関してはそこそこな秘伝書であったが、ワタシにあった修行法ではなかったため、ひたすら基礎を延々とするしかないのだ。特に焦っているわけでもないので、肉体がある程度成長するまでは基礎だけでもいいかとも思っているのだが。
要するにそれがワタシの下した決断である。起こることが分かっている悲劇だが、あと五年で旅団と渡り合えるようになるかといわれると正直一対一でもおそらく無理だ。そもそも漫画として描写されていた部分が偏っているので、ワタシが知識を活用して利益を上げられるのがハンター試験とグリードアイランドぐらいで、あとは危険回避のためぐらいにしか使えない。
唯一利用できそうなのはハンター試験だが、原作で描かれた287期に参加するのは正直一長一短だと思っている。デメリットは、すでに念を使えるため、よほどのことがない限り他の時期でも合格出来そうなことと、ヒソカと知り合いになってしまうこと、後はワタシが居るというだけで試験自体は変らずとも合否結果が変ってしまう可能性があることである。
簡単に言えばバタフライエフェクトということなのだが、それを気にして囚われていては生活すらままならないのである程度は割り切った。しかし、合格者がハッキリと決まっている状況にワタシが入るという完全なる知識上の物語との別離は、キメラアント編を考えるとかなり危険なことになる。あの結末はベストではなかったがベターとして被害は比較的抑えられた方であると考えるべきだからだ。
ワタシが介入することで主要人物達が知識の中よりも確実に成長するというのならいいが、それはさすがに介入する場合の目指すところではあっても、約束できることではない。
こうやって考えるとワタシがオタク男から得た原作知識というものはデメリットでしかない。一応念のいろはや修行方法、その他雑学などの知識は有用なのだが、現状では両親という目があるため利用も出来ないし困ったものである。
とりあえず何事もなければキルア一人が合格した288期にこっそりと出てプロハンターになり、後はキメラアントを避けて好きに生きるのがいいかもしれない。才能は間違いなく主人公達に及ばないのだから。
取りあえずまだジョニーに言われたとおりの基礎鍛錬と肉体作りだ。知識で先んじていても実力がつかなければグリードアイランド内でくすぶってた連中のようになってしまう。出来ればジョニーのようにある程度気楽な立ち位置を確立したいところである。