世界はワタシにコスプレを強いる!   作:usausado64

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6 掃除屋

 原作開始の第287期ハンター試験まであと五年。偽造された身分証によるとワタシは今年で12歳になる。出生後の管理がずさんだったため確かなことは言えないが、誤差はあっても1,2年だろう。原作でのゴンやキルアはこの歳でハンター試験に合格したり旅団とやり合ったりしたのかと思うと、やはりとてつもない才能なんだと実感する。

 

 念の修行は四大行の応用を一通り出来るようになった程度――間違ってもマスターではないし、円に至っては厳密に言えば出来ていなかった。平行して武道も習っていたが、実践にはまだ速いというジョニーの判断は過保護でも何でもないとワタシは思う。

 

 系統は勿論具現化系であったが、ワタシはイメージ修行などせずともチェーンソーを具現化できた。これは憑依失敗――わかりやすいからこう呼ぶ――の影響なのか、それとも特別相性が良かったのか、あるいはワタシだけが特異なのかハッキリしない。

 

 そうすると、これ以上能力を強化していく方法が知識の中には制約や誓約しかなかったのである。そもそも具現化系や操作系の説明は、作中で十分だったとは言えない。これは単にゴンやキルアが修行するタイミングで、具現化系や操作系のキャラクターがおらず、必要性がなかったため記されなかっただけなのか、それとも具現化系や操作系自体が、個人個人修行方法を変えるのが普通だからだったのか分からないが。

 

 結局ワタシはジョニーに隠れてチェーンソーを具現化しては消しを繰り返したり、具現化したチェーンソーを分解してみたり、修行法自体を見つけることから始めなければならなかった。

 

 そうして自分の念と向き合ってみた結果、ワタシの能力は《オーラで動くチェーンソーと認識できるもののパーツであれば、具現化できる》というものだと分かった。つまり刃を付けていない状態だとか、逆に刃の鎖部分だけとか、取っ手の部分だけだとかも具現化できるし、内部構造も正常に稼働する構造であれば、出すたびにある程度自由に変えられるのだ。これが分かってからはエンジンの数を増やしたり、モーター式にしてみたり、構成金属の性質を換えてみたりと、チェーンソーという枠の適応範囲内で魔改造を繰り返してきた。

 

 つまり、具現化の念能力を強化するのではなく、具現化する物を強化するというわけである。そのために少女の趣味としてはどうなのかと思いつつも自動車やバイク関連の雑誌を読んだり、機械弄りをしてみたりと割と楽しい修行の日々だった。街に姿の見えない暴走族が現れたという都市伝説が噂されたのは完全に余談だが。

 

 ところがそうして出来たワタシの能力も、結局のところは通常の製造工程では作ることの出来ない程の高性能のチェーンソーを具現化するというだけのもので、それを使いこなして戦えなければただ木を切るのに非常に便利と言うだけの話なのだ。発の修行はかなり順調のように思えるが、一人前の念能力者といえるかと言えばまだまだと言わざるを得ない。

 

 ジョニーが教えてくれる武道は、知識の中にある大陸系によく似たもので、基本的に無手だ。体裁きや足裁きなども無駄ではないが、レースカーに積むようなエンジンを載せた金属の塊を持ってその動きが出来るかといわれると、まるで別物と言うほかにない。念で生み出すということで、普通ならば金属の耐久性的に不可能な構造でも問題ないため、かなり軽量化、小型化してはいるのだが、強度を優先した結果、最大威力のものだと30kgにもなる。ゾルディック家方式でわざわざ重く具現化したパーツを手足に括り付けたりして鍛えているので、重さはさほど問題にならないが、なによりもエンジン部本体の大きさが問題だ。

 

 念を用いてトレーニングをすることで、中身は格闘家やアスリートとして理想的な肉体に成長しているのは間違いないが、どうやら外見的には順調にソーヤーになりつつあるらしく、これから伸びても160までは届きそうにない。ビスケのようになる心配はなさそうで一先ず安心であるが。つまりは腕の長さ――リーチがないのである。

 

 あったところでバットを振るようにフルスイングは出来ないし、刀や長物のように扱うわけでもないから、既存の武術から動きをそのまま取り入れるといった事は難しい。ひたすら振り回して木を伐採しまくり、その動きを自分で最適化していくしかなさそうなのだ。そしてこれがまるで出来ていない。山を丸裸にするわけにもいかないし、素振りでは普通の刃物と違う切り方をするチェーンソーの練習にはならない。試し切りが出来ず完全な練習不足。それがワタシの現状であった。

 

 チェーンソーを具現化する娘。考えてみればなかなかに恐ろしいものだ。そんな意識が心のどこかにあって、ジョニーにはまだ見せたことはなかったが、行き詰まっていることを考えると相談してみるべきなのだろう。

 

 ワタシの通っている学校は、ヨルビアン大陸横断鉄道の駅が出来たことで発展した街にある。西側に不毛な乾燥地帯とその先に大陸を縦に走る山脈があるため、特に観光名所も名産も何もないのだが、次の停車駅がかなり遠いというだけで、駅の利用率はかなり高く傍のホテルや旅館は観光地にあるものと遜色ない規模だったりする。

 

 そうは言っても所詮産業が殆どない街である。人口もそれほど多くないのだから学校などの教育機関の数も当然限られており、小中と一貫の学校が一つあるだけだった。ワタシは街の中心部にある学校に片道一時間かけて通っている。前職の関係かジョニーが買った家は郊外の辺鄙といっても過言ではない場所に建っていた。街まで広がる田園地帯の端っこ――森との境にあり、念に限らずトレーニングや修行することを考えるとなかなかの環境だった。

 

 念のおかげか、それとも地球の日本よりも進んでいるのか分からないが、ワタシの声帯は何とか声を上げることが出来るまでに回復した。そうは言っても擦れたハスキーヴォイス――というよりデスヴォイスで大声は出せず、ハッキリ発音しないと聞き取れない事もあり、人工声帯を使わずにソーヤーらしい声になっているのだが。ちなみきれいに痕を消せるらしいのだが、この声のために傷跡は残してある。

 

 学校に通い出した頃は途中編入ということ、そしてこの声、直しようのない悪い目付き、無表情とどうしようもないぐらい浮いていたのだが、密かな努力のたまものか、怪我のために無口だが体力自慢の不思議ちゃんとして一定の評価をされているらしい。体力自慢というのは体育の授業成績が手を抜いても女子でダントツだったことと、一時間もかけて徒歩で通学するからだろう。

 

 不思議ちゃん要素は正直ワタシには分からない。集団生活をする上で作り上げられる“普通”という認識の、その外側を理解できないとして不思議がるのなら、確かにワタシは異質で不思議に写るのかもしれない。

 

 やはりというべきか、精神年齢不一致のせいでどうもクラスメイトを下に見てしまうらしく、子供はそういう機微には敏感で、一部に慕われはしたが友人や親友と呼ばれるような関係を築くことはできなかった。今後ハンターとして定住しない生活を送るのだろうことを考えてしまい、こちらからアプローチしなかったワタシが悪いのもあるのだが。

 

 この春に小学校の最高学年になる。といっても一貫校で多少教育内容とシステムが変っても、学ぶメンバーは同じである。中学までは卒業するつもりなのでもう少し距離を詰めてもいいのかもしれない。

 

 もう少しクラスメイトと仲良くしようと決意を新たにしつつ、一時間の帰路を行く。今日は授業自体はなかったため正午には家に着ける。これから学校は新年度に向けての短期間の休みに入る。いわゆる春休みというヤツで、こうしたシステムは日本と同じで分かりやすかった。春休み中の修行計画を考えながら歩いていると、田園の中程で森の方から煙が上がっているのが見えた。

 

 “凝”で視力を強化する。強化は当然苦手だし精度も悪いが、しばらくワタシに平穏をくれた家から煙が上がっているのが確認できた。家には煙突もなければモクモクと煙を上げるような釜もオーブンも存在しない。単純に考えれば火事なのだが、それ以上のことが起こっているようなそんな嫌な予感がした。

 

 すぐさま重りの具現化を解いて走る。もし何者かの襲撃を受けたのなら、だだっ広く視界が開けたこの道を行くのは危ないと脳裏で警鐘を鳴らすが、思いのほか動揺しているらしい。そんなことよりも速く辿り着いて、家族の無事を確認したいという思いが身体を動かしていた。

 

 冷静に最悪の事態を想定しながら感情でそれを否定していく。大して理由も根拠もないただの願望だが、そうしないと気持ちが切れて蹲ってしまいそうだった。あと少しといったところで二階の窓ガラスが内側から弾け、炎が吹き上がる。

 

 判断も何もなかった。身体がとっさにそう動いたとしかいいようがない。庭に面したリビングの大きな窓は外側から割られていた。“堅”で身体を包むとそこから炎に向かって飛び込む。倒れているソファは何か可燃性の液体でもかけられているのか音を立てて燃えている。奥に見えるダイニングは酷い有様だ。テーブルは真っ二つに割れ、椅子は原形をとどめていない。そしてそれらの残骸の中にジョニーが座っていた。心臓の位置に大きな穴が開いている。

 

 炎の中にいるはずなのに、急に身体が震えた。先程まで早鐘のように打っていた鼓動が一転して落ち着く。切れてしまった気持ちだったが蹲ることはなかった。壊れたはずの昔の思考回路が廻り出す。

 

 二階に上がる階段の下で母を見つけた。弟の元へ走っていたのか、後頭部への一撃は首から上を吹き飛ばしていた。飛沫と念弾らしき痕が階段の中腹に着いている。

 

 二階にあがる。弟の部屋の扉が開いていた。中に入る必要はなかった。部屋の隅に倒れているが、母と同じく首から上が無かった。

 

 自室に鞄を放り出す。燃え尽きるかもしれないが、少しでも残ればワタシもこの場所に居たことになるだろう。インディゴ=テレマンはこの惨劇に間に合って家族と一緒に死んだ。そういうことにした。それが事実と違うと分かるのは犯人だけだ。

 

 そうか。作中のクラピカはこんな感情だったのか。これは支配されてもおかしくないかもしれない。血が繋がっていない両親だった。ワタシの目付きのせいか最初は泣いてばかりの弟だった。それでもこんなにもワタシは犯人の血を欲していた。

 

 ワタシは結局、掃除屋らしい。

 

 

 

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